序盤の改稿作業をしていってます!
内容は特に変化はありませんので、ただコアが出てくる箇所の変更と、コアが社会に密接しているような雰囲気に変える予定です。
終わり次第、前書き等でアナウンス致しますので、気になる方はご一読お願いいたします。
読まなくても基本変わらないので大丈夫ですよ!
7月に入って、初めての土日がやってきた。
気温はすでに夏そのものだ。蝉が鳴くにはまだ早いけれど、
空気は湿っていて、少し歩くだけでも額に汗が滲むそんな季節だ。
あと2週間で期末試験そしてそれが終われば夏季休暇。
「試験が終わるまで週末は来なくていいぞ」と藤堂室長に言われたので、ラボもお休みだ。
机の上に教科書を並べ、
備え付けのサーバーから水をマグカップに注ぐ。
灰色の花柄のついたマグは
――桃香と一緒に選んだペアのマグだ。
それを見た瞬間、思いついた。
(そうだ、桃香を呼ぼう)
部屋はまだ新しく、静かすぎる。
たまにシーリングファンの音が回って、やけに響く。
この広さを“快適”だと感じる日もあれば、
“寂しい”と感じる瞬間もある。
今日は、後者で。 思い立ったが吉日。
リンカーを手に取り、メッセージを打ち込む。
〈今日、一緒に勉強しない?〉
送信から10秒も経たないうちに返信が来た。
〈ななちゃんと一緒でもいい?〉
“2人きり”はさすがに気まずいかも――そう思いながら、
〈いいよ。僕の部屋でも大丈夫?〉と返す。
少し間があってから、
〈絶対行く!〉
メッセージ越しでも、目を輝かせているのが伝わってきた。
自然と笑みがこぼれる。
こういうやり取りができるだけで、
戦闘データの整理に追われていた日々が、少し柔らかくなる。
(よし、迎えに行こう)
僕は桃香に選んでもらったばかりのネイビーのパーカーを着て、玄関を出る。
エレベーターの鏡に映る自分は、桃香の選んだパーカが似合っていて、自分でも高揚しているのがわかる。
マンションの外に出ると、夏の日差しが真っ直ぐに降り注いでくる。
白い歩道が眩しくて目を細める。
(30分か……ちょうどいい運動になるな)
寮までは歩いて30分。
桃香たちも今頃、準備をしているだろう。
リンカーが軽く震える。
画面には桃香のメッセージ。
〈白夜くん、ななちゃんの準備に時間かかってる〜!〉
〈でも、もうすぐ出るね!〉
(ふふ、相変わらずだな)
〈あと30分くらいで寮だよ〉
返事を打ちながら、僕は空を見上げた。
夏がもう本格的に息を吹き始めている。
(……今年も、暑くなりそうだな)
そんな予感と共に、
僕はゆっくりと寮へ向かって歩き出した。
*
寮の前に着いたのは、10時過ぎたくらいだった。
建物の陰に入ると風が抜けて心地いい。
リンカーを見ると、〈あと五分くらいで出る!〉という桃香のメッセージ。
少し待つことにして、門の横にあるベンチに腰を下ろす。
しばらくすると桃香の声が響いた。
「白夜くーん!」
手を振りながら駆け寄ってくる桃香。
顔を上げると、花柄のワンピースを揺らしながら桃香が駆け寄ってくる。
黒地に散る小花の模様が、夏の陽を受けてキラキラしている。
白い肌に映えるその服装は、彼女の明るさをさらに引き立てていた。
その少し後ろから、もう一人。
ゆっくりと歩いてくる七海。
白いシャツに黒のワイドパンツというシンプルな装いだが、
髪をゆるく後ろで結んでいて、清涼感のある大人っぽい雰囲気を纏っている。
「お待たせー!」
桃香が息を弾ませながら笑う。
「全然。むしろ早かったよ」
そう返すと、七海が軽く片手を上げた。
「やっほ。白夜」
「おっす、七海。試験勉強、順調?」
「最近は桃香が誰かさんと付き合えた―って騒ぐから集中できないけどね」
「ちょっななちゃん!それは秘密だよー!」
「ははっ、それって僕のせいでもあるのかな?」
二人のやり取りを見ていると、自然と笑みがこぼれる。
桃香が明るく跳ねるように喋り、七海が冷静にツッコむ。
このバランスの良さが、なんだか見ていて心地いい。
「で、今日は白夜の新居で勉強会、ってわけね」
七海が僕の方を見て言う。
「うん、いつも自習室だとね。たまには気分変えようかなって」
「ふーん、なるほどね。付き合いたての二人の邪魔はするつもりはなかったんだけど?」
「私はななちゃんと一緒で嬉しいよ?」と桃香はは満開の笑顔で七海の腕を組む。
「ありがと、桃香」そう言って僕の方を見る七海
「おい、なんで勝ち誇った顔をしている?!」
僕はその七海のドヤ顔にツッコむのであった。
*
三人で歩き出す。
寮から少し離れた道を抜けて、歩道と街路樹の並ぶ通りを進む。
「白夜くんの部屋、初めてだね!」
無邪気に笑いながら、桃香は右腕で七海の腕を掴み、左手で僕の腕を組んでくる。 道の真ん中を三人で歩くという、なかなか目立つ構図になっていた。
「部屋ってどんな感じ?」
「うーん、まだ何もないしな。静かすぎるかな」
「静かすぎる? 贅沢な悩みね」と七海。
「いや、寮だと誰かの生活音が常にあるからさ。
急に全部なくなると、変に落ち着かないんだよ」
「あーなるほどー!でも今日は私たちがいるから白夜くんも寂しくないね」 桃香はそう言って、組んだ腕にグイッと力を込める。いたずらっぽい笑みだ。
「いや別に寂しくはないよ」
「強がっちゃってー」と桃香はさらに密着度を高めた。
(柔らかものが腕に当たったり沈んだりするんですけど…!!)
