翌朝。
テッペイを叩き起こし、二人で食堂へ。昨日応援してくれたクラスメイトたちが先に来ていて、軽く手を振ると、にこやかに返してくれる。
朝食を済ませて校舎に向かうと、クラスではすでに何人かが輪を作っていた。昨日の応援組もその中にいて、どうやらカースト上位っぽい派手めグループ。
「白銀、昨日マジすごかったよな!」
「ほんと王子様って感じだった!かっこよすぎ!」
「空戦とか反則じゃん!相手の子、何もできてなかったし」
「新型はやっぱアドあるわー」
「顔良し、バトル強し。……完璧か?」
一斉に口々に言われ、少し照れ笑いしながらも肩を竦める。
「いやいや、まだ始まったばかりだよ。そのうち対策されるさ」
「でも掲示板でも盛り上がってたよ?」
「そうそう、“空の王子様、爆誕!”って」
「ねぇ白銀くん、彼女いるの?」
「こんだけモテそうなのにいないって信じられん」
「いや、今までできたことないよ」
(……前世じゃ結婚までしたけど、今は関係ないしな)
「え、マジで?じゃあさ、好きなタイプは?」
「私でもいいよ〜?」と茶化す女子。
好きなタイプか考えたことなかったな。まぁ見た目は
「母さん、」
「……え?」
教室の空気が、一瞬止まる。
「え?!母さん??」一同啞然とする。
「あっ……ちがっ……母さんじゃな……」しまった、心の声が漏れた!?
「へぇ〜、お母さんねぇ」
「マザコンかぁ」
女子二人の声が同時に冷える。
「白銀。残念だな、この教室にお母さんはいない」男子がにやり。
(うわあああ!マザコンで広まったら彼女どころじゃねぇ!)
必死に口を開く。
「ち、違う!“母さん”は……その、カーネルサンダースの略だ!」
「カーネル?!」
「いや意味わからん!」
爆笑と失笑が混ざった笑い声が広がり、ぽん、と肩を叩かれる。
「イケメン、強い、でもマザコン。……安心したわ」
「何にだよ!」思わず突っ込む僕。
そんなやりとりの最中、教室に桐島先生が入ってきて、ピシッと号令。
「全員、着席」
慌てて自席に戻り、黄土くんと影野さんに軽く会釈を返す。
弁解のチャンスは——完全に潰えた。
*
良し全員揃っているな、早速授業を始めるぞ――霧島先生は相変わらず無駄も優しさも一切排した声音で、教室全体を一瞥した。
背筋の伸びた姿勢、冷徹な表情。まるでコードを打つよりも先にこちらの心を整列させられているような気がしてくる。
「今日からはプログラミングだ。基礎的なコードを学べ。エイドロンの制御はすべてここに直結する。制御を間違えれば命取りだ。だから最初に叩き込む」
言い終えるや否や、タブレットの黒板にコードが映し出される。
if文、for文、入出力処理。基礎の基礎とはいえ、速度が尋常ではない。
「このコードは出力制御システムでよく使われる。覚えろ。……次に進むぞ」
走り書きで何とか追いつこうとするが、次のコードが次々に流れてくる。
周りを見ても、みんな目を白黒させている。
(はやっ……!新人研修のカリキュラム並みの詰め込み速度だぞこれ)
必死でペンを走らせているうちに90分が終わった。
霧島先生は教室から一言も余計なことを残さず、去っていく。
ドアが閉まった瞬間、教室中から「はぁ~……」と大きなため息が重なった。
その音が一つの合唱のようになって響く。
前の席の黄土くんは、机に突っ伏して完全にバッテリー切れ。
「頭のメモリがいっぱいです」って顔に書いてある。
隣の影野さんは……俯いたまま、魂が薄い煙のように口から抜け出しかけている。
(合間の10分で復活できるといいんだけど)
そう思っていた矢先、黄土くんがガバッと顔を上げた。
「昨日、エイドロン組み上がった!しかも初勝利できたんだ!」
