4月7日 9:54 地方裁判所被告人控え室
・・・・うっ、うぅ・・・・キンチョーするよぉ・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
僕の名前は道比木正義(22)。
去年、司法試験を合格したばかりの新米検事だ。
桜も咲き始め、ぽかぽか陽気が続くようになった、この暖かい季節の始まりの今日・・・
僕は、足をガタガタ震わせながら立っていた。
それもそのはず。 今日は僕の初法廷なのだ。
・・・いや、正確には初ではないのだけれど、あの時は隣に、あるベテラン検事の方がいた。
だが、今日は誰も隣にはいない。 僕1人だ。
あぁ、誰でもいいから、僕の隣にいてくれないかなぁ・・・
いっそ、あの刑事でもいいから・・・・・
「呼んだかね? ジャスティスくんっ!」
「うわっ!!」
・・・噂をすれば、やって来たよ。
「はーはっはっはっはっはっは!!
やっぱり、君にはジブンが必要なようだね! 心配は御無用だ!
ジブンならこのとおり、いつでも、どこでも、君の心の叫びを聞きつけて駆けつけるぞ!!
安心するのだ・・・ジャスティーーーーッスくんっ!!!」
僕を心配してやって来てくれたのは嬉しいけど、あいかわらず、すごく暑苦しいな
「・・・あの、その呼び方、止めてくれません? 恥ずかしいから・・・・」
「何を言っているのだね? 立派な名前ではないか! 道比木ジャスティスッ!!!」
「は、はぁ・・・」
・・・もう名前はどうでもいいや。
「・・・それより、ジャスティスくん。ジブンはユガミくんから伝言を預かっているのだが・・・・・」
「え? ユガミさんから・・・」
「あぁ、この携帯電話に録音しておいたぞ。聞いてみるかね?」
そうだよ! ユガミさんだよ!
今日の裁判の担当検事、本当はユガミさんだったのだ。
なのに、今日の朝、突然電話がかかってきて、
「悪いなァ、道の字・・・今日の裁判、オレの代わりに出てくんなァ・・・
詳しいことは、おっさんに伝えてもらうからよ・・・じゃあな。」
って一言だけ。
だから、何の事件かも分からずに来てしまったのだ。
初法廷なのにそりゃないよ!
「どうするのだ? 聞いてみるかね?」
「えぇ、お願いします。」
「じゃあ、いくぞ! スイッチィ・・・・・・・ジャスティーーーーーッス!!!」
そこは、普通に“オン”でいいだろ・・・ってか、言わなくていいだろ。
「・・・よぉ、道の字。 今日は、急に法廷に立たせることになっちまってすまなかったなァ。
向かいの独房の囚人が脱獄なんざ、謀って暴れるもんだから、オレのトコの錠前がイカれちまったのさ。
おかげで、オレは出たくても出れねぇって、わけさ。
だが、心配するこたァねぇさ。 今日の相手はなまくらだ。
・・・しかも、竹みつときたもんだ。 こいつは傑作だよなァ・・・
まっ、オレとおっさんの捜査は間違ってねぇ。
おめぇさんは、名刀“ジャスティス”を思う存分振り回してきなァ!
・・・じゃあな。」
「・・・これが、僕が代わりに法廷に立つ羽目になった理由ですか?」
「そういうことだ。」
はぁ・・・誰だよ、脱獄しようとしたのは・・・・・
!? まさか、アイツじゃないよな?
「それより、そろそろ開廷時間ではないのかね?」
「えっ?」
そう言われて、法廷の入り口のほうを見ると、係官が早くするよう催促していた。
「はっはっは! せかされちゃってるぞ、ジャスティス君! 急ぐのだっ!!!」
陽気な番刑事の声を背中に感じながら、僕は法廷へと急いだ。
初法廷、最初からこんな調子で大丈夫かぁ?
10:00 地方裁判所第6法廷
「それでは、これより開廷いたします。」
いよいよ、始まる・・・僕の初法廷が!
裁判の開始を告げる、裁判長の木槌の音が高らかに響く。
・・・って、あれ? 今日の裁判長・・・いつものおじいさんじゃないぞ!
「・・・ですが、その前に私の自己紹介をしておきましょう。
本法廷の裁判長を務めさせていただきます、裁判官の鯖樹 康平(さばき こうへい)と申します。
杜奥野(とおくの)市の地方裁判所より派遣され、
今年度より、ここ、戸亜留(とある)市の地方裁判所で勤務することとなりましたので、以後お見知りおきを・・・」
サバキ・・・コウヘイ・・・
なんか、いかにもな名前だな。
しかし、綺麗に切りそろえられた、若干白髪の混じった灰色に見える頭・・・
丁寧に磨き上げられた、金縁の眼鏡・・・
身にまとった真っ黒な法衣・・・
そこからは、名前に恥じない立派な裁判官であることがうかがえた。
「さて、そろそろ、本題に入るとしましょうか。
・・・検察官は、道比木正義くんでよろしかったかな?」
「は、はい!」
「早速、今回の事件について、冒頭陳述をしてもらいましょうか。」
「わかりました。」
・・・とは言ったものの、ユガミ検事から電話をもらったのは今朝。
正直、僕も事件の詳細はちゃんと理解できてないんだよなぁ・・・。
まぁ、冒頭陳述の書類は番刑事を介してユガミ検事からもらったから、
とりあえず、書類を読みながら僕も理解していこう。
「では、冒頭陳述を始めます。 ・・・今回の事件は、同年4月1日に発生しました。
被害者は、洞吹 雷也(ほらふき らいや)さん、20歳。 男性です。
被告人は、布鮭 ルナ(ふざけ るな)さん、20歳。 こちらは女性です。
両名は、どちらも戸亜留大学、理学部、化学学科に所属する学生です。
事件は、彼らが所属する理学部の実験室で起こりました。
被害者は、実験室の椅子に腰掛け、右手にビーカーを持った状態で、机に突っ伏した状態で、白目をむいて倒れていました。
彼の持っていたビーカーの中身の液体を調べたところ、“ソクイックW”という即効性の毒が検出され、
彼の体内からも、これと同じ成分が検出されました。
よって、被害者の死因は“ソクイックW”による中毒死です。
ちなみに、死亡推定時刻は4月1日の午後5:00~6:00の間。
この毒は、化学薬品の調合によってしか獲得できず、その調合に必要な薬品自体が劇薬であるため、一般の人が入手することは困難です。
しかし、理学部の実験室には、実習で使うために、それらの薬品が全てそろっていて、
“劇薬マイスター”という特殊な資格を持った者にだけは、それらの薬品の使用が認められていました。
(もちろん、それらを使って“ソクイックW”を生成することは認められてなかったでしょうが・・・)
そして、その資格を持つ者は、現在の戸亜留大学、理学部、化学学科では、
被告人だけだったのです。 よって、検察側は、布鮭ルナ氏を殺人罪で起訴いたしました。」
・・・なるほど、そういう事件だったのか。
案外シンプルな事件でよかった。
「道比木くん、ありがとう。・・・では、被告人にうかがいます。 今の検察側の冒頭陳述に何か間違っていることはありましたか?」
「ふざけるなっ!! 全部間違いよっ! 何で、あたしがライヤを殺さなきゃならないのよっ!!」
すごい剣幕だ。 完全否定してるけど、この人が犯人でいいんだよな?
今にも、勢いあまって、着ている白衣のポケットに入っている、いかにも怪しい薬品をぶちまけられそうで怖いんだけど・・・
「被告人はこう言っていますが、弁護側の主張はいかがでしょうか?」
「ふふふ・・・弁護側、もちろん、被告人の主張を支持いたしますよ。 彼女は無罪です!」
そう言って、ドヤ顔を決めた弁護人だったが、裁判長の鯖樹さん同様、僕は彼も初めて見る顔だった。
こんな弁護士いたっけ?