「私が来なかったら、危なかったかもね」そう七海は桃香を一瞥する。
「ん?」と僕が七海に目線を送ると、彼女は真面目な口調なのにどこか面白がっている目で僕に問いかけてきた。
「白夜、こんなにすぐくっついてくる、ノーガードの美少女と密室で一日、耐えられる?」
僕と七海の間で「ノーガードじゃないよー」と、桃香は僕の腕を抱き込むくらい密着して七海に抗議する。 (そういうところがノーガードなんですよ、桃香。)
(いや待て。たしかにこんなに柔らかいのなら健全な男子たるもの手を出さねばかえって無作法というもの!)
「うん。七海がいてよかったかも」と僕は真顔で答えた。
「安心して。私は監視役だから」
そう言って肩をすくめる七海に、僕は苦笑する。
「いや、監視とか言われると緊張するんだけど」
「いい意味で、ね。……いや、ある意味、監視役として。後学のために見てみたいし」
七海はそう言って、意味深な笑みを浮かべた。
(こ、後学の為って、そんな七海の前で?!)と七海を見つめ返すと――
「浮気はダメだよー白夜くん!」と桃香は僕と七海に向かって言う。 そして、僕の耳元にそっと顔を寄せ、小さな声で囁いた。「……ね?」
(危ない、今日は勉強会だ。気をしっかり持たねば。)
バトルよりよっぽど過激だ!!
桃香は途中でなにか買っていこうと言い出し、アイスを買っていた。
七海は「溶ける前に食べなよ」と言いつつも自分の分をしっかり手にしている。
僕は二人に合わせて歩きながら、
(なんだろう、この感じ……)と思う。
誰かと歩くだけの道が、こんなににぎやかで、
こんなに時間が早く過ぎるなんて、
しばらく忘れていた。
*
そんな他愛もない会話をしているうちに、マンションが見えてきた。
正面のガラス張りのエントランスが陽光を反射して、眩しく光っている。
「わぁ……やっぱり白夜くんの部屋、いいとこにあるんだね!」
桃香が目を輝かせる。
「外見すごいよな。中は広いだけでまだ何もないけどね」
「外見でこれなら中も凄そうだけど?」と七海。
「エントランスもひろーい……なんか高級ホテルみたい!」
桃香が感心したようにあたりを見回す。
その後ろで七海は「テンション上がりすぎ」と苦笑しつつ、腕を組んでついてくる。
「こっちだよ」
僕はエレベーターの方を指さし、カードキーをかざす。
電子音が鳴り、ドアが開く。三人で乗り込むと、鏡張りの壁に僕たちの姿が映った。
桃香はその鏡に向かってポーズを取って、「デートって感じするね」と言い、七海が「勉強会でしょ」と即ツッコミを入れる。
そんなやりとりをしているうちに、部屋のある階に到着した。
廊下に出ると、照明が白く光り、外よりも少しひんやりしている。
「白夜くんの新居だー!」
ドアが開くと同時に、桃香が勢いよく中に入っていく。
後ろで七海がため息とともに苦笑し、軽く頭を下げた。 「お邪魔します。桃香、落ち着きなさいよ。あなた、自分の家じゃないんだから」
「どうぞ。特に何もないけどね」
リビングの扉ををくぐった瞬間、二人が同時に「わぁ」と声を上げた。
清潔感のある1LDK。
まだ新しい香りが残る部屋に、3人並んでも余裕のあるダイニングテーブルとソファ、壁際にはパソコンとデバイスをつなげられる作業スペース。
「……必要最低限って感じね」
七海が感心したように周囲を見渡す。
「思ったより、ずっと綺麗。男子の部屋ってもっとこう……脱ぎっぱなしの服とか、山積みかと」
「まだここに入って2週間くらいだからね、散らかしようがないよ」
僕が苦笑いを浮かべると、桃香が隣でワクワクした様子で
「私の荷物も置けるね!」と邪気のない顔で言う。
「ここに住みつく気?」と七海が、まるで保護者のような顔で怪訝な目線を送る。
「えへへ」と誤魔化すように笑う桃香。
「とりあえず、適当に座ってよ」そう言って、テーブルに三人分のマグカップを並べる。
白い灰色の花柄と赤い花柄のマグカップ、それと無地のコップ――桃香とおそろいのものだ。
それを見て、桃香は嬉しそうに手を叩いた。 「ペアで買ったのやっと使えるー!」
七海はマグカップを手に取り、無地のコップを見比べて言った。
「なるほど。あなたたちはお揃いで、私は『その他』枠ね。白夜、わかってるわね?」
「そんなことないって!」と僕。