声に誇らしさがにじむ。
「おお、すごいね。組み上がったばかりで勝てるなんて、才能あるんじゃない?」
心からそう思って声をかけると、黄土くんは照れくさそうに頬をかいて「ありがと、白夜!」と笑った。
魂を啜り戻すように胸を上下させてから——「わ、私も……勝ったよ」と小声で返す。
その瞬間、胸元がぽよんと揺れたのを視界の端に捉えてしまう。
(ん、でかい……)
影野さん以外にあるんだね。思わず微笑む。
いや、僕は大人だからね、気のせいだ、気のせい。
「じゃあ、この三人、全員初戦勝利か」
自然と口角が上がる。クラスの中で、少しずつ仲間が出来ていく感覚。悪くない。
黄土くんが得意げに付け足す。
「白夜のバトル、掲示板でめっちゃ話題だったよ!」
「掲示板?」
(え、そんな即日で拡散されるのか? 新入生リーグってローカルの遊び場くらいに思ってたんだけど……)
「“かっこいい!”とか、“イケメン!”とか、バトルに関係ないコメントも多かったけどな!」
そう言いながら苦笑いする黄土くん。
「ふんふん!」と隣で影野さんも力強く頷いている。
「……みたいだね。昨日からいろいろ言われて驚いてるよ」
軽くため息を吐く。
(……まぁ一過性の祭りだろう。浮かれて足元すくわれるのはゴメンだ)
「じゃあ、次の授業に備えようか」
教室内は再び慌ただしくタブレットの操作音に満たされる。
霧島先生が残していった嵐のような90分の余韻を引きずりつつも、それぞれが次へと向かおうとしていた。
*
チャイムが鳴り終わると同時に、教室のドアが勢いよく開いた。
現れたのは作業着姿の女性。つなぎを着ているのに、胸元のチャックが大胆に下げられているせいで、そこから主張してくる二つの存在感が挨拶してくれている。
(……うん、暴力的なたわわ。授業始まる前から視線が全部吸い寄せられてる)
クラスの男子、全員そろってガン見。目がまん丸。口も半開き。まるで油断したら涎まで垂らしそうな勢いだ。
僕?僕は大人だからね。慌てて身を乗り出したりはしない。両目2.0だから、わざわざ前屈みにならなくても十分視界に入っている。結果として――周囲から「一人だけ平静を保っているイケメン」という評価を勝ち取っているはず。
「いやー、さっきまで作業してたからさー、ちょっと待たせたかなー?」
女性教員は、外見とは裏腹に緩んだフランクな口調で教壇に立った。
「よし、整備ベイ行くよー。みんな立ってー! ついてきてー!」
自己紹介もなく、生徒たちを引き連れて歩き出す。
廊下を進みながら、ようやく自己紹介が飛んできた。
「あたし、螺子川 佳代(ねじかわ かよ)。ネジかわよーって覚えて!」
歩きながら両手をぶんぶん振って喋る。前を歩く生徒たちの耳は真っ赤だ。
「今から行くベイはー、不良起こしたパーツを整備したりー、壊れたのを修理したりー。みんなもこれから頻繁にお世話になるからー、しっかり見て覚えるんだよー」
軽いテンションなのに、内容は的確。油断してると本当に置いていかれる。
工業実習棟に入ると、扉の上には大きく「整備ベイ」と書かれていた。
中に入ると、工具の金属音とオイルの匂い。上級生たちが各作業室で黙々とパーツを削ったり、組み立てたりしているのが見える。
「技術者コース目指す上級生は、ほとんどここで作業してるんだよー。バトルする人たちがフィールドなら、あたしたちにとってはここが戦場ってわけだねー」
そう言って、螺子川先生はニッと笑う。
「これからリーグ戦が続くからねー。少しでもダメージ受けたら、何ともなくても必ず見せに来ることー。簡単な調整なら上級生がパパッと直してくれるからー。整備した方にもポイント入るし、君たちは助かるし、完全にウィンウィンだよー」
