ホビーアニメ✕ロボット。これでわかるね   作:イェスコマ

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68話

 ラボを出て少し歩くと、アストレアが光のホログラムを展開しながら言った。

 

「まずは、最初にご案内した5万BPの部屋から行きましょう」

 

 案内されたのは、学園とラボのちょうど中間にある中層マンション。

 外観は少し古びているが、植え込みや外灯の整備はしっかりしていて清潔感がある。

 エントランスには顔認証ゲートが設けられ、住民以外の侵入を防ぐセキュリティも整っていた。

 

 室内に入ると、柔らかな照明と木目調の床が迎えてくれる。

 壁紙も新しく張り替えられたようで、ほのかに新しい塗料の香りがした。

 1DKの間取りはコンパクトながらも機能的で、

 窓際には小さなデスク、奥の壁には調理器具が揃ったミニキッチンが備え付けられている。

 

「清掃も行き届いているし、住みやすそうだな……」

 白夜はゆっくりと部屋を見渡しながら呟く。

 窓を開けると、遠くに学園の屋根が見える。風がカーテンを揺らし、淡い光が差し込んだ。

 

(ここで暮らすのも悪くないな……)

 

 そう思ってアストレアを見ると、彼女は首を傾げて微笑んだ。

「悪くはありませんね。ただ、もし時間があるのなら――

 月10万BPの物件も見てみませんか?“比較”は大切ですから」

 

 白夜は一瞬迷ったが、結局頷いた。

「……せっかくですし、お願いします」

 

 アストレアは満足げに頷き、スカートの裾を揺らして歩き出す。

 その足元で銀の鈴が小さく鳴った。

 

 

 次に向かったのは、先ほどの場所からそう遠くない高級マンションだった。

 白を基調とした外観は新しく、エントランスには水が流れるオブジェ。

 足を踏み入れると、ひんやりとした空調と香水のような香りが迎えてくれる。

 

「こちらは10万BPのお部屋です」

 アストレアが案内する声はどこか誇らしげだった。

「建物全体が防音構造で、地下にはトレーニングジムとプールが併設されています。

 希望者は作業ルームも追加で利用可能です」

 

 

 

 白夜は少し緊張しながら部屋に入った。

 リビングは先ほどの倍以上の広さがあり、ガラス越しに街の並木道が見える。

 天井は高く、壁には作業用のツールラックやホログラムデスクが内蔵されている。

 ソファの隣には大きなモニター台、奥の寝室には見るからにふかふかそうなベッド――

 すべてが整然としていて、静かで、上質だった。

 

「……これは、すごいな」

 アストレアが軽く頷き、いたずらっぽく笑う。

「おすすめです。女性なら即落ちですよ」

 アストレアは冗談めかしてピースサインを作る。

 

「いや、僕はそんなつもりじゃ……」

「ふふっ、分かっています。ですが、白銀くんのような人にはぴったりです」

 

 白夜は少し迷いながらも、視線を窓の外に向けた。

 遠くに学園の塔と、ラボの研究棟が同時に見える。

 まるで“両方の世界”を見渡すような景色だった。

 

(……ここなら、どっちも見える)

 

 その瞬間、決心がついた。

「ここにします」

 

 アストレアの瞳が金色に輝く。

「素晴らしい判断ですね。では、契約を進めましょう」

 

 彼女が指先を滑らせると、空中にホログラムの契約フォームが浮かぶ。

 白夜はペン入力で署名し、承認の音が響く。

 

「契約完了。今夜から入居可能です」

 アストレアが軽く手を叩くと、書類は光となって消えた。

 

 白夜の胸に、妙な高揚感が広がる。

“自分の部屋”という現実がじわりと実感に変わっていく。

 

「それにしても、白夜くん」

 アストレアが穏やかに言葉を紡ぐ。

「良い選択をしましたね。新しい場所を選ぶというのは、自分を信じることでもあります。

 あなたのコアも、きっと喜んでいますよ」

 

「コアも……?」

「ええ。環境は魂を磨きます。人間もエイドロンも同じこと」

 