「おぉ、そういえば、検察側の道比木くんは今日が初の法廷だとか・・・ まずは、自己紹介をしておきましょうか! よいでしょうか、裁判長?」
「えぇ、時間はあります。 構いませんよ。 私も、早くみなさんの顔と名前を一致させたいですからね。」
「ではっ! ・・・わたくし、弁護士の生倉 武光(なまくら たけみつ)と申します。
この世界では、父のほうが名が知れてますかね?
生倉雪夫・・・あの伝説のDL6号事件を担当した弁護士の息子が私なのですよ。
どうです? 私のすごさが分かったでしょう?」
「・・・なるほど、あの生倉弁護士のご子息でしたか!
それは、それは・・・あなたもその血を引く身ならば、さぞかし立派な弁護士なのでしょうな!」
「そうなのですよ! いやぁ~、鯖樹裁判官はお目が高いっ!」
裁判長、感服しちゃってるけど、確か、生倉雪夫弁護士って、無罪さえ取れればいいっていう考えの悪徳弁護士じゃなかったっけ?
この弁護士も、その血を引いてるっていうなら・・・・・ちょっと気を引き締めたほうがいいかもな!
「さて、自己紹介も終わったことですし、審理に戻りましょう。
・・・それでは、弁護側は、被告人の無罪を主張するということでいいのですね?」
「えぇ、もちろん! 布鮭ルナさんは一切、殺人には関与していません。
「そんなはずはありません!
だって、殺害に使用された毒物は、被告人しか入手できなかったんですよ。
被告人以外に犯人はあり得ない!」
「それはどうでしょうかな? 道比木検事、初の法廷で舞い上がる気持ちは分かりますが、ここは少し落ち着いて考えようじゃありませんか。
あなたは、“劇薬ナンタラ”の資格を持っていたのが、被告人だけだから、犯人と決め付けているわけですね?
おそらく、その資格を持つ者だけに、その薬品が入っている金庫か何かの鍵が与えられていた・・・とかいったところでしょう。
ならば、そんな資格などなくても、金庫の鍵さえ開けられれば、誰だって“ソクイックW”をつくれたのではありませんか?」
「!? ・・・そ、そんなぁぁぁ!!!」
「それに、これはあくまで推測ですが・・・・・仮にも、被害者の洞吹雷也くんも、化学学科の学生です。
なぜ彼がビーカーの中の液体を口にしたのか、経緯は分かりませんが、ビーカーに毒物が入れられていたことくらい、判断できたと思うのですがねぇ・・・
それでも、彼はビーカーの中身を口にした・・・そこには、もう一つの可能性があるではないですか?
・・・そう、被害者は自殺を図った可能性があるのですよっ!!!」
「!? ・・・うっ・・・うぅぅぅぅ・・・・・」
序盤でこんなに追い詰められるとは・・・
「なるほど・・・。 弁護側の主張は筋が通っていますね。 うむ、納得しました!
・・・いや、私も実はそう思っていたのですよ。
被告人、名字を“布鮭”といいましたね?
私は、名字が“鯖樹”ですが、氏名に“魚”の文字が入っている人に悪人はいないんですよ!
よって、被告人は無罪です!」
なんだ、その変な迷信みたいなの? ・・・全然聞いたことないんだけど・・・
・・・ってか、それ、全然公平に見てないじゃんっ!
「いや、裁判長・・・さすがにそれは無理があるかと・・・・・」
僕は異議を唱えようかと思ったが、先に生倉弁護士のほうが、そう言ってくれた。
「えっ、でもあなた、被告人の無罪を主張したじゃない? 被害者は自殺なんでしょ?」
「い、いや・・・それは、あくまで可能性でして・・・
私には、被告人の無罪を裏付ける、もっと確証のある証拠があるのですよ。
ですから、判決はそちらを提示してからにしていただきたいかと・・・・・」
「あぁ、そうなんですか。 私は、名字的に被告人は無罪だと思うけどな・・・。 まぁ、弁護側がそう言うならいいでしょう。
“裁きは公平に”成さねばなりませんからね。 弁護側の証拠とやら、提示をお願いします!」
すでに、“裁きは公平に”行われてないんですけど・・・
「では、提示いたしましょう!・・・というか、入廷していただきましょう!
私が告発する、真犯人でございますっ!!!」
何っ!? し、真犯人だってぇ!!!
証言台の前には、黒髪のショートカットの女の子が立っていた。
10:17 弁護側反論 ~真犯人、告発!~
「いきなり、弁護側から真犯人の告発がなされるとは・・・・・これは驚きましたな!
・・・で、そちらの彼女が、あなたの告発する真犯人ですか?」
「えぇ、そうです。」
「分かりました。 ・・・では、真犯人さん・・・いや、とりあえずは証人としておきましょう。
証人、あなたの氏名と職業をお教えください。」
「な、名前は・・・・・・・
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・・・・・・・し、しょう・・じょ・・・・・少女Aです!」
「少女A・・・!?」
「私、19歳なんですよ! 未成年です!
未成年は、少年法が適用されるんですよね?
・・・その、将来の社会フッキのため・・・・でしたっけ?? よくわからないけど・・・
だから、名前、出ないじゃないですか!
“容疑者の少年A”・・・みたいな?
だから、匿名で・・・私の名前は、少女Aでお願いします!」
「は、はぁ・・・。 まぁ、いいでしょう。 では、Aさん。 職業のほうは?」
「えっと・・・アイd・・・じゃなくって・・・
大学生です! 戸亜留大学、理学部、生物学科で今年から2年生になります。」
何っ!? 戸亜留大学、理学部だって? それ、被害者と被告人と同じ学部じゃないか!
「おや、道比木検事はもう気づいたようですね?」
「えっ? 何の話ですか??」
「私が彼女を真犯人として告発した理由ですよ、裁判長。
・・・彼女は被害者、そして被告人と同じ、戸亜留大学理学部の学生なのですよ!
そして、これが今回の事件と大きく関わってくるのです。
彼女も、殺害に使われた毒物を入手することが出来た・・・
・・・いや、あの日に限っては、彼女しか入手できなかったと言ったほうが正しいかもしれません。」
どういうことだ?
「それはオカシイですよ!
だって、“劇薬マイスター”の資格を持っていたのは、被告人だけだったんでしょう?」
「それは、あくまで、化学学科では・・・の話でしょう?」
「えっ?」
「確かに、化学学科では、“劇薬ナンタラ”の資格を持つのは、被告人だけですよ。
しかし、他にもこの資格を持つものは、
物理学科に、7名・・・生物学科に、1名・・・医学部医学科に9名いるのですよ!
そして、その中の生物学科の1名が、そこの少女Aさんなのですよっ!!」
「な、なんだってぇぇぇぇ!!!」
そんなの知らないよ~(涙)
いや、でも・・・・
「待ってください、生倉弁護士!
・・・でも、それだったら、物理学科や医学部で資格を持っている人だって怪しい・・・。
少女Aさんを真犯人と決め付けて、告発するには根拠が薄いんじゃないですか!」
「そう来ますか・・・新人丸出しって感じですねww」
嫌味な笑い方をされ、腹が立った。
「人の話は最後まで、ちゃんと聞くものですよ。
・・・私はさっき言ったはずです。
あの日に限っては、彼女しか入手できなかったとね。
・・・事件当日、“ソクイックW”を生成するのに必要な薬品は、生物学科の実験室にあったのですよ。
つまり、“劇薬ナンタラ”の資格を被告人が持っていようが、他の誰かが持っていようが、
事件当日、薬品が、生物学科の実験室にあった以上、
薬品を使って“ソクイックW”を生成し、被害者を殺害できたのは、彼女しかいないのですよっ!!」
!? ・・・そ、そんなぁ・・・・・
「なんだか、小難しい話になってきましたね・・・
要は、ざっくり言いますと、犯行を行えたのは、少女Aさんであり、
被告人の・・・・えーとぉ・・・塩鮭さんではなかったということでいいですね?」
「えぇ、そのとおりです!」
いや、ざっくりしすぎでしょ! ・・・ってか、裁判長、鮭にしか目がいってないし・・・
いや、でも待てよ!