桃香は「並ぶとやっぱり良いよね」と、わざとらしく僕に顔を寄せた。
「じゃあ、始めようか。試験範囲、広いし」と僕もタブレットを準備する。
七海は、僕と桃香から少しだけ距離を取った席に座りながら「ななちゃん先生、お願いします!」という桃香を冷めた目で見やった。
「あなたが一番勉強しなきゃいけない人でしょ」
そんな軽口を交わしながら、勉強会が始まった。
七海の教え方は的確で、桃香も素直に聞いている……ように見えるが、
僕がシャーペンを回して考え込んでいると、
いつの間にか桃香が覗き込んでくる。
「ねぇねぇ、ここ教えて?」
「これはこうで――」
「近い!距離近い!」と七海が即ツッコミを入れる。
僕は慌てて体を離す。桃香は笑いながら「えへへ」と誤魔化す。
そのやり取りが何度か繰り返されるたびに、
部屋の中は次第に柔らかい空気に包まれていった。
午後になって休憩を取る。
机の上には三人分のノートと、コンビニのスイーツ。
「白夜くん、冷蔵庫に入ってたこのプリン、食べていい?」
「それ僕の……まあいいけど」
「ありがと!さすが彼氏!」
嬉しそうにスプーンをくわえる桃香を見て、
七海がため息をつく。
「白夜、甘やかしすぎるとこの子、どんどん調子乗るよ?」
「もう乗ってるよね」
「おいしー」とプリンを頬張る桃香。 一切耳に入っていないかのように、都合悪いことは聞かないらしい。
そのとき、七海がカップを手に言った。
「ねぇ白夜。勉強会ってさ、こういうのを言うんだっけ?」
「ん?」
「甘ったるい空気に耐えながら、集中力を試す修行のこと」
「そんな定義初めて聞いたよ」
桃香が「じゃあ次はななちゃんの恋愛相談会にしようか!」と笑い、
七海が「やめろ」と即座に返す。
また笑い声が広がる。
カーテン越しに差し込む光が、
桃香の髪を透かしてきらめく。
その瞬間、胸の奥にふっとあたたかいものが灯る。
(……こういう時間が、いちばん大事かもしれない)
いつもの戦闘訓練でも、ラボの喧騒でもない。
穏やかで、静かで、
でも確かに心を満たす“今”がここにある。
*
七海が時計を見て「そろそろ帰らないとね」と立ち上がる。
七海の視線は、まだプリンを食べ終えていない桃香に向けられていた。
「今日は土曜日だよー、ななちゃん?」
スプーンをくわえたまま、首を傾げて無邪気に笑う桃香。
「だから? え……?」
七海は一瞬、理解が追いつかないという顔をして固まる。
そして、次の瞬間――。
「ま、まさか桃香、と、泊まる気じゃないでしょうね?!」
七海の声がワントーン上がる。
「えー、えへへ」と誤魔化す様に笑う桃香の表情は、完全に図星だ。
「白夜!あなたもグルだったの?!」と七海が僕を見るも、僕も何も知らないし事態を見つめるだけだったので、
「いや、僕も初耳なんだけど……」
「……あぁ、白夜はそんなことしないか」
七海は額に手を当ててため息をつくと、じとっと桃香を見る。
「完全に既成事実を作る気でしょ」
「ち、違うよっ!ほ、ほら!ななちゃんも一緒に泊まるなら大丈夫!!」
桃香は立ち上がり、慌てて僕と七海の間をバタバタと移動しながら「近くにコンビニもあったし、購買部もあったよ!」と言葉を繕っていく。
最後に、急にしゅんとした顔になり「平日は白夜くんといっぱい会えないんだもん」と呟く。
その一言で、七海の動きが止まる。
それを見て僕は桃香に対して申し訳ない気持ちで、七海の目を真っ直ぐに見る。「今日だけダメかな?」
七海ははぁーと大きなため息をつき、一瞬だけ僕を見て、そして顔を逸らした。 「今日だけよ、ほんとに今日だけよ。まったく。勝手に決めないでよ。……この部屋、大きいお風呂もあるみたいだし?」 と、少し呆れと困った子をあやす様な響きがあった。
その言葉を聞くと「やったー!ななちゃん大好き!」と桃香は七海に飛びつき、抱きつく。
「もぅ、しょうがないなぁ」と七海は文句を言いながらも、柔らかく桃香を抱きとめた。
(美少女2人の抱擁ってなんでこんなに癒されるんだろう。……いや、この状況、本当にノーガードすぎるだろ、大丈夫なのか僕の精神、耐えれそう?)
七海が僕の方にちらっと目を向けた。
「白夜、変なこと考えてるでしょ」
「考えてないです!」
「声が裏返ってる」
「気のせいです!!」