アリーナに太陽が降り注いでいた。
午前の戦いの熱を残したまま、空は真っ青。
観客席の上では風が渦を巻き、照りつける光がステージの金属板を白く焦がしている。
実況が高らかに叫ぶ。
『準々決勝、第1試合! 早川礼人――シャドウエッジ! 対するは東雲セイラ――デスペラード!!』
観客席が一斉にざわめく。
彼女の操るデスペラードは、まるで西部のガンマンがそのまま機械になったような機体だ。
セイラの声がスピーカーに乗って響く。
「ショウタイムよッ!!」
デスペラードがリボルバーをくるりと回し、銃口をくいと上げる。
その動作一つで観客席が湧き上がった。
対する礼人のシャドウエッジは、夜を纏うような漆黒のシルエット。
肩部の装甲が軽く開閉し、煙のような粒子を散らしていた。
昼の光の中でも影を生む機体――まさに忍。
「影が陽を閉ざすか、陽が影を払うか――」
実況が煽る。
フィールドの地形は《砂漠都市》。
低い岩壁と瓦礫、風が舞い上げる砂塵が視界を絶えず乱すステージだ。
『――バトル、スタートッ!!』
デスペラード ――陽炎の早撃ち
砂埃を巻き上げる脚部スタンピード・ドライブ。
砂原のようなステージを一気に駆け抜け、セイラのデスペラードが回転しながら右腕のリボルバーを抜く。
「クイックドロー・バースト!」
引き金が引かれた瞬間、銃口が閃光を放ち、真空を裂く。
撃った直後、セイラは片足でターンしながら腰をひねり、
デスペラードはリボルバーを回転させて肩に担ぐ。
「Bang☆! Too slow, honey!」
キメポーズ。背後で爆発が上がる。
弾丸は光そのもの。
三連射――四連射――音が追いつくよりも速く着弾し、
シャドウエッジの影が一瞬、砂上で歪んだ。
「――さすがの早撃ちだな」
礼人の声がスピーカー越しに響く。
だが、セイラはウインクを返すように笑った。
「Oh, thank you, Ninja boy♪ でも――影は、日差しで蒸発するの!」
「リロード・サンライズ!」
銃身が紅く染まり、光子が弾丸へと再装填される。
太陽の反射が、彼女の機体の輪郭を黄金に染め上げた。
『すごい! 東雲セイラ、ポージングを決めながらの連射! これぞヒーローショウだッ!!』
実況もテンションを抑えきれない。
セイラの《デスペラード》が地を滑る。
二丁の銃が交差し、光弾が稲妻のようにオボロを照射する。
オボロが煙幕を張る。
「《スモークステップ》」
砂煙と煙幕が混ざり、視界が真っ白になる。
だが、セイラは舌打ちしながら笑った。
「Smoke? That’s cute.」
頭部の《ダストサイト・バイザー》が紫外線反応を捕捉し、煙の中の影をロックオン。
「Sunlight never miss!」
トリガーが弾ける。
白光が直線を描き、オボロの肩装甲を焼いた。
煙を裂くように、セイラが再びターン。
背を反らし、片腕を掲げてキメる。
「ロックオンしてるよ、ジャパニーズ・ニンジャァッ!」
腰のホルスターに銃を回し入れ、両手を広げて観客席へサムズアップ。
歓声が割れるように爆発した。
『東雲セイラ――完璧な照準とパフォーマンス!! 観客のハートも撃ち抜いたぁぁッ!!』
熱狂がアリーナを包む。観客たちは立ち上がり、両手を突き上げる。スタンドの最上段では紙吹雪が舞い、子どもたちは「セイラー! セイラー!」と叫んでいた。
ステージの中央、太陽の反射を浴びた《デスペラード》が仁王立ちする。片足を軽く引き、リボルバーを肩に担いで、もう片方の手を腰に当てたポーズ。
「This town ain't big enough for the both of us――」
カタコトの英語混じりのセイラの台詞に、観客が一斉に沸いた。
その姿はまるで“アニメの主役”そのもの。挑発でも侮りでもなく、見ている者すべてを魅了する“太陽の演出”だった。
しかし――
礼人の表情は微動だにしない。
