ホビーアニメ✕ロボット。これでわかるね   作:イェスコマ

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9話(挿絵有)

翌日からは怒涛の一週間が始まった。

 

 午前は座学。

桐島先生の鬼進行プログラミングは「理解する前に手を動かせ」とでも言いたげな容赦ないスピードで進む。画面に映し出されるコードの羅列、制御文、数値の入力規則……気を抜けば一瞬で置いていかれる。まだ何とか記憶の片隅にあった物理や数学も、実戦に即した例題で容赦なく殴りかかってくる。さらに新規参入の制御工学は完全初見。頭の中で配線がショートする音が聞こえそうだ。

 クラスの大半の脳みそは白煙をあげ、黄土は「もう無理」と机に沈没、影野この江は魂を抜かれたように虚ろな目をしていた。教室全体に「助けて……」という空気が満ちる中で、僕はというと——大人の余裕を顔だけで演じつつ、必死にノートにペンを走らせていた。

(……結構やばい。高校1年の知識レベルなめてたわ)

 

 

 午後はバトル。

アリーナに響くジェット音と観客席の歓声が、学園生活の象徴のように毎日繰り返される。僕の《ハクロ》は空を翔けるたびに「空の王子様」と囃し立てられ、掲示板では連日スレッドが立っているらしい。まだ圧勝続きで、苦戦らしい苦戦もない。観客席で「チートだろ」とか「いやルール内だし」とか議論されるのも日常茶飯事。

 一方で貴志は、泥臭く転びながらも必死に食らいつき、勝ったり負けたりを繰り返す姿に応援の声が飛ぶ。「おーど頑張れ!」と同じクラスから声援が飛ぶたび、彼の耳は真っ赤になっていた。影野さんはというと、薙刀とショットガンのコンビネーションで堅実に勝ち星を積み上げている。振袖を翻して放たれる一撃は思いのほか派手で、クラス女子人気も高いようだ。

 

 ただし全体的には、まだ入学1週間。クラスの多くは“動かすだけで精一杯”という段階で、エイドロンを改良する余裕はない。他のクラスの噂を聞いても似たようなものらしい。つまり——まだ僕が対策されるには程遠い。

 

 

 

 実習の日はネジかわよ先生が登場。

 ツナギを胸元まで開けたまま「はいじゃあ今日は分解いくよー!」と豪快に仕切る。男子生徒の視線は一方向、いや一点集中。

 僕?冷静に冷却系の調整を済ませて「白夜、すげぇな!」と周りに感心される側に回っていた。もちろん「入学前に父さんに教えてもらったんだ」と謙遜を挟みつつ。気づけばクラスの中心的な存在になりつつあった。

 貴志は当然ネジかわよ先生の胸部一点を凝視する側に回り、影野さんは横目にチラリと冷たい視線。——おい、貴志。そういうとこだぞ。

 

 

 放課後は青春。

 食堂で大人数で集まってご飯を食べ、カフェスペースで教科書を広げて勉強会。僕は相変わらず「マザコン王子」いじりから逃れられず、誰かが必ずネタを放り込んでくる。男子は「俺の母ちゃん見せてやろうか?」と悪ノリし、女子は「優しいのは良いけどマザコンはなぁ」と冷ややかに突っ込む。僕は笑って流すが、心の中では「頼むから早く忘れてくれ。それと皆も親は大事にしろよ」と毎晩祈っていた。

 貴志は影野さんへの片思いがもう周囲にバレバレで、冷やかされるたびに耳まで真っ赤。「ちがっ、ちがう!」と必死に否定するが火に油を注ぐだけだった。僕は肩を竦めて「これも青春ってやつだ」と遠い目をしていた。

 

 

 

 そして初めての休みを目前に控えた金曜日。午前の数学の授業中、我がクラスの

 

副担任の田島和夫先生が軽い調子で「土日の使い方迷ってたら聞いてねぇ」と切り出す。教室が「?」で埋まる。

 

 誰かが「土日の使い方って?」と口にすると、田島先生は「あれ、霧島先生から聞いてない?」と首を傾げた。クラス中が再び「?」で統一される。

 