なるほど。整備技術が評価される仕組みになってるのか。競争と協力のバランスがうまい。
その後もぽいんぽいん胸部を揺らしながら説明していくネジかわよ先生。
それにしても、説明中に揺れるものがどうしても目に入る。
(……ウィンウィンかポインポインかどっちかにしてくれ!授業に集中させてくれ。いや、隠されてももったいないけど。結論:どっちに転んでも罪深い)
そんなくだらない考えが頭をよぎっているうちにチャイムが鳴った。
「よーし、ここまでねー。じゃあ解散! 若者たちよ、ごはん食べてこーい!」
元気いっぱいに締めくくり、先生は胸をぽいんと弾ませながら作業室の奥へと消えていった。
(……インパクト強すぎて、授業内容半分くらい飛んでる気がするんだけど)
*
昼いこっか、と近くにいた黄土くんと影野さんに声をかける。
「え、うん」「は、はい……」と二人が立ち上がったら、なぜか他の数人もぞろぞろと後に続いてきた。
(……ん? なんで僕、クラスの引率みたいになってんの?)
そのままの勢いで食堂へ。列に並び、適当に定食を選んでトレーを受け取る。
座ろうとすると、気がつけば僕の周りにまた数人が座ってくる。
「いや、授業でもないんだし、別に固まらなくてもいいよ?」
そう声をかけたら、「まぁ、なんとなく?」「一緒のほうが落ち着くし」と返事が返ってくる。
確かに、わざわざ距離を取って食事する理由もないか。
*
食事を始めると、それぞれのテーブルの色が見えてくる。
男子ばかりのテーブルは「ネジかわよ先生のたわわ」についての下世話トークで大盛り上がり。
真面目グループのテーブルは「霧島先生のプログラミング授業、進度やばくない?」と真剣に議論。
こちらのテーブルは……女子たちが冷たい目で男子の会話を見下ろし、残った男子(=僕含む)が空気を繋ごうと、自然と午後のリーグ戦の話題へ。
「いやー、昨日は一敗。まだまだだわ」
「私も。汎用機で組んだだけだから、火力が足りなくて……」
どうやらクラス全体でも勝率は半々くらいらしい。
ほとんどの生徒は汎用フレーム+中古パーツで組んだ機体で戦っているようだ。
僕や昨日の犬塚くんみたいに“完成度の高い一機”を持っているほうがむしろ珍しい。
(なるほどな。最初から差がつくのは、資金力や準備の差ってわけだ)
「白銀くんは今日いつ?」と一人に聞かれる。
「午後の遅めだね。だから、先にみんなの試合を見に行こうかなって」
隣でサンドイッチを小さな口で食べている影野さんに、「影野さんは?」と声をかける。
慌てて生徒手帳を確認して、「……午後の3戦目です」と答えてくれた。
「じゃあ観に行くよ。応援しなきゃ」
そう言うと彼女は驚いた顔をして、すぐに小さく頷いた。
他のメンバーも、「じゃあ俺も応援して!」「私も観る観る!」と口々に言い出す。
気がつけば「クラスの誰かが戦うときは応援に行こう」という、謎の連帯感が自然と生まれていた。
食後、それぞれが行き先を分けていく。
——機体整備のために工業実習棟へ向かう者。
——教室に戻って、さっそく午前の授業を復習する者。
——観客席で上級生の試合を観察して、研究しようとする者。
僕? もちろん、アリーナ行きだ。
(こういうとき、顔出すだけでも“繋がり”になるからね。大人は場数で知ってるのさ)
足取りも軽く、みんなで体育館サイズのアリーナへ向かった。
*
【EID-CARD】
機体名 :ナイトアイ
型式番号:EID-NGT
コア :
部位 :
頭(NGT-HEAD-KNIGHT:角飾り付きバイザー型)
/右(NGT-RARM-BLD:ロングソードユニット)