映像カメラが彼の顔を抜く。光と熱に照らされながらも、その瞳は氷のように冷たい。
「……まだ明るすぎる」
その小さな呟きがマイクを通して響いた瞬間、歓声が一瞬止む。
再びフィールドに影が落ちた。
オボロが片膝をつき、クナイランチャーを展開。
機体各部の装甲が微かに開き、黒い粒子が空気中に漂う。
次の瞬間、礼人がデバイスを弾いた。
「《クナイ・バースト》――」
しかし、セイラの反応は速かった。
「Too slow, darlin’!」
跳躍。
《デスペラード》が爆発的に地を蹴り、《ヒート・ストンプ》の噴射で宙を舞う。
熱風が地を焼き、砂が竜巻のように巻き上がる。
空中で機体が一回転――その間、セイラは両腕を交差させるように銃を構え、くるりと体をひねった。
「ライトニング・ランページ!」
両腕の銃口から、目映い光が弾ける。
全方位へのビームショット――百を超える光線が螺旋状に広がり、空気を白く染めた。
まるで太陽が爆ぜたかのような輝き。
オボロの漆黒が光に呑まれる。
一瞬、機体が輪郭を失い、ただの影の塊のように溶けていった。
「Ha-ha! ステルスでも、太陽の前じゃ丸見えだよ!」
セイラが得意げに言い、空中で逆さまになったままトリガーを引き続ける。
光線が砂を砕き、瓦礫を溶かし、爆煙が地表を覆った。
観客の歓声と爆音が重なり、誰もがシャドウエッジの姿を見失っていた。
「……これが、上級生か」
スモークの中、礼人の声がわずかに響く。
だが、オボロの姿は映らない。
観客が息を呑む中、セイラが地上に着地。ブーツ状の脚部が砂を踏み、火花を散らした。
彼女は一拍置いて、腰を回し、両手の銃をクルクルと回転させてからホルスターに収めた。
「お先にベスト4、いただきます♪」
ウインク付きの決め台詞。
歓声が再び爆発し、観客が総立ちになる。
背後では夕焼けのように赤い照明が灯り、ステージ全体が“ヒーローショウ”のような雰囲気に包まれていた。
だが、その中で礼人の声が小さく重なる。
(……ここまでは、予定通りだ)
彼の視線の先、スクリーン越しの空が僅かに揺らめいていた。
太陽の輪郭が、ゆっくりと欠け始める。
昼の光が弱まり、砂の色が褪せていく。
青空の中央――黒い影が、ゆっくりと世界を侵食していた。
観客のざわめきが広がる。
「……これ、日食?」
「ステージ演出じゃね?」
ざわめきは次第に興奮へと変わる。
空気が冷え、光が沈む。
そのとき、セイラの足元で――影が動いた。
「……ん? なにこれ?」
一瞬、彼女の視界の端で、黒い影が地を這うように伸びた。
照明があるはずの場所に、真っ黒な裂け目のような影。
次の瞬間、それがスッと彼女の足元をすり抜けた。
「What the――!?」
背筋に電流が走る。反射的に銃を構えるが、すでにそこには何もいない。
だが、空気が鳴った。
背後――。
セイラが振り向くよりも速く、黒い残光が視界を裂いた。
『シャドウエッジ、再出現――!?』
実況の声が裏返る。
カメラがズームする。煙幕の中から、漆黒の機体が静かに姿を現す。
《オボロ》。
両腕にクナイを構え、赤い残光を纏う姿は、まるで夜の刃。
礼人の声が響く。
「《シャドウステップ》完了――」
セイラが口角を上げる。
「やっと本気出してきたね、ニンジャボーイ!」
デスペラードが再び銃を構え、彼女は片目を細めて笑った。
「But sorry――太陽は、まだ沈まない!」
礼人は小さく笑った。
「いいや、もう沈んでるさ」
空が、さらに暗くなる。
黒い影が太陽を覆い、光が消えた。
昼が、夜へと変わる――。
観客の喧騒が息を呑むように止まり、ステージ全体が黒に沈む。
ただ一つ、赤い光だけが残る。
それは、《オボロ》のセンサーの紅。
「……“影の時間”だ」
礼人が呟いた。
闇が、完全にフィールドを支配した。
*
「……え、なにこれ、照明トラブル?」