 困ったように頭をかいた先生は、「霧島先生、勉強以外に無頓着だからなー」と笑ってごまかし、「よぅし、授業はここまでにしよう!公式さえ覚えてくれてたら大丈夫だから。大丈夫いぶい(^^)v」と謎のポーズを決めた。

 

 教室がざわめく。「田島先生スベってるよー」とお調子者が茶々を入れ、場が少し和む。

 

「ははは、それじゃあ伝えてくよーメモとってー」

と冗談ぽく笑いながら話し始めた。

 

「えー、土日からなんとバイトが解禁されます!」

 

「え?!」「バイト?」「学園内で?」

教室が一気に騒がしくなる。

 

「そう、学園内のバイトです。掃除とか荷物整理とか、エイドロンの試作品を試してもらうとか、まぁ色々だねぇ。……さて皆、今何BP残ってる?」

 

 ざわざわと声が上がる。

「2万くらい?」「俺、まだ4万以上あるぜ」「私もー」

「え、もう1万も残ってないけど」「何に使ったんだよ?!」等と声が飛ぶ

 

 

 田島先生はにこにこしながら指折り数える。

「そうだよねぇ、5万BPで余裕だーって思ってても、食費だけで1日1500BP。これが30日分で45000BP。そこにジュースやお菓子が加わって、着替えも欲しくなるだろ?はい赤字ー」

 

「まじかよ!」「ヤバっ!」と一斉に悲鳴。

 

「うんうん、毎年困る生徒がいるからね。そこでバイトだよ」

 

 さらに田島先生は続ける。

「BPを得る方法って霧島先生から聞いてない?」

 

「プログラミングしか聞いてませーん」

 

「そっかそっか、じゃあ時間ある限り説明するよー」

 

「まず1つ目リーグ戦の成績。2つ目、月ごとのテスト結果。3つ目、さっき言ったバイト。4つ目、まだ参加しないだろうけど、週末に開催されるカップ戦で勝つとファイトマネーとしてBPがもらえる」

 

教室は「カップ戦?!」とどよめいた。

「まぁおおやけに公開されているBPが貰えることは以上だねぇ」

 

僕はその中で、田島先生がさらっと使った「おおやけに」という言葉に違和感を覚える。(他にも稼ぎ方がある……ってヒントか?)

 

田島先生は最後に手を叩いて締める。

「もちろん土日は自由。実家に帰るもよし、バイトに精を出すもよし、アリーナで腕試ししてもいい。若いんだから動け動けー!」

 

 

 

 

 

田島先生が「じゃ、良い週末をー!」と授業を締めると、チャイムと同時に教室の空気が弾ける。

「どこで飯食う?」「食堂いこーぜ!」と声が飛び交い、自然と出来上がったグループごとにぞろぞろと移動していく。

 

僕は貴志と影野さんと並んで食堂に入り、トレーを手に席へ。焼きサバ定食を選んだ僕の隣で、貴志は唐揚げ大盛り。影野さんは小鉢の多い和定食。三人並んで食事を始めると、ふと明日の予定の話になる。

 

「影野さんは明日からの予定、決まってる?」

問いかけると、影野さんは前髪をいじりながら小さく答える。

「予習と復習……それしか考えてなかったよ?」

 

(貴志!勉強会に誘うとか、バイトを一緒に見に行こうとか、そういう言葉を出すタイミングだ!チャンスだぞ!)

僕は心の中で大声を張り上げ、必死にアイコンタクトを送る。

だが肝心の貴志は口を半開きにして考え込んでいるだけだった。

 

「貴志は明日どうするんだ?」

思わず僕が代わりに水を向けると、彼はようやく我に返ったようにハッと顔を上げる。

「お、俺!バイトする!2人に追いつくためにも、BP貯めないと!」

 

僕は思わず机に額をぶつけそうになった。いやいやいや、違うだろ!エイドロンの強化にBPが必要なのは分かるけどさ!ここは影野さんを誘うチャンスだったんだよ。やっぱりこの男、ニブチンにも程がある。