「生倉弁護士、1つお聞きしてもいいですか?」
「えぇ、なんでしょうか?」
「事件当日は、生物学科の実験室に薬品があったから、他のマイスターたちは薬品を使えなかった・・・
ということは、生物学科の実験室には鍵か何かが付いていて、他の学科の人は入れなかったということでしょうか。」
「・・・ふっ、何をとぼけた事をおっしゃるのですか?
大学の実験室は、学部、学科に関わらず、すべてカードキーロックになっていて、
その学部、学科に所属している人しか入れない仕組みになっている。
・・・そのような情報を流したのは、検察側ではないですか!」
そんなこと言われても・・・・・それを調べたのは、多分、ユガミ検事だから・・・
でも、これで明らかになった。
やっぱり、少女Aさんは真犯人じゃないよ!
「生倉弁護士、ちょっと待ってください! それなら、逆も同じことじゃないですか!」
「ぎゃく・・・と申しますと?」
「化学学科の被告人が、生物学科の実験室に入れないのと同様、
生物学科の少女Aさんは、化学学科の実験室には入れないじゃないですか!」
「えぇ、そうでしょう。 それが何か?」
「えっ?」
予想外の返答に、僕は呆気に取られた。
「そんなことはこの際関係ないでしょう。 だって、事件現場は生物学科の実験室なんですから・・・」
・・・なんだって!? そ、そんな馬鹿な!!
僕は急いで、あの書類を探した。 そう、ユガミ検事が書いた冒頭陳述の書類だ。
素早く文面を読み返す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・あっ!
そこで僕はようやく気づいた。 今まで、勘違いをしていたことに。
ユガミ検事が書いた書類には、“理学部の実験室”としか書かれていなかった。
被害者と被告人がどちらも化学学科の学生だったから、勝手に化学学科の実験室が事件現場だと思い込んでいただけだったのだ。
どうしよう・・・これでは反論のしようがない。 僕は、急に目の前が真っ暗になった気がした。
10:26 救世主(?)、登場!
「何を暗い顔をしているのだね?」
「うわっ!!」
突然、隣から声をかけられ驚いた。 そこにいたのは番刑事だった。
「えっ、なんで番刑事がいるんですか?」
「言ったではないか! ジブンは、君の心の叫びを聞きつけ、いつでも、どこでも、駆けつけると!
・・・ジャスティスくん、君は今、ピンチな様だね?」
「はい、僕、事件現場を勘違いしちゃってて・・・
・・・って、ユガミさんがこんな曖昧な書き方するからいけないんですよ!
ちゃんと、生物学科の実験室って書いてくれればよかったのに・・・」
その瞬間、番刑事の表情が変わった。
「君、ユガミくんが悪いと言いたいのかね?
ユガミくんが、理学部の実験室としか書かなかったから、勘違いしたと・・・・・
嘆かわしいっ! 君のジャスティスはそんなちっぽけなものだったとはっ!!
失望した! ジブンは、君に失望したぞぉぉぉ!!!
まともに書けるペンもない独房の中で、必死に書類を書いたユガミくんが可哀相ではないかぁぁぁ!!!」
番刑事は、鼻をつまみながら、号泣し始めた。
鯖樹裁判官と生倉弁護士が、冷たい視線をこちらに向けている。
「な、なんなんですか、この感情の起伏が激しい人は・・・?」
「き、気にしないでください・・・いつも、こんな調子ですから・・・ 」
「気にするな・・・とはひどいではないか!」
あっ・・・泣くのをやめた。
「ジブンは君を助けるためにやってきたのだぞ!」
そうは思えないんだけど・・・
「裁判長殿、弁護士クン・・・そして、その他諸君、ジブンは刑事課の番轟三という者だ!
突然ジブンが飛び入り参加してしまって申し訳ない!
しかし、検察側は、今の弁護側の告発に対して異議があるのだ!」
「えっ!?」
何を言い出すんだよ、この人は!
「我々、検察側は、入念な捜査の結果、布鮭ルナを犯人として起訴した!
検察側としては、彼女以外に犯人はいないと考えている。
しかし、弁護側もまた、そこの少女Aくんが真犯人であると確信がおありのようだ。」
「えぇ、だって、事件現場は生物学科の実験室だったのですからね。」
「うむ、それは分かっている。
しかし、我々はまだ、少女Aくんの口から、何も聞いていない。
我々は、あなたではなく、彼女から事件の真相を聞きたいのだ!
そこには必ず、おかしな点があるはずなのだよっ!
検察側は、少女Aくんに、事件当日の行動についての証言を要求するっ!!」
ちょ、ちょっと・・・勝手に話を進めないで欲しいんだけど・・・・・
「なるほど・・・。
元気の良い人は、“魚”が氏名に入っている人と同じくらい良い人が多いですからね!
あなたの要求、受け入れましょう! いいですね、弁護人?」
「えぇ、いいですよ。
その自信がどこからくるのか、私も確かめたいですし・・・」
「では、そうしましょう! 少女Aさん、証言をどうぞ・・・」
・・・なんか僕、仲間はずれにされた気分なんだけど・・・・・
10:30 少女Aの証言 ~事件当日の行動~
「・・・あっ、どうも・・・生物学科の少女Aです。 事件の日のことを話せばいいんですよね?
あの日は、午前も午後も特にこれといったことはなく、授業を受けただけでした。
授業が終わったのは4:30くらいだったかな?
・・・あっ、でも、放課後にはちょっと用があって、生物学科の実験室に行きました。
でも、その用が済んだら、すぐに帰りました。
・・・私は殺人なんてしていない・・・・そう思いたいけど、弁護士さんの言うことは最もです。
今回の事件、私が真犯人です!」
な、何ぃぃ!! じ、自白しちゃったよ!!
だが、その時、生倉弁護士が不敵な笑みを浮かべたのを僕は見逃さなかった。
そして、証人のほうは不安げな表情で生倉弁護士のほうをちらちら見ていた。
いや、違う!
あの弁護士、弱みか何か握って、この証人に無理やり自白させたんだ!
・・・僕はそう感じた。
「ゆるせない・・・許せないぞぉ・・・ナマクラベンゴシィ・・・ 」
番刑事も同じことを感じたらしく、見ると強く拳を握り締めていた。
「ジャスティスくんっ! 今こそ我らの反撃の機会だ!!」
「えっ?」
「君も感じただろう? ナマクラ弁護士が、彼女に無理やり自白させたということを・・・
ならば、彼女の証言には隠された真実があるということなのだっ!
尋問だ! ・・・今の証言に対して尋問を行うのだよ、ジャスティスくんっ!!」
「じんもん・・・ですか?」
「そうだ! ・・・君は今日が初の法廷だったね。
尋問の仕方について確認するかね?」
どうしよう?
「・・・わかった。 確認するのだね?」
・・・ってか、選択肢がどちらも“はい”だったんだけど・・・
「じゃあ、説明しよう!
尋問は、弁護側の証人の証言に対して行うものだ。
我々は、入念な捜査の結果、被告人を起訴している。 つまり、証人の証言が正しいわけがないのだよ!
そこには必ず、ウソや秘密が隠されている!
それを暴き出し、被告人が犯人で間違いないと納得させるのが尋問だ!
具体的には、正義を感じられない証言をゆさぶってみたり、
証言とムジュンする、正義の記録の中の証拠品をつきつけてやればいいのだよ!