観客のどよめきが広がる。だがそれは演出ではなかった。
実況が声を張り上げる。
『観客の皆さん、驚かないでください! ステージギミック発動! 本試合専用フィールド――“ECLIPSE MODE”突入ッ!!』
セイラが軽く肩をすくめた。
「Oh~ dramatic! でも、ショウの主役はまだ太陽の私よ☆」
片手でハットのようにバイザーを押さえ、もう片手でリボルバーをくるくると回す。
ステージ照明が落ちる中、彼女だけが残光に照らされる。
まるで“真昼のスター”そのものだ。
だが、暗闇は静かに忍び寄っていた。
砂丘の影がゆっくりと形を変え、まるで生き物のように蠢く。
観客の誰もが息を飲む。
「影が……動いてる?」
誰かの声。
黒。
風も音も飲み込む闇が、フィールドのあちこちで膨張していく。
次の瞬間――。
「《サイレントエッジ》」
無音。
音が、消えた。
セイラが反応するより早く、デスペラードの背後に黒い残光が走った。
光が届かない距離から、一閃。
肩装甲の一部が斬り裂かれ、砂に弾ける。
「ッ――!? 今、どこに!?」
セイラが身を翻すが、バイザーのセンサーが何も捉えられない。
熱も、音も、姿もない。
「What!? ターゲットロスト?!」
セイラは焦りながらも笑みを崩さない。
「オーケー、ニンジャ……今度は私の勘で撃つわ!」
デスペラードが両腕を広げ、全周囲へ《ライトニング・ランページ》を再展開。
無数の光線が乱射され、闇を押し返すように砂を焼く。
だが、音がない。光が消えた刹那、何かがすれ違った。
刃の軌跡。
クナイの閃き。
そのたびに、デスペラードの装甲に小さな傷が刻まれていく。
「No way……こんな……!」
礼人の《オボロ》が、日食の黒環を背に立っていた。
黒い残光を纏い、忍びのように静かに息を吐く。
「陽は沈み、影が歩く――」
観客席がざわめき、実況が叫ぶ。
『シャドウエッジが優勢! 影の支配領域、完全展開だァァ!!』
セイラは苦笑いを浮かべる。
「Heh……やるじゃない。けどね、日食でも……ヒーローは沈まないのよ」
再び腰のホルスターへ手を伸ばす。
そのうちの一発に、太陽の光が反射してきらめいた。
だが――その光が消えると同時に、セイラの背後に影が生まれていた。
「そこだ」
振り向く間もなく、クナイが刺さる。
《クナイバースト》――炸裂。
デスペラードの背装甲が吹き飛ぶ。
衝撃波でセイラがデバイスを落としかける。
HUDが真っ赤に染まる。
「くっ……! でも、まだ倒れないっ!」
デスペラードの脚部《スタンピード・ドライブ》が砂を蹴り、最後の反撃態勢を取る。
空が黒く塗りつぶされる。
太陽が完全に欠け、リング状の光がかすかに残る――金環日食。
光は消え、アリーナ全体が夜に沈んだ。
観客たちが息を呑む。誰もが、照明が落とされたのではないかと錯覚するほどの暗闇。
「Welcome to my stage, Ninja boy――でも、日が沈んでもショウは終わらないのよ!」
セイラの声が響く。
デスペラードがホルスターからリボルバーを抜き、頭上でくるくると回す。
銃口が一瞬、リング状の太陽を映す。
そして――トリガーを引いた。
「……Show time.《サンダーロール・ショット》――!」
轟音。
砂漠の大地が震え、空気が光で爆ぜる。
超高温の光線が一直線に闇を貫き、空を裂いた。
巨大な閃光柱がステージ中央を覆い尽くす。
その輝きは、太陽を取り戻そうとする“光の逆襲”そのものだった。
観客席が歓声を上げる。
『出たぁぁぁ!! デスペラードの決闘技《サンダーロール・ショット》!! 全弾チャージからの超高出力照射ぁぁぁ!!』
光の奔流が闇を焼き尽くしていく。
だが――そこに、音がなかった。
爆発音も、衝撃も、金属の悲鳴すらも消えた。
観客が一瞬、耳を疑う。
そして、誰もが気づく。
“影”が、音を奪っていた。
静寂。