 

影野さんがこちらを向く。

「白夜君は?」

「僕もまだ決めてないな。バイトも気になるし、カップ戦も……まぁ様子見かな」

 

すると影野さんは頬を少し赤らめて、言葉を探すように視線を落とす。

「じゃ、じゃあ……皆で連絡先、交換しない?」

彼女の声はどこか恥じらいを帯びて響いた。

 

「いいね。予定が合いそうなら3人で勉強とかしたいし」

僕が頷くと、隣の貴志も「うんうん!」と子犬のように目を輝かせて賛同した。

……お前、まだ連絡先聞いてなかったのね。好きならちゃんとアタックしろよ!と目で訴える。

 

貴志はえ? と何も伝わっていない様子。

 

 

生徒手帳を取り出し、互いにかざして通信。ブルッと小さな振動がして、端末に「フレンド登録完了」の表示。僕の名簿に「影野この江」「黄土貴志」の名前が並ぶ。

(……俺の初めての相手、テッペイだったんだよな。なんか初めての相手って言うと妙に誤解を生みそうだが、もちろん連絡先交換の話だ。)

 

 

貴志は新しい名前を見てニヤニヤしっぱなし。影野さんはというと、表情は控えめながらもどこか嬉しそうで、頬に柔らかな色が差していた。

 

だがその直後、貴志が「あ、やっば!」と叫んで立ち上がった。

「もう俺のバトル時間だ!先行く!」

慌てた様子でトレーを片付けると、そのままアリーナへ向けて駆け出していった。

 

呆気にとられつつも、僕と影野さんは顔を見合わせて、同時にクスリと笑った。

「貴志らしいといえば、らしいね」

「そ、そうだね!……白夜君はいつから?」

さっきよりも少し声が大きく、彼女の頬がほんのりと赤い。

 

「僕は15時からだよ。あと2時間くらいあるから復習でもしておこうかな」

 

「わ、私もそれくらいから!い、一緒に勉強する?」

小柄な体だから自然と上目遣いになり、伺うような瞳がまっすぐこちらを見てくる。

 

「いいね。ちょうど制御工学で分からないところがあってさ」

「私、先生に質問したから少しは分かるかも。手伝えるかな……」

言葉は控えめなのに、どこか誇らしげで嬉しそうな響きがあった。

 

「じゃあ影野先生、よろしくお願いします。教室に戻ろっか?」

冗談めかして言うと、彼女はぱっと花が咲いたように頷いた。

「うん!」

 

 

 

 

こうして僕たちは教室に戻り、バトルまでの時間を互いに机を寄せて勉強を始めた。

 

静かな教室に、ペンが紙を擦る音と、時折交わす小さな会話だけが響く。外からはグラウンドで体育をする上級生たちの声や、窓を叩く風の音が混ざってくるが、それも遠い世界の出来事のようで、教室の中は妙に心地よい密度を持っていた。

 

1時間ほど経ったころ、さすがに集中力が切れた。ふーっと息を吐き、背もたれに体を預けて大きく伸びをする。

「ちょっと疲れたね」

そう声をかけると、すでにこちらを見ていたこの江とばっちり目が合った。慌てて視線を逸らしながら、頬を赤く染めて「そ、そうだね!」と答える。

 

 

気まずい空気を和らげるために、生徒手帳を取り出して話題を切り替える。

「そうだ、明日のことでも考える?もうバイトのリストが上がってるみたいだよ」

アイコンを押すと、ずらりと候補が表示される。清掃、倉庫整理、簡単なデータ入力……細かくスクロールしていくと、試作品テストや整備補助なんて項目まである。

 

 

「すごい、いっぱい……」と彼女が僕の生徒手帳をのぞき込み、小さくつぶやいた。

「そうだよね?どれから見ていくか迷うよ」

そう言って顔を上げると、彼女の顔が目の前にあった。距離にして10センチもない。かぁぁっと一気に彼女の頬が真っ赤に染まり、慌てて身を引く。

「あ、あわ、わ……」

 