まずは、やってみたまえ!!」
途中、よく分からない部分があったけど、まぁとりあえず、やってみるか。
言動はめちゃくちゃだが、番刑事が僕を心配してやって来てくれたのは本当らしい。
ならば、ユガミさんと番刑事の捜査を疑うなんて、罰当たりだ。
必ず、被告人が犯人だと証明してみせるぞ!
10:30 検察側尋問
「・・・あっ、どうも・・・生物学科の少女Aです。 事件の日のことを話せばいいんですよね?」
「事件の日以外に、いつがあるって言うんですかっ!」
「えっ・・・いや・・・そのぉ・・・ありませんけど・・・。」
「こらこら、ジャスティス君! 証人を脅かしてどうするのだね?
ジブンは、ここには十分な正義を感じる。 ゆさぶるべきではないと思うのだが・・・」
(確かに、ここはあんまり関係なかったな・・・)
「あの日は、午前も午後も特にこれといったことはなく、授業を受けただけでした。
授業が終わったのは4:30くらいだったかな?」
「その時刻は確かですか?」
「えぇ、確かです。 本当は、4:20で終わるところを、教授が長々しゃべって、延長しちゃったんです。」
(僕が、大学生の時もよくいたなぁ、そういう教授・・・)
「・・・で、それがどうかしましたか、道比木くん?」
「・・・えっとぉぉ・・・」
(時刻が確かだからって、何なんだ? ここもあんまり意味がなかったな・・・)
「なければ、証人・・・続けてください。」
「・・・あっ、でも、放課後にはちょっと用があって、生物学科の実験室に行きました。
でも、その用が済んだら、すぐに帰りました。」
「その用とは、何の用事だったのでしょうか?」
「えっと・・・次の日の実験の準備です。
マゼルナキ検査薬とサワルトヒ酸水とカグトシヌ溶液を、生物学科の実験室に運んだんです。」
「は、はぁ・・・」
(なんだか、専門用語がたくさん出てきて頭が痛くなってきたぞ・・・)
(でも、ここはもう少し、つきつめて聞いたほうがいいかもしれない。)
「ちなみに、その次の日に行う予定だった実験の内容は教えてもらえますかね?」
「えぇ、いいですよ。
私達、生物学科が今研究している生物に、タエルっていう両生類がいるんです。
見た目は、普通のカエルみたいなんですけど、このタエルは、他の生物が棲めないような
かなり汚染された水の中でも、健康を害さずに生きることが出来るんです。
・・・だから、どこまで汚染された水まで生きられるのかを突き止めるため、
手始めにさっき言った3つの薬品を混ぜた水溶液の中にタエルを入れてみよう!
そして、そのときのタエルの様子を観察してみよう!
・・・ってのが、実験内容でした。」
手始めで、あのわけの分からない化学物質の中に漬けることになったのか?
タエル、なんだか可哀想だな・・・。
「分かりました。 じゃあ、とりあえず、証言の続きをお願いします。」
「道比木検事、少々お待ちを・・・
私、今の証人の証言を補足させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「えっ・・・あっ、はい。」
突然、生倉弁護士にさえぎられ、呆気に取られた僕は、思わずそう答えてしまった。
「彼女は今、実験の内容は3つの液体を混ぜた中に、タエルとかいう珍生物を入れることだと言いましたね?
・・・道比木検事、その3つの液体を混ぜたときに出来上がるもの・・・・・
それが、“ソクイックW”なのですよっ!!!」
「えっ!? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
ゆさぶったのが、間違いだったか?
こちらに不利な情報が・・・それも、圧倒的に不利な情報が出てきてしまった。
「どうです、道比木検事? 尋問など、このへんでやめたらいかがですか?
もはや、彼女が真犯人であることは否定できないでしょうよ!」
た、確かに・・・・・
「いいや、まだだ! 我々はまだ、証人の証言の全てを尋問し終えたわけではないぞ!
最後の部分にこそ、何かムジュンがあるはずなのだよ!! そうだろう? ジャスティスくんっ!!!」
どうやら、番刑事はまだ諦めてないようだ。 それならば、僕も諦めるわけにはいかない!
「そ、そうですよ! 検察側は尋問を続けます!」
「ふっ、無駄だと思いますがね。 まぁ、気が済むまでやればいいですよ・・・」
「そういうことなので、証人、続きの証言をお願いします。」
「私は殺人なんてしていない・・・そう思いたいけど、弁護士さんの言うことは最もです。
今回の事件、私が真犯人です!」
・・・・・いや、無駄なんかじゃない。 やっぱり、彼女の証言はムジュンしている!
「ほう、異議を唱えますか。 その異議、ヤケになって唱えたわけではないでしょうな?」
「そんなわけ、ないですよ!」
「ならば、示してもらいましょうか? 今の証言とムジュンする証拠をね・・・」
「その必要はありませんよ。」
「はぃ?
異議を唱えたら、証拠を提示する。 それが裁判の基本でしょうがっ!」
「えぇ、しかし、今回ムジュンしているのは、証人の証言自体なんですよ。
『私は殺人なんてしていない・・・そう思いたいけど、弁護士さんの言うことは最もです。
今回の事件、私が真犯人です!』
証人はそう証言しました。
自分は殺人をしていないが、自分は真犯人だ・・・一体これはどういうことですか、証人?」
「・・・・・・・・」
証人は黙ったままだ。 仕方がないので、僕は推測で話を進める。
「あなたには、被害者を殺害した記憶はない。
しかし、現場の状況から、あなた以外に犯人はあり得ない。
そう生倉弁護士に言い聞かせられたから、あなたは自分が被害者を殺害したと思い込んだ。
ただ、それだけなんじゃないですか?」
少しの沈黙のあと、証人は静かにうなずいた。
「私は、被害者の洞吹さんを殺した覚えはありません。」
その瞬間、生倉弁護士が見たこともないような変顔をした。
「裁判長、証人は弁護人によって、自分が真犯人だと思い込まされていた可能性があります!
検察側は、もう少し詳しく、彼女の証言を聞く必要があると考えます。」
「うむ、そのようですね。
彼女には、事件当日のことについてもう少し詳しく語っていただきましょう。
・・・と、その前に、生倉弁護士には、ささやかなペナルティを差し上げておきましょう。」
鯖樹裁判官の手には、いつの間にか、新鮮なイカが握られていた。
あれ、まだ生きてるよな?
「えっ・・・ちょ、待っ・・・それはダメですっt・・・・・ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!!」
生倉弁護士の顔は真っ黒になった。
なにはともあれ、なんとか最初の尋問はしのげたようだ。
隣で番刑事もピースサインを作っていた。 次の尋問で、彼女は真犯人じゃないと証明してやる。
・・・まぁ、つまりは被告人が犯人で間違いないって証明することなんだけどね・・・。
10:38 少女Aの証言② ~事件発生までの出来事~
「・・・ところで、道比木くん、証人に新たな証言をしてもらうのはいいのですが、何について語ってもらうのでしょうか?」
「証人は、自分は被害者を殺していないと言っています。
それならば、その事実を明らかにするために、事件発生までの出来事を詳しく語っていただく必要があると考えます。
具体的には、例の薬品をどこから実験室に持ってきて、そして、実験室に持ってきた後はどうしたのか・・・
ということです。」
「なるほど・・・。 よろしいですか、証人?」
「はい。 わかりました。」
「では、証言をお願いします。」
「マゼルナキ検査薬、サワルトヒ酸水、カグトシヌ溶液・・・あれらの薬品は、元々、化学学科と医学部の実験のために学校が買った薬品なんです。
だから、普段は化学学科か、医学部の薬品保管庫に入れられていて、事件当日は、化学学科のほうの保管庫にありました。
私は、化学学科の保管庫には入れませんから、それを、化学学科の方に保管庫から出してもらって、私が生物学科の実験室まで運びました。
それで、次の日に来たらすぐに実験が行えるように、その他必要な器具と一緒に実験机に置きました。
その日はそれ以上何もせずに帰りました。
でも・・・でも・・・次の日、実験をしようと実験室に入ったら・・・・・そこで、洞吹さんが亡くなっていたんです!