呼吸の音すら聞こえない。
黒い波が、光の中心から這い出す。
そこにいたのは、《オボロ》。
静寂の中で動く影の刃。
礼人の声が、冷たく囁く。
「《無音の極(ムオン・ゼロ)》――発動」
次の瞬間、世界から“音”が消えた。
爆炎が上がっているのに、爆音がない。
銃火が閃いても、耳に何も届かない。
ただ、光と影だけがぶつかっていた。
セイラが焦る。
「W-What!? 音が……!? ターゲットロスト!?」
デスペラードの照準がブレる。
ホルスターのセンサーが異常を示す。
「ロック……できないっ!? Auto-Targetが反応しない!?」
その瞬間。
背後。
光の残滓を切り裂き、黒い残光が現れた。
《オボロ》が背後から跳び出す。
姿勢制御装置が一瞬だけ赤く光り――
「《サイレントエッジ》」
リバースブレードが閃く。
無音のまま、光を断つ。
セイラの《デスペラード》が背中を貫かれ、光の帯が爆ぜた。
観客が悲鳴を上げる――だが、声が届かない。
音が遮断されている。
ただ、映像だけが伝える。
漆黒の刃と、崩れ落ちる光の銃士。
太陽のリングが、ゆっくりと戻り始める。
闇が退き、光が戻る。
その中で、《デスペラード》が膝をついた。
セイラの笑い声が、ようやく音とともに戻ってくる。
「……やるじゃない、ニンジャボーイ。最後の最後で……キメてくるとか」
煙の中、デスペラードが右手の銃を軽く上げる。
「これで……ドロー、ってことでいい?」
だが、その銃口から弾は出ない。
礼人は静かに首を振る。
「悪いな、セイラ先輩。……太陽は沈むもんでしょ」
沈黙。
そして、デスペラードが崩れ落ちる。
爆風とともに日食が終わり、太陽が完全に顔を出した。
観客が一斉に立ち上がり、歓声が響く。
『勝者――早川礼人ッ!! シャドウエッジが、闇を制してベスト4進出ぅぅぅ!!』
セイラは小さく笑う。
「ふふ……マジ、coolね」
スクリーンに“Victory”の文字が浮かび上がる。
夜が明け、影の刃が光を越えた瞬間だった。
歓声が天井を突き抜けた。
スクリーンに「Victory」の文字が浮かび上がる。
暗闇を切り裂くように照明が戻り、勝者・早川礼人の《シャドウエッジ:オボロ》が静かに立ち尽くしていた。
機体名 : デスペラード(DESPERADO)
型式番号: EID-DSP-07
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部位 :
頭(ダストサイト・バイザー)
/右(コルトバースト・リボルバー)
/左(ビームピストル“スパロー”)
/脚(スタンピード・ドライブ)
/背(ロングホルスター・ユニット)
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主要数値:
全高:198 cm
重量:285 kg
稼働:20 分
COOL:21 s
HEAT:58 %
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コアスキル:
《リロード・サンライズ》
残弾を光エネルギーに変換し、次弾の出力を1.5倍に強化。
《クイックドロー・バースト》
腰のホルスターから超反応射撃。初弾精度が高く、カウンターに最適。
《ヒート・ストンプ》
脚部スタンピード・ドライブを爆発的に噴射、地面を焦がす回避ジャンプ。
《ライトニング・ランページ》
二丁の銃を回転連射、周囲360°へビームショットを乱射。
《サンダーロール・ショット》
トリガー長押しで全弾チャージ解放、超高温ビームを放つ“決闘技”。
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備考:
開発は「プロジェクト・フロンティア」。
遠距離射撃とヒーローポーズの両立をテーマに設計された機体。
【挿絵表示】