 ヴェールを翻し、アストレアは静かに微笑んだ。

 まるで砂漠の月に照らされる踊り子のように。

 

 白夜はその後ろ姿を見つめながら、胸の奥に小さな炎が灯るのを感じた。

 

(……これが、“変わる”ってことなのかもしれない)

 

 契約完了の音が鳴る。

 白夜のリンカーに新しい住所が登録され、引き渡しのデータが送信された。

 

「これで完了です。荷物の搬入も私が手配しておきますね」

「ありがとうございます。本当に、助かります」

「では、ようこそ。――あなたの新しい日常へ」

 

 その一歩が、これからの日常を少しずつ――確実に変えていくことを、

 このときの僕は、まだ知らなかった。

 

 

 *

 

 

 

 夕方。

 寮の廊下を歩く足音がやけに響いた。

 部屋のドアを開けると、机の明かりだけがぽつりと灯っている。

 テッペイがノートを開き、真剣な顔で何かを書き込んでいた。

 几帳面な文字。

 ページの端まできっちり揃った線――いつ見ても、こいつらしい。

 

「おかえり。今日もラボか?」

 顔を上げたテッペイが言う。

 僕は少しだけ息をついて、リュックを下ろした。

 

「うん。……それで、ちょっと話がある」

「ん?」

 

 ペンを持つ手が止まる。

 僕は軽く咳払いをして、なるべく明るく言った。

 

「引っ越すことにした」

「……は?」

 テッペイが、まばたきをする。

「引っ越すって、お前……急すぎない?」

 

「ラボと学校の間くらいに部屋を借りたんだ。今日、契約してきた」

 そう言うと、テッペイは椅子にもたれかかり、呆れたようにため息をついた。

 

「お前なぁ……相談くらいしろよ。

 まあ、分からなくもないけどさ。確かにあそこからラボまで遠いもんな」

 

「ごめん。でも、ずっと考えてたんだ。

 ラボでの訓練も増えてきたし、帰るのも遅くなるし……」

 

「ふーん」

 ペンを回しながら、テッペイがこちらを見る。

「でも、これで俺、一人部屋か。静かになるな」

 

「寂しくなるだろ?」と冗談っぽく言ってみる。

「別に寂しくねぇよ」

 そう言いながらも、テッペイは少しだけ笑った。

 

「……お前、ほんとドンドン先にいくな」

「そうか? まぁ流されてるだけなんだけど」

 

 テッペイはノートを閉じて、机の上を片付け始めた。

「で、いつ引っ越すんだ?」

「今夜。荷物もそんなに多くないし」

「今夜ぁ!? ……ほんと急だな、おい」

 

「はは……勢いって大事だから」

 

 テッペイが立ち上がって、ロッカーの上から段ボールを引きずり下ろしてくれる。

「これ使え。ノートとか小物まとめるのにちょうどいい」

「ありがとう」

 

 二人で荷物を詰めながら、久しぶりに他愛のない話をした。

 ラボのこと、リーグのこと、最近見たホビーアニメの新作。

 くだらないことで笑い合うのが、やけに懐かしく感じた。

 

 

「そういや、あの白夜が自炊する姿とか想像できねぇな」

「僕だってやればできるよ」

「カップ麺は料理じゃねぇぞ」

「じゃあ今度食わせてやるよ、僕の特製インスタントチャーハン」

「それもう語感が矛盾してるんだよ」

 

 笑い合って、気づけば時計の針は21時を回っていた。

 荷物をまとめ終え、スーツケースを閉める。

 その音がやけに大きく響いた。

 

「……なんか、あっという間だな」

「お前のことだから、明日にはもう新しい環境に馴染んでるんだろうな」

 

 テッペイが小さく息をついて言う。

「でも、連絡だけはちゃんとしろよ。

 俺が部屋にいるのが当たり前だと思うなよ?」

 

「わかってるよ」

「あと……寂しくなったら、戻って来いよ。白夜」

 

 少しの沈黙のあと、僕は笑って答えた。

「あはは。ありがとう」

 