・・・私は何もやってません! だって、毒は3つの薬品を混ぜると出来るんですよね?
私、薬品を持ってきただけで、あの日は混ぜてませんから!」
「なるほど。 では、検察側は尋問を・・・」
「その必要はありませんよ、裁判長!」
「えっ? なぜですか、生倉弁護士?」
「今の証人の証言はウソとしか思えない!
・・・証人、あなたは今、事件当日は薬品を持ってきただけで、混ぜてはいない。
その日は何もせずに帰ったと言いましたね?
そんなこと、証明できる何かがありますか?」
「そ、それはぁ・・・・・」
「ほら見なさい! ないのでしょう?
あなたが帰ったという時刻から、遺体が発見されるまで、あなたには十分すぎるほどの空白の時間があったのです。」
「で、でも・・・私、ちゃんと鍵かけましたから!
中にいるときも、帰るときも実験室の鍵をちゃんとかけたんだから、
化学学科の洞吹さんが生物学科の実験室に入ってこれるわけがないんですよ!」
「ふっ・・・そんなの、あなたが鍵を開けて、彼を招き入れれば済む話ではないですか?」
「うっ・・・」
「とにかく、あなたが何もせずに帰ったということが証明できない以上、
あなたへの疑いは晴れないということです!」
・・・くっ、この弁護士、あの生倉雪夫の息子と思って少々見くびっていたけど、
なかなかやり手の弁護士だな。
どんどんこちらが不利な状況に追い込まれていく。
えっ!?
今、「待った!」の声を出したのは誰だ?
「弁護士さん、待ってください!
証明できますよ・・・・・私が何もせずに帰ったってことを証明できる人物がいます!」
どうやら、声を出したのは、証人の少女Aさんだったらしい。
「ほぅ、あなたも道比木検事のまね事をなさるのですか・・・。
さっき口ごもっておきながら、そう言うからには余程のコンキョがおありなのでしょうな?」
そう言われると、自信がなくなるのか、彼女は一度うつむいた。
だが、次の瞬間には、迷いなく一点を指し示して言い放った。
「ありますよ! 彼女が、私の無実を証明してくれます!!」
指し示された先にいたのは、被告人の布鮭ルナだった。
10:46 布鮭ルナの証言 ~少女Aの無実について~
「まさか、被告人が証人とは・・・こんなこと、あってよいのでしょうか?」
「構いませんよ! 被告人の無実はもう、証明されたも同然なんですから!」
いや、全然証明されてないよ!
「まぁ、弁護人がそう言うならいいでしょう。
ここは外部から来た私が、ここの慣習にあわせるべきですしね!」
裁判に慣習とかないと思うんだけど・・・
「では、被告人・・・いや、証人、彼女の無実を証明する証言をお願いします。」
「・・・・・・・・」
だが、被告人・布鮭ルナは不機嫌な顔をしたまま口を開かなかった。
「どうしました、証人?」
「こんなことして、ふざけるなっ!!」
・・・と思ったら、いきなり怒鳴りだした。
「あのことは秘密にするって約束したじゃないのよっ!」
えっ? あのこと・・・??
「ご、ごめんなさい・・・ルナ先輩! どうしようもなくなっちゃったから・・・」
「アンタの事情なんて知らないのよ!」
「で、でも・・・私、犯人だと疑われちゃったから・・・・・」
「それはアタシも同じなのよっ!」
「あ、あのぉ・・・痴話ゲンカならば、外でやっていただきたいのですが・・・」
鯖樹裁判官があきれた顔をしている。
「と、とりあえず、証言してくださいよ、先輩・・・。
ねっ・・・そうすれば、先輩の疑いだって晴れるはずですから・・・」
それは、僕には困るんだけどなぁ・・・
「ふん、まぁ、いいわ。 アンタがバラしたおかげで、どうせもう隠し切れないんだから・・・」
「話はついたようですね? ・・・では証人、証言のほうをお願いします。」
「いいわ。 話してあげる。 ・・・さっき、ナナが・・・・・」
「先輩、ちょっと待ったぁ!!」
「えっ、何よ? アンタが証言しろって言ったんでしょうが!」
「違いますよ! ・・・そのぉ・・・ナナって呼ぶのはちょっと・・・・・」
「はぁ? 何よ? ナナはナナでしょ? アンタはナナじゃない!」
「なるほど、彼女の名前はナナというのですか!」
「ちちちちちち・・・・違いますぅ!!!
わわわわわわ・・・・私は、少女Aだからっ!!!
なななななな・・・・ナナじゃないからっ!!!」
完全に動揺してるよ・・・。
「まぁ、いいでしょう。 ナナさんの話は後で聞くとして、まずは証人の証言です。」
「ナナじゃないのにぃ・・・・・」
涙目になってるよ。 そんなに名前がバレるのが嫌だったのか?
「じゃあ、続けるわよ?
・・・さっきナナが、化学学科の方から、薬品を受け取ったと言ったわよね?
その化学学科の方ってのがアタシだったのよ。 でも、アタシは最初、ナナに薬品を渡したくなかった。
そりゃ、ナナが“劇薬マイスター”の資格を持ってるのは知ってたし、薬品を渡しても問題はないのだけど・・・
あの薬品はもともと、化学学科のために用意されたもの。
生物学科のお遊びみたいな実験に使われたくはなかったのよ。 だから、1つ取引をしたのよ。
ナナに薬品を貸す代わりに、アタシにも生物学科の実験室に入らせて・・・ってね。
ちょっと、特殊な顕微鏡で調べたいものがあったんだけど、その顕微鏡、生物学科の実験室にしかなかったからね。
そしたら、ナナは、それを承諾して、薬品を生物学科の実験室に持って行った後、戻ってきてアタシに生物学科の実験室のカードキーを渡してくれたのよ。
『明日の朝に返してくれれば、いつでも入っていいですよ』ってね。
だから、ナナがすぐに帰ったかどうかはしらないけど、少なくとも、その後彼女は生物学科の実験室には入れなかったってことよ。」
「なるほど・・・そういうことですか。」
「どうです、分かったでしょう? これで、私は犯人ではないということが・・・・・」
「ぐ・・・いや、しかし・・・生物学科の実験室が事件現場だった以上、犯人はこの少女で間違いないはずなのだが・・・・・」
どうやら、生倉弁護士はまだ気づいてないようだな。
今の証言に含まれる重大な事実に!
「生倉弁護士、残念ですが、その前提は覆るのですよ!」
「はぃ?」
「今、証人ははっきり、こう証言しました。
『薬品を生物学科の実験室に持って行った後、戻ってきてアタシに生物学科の実験室のカードキーを渡してくれたのよ。』 とね。
生倉弁護士は、事件現場が生物学科の実験室だから、化学学科の被告人は犯人ではないと言った。
それはつまり、被告人は生物学科の実験室に入るためのカードキーを持っていないから事件現場には入れない、ということでしたね?
しかし、事件当日、彼女はそのカードキーを手にしていたのです。
つまり、被告人にも犯行は可能だったのですよ!」
「な・・・ぬあんとぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
生倉弁護士は、先ほどにも勝る変顔をした。 だが、被告人・布鮭ルナは冷静だった。
「生倉弁護士、そう焦ることはない。 アタシは無実なんだから・・・」
「しかし、カードキーが・・・」
「だから、言いたくなかったんだ・・・こうなるから・・・。
検事さん、確かにアタシはあの日、実験室に入れた。
そして、“劇薬マイスター”の資格を持っているから、薬品も簡単に手に入れられた。
でも、あの日アタシは実験室には入らなかった。」
「それはオカシイです! だってあなた、実験室の顕微鏡で観察をしたかったんでしょう?」
「それは、他の人に任せたのよ。」
「えっ!?」
「私はそれを証明できる。 裁判長、もう一度証言してもいいかしら?」
「えぇ、分かりました。」
被告人の目はウソを言っているようには思えなかった。 一体、どういうことだ?