/左(NGT-LARM-SHD:タワーシールドユニット)
/脚(NGT-LEG-STD:重装歩行型レッグ)
/背(NGT-BACK-CLOAK:装飾用マント兼冷却フィン)
主要数値:全高 195cm/重量 380kg/稼働 28分/COOL 12s/HEAT 65%
コアスキル :
備考 :
「正義と王道の象徴」をコンセプトに開発されたバランス型エイドロン。攻防一体の設計で扱いやすく、新入生の標準機体としても人気が高い。
——開発企業の売り文句は「盾と剣、守るも斬るもこの一機!」。
【EID-CARD】
機体名 :ナイトアイ・ランサー
型式番号:EID-NGT-LNC
コア :
部位 :
頭(NGT-HEAD-KNIGHT)
/右(NGT-RARM-LNC:ランスユニット)
/左(NGT-LARM-SHD:タワーシールドユニット)
/脚(NGT-LEG-HORSE:高速突進型レッグ)
/背(NGT-BACK-LNCBOOST:短距離突進用ブースター)
主要数値:全高 200cm/重量 390kg/稼働 26分/COOL 15s/HEAT 70%
コアスキル :
備考 :
突撃槍とシールドを組み合わせた「突撃戦特化型」。直進性能に優れ、短期決戦を狙える。
——売り文句:「ランスは騎士の花道、正面突破の証!」
【EID-CARD】
機体名 :ナイトアイ・クロスボウ
型式番号:EID-NGT-CBW
コア :標準型ソウルコア「ガーディアン」
部位 :
頭(NGT-HEAD-KNIGHT)
/右(NGT-RARM-CBW:クロスボウユニット)
/左(NGT-LARM-SHD-LT:軽量シールドユニット)
/脚(NGT-LEG-STD:重装歩行型レッグ)
/背(NGT-BACK-QUIVER:エネルギーボルト予備搭載)
主要数値:全高 192cm/重量 360kg/稼働 30分/COOL 11s/HEAT 60%
コアスキル :
備考 :
クロスボウを武装とした遠距離支援型。防御を保ちながら味方を援護する設計。
——売り文句:「騎士の矢は、仲間を守る盾となる!」
【EID-CARD】
機体名 :ナイトアイ・ツインブレード
型式番号:EID-NGT-TBD
コア :
部位 :
頭(NGT-HEAD-KNIGHT)
/右(NGT-RARM-BLD:ショートソード)
/左(NGT-LARM-BLD:ショートソード)
/脚(NGT-LEG-LGT:軽装高速型レッグ)
/背(NGT-BACK-BOOST:回避用小型スラスター)
主要数値:全高 188cm/重量 335kg/稼働 24分/COOL 10s/HEAT 75%
コアスキル :
備考 :
二刀流の軽快なスタイルで接近戦を得意とする。防御力を捨ててスピードと攻撃性能を選んだ亜種。
——売り文句:「舞うように斬り、風のようにかわす。これもまた騎士の道!」
【EID-CARD】
機体名 :ナイトアイ・スタンダード
型式番号:EID-NGT-ST01
コア :
部位 :
頭(NGT-HEAD-KNIGHT)
/右(NGT-RARM-BLD:ロングソード)
/左(NGT-LARM-SHD:ナイトシールド)
/脚(NGT-LEG-STD:重装歩行型レッグ)
/背(NGT-BACK-PCK:予備電源パック)
主要数値:全高 198cm/重量 380kg/稼働 28分/COOL 14s/HEAT 65%
コアスキル :
備考 :
「剣と盾」という王道スタイルを踏襲した安定機。突出した性能はないが、操作性と信頼性の高さから初心者から上級者まで幅広く使われている。
——売り文句:「剣を掲げ、盾を構えよ。これぞ真の騎士の姿!」
【挿絵表示】