 ドアの前で最後に手を振ると、テッペイが軽く拳を上げた。

「じゃあな。がんばれよ、白夜」

「おう、またな」

 

 小さな段ボール二つとスーツケース一つ。

 それだけを持って、僕は寮を出た。

 

 夜風が少し冷たく感じた。

 寮の灯が遠ざかるたび、足音が静かに響く。

 背後で誰かが見送ってくれている気がして、

 僕は一度だけ振り返った。

 

 窓の明かりの中に、テッペイの影が小さく揺れていた。

 

(……ありがとな、テッペイ)

 

 

 

 

 *

 

 

 

 夜の街を抜け、新居の前に立つ。

 白夜はスーツケースを片手に、肩に段ボールを抱えながら見上げた。

 ガラス張りの外壁に街灯が反射し、まるで空へ伸びる塔のようだ。

 自動ドアが静かに開くと、ロビーの香りが鼻をくすぐった。木と金属の匂い――どこか未来的で、どこか落ち着く。

 

 エレベーターで最上階近くのフロアに着くと、カードキーをかざしてドアを開けた。

 

「……すご」

 思わず声が漏れた。

 

 広い。

 一人で住むには贅沢すぎる空間だった。

 柔らかな間接照明が壁を照らし、木目調のフロアと白いソファが落ち着いた雰囲気を作っている。

 窓の外には街の光が散りばめられ、遠くに学園の塔とラボの建物が見える。

 

 アストレアさんが手配してくれていたらしく、机もベッドもすでに整っていた。

 リビングの中央には大型のデスクが置かれ、端にはコンパクトな整備ツールラック。

 まるで「デキる女でしょ」と言わんばかりに、完璧に配置されている。

 

 スーツケースを部屋の隅に置き、二つの段ボールを開ける。

 中には、いつものノートや教科書、

 机の隅にそれを置くと、ようやく少し落ち着いた気がした。

 

 

 ベッドに腰を下ろすと、ふかふかのマットレスが身体を包み込んだ。

「やば……これ、寝たら絶対起きられないやつだ」

 冗談まじりに呟きながら、ぐっと手を沈める。

 柔らかさの中に、確かな弾力。――まるで人の手のような温かさがある。

 

 

(いや、風呂が先だ。風呂入らなきゃ)

 

 

 バスルームを覗くと、床は黒いタイル張りで照明がやさしい琥珀色。

 中は広く、鏡も曇らず、自動温度調整の湯が静かに流れていた。

「お湯を張りますか?」という音声ガイドに頷くだけで、湯面が滑らかに上がっていく。

 

 

 寮ではシャワーしか使えなかった。

 湯船にしっかり浸かるのは、いつぶりだろう。

 日本人のDNAが歓喜しているような感覚だ。

 湯気に包まれる中、白夜は肩まで沈み、思わず息を吐いた。

 

「やっぱ、日本人は風呂に浸からないとダメなんだよ」

 思わず独り言が出る。

 心の中で、“魂がそう叫んでいる”と本気で思った。

 

(これだけでも、引っ越してよかったかもしれない)

 

 風呂から上がると、白夜はバスタオルを肩にかけたままリビングに戻る。

 夜の静けさが広がる。

 広い部屋。天井のシーリングファンがゆっくり回り、かすかな風の音だけが響く。

 規則正しい回転音が、部屋の静けさを際立たせる。

 

 誰もいない空間。

 一人分の足音と、バスルームの水音だけ。

 

 

(……広いな)

 思っていた以上に、静かだった。

 テッペイのタイピング音も、寮の向かい部屋から聞こえていた笑い声も、

 ここにはもうない。

 

 寮ではいつもテッペイのノートをめくる音や、隣室の笑い声が聞こえていた。

 今は、自分の呼吸すらやけに大きく感じる。

 この静けさが、少しだけ胸に沁みた。

 

(これが、一人暮らしか)

 

 白夜は苦笑いし、髪を乾かす。

 新しい空間に、まだ自分の匂いはない。

 けれど、ここから何かが始まる予感がしていた。

 御門先輩に追いつくための場所――それがここだ。

 