10:51 布鮭ルナの証言② ~アタシは実験室に入ってない!~
「じゃあ、始めるわよ。
カードキーを受け取ったアタシは、最初は自分で実験室まで行くつもりだった。
でも、ちょうどいいところに、ライヤ・・・被害者がやって来たのよ。
正直アタシは、放課後まで学校に残るのは好きじゃなかったから、
ライヤに顕微鏡の観察をやって貰うように頼んだのよ。
そしたら、ライヤは快く引き受けてくれた。 だから、アタシはカードキーをライヤに預けて、家に帰ったわ。
そしたら、その実験室でまさか、ライヤが死んじゃうとはねぇ・・・
でも、今の話を聞けば、アタシが犯人じゃないことは明白でしょ?」
「なるほど。 それが事実ならば、あなたへの疑いは晴れますね。
・・・証人、何かそれを根拠付けるものはありますか?」
「えぇ、もちろん。 ライヤは、実験室に観察に行ったまま、そこで死んでしまった。
つまり、実験室には、入ったきり出てこなかったわけよ。
それなら、ライヤはどこかにカードキーを持っていたはず!
それが見つかれば、それが証拠となるんじゃない?」
「そうですね。 しかし、そのようなカードキー、私は見覚えがないのですが・・・」
その通り! 僕もカードキーなんて見覚えがない。
第一、そんなものが被害者の身元から発見されたなら、ユガミ検事が彼女を起訴するはずがないんだから!
おそらく、この証言は被告人の言い逃れだ。
・・・だが、そこでとなりの番刑事が思わぬ言葉を発した。
「実は、ここにそれらしき物があるのだが・・・」
えっ!?
見ると、番刑事は、くしゃくしゃの紙に半分包まれたカードのような物を手にしていた。
そこにはこう書かれていた。
A biology course of science department ,Toaru University
つまり、戸亜留大学、理学部、生物学科・・・
「確かにそれは、生物学科のカードキーのようですね。」
「これが、被害者のズボンのポケットから見つかった。」
「えっ、ちょっと待ってくださいよ、番刑事!! そんな証拠品、僕、全然知りませんでしたよ!」
「すまないね、ジャスティスくん・・・これはジブンの落ち度だよ。
何せ、担当検事を君に変えることが決まったのは今朝だ。 こちらも色々な手続きでバタバタしていてね。
この証拠品をユガミくんから、もらい忘れていたのだよ。 さっき、速達でここまで届いたらしい。」
「つまり・・・正式な証拠品なんですね?」
「あぁ、そうなのだ。」
急に、僕の自信はなくなった。
「どうやら、分かってもらえたようね。 そう、アタシはあの日、実験室には入らなかった。
だから、アタシは犯人じゃないのよ。」
「で、でも、それなら、少女A・・・いや、ナナさんだって実験室には入れなかった!
それを証明したのはあなたじゃないですか!」
「あらあら・・・ナナのことなんてもうどうでもいいじゃない?」
「えっ?」
「ナナもアタシも犯人ではない。 それが真相よ!」
「それじゃあ、一体誰が犯人なんですか!」
「被害者自身・・・といったところでしょうかな?」
イカ墨をかけられてから口数の減っていた生倉弁護士が、久しぶりに口を開いた。
「言ったじゃないですか! 被害者は自殺した可能性がある・・・とね!」
「でも、それはあくまで可能性でしょう? 被害者が自殺したなんていう証拠はないですよ!」
「ふっ・・・やっぱりあなたはまだ、新人って感じですね。
自殺した証拠? そんなもの必要ありませんよ!
我々、弁護側が必要なのは、被告人が無罪だという証拠のみ!
被告人が無罪だと分かっちゃあ、こっちはもう、
被害者が誰に殺されようが、どんな方法で殺されようが、関係ないんだよっ!!
・・・被告人が無実ことは、もう明らかになったじゃありませんか!」
出た・・・父親と同じだ。
被告人の無実さえ証明できれば、裁判で無罪判決を勝ち取れればいいという、生倉流のいやらしいやり方だ。
そんなやり方に、道比木流が・・・父さんと僕の“真実”と“正義”を追い求めるやり方が、負けてたまるか!
「なんか、検事さん、すごい目つきでこっち見てるわね。
・・・そんな目つきで見られたって、アタシはひるまないわよ!
おおかた、ライヤは自殺なんてしてないとか言いたいんでしょうけど、アイツは、自殺よ。
・・・きっと、あの甘いにおいと、虹色に輝く液体の魅力に惹かれて、おいしい飲み物か何かと勘違いして飲んじゃったんでしょうよww アイツ、単純だからねぇ・・・
まっ、何かに落ち込んでて、最初からあの世に行くつもりだったかもしれないし・・・
理由までは知らないけど、あの状況で自殺以外には考えられないって! 分かるでしょ、検事さん?」
くっ、被告人は、もはや自分の無罪を確信して余裕を見せている。
急に快活になってるし・・・。
「・・・確かにあの薬品、おいしそうな香りと見た目でしたよね。私も薬品だと知らなかったら、飲んでたかも!」
えっ? 今のは・・・ナナさんか?
「!? ・・・・ば、馬鹿ナナがっ!!」
さっきまで余裕を見せていた被告人が急にまた怒鳴った。
「えっ? 何が・・・ですか、先輩? だって、あの薬品・・・」
「ふざけるなっ!! それ以上、言うんじゃないっ!!!」
被告人は明らかに動揺している。
彼女のこの態度は、ナナさんの発言の直後に始まった。 ナナさんの発言に何か問題があったか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・!?
そうか! そういうことか!! 僕の中で、全てが繋がった。
やっぱり、被害者は自殺なんかじゃない! 犯人は被告人だ!
今度こそ、とどめを刺してやる!!
10:59 検察側反論 ~布鮭ルナはやっぱり犯人!~
「布鮭さん、隠し通そうとしても、もう無理ですよ!」
「な、何の話よっ?」
「今のナナさんの発言で、僕には全てが分かりました。
・・・あなたが、ナナさんに渡したのは、マゼルナキ検査薬、サワルトヒ酸水、カグトシヌ溶液・・・
この3つの薬品ではありませんでしたね?」
「はっ? 何言ってるのよ、アタシはちゃんとその3つの薬品をナナに渡したわ!
・・・そうでしょ、ナナ?」
「はい、そうですよ。 だって、薬品のビンに書いてある名称をちゃんと確認しましたから・・・」
ナナさんにウソをついている様子はない。 ・・・ということは、ナナさんも気づかずにいたということか。
「確認したのは、名称だけですか? 中身の薬品自体は確認しなかったのですか?」
「えっ・・・だって、頼んだとおりに、ルナ先輩が持ってきてくれたから・・・
私は、薬品なんて見ても分からないし・・・」
「ばっ、なぜそれを言・・・」
「布鮭さんは黙っていてください! 今はナナさんに質問してるんです!
・・・ナナさん、あなたは見た目では、薬品を判断できなかったということですか?」
「ご、ごめんなさい!!!
・・・そんな私が“劇薬マイスター”なんて名乗っちゃいけませんよね!
なんなら、資格は返上します!
で、でも、“劇薬マイスター”は薬品の名前と効果さえ覚えれば取れる資格だったから・・・
生物学科では、劇薬を使った実験なんてほとんどしないから、見た目なんて分からなかったんですよ!!!」
“劇薬マイスター”・・・そんな簡単に取れる資格でいいのか?