「実際に“あわわ”って言う人、初めて見たよ」

つい冗談めかして笑ってしまうと、彼女は唇を尖らせて「ちょっとびっくりしただけだよぅ」と小さな声で返す。その仕草が妙に可笑しくて、二人してクスクス笑い合った。

 

 

その時、廊下から響いた女子の声が静寂を破る。

「あ!」

ん?とおもいそちらを見ると知った顔だ。

 

記憶を掘り起こすと、初日に会った佐倉 桃香だ。彼女の周りの友人たちが「え?知り合い?」「噂の王子だよね?!」「いつ知り合ったの?」と黄色い声をあげ、あっという間に注目が集まった。

「この前はエレベーターでありがとう!」

桃香が笑顔で言いながら手を振る。

 

僕は軽く手を振り返し「いいよ、気にしなくて」と答えたつもりだったのだが――。

 

その仕草が何かの合図だと受け取ったのか、桃香はにこにこと教室に入ってきた。

「邪魔しちゃってごめんね」と一声かけると

軽く断りを入れてから、少し照れたように言葉を続ける。

「えっと……連絡先の交換って、受け付けてますか?」

 

唐突な申し出に思わず硬直する。

「特に拒否はしてないけど……」と答えると、桃香は「じゃあ!」と嬉しそうに生徒手帳を差し出してきた。

気づけば僕も操作して、彼女との連絡先が追加される。

 

「ありがとっ!」

弾むような声を残して桃香は廊下に戻っていき、女子グループは「何今の!?」「ちょっと桃香ずるーい!」と大騒ぎ。

 

呆気にとられたまま隣を見やると、この江は目を見開いたまま硬直していた。

「びっくりしたね。大丈夫?」と声をかけると、ハッと我に返り「だ、だ、大丈夫」と慌てて答える。その声は少し震えていた。

 

「知り合いの子?」と問われ、苦笑しながら説明する。

「初日にエレベーターで会っただけ。知り合いってほどでもないよ」

 

「……かわいかったね、あの子」

 

 

その微妙に湿った声に少し驚きながらも、「そうだね」と返したあと、つい口が滑る。

「でも、影野さんもこうしたらもっとかわいくなるんじゃない?」

そう言って、彼女の前髪を指で軽く分け、しっかりと目が合うようにした。父さんが母さんによくやっていた仕草を、無意識に真似てしまったのだ。

 

一瞬の沈黙。次の瞬間――

「あ、あ、あわわ……!」

またしても真っ赤になって慌てふためくこの江。慌てたのは僕の方も同じで、すぐに手を離して「ご、ごめん!変なことした!」と謝った。

しまった!!前世ではセクハラみたいなことを今世の両親で慣れてしまって普通にしてしまったと手を放す。

 

 

彼女は顔を真っ赤にしながら、震える声で言った。

「こ、この江!」

「え?」

ポカンとしてしまった顔を見て、影野さんはもう一度

「わ、私のこと影野さんじゃなくて、この江でいいよ!」と顔を赤らめながら今度ははっきりと言い切る。

 

その必死な訴えに、僕はしばし言葉を失う。

「う、うん……分かった。この江」

ようやくそう答えると、彼女は顔を覆いそうなくらい赤面しながら立ち上がった。

「わ、私そろそろアリーナ行ってくるね!」

 

そう言ってドアへ向かい、出る直前に振り返る。

「また明日ね、白夜君」

小さく手を振る姿は、どこか決意に満ちたようにも見えた。

 

僕は「うん、また明日」と返すと、少し不満そうな気配を感じる。

僕はふふっと笑って改めて「また明日、この江」

 

その瞬間、彼女はぱっと花が咲いたように笑顔になり、足取り軽く教室を出ていった。

 

残された僕は机に突っ伏しそうになりながら思う。――明日って、何か約束してたっけ?

「女の子って、ほんと分からないな……」と苦笑混じりに呟いた。

 

 

 

 

 

 





【挿絵表示】

主人公が通う、国立エイドロン実践工業高校の制服です。
これは学校の制服パンフレットのイメージですので、誰という訳ではありません。
やっぱセーラー服が良いよね。
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