 少しだけぼんやりしていると、

 机の上のリンカーが震えた。

 

 画面には「桃香」の名前。

 

 小さな電子音とともに、画面が光を放つ。

 

「……あ、桃香だ」

 

 通話ボタンを押すと、明るい声が響いた。

 

「もしもし、白夜くん?明日なんだけど――」

 

 その声だけで、静かな部屋が少しだけ温かくなった。

 

(あぁ……やっぱり、こうして誰かと繋がってるって、悪くないな)

 

 白夜は微笑んで、リンカーを耳に当てた。

 

 

 *

 

 

 

 昼前の陽光が街のガラスに反射して、まぶしく揺れていた。

 商業区のカフェの前で、僕は落ち着かない気持ちを抑えながら立っていた。

 人の流れは多いけど、不思議と時間の進みがゆっくり感じられる。

 

(……デート、か)

 

 昨日の夜、桃香と電話で約束をした。

「明日、会おう」――たったそれだけのやりとりだったのに、胸の奥がずっとくすぐったい。

 

 僕はもう6月の3週目で熱くなってきたのもあってデニムとTシャツというラフな格好だ。それでも様になるのは生まれ持った顔面偏差値の高さと均整の取れたスタイルにあるだろう。

 

 そんなことを考えていると――

 

「お待たせー!」

 

 眩しい声と共に、駆け寄ってくる人影。

 白夜は一瞬、言葉を失った。

 

 白いシースルーのカーディガンに、深いブルーのスカート。

 ふわりと風を受けて揺れる布地が、まるで光を纏っているみたいだった。

 髪をゆるくまとめ、耳元には小さな花のピアス。

 控えめで上品なのに、どこか目を引く。

 

(……控え目に言ってめちゃくちゃ可愛い。

 周りの目を引いてる彼女こそが僕の恋人です)

 

「うわっ」

 そのまま勢いよく僕の胸にぶつかってくる。

 咄嗟に両手で受け止めると、桃香の笑い声がすぐ耳のそばで弾けた。

 

 桃香は勢いそのままに、軽く白夜の胸にぶつかってくる。

 細い腕が触れ、柔らかな香りが鼻先をくすぐる。

 

「ごめん、遅くなっちゃった!」

「大丈夫、全然。俺も今来たところだから」

 

 嘘だ。実際には十五分前から待っていた。

 でもそんなこと、彼女に言うわけがない。

 

 腕の中で「うふふ」と笑う桃香が、少しだけ顔を上げる。

 その瞳が、反射した朝陽を受けてきらきらと光っていた。

 白夜の頬が、わずかに熱くなる。

(……あ、やばい。多分、今俺も顔赤い)

 

 慌てて桃香から体を離し、「じゃ、行こうか」とごまかす。

 すれ違う人たちが、ちらちらとこちらを見ているのが分かった。

 たぶん、今の光景――完全に“カップル”だったんだろう。

 

 

「初めてのデートだね」

 嬉しそうに言う桃香の横顔に、僕は首をかしげる。

「え? この前も一緒に出かけたよね」

「それは“友達として”でしょ。今日は“彼氏と”デートだもん!」

 

 その言葉に、白夜はつい笑ってしまう。

「……たしかに、そうだな」

 

 

 桃香は照れたように笑って、僕のTシャツの裾をつまんだ。

「ね、ね、私の左手が寂しそうなんですけど」

「……彼氏の白夜くんはどう思いますか?」

 上目遣いで、わざとらしく拗ねるように言う。

 

 その言い方に思わず笑ってしまう。

「じゃあ、僕の右手が今から行くよ」

 

 そう言って、彼女の手を取る。

 指と指が絡まる。

 小さくて、でも芯がある手だった。

 

 桃香の指が絡まり、小さく握り返してくる。

「やったぁ」と笑う桃香の声が、夏の陽射しの中で弾ける。

 

 白夜はふと、隣で笑う彼女を見つめた。

 