まぁ、それはいいとして、これで彼女が薬品の知識に欠けていたことが分かった。
「・・・ということは、あなたはビンに書かれた名称だけを頼りに、自分が頼んだ3つの薬品で間違いないと判断したわけですね?」
「はい、そうです。」
「・・・ならば、ビンの名称と中身の薬品が別物でも、気づかなかったというわけですね?」
「・・・!?」
その瞬間、布鮭ルナの表情がこわばった。
「・・・な、何を急に言い出すのよ! ビンの中身が違ったって言いたいわけ?
そんなわけないじゃない! だったら、ビンの中には何が入ってたって言うのよっ!!」
「もう、あなただってお分かりなんじゃないですか? だから、さっきナナさんの発言をさえぎったんでしょう?
ビンの中身、それはもちろん・・・・・
ソクイックW・・・被害者を死に至らしめた毒ですよ!!」
「!?」
「さっき、あなたはこう言った。
『・・・きっと、あの甘いにおいと、虹色に輝く液体の魅力に惹かれて、おいしい飲み物か何かと勘違いして飲んじゃったんでしょうよww』
甘いにおい・・・そして、虹色に輝く・・・
この特徴は、ここにある資料から、ソクイックWの性質だと判明している。」
「そ、それが何よ? ライヤはソクイックWで死んだんだ。
アタシがソクイックWの特徴を口にしたって問題ないでしょうよ?」
「えぇ、あなたがこの発言をした時点ではね・・・。 しかし、その後にナナさんが、こんなことを言いました。
『・・・確かにあの薬品、おいしそうな香りと見た目でしたよね。私も薬品だと知らなかったら、飲んでたかも!』
これが、問題なのですよ!
彼女はあなたと同じような内容の発言を・・・つまり、ソクイックWの特徴を口にした。
しかし、それはオカシイのですよ!
彼女は3つの薬品を生物学科の実験室に持っていた後、すぐにあなたの元へ引き返し、カードキーを渡した。
だから、彼女は薬品を混ぜてソクイックWをつくる時間などなかったのです。
つまり、彼女が虹色の輝きと甘い香りなど感じたはずがない。」
「な、何が言いたいのよ?」
「ソクイックWは最初から作られていたのですよ!
あなたが、ナナさんに渡した3つのビンの中には、あらかじめ作られたソクイックWが入っていた。
それならば、ナナさんがソクイックWの特徴を述べてもおかしくない!
・・・そして、3つの薬品は元々化学学科の薬品庫に入っていた以上、ソクイックWを作れたのは、あなたしかいないのですよ! やはり、あなたが犯人なんですよ・・・布鮭ルナさんっ!!」
これを聞いた被告人は少しの間、黙ったままだった。 だが、すぐに、冷静な様子で話し始めた。
「なるほどねぇ・・・。 私が、ソクイックWを作った・・・か。
いいわ。 それ、認めてあげる。」
「えっ?」
意外な被告人の言葉に、僕は拍子抜けしてしまった。
「思い出したのよ、アタシがソクイックWを作ってやったことをね。
ナナもさっき言ってたけど、生物学科は劇薬の扱いに慣れてないのよ。
だから、代わりにアタシがやってあげたの。 でも、それだけよ。 アタシは殺害には関係ない!
結局、ライヤは自分の意思でソクイックWを飲んだんだ。
アタシは、実験室にすら入ってないんだから、ライヤの意思をどうのこうのすることは出来ないと思うけど?
・・・それとも、アタシがライヤの意思を操作した証拠でもあるのかしら?」
ソクイックWを作ったことを認めてもなお、殺害は否定するだと・・・
いや、毒をつくったのが被告人である以上、被告人が犯人じゃないわけがない!
なにか、あと一撃ほしい・・・被告人を完全に追い詰める、もう一撃が・・・
だが、僕にはそれが見つけられていなかった。
11:12 真相へ・・・
「・・・・・・・・・」
僕は何も反論することが出来ないでいた。
「どうやら、検事さんもアタシの無実を認めてくれたようですよ、生倉弁護士?」
「当たり前ですよ、布鮭さん! あなたは私が認めた、無実の女性ですからねぇ・・・
さぁ、裁判長、今こそ判決を・・・・・」
「おやおや、道比木検事・・・ここまできて『待った!』は往生際が悪いだけですよww」
生倉弁護士が、からかってきたが、実際、今の僕は往生際が悪いだけだった。
何も考えずに、ただ「待った!」と叫んだだけだった。
でも、叫んだからには、何か言わないと・・・
「そのぉ・・・これです!
これについて、もう少し議論が必要だと思います!!」
焦っていた僕は何の考えもなしに、その時手に持っていたものを突き出した。
「それは・・・カードキーですか? そんなもの、もはや議論し尽くされたじゃないですか!
ナナさんの物で、事件発生時は被害者が持っていた・・・そうですよね? それ以上に何か?」
「そ・・・そうなんですけど・・・・・・
い、いえ・・・違います! こっちです! これのことを僕は言ってるんですよ!!」
「はぁ? 意味が分かりませんなww」
確かに自分でも意味が分からなかった。
僕が示したのは、カードキーをくるんでいた、謎のくしゃくしゃの紙だった。
番刑事から、このカードキーを手渡されたときから、この紙が何なのかは少し気になっていたけど、
おそらく、被害者がポケットに入れていたゴミがたまたまカードキーをくるんだといったところだろう。
「まぁ、いいでしょう。
弁護側としては、そんなゴミに重大な意味などないと考えますが、ゴミにもすがりたい検察側の気持ちは分かる気もしますよww
しかし、そのゴミがなんだというのです?
待ったを唱えてまで主張するのですから、ちゃんと説明していただかなければいけませんよ!」
僕は必死で言い訳を考えた。 カードキーからその紙を引き剥がして、裏返してみたりもした。
そして、気づいた。 言い訳なんかする必要はないと・・・
これこそが・・・このゴミのような紙こそが、被告人が犯人であることを裏付ける最大の証拠であることが!!
僕がこの紙を突きつけたのは、気まぐれな偶然ではなく、必然だったんだ!
「もちろん、ちゃんと説明しますよ!」
おそらく、急に変わった僕の態度に、生倉弁護士は少なからず、驚いただろう。
それを想像して、ちょっと愉快になりながら、僕はあとの言葉を続けた。
「この紙が、被告人の犯行を裏付けてくれるのです!
・・・これは単なるゴミなんかじゃない! 被告人から被害者に当てられたメッセージなんですよ!」
「め、めっせーじぃ!?」
「ここにはこう書かれている。
生物実験室でやってほしい事
①顕微鏡で、例の資料の観察をして、結果のレポートをまとめてくること。
②実験机の上に、私がこの前作った試薬をビーカーに入れて置いておくから、試飲して効果を確かめてくること。
※明日、感想を聞くから、絶対飲んできてよ!
ここに書かれている、試薬・・・
この試薬こそ、ソクイックWのことなのです。
事件現場に、机の上の液体はソクイックWしかありませんでしたからね!
そして、最後の行を見てください。 赤い字で下線まで引いて、他のところよりも強調して書いてあります。
ここまでされたら、ここで試薬とされているソクイックWを何の疑いもなく飲んでしまうのが普通です。
つまり、布鮭さん! あなた自身は実験室に入らずとも、あなたはこのメモを通して、
無理やり被害者にソクイックWを飲ませることができたんですよ!!」
「なっ・・・が・・・・なんでよっ!!
ふざけるなっ!! ふざけるなぁぁぁ!! ホラフキライヤァ!!!