 

 *

 

 

 商業区の並木通りを抜ける。

 カフェや雑貨店の前を通り過ぎるたびに、桃香は足を止めては小さく歓声を上げた。

「見て! あのアクセサリー可愛い!」

「こっちのパフェも食べてみたいなぁ」

「白夜くん、この服かっこいいよ! 絶対似合う!」

 

 まるで世界が桃香の声に合わせて色づいていくようだ。

 

 まるで、桃香の声に合わせて世界が色づいていくようだった。

 風に揺れる髪の先が、日差しを受けてきらきら光る。

 

「ね、そういえば白夜くん。最近、帰るの遅いよね?」

 歩きながら、ふと桃香が尋ねてきた。

 

「あー……うん、ラボ行く時間が増えたからね」

「忙しいよね?」

「それもあって実は、引っ越したんだ」

 

「えっ? いつの間に!」

「昨日。ラボと学校の間くらいのマンションに」

 

 桃香は目を丸くして立ち止まった。

「えっ?! 言ってよー!」

「急に決まってさ」

「一人暮らしかー、1年生でしてるの白夜くんぐらいじゃない?」

「そうだろうね。でもさ、環境を整えようと思って。移動で時間割かれるのは勿体ないし」

 

 桃香は少し唇を尖らせ、視線を横に逸らした。

「ふーん……でも、ちょっと寂しいな」

 その言葉には、ほんの少しだけ拗ねた響きが混じっていた。

「寮のときはさ、いつでも会えたのにね」

 

 白夜は笑いながら答える。

「いつでも会えるよ。学校は一緒なんだし」

「……部屋にも行っていい?」

「うん、ちゃんと片付けたら」

 

 桃香は頬を染め、少し俯きながらも嬉しそうに笑った。

「約束だよ?」

「もちろん」

 

 二人の指が、もう一度絡まる。

 交わした手の温度が、互いの鼓動を伝えてくる。

 

「でも、平日はダメだね!」

 突然、桃香の声が弾んだ。

 彼女の瞳が決意したように光る。

 

「ん? なんで?」

「だって、帰りたくなくなっちゃう」

 少しだけ顔を寄せ、小悪魔的な笑みを浮かべる桃香。

 

 白夜は吹き出してしまう。

「ちゃんと帰すよ」

「“帰さないよ”って言っても良いんだよー?」

 子どもみたいに頬を膨らませて見上げてくる。

 その表情が、どうしようもなく愛しくて――つい目を逸らした。

 

「七海が怒るんじゃない? “うちの子帰ってきてませんけど”って」

「ななちゃん厳しそうだもんねー」

 ルームメイトの親友を思い出したのか、桃香は苦笑して頬を掻いた。

 

 少し沈黙が流れたあと、桃香がぱっと顔を上げる。

「じゃあさ、部屋のモノ買いに行こうよ!」

「モノ?」

「うん、ペアの食器とか、ペアのマグとか!」

 

「食器で溢れそうだね」

 冗談を返すと、桃香は笑いながらも白夜の腕を軽く引く。

 

「いいじゃん! 私が選んであげる!」

 

 その提案に、胸の奥が少し温かくなる。

「家具を一緒に選ぶ」――それは、ただのデートじゃない。

 少しだけ未来を共有するような響きがあった。

 

 桃香は僕の反応を見て、にやっと笑う。

「なぁに? まさか“同棲”とか考えた?」

「そ、そんなわけ――」

「ふふっ、冗談だよ。……でも、将来は―、ね?」

 

 その笑顔に、胸が一瞬だけ跳ねた。

 照れくささを誤魔化すように空を見上げると、雲ひとつない青。

 ショッピングモールのガラス越しに、光が反射してまぶしい。

 

 手を繋ぐその感触が、少し前よりも確かに感じられた。

 

(あぁ――悪くないな、こういう日も)

 

 白夜は小さく息を吐き、桃香の横顔を見た。

 まぶしい陽射しの中で、彼女は誰よりも自然に笑っていた。

 

 

 *

 

 

 

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