そのメモは終わったらすぐに捨てろって言ったのにっ!!!」
「残念ですが、それは無理ですよ。
ソクイックWは即効性の毒です。 飲んだらすぐに死んでしまう。
被害者は捨てたくても捨てる暇なんてなかったんですよ!」
「あっ!!」
「どうやら、ナナさんを利用してみたり、自殺に見せかけようとするのに頭を使いすぎて、肝心の毒の性質を忘れてしまっていたようですね。
おかげで、僕はこのメモが手に入って助かりましたよ。
このメモがある限り、もうあなたは言い逃れはできない! そうですよね? 布鮭ルナさん!!」
「く・・・くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 最後まで、このアタシを困らせやがってっ!
洞吹雷也・・・ふざけるな! ふざけるな!! ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!!!」
この後、被告人はしばらくの間、「ふざけるな!」を連呼し続けた。
裁判長は木槌を叩きながら、「静粛に!」を言い続けた。
それでも、収まらないので、番刑事が飛び出していって、「ジャスティス!」を叫びまくった。
なんなんだ、この地獄絵図みたいな光景は
だが、さすがの被告人も疲れたのか、ようやく叫ぶのを止めた。
そして、おもむろに、今回の事件の真相を語り始めた。
「・・・仕方ない、認めるよ。 ライヤを殺したのは、アタシさ。
・・・でも、悪いのはアイツのほうなんだよ!
いつもしょうもないウソばかりついて、アタシを困らせてたんだ・・・
実験の開始時刻を間違って教えられて、遅刻したから教授に怒鳴られたり・・・
レポートの締め切りにアタシが間に合わなそうなときに、ライヤが必要な資料そろえて来てくれたから感謝したのに、それが全然関係ない資料だってことに後で気づいたり・・・そんなことは、まだ許せたよ。
でも、あれだけは許せなかった・・・
ある日、ライヤが新しい化合物の生成に成功したから、一緒にやってみようってアタシに持ちかけてきたんだ。
だから、承諾して、ライヤの言うとおりの薬品を、言うとおりの分量で混ぜた。
そしたら、どうなったと思う? 爆発したんだよ! 危うくアタシは大怪我を負うところだった。
あれは失敗とかじゃない。 ライヤは、最初からあの爆発を起こさせてアタシを脅かすつもりだったんだ!
あの時のライヤの面白がった表情がそれを物語ってた。
・・・その時、アタシの中でもう我慢がならなくなった。
仕返しをしなければ・・・それも、あの爆発を超えるすごい仕返しを・・・
その仕返しが、今回の事件だよ。
エイプリルフール・・・ウソの許される日に、最悪のウソで仕返しをしてやろうってね。
・・・ナナ、ごめんね。 本当はアンタなんか利用するつもりじゃなかった。
本当は自分の実験室にアイツを呼べばそれでよかったんだ。
でも、これも運命なのか、あの日、ナナがあの毒を作るための薬品をもらいに来た。
だから、アタシはとっさに、自分が疑われないよう生物学科の実験室を事件現場にした。
・・・本当にアタシは馬鹿だよ。 一時の感情に流されてこんなことをするなんて・・・
アタシこそ、ふざけるなっ!・・・だね。」
「裁判長、これが、この事件の真相です。」
「・・・どうやら、もうどこにも疑いの余地はないようですね。
私としては、氏名に“魚”がつく人物を悪人と見なすのは心が痛みますが、致し方ありません。
判決を下そうと思います。 弁護側もよろしいですね?」
「・・・・・・・はい。」
非常に不満そうな顔をしていたが、生倉弁護士もとうとう認めざるを得なかったようだ。
「それでは、被告人・布鮭ルナに判決を言い渡します!
有罪!」
裁判長の木槌の音には、どことなく重苦しい雰囲気が漂っていた。
11:28 地方裁判所 ロビー
「お疲れ様っ! ジャスティス君!!」
法廷を出るなり、番刑事が例の暑苦しい声をかけてきた。
「なんだね、元気がないではないか? 君は勝ったのだぞ!
ワルモノに打ち勝ち、正義を掴み取ったのではないかっ!!
おまけに、こんな可愛いお姫様まで救出できた! 君は立派な、正義の味方だ!!」
お、お姫様・・・!?
「どうも、ありがとうございました、道比木検事!」
そう言って、僕に笑顔を向けた彼女を見て、僕は番刑事の言っていることがわかった。
あぁ、お姫様って、ナナさんのことか。
「いえいえ、僕は布鮭さんが犯人だって証明しただけで・・・」
「でも、それで私は無実だと認められたわけですから、ありがとうございます!」
なんか、そんなこと言われると照れるな。 よく見ればナナさん、結構可愛いし・・・・・
・・・って、そういえば・・・・・
「ナナさん、本名はなんて言うの?法廷に出てきたときも、少女Aとか言って、名前明かさなかったけど・・・」
「聞きたいですか?」
「うん、聞きたいよ。」
「まぁ、道比木さんは私の無罪を証明してくれた恩人ですから、教えなくちゃダメですよね。
・・・・・でも、私、実は名前なんてないんです。 ・・・私なんて、名無しの霊みたいな存在ですから・・・・・」
「ナナシノ・・・レイ!?」
そう言って、突然うつむいた彼女を見て、僕は何か深刻な秘密が隠されていることを悟った。
僕は、彼女の中の踏み込んではいけない領域に、足を踏み込んでしまった気がした。
「・・・・・・なーんて、冗談ですよ!」
「えっ?」
「七篠 レイ(ななしの れい)、それが私の本名です!
・・・ふふっ、この自己紹介の仕方するとみんな驚くから面白いんだよなぁww」
なんだよ、からかっただけかよ
深刻に考えて損したな・・・。
「そ、そうなんだ。
まぁ、とりあえず、疑いが晴れてよかったね、レイちゃん!」
「はい! 本当にありがとうございました。」
こうして、僕の初法廷は幕を閉じた。
“魚”をえこひいきする裁判官に、無罪さえ取れればいいという弁護人・・・
自分の名前を連呼した被告人に、なぜか匿名を希望した証人・・・
変な人たちばかり集まった裁判ではあったけど、これが僕の正義への第一歩となった。
まだまだ、この先困難は立ちはだかるだろうけど、僕はくじけない!
正義の実現を目指して、これからも走り続けるぞ!!
・・・・・とその前に、まずはユガミ検事に裁判の結果を報告しておこう。
僕は、ユガミ検事に電話をかけた。
「・・・・あっ、もしもし、ユガミ検事ですか?」
「おぅ、道の字か! 今日の裁判、やってくれたようだなァ。
まっ、おめぇさんのことだから、心配しなくても勝ってくれるとは思っていたが、
一応、褒めとくぜ。 やったな、道の字!」
「あっ、ありがとうございます!
・・・でも、なんでもう結果を知ってるんですか? 裁判終わったの、ついさっきですけど・・・」
「そりゃ、あれだ。
オレも傍聴席で見学させてもらってたからなァ・・・
隣を係官に囲まれて、監視されてたから、あんまりいい気分じゃなかったが・・・」
「えっ!?
でも、ユガミ検事、独房から出られなくなってたんじゃあ・・・」
「・・・・・ぷっ、はっはっはっはっは!!
コイツは傑作だなァ! あんなのずっと信じてたってのか?
あんなのウソに決まってるだろうが!
錠前なんてイカれちゃいねぇさ。 オレはいつでも、出れたのさ。」
「えっ!? えぇぇぇぇぇ!!!
なんで、そんなウソつくんですか! おかげでこっちは事件の内容もよくわからず困ったんですからね!」
「優秀なおめぇさんには、それくらいのハンデがあったほうがやりがいがあると思ってなァ・・・
それに、あれじゃねぇか・・・エイプリルフール!
その日はウソついたって構わねぇって、斜向いの囚人が言ってたぜ。」
あの、今日はもう、4月7日なんですけど・・・
電話越しに聞こえる、ユガミさんの愉快な笑い声とは対照的に、
僕はなんだか、裁判には勝ったけど、納得のいかない気持ちになった。
第1話 嘘は逆転の始まり 完