連邦捜査部の番頭神   作:九長秀真

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序章-10 起動するニワタリ神、庭渡久侘歌

「お待たせしました」

 

「あ、リンさん。お疲れ様です」

 

 (恐らく)ワカモさん(だと思われる方)が去ってから、数分後。

 リンさんが部屋にやってきました。

 

「……そういえば、頭のヒヨコさんは?」

 

「あっ」

 

 ピヨちゃんに去ったことを伝えるの忘れてました……

 

「ピヨちゃん、もう大丈夫ですよ」

 

「ピ……?」

 

 ピヨちゃんが頭の中からひょっこり出てきました。

 

「何かあったのですか?」

 

「いえ、大丈夫です!」

 

 勿論、何もなかったわけじゃないですが……

 結果的に何もなかったわけですし、大丈夫ですよね。

 ……ピヨちゃんが怯えてるのを久々に見た気がする、それだけです。

 

「……そうですか」

 

 リンさんはそう反応して、部屋の奥へと進んでいきました。

 

「ここに、連邦生徒会長の残した物が保管されています」

 

 大小さまざまな箱の中から、リンさんはそれを取り出しました。

 

「……幸い、傷一つなく無事ですね」

 

 それは、香霖堂(こうりんどう)で見た……そう、「タブレット」と霖之助(りんのすけ)さんが呼んでいたものに似ていました。

 なんでしたっけ、大きな文鎮でしたっけ。

 でも、菫子さんの前でそれを言ったらすごい訂正された覚えが……

 あ、確かこの前菫子さんが見せてくれた「スマホ」の、画面が大きくなったものでしたっけ?

 

「受け取ってください」

 

 リンさんから渡されたそれを受け取り、改めてよく見てみました。

 

「タブレット……ですか?」

 

「はい。これが、連邦生徒会長が先生に残した物。『シッテムの箱』です」

 

「シッテムの……箱……」

 

 その名前を聞いた瞬間、不思議な感覚が私を包みました。

 神代から存在(生き)ていますが、それを見たのも名前を聞いたのも今が初めてです。

 それなのに、どこかで聞いたことがあるような……

 

「普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない物です」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが分かっていません」

 

「連邦生徒会長さんからなにか伝えられていたりは……」

 

 もし、自分がいなくなることが分かっていて、それで「先生」に託すというのであれば、なにか伝えていてもおかしくないはず。

 そう思って、聞いてみたのですが……

 

「いえ、特には聞いていません」

 

「そう、ですk」

「ですが」

 

 私の言葉を遮るように、リンさんは続けました。

 

「連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました」

 

「おお! それなら……」

 

 そこまで言って、思い出しました。

 ……多分、これは私のものじゃない。

 ここに来るはずだった、本当の「先生」のもの。

 

「……私に、できるでしょうか?」

 

「それは、私にもわかりません。少なくとも、私たちには起動すらできなかった物です」

 

「もしかすると、『先生』にしか起動できない可能性も……」

 

 さっきまでの自信が一気に不安に変わりました。

 冷静に考えて、経緯はどうあれ、結果的に私は元々の「先生」に成り代わった存在です。

 たまたま受け入れられてここまで来ましたが……それでも、その事実に変わりはない。

 ここまでが上手く行きすぎなんです。

 ああ……こういうときにレミリアさんか早苗さんがいたら……

 

「……否定はできません。しかし、その『先生』が託したあなたです」

 

「……」

 

「……では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかってます」

 

 私は小さく頷きました。

 

「邪魔にならないよう、離れています」

 

 リンさんは私に背を向け、部屋を出ていきました。

 

 

 

 

 

「……どう、しましょう」

 

 部屋に一人残された私は、誰に問い掛けるわけでもなく、呟きました。

 

〈ここから先は、全て先生にかかってます〉

 

 リンさんの言葉が、頭の中で反芻されます。

 勿論、何もしないわけにはいきませんし、出来る限りのことはするつもりです。

 ですが……

 ……本当に、私にできるのか。

 そのことが、ただただ不安です。

 不安が足を引っ張ります。

 

「……」

 

 ピヨちゃんが私の腕に飛び移りました。

 

「ピヨちゃん……?」

 

「……」

 

 私のことを真剣な目で見つめています。

 

「えっと、顔になにかついてまs」

「ピ!」

「コケッ?!」

 

 あまりに唐突だったので、少しよろめいてしましました。

 

「いってて……」「ピ……」

 

「大丈夫ですか、ピヨちゃん?」

 

「ピ!」

 

「よかったです!」

 

 嘴が刺さったこともあって、額がまだ少し痛みます……

 ……ですけど。

 

「……ありがとうございます、ピヨちゃん」

 

 お陰で、決心がつきました。

 

「ピ! ピ!」

 

「ふふ、そうですね」

 

 私がやらなくて、誰がやるのか。

 

〈ここから先は、全て先生にかかってます〉

 

 リンさんが言っていた通り、今、キヴォトスの命運は私にかかっています。

 

「行きましょう!」

 

「ピ!」

 

 「シッテムの箱」に目線を合わせます。

 起動する方法は頭ではわかりませんでしたが……

 本能が「こうだ!」というのに従って、白いボタンを押してみます。

 すると……

 

 

 

 

 

 ……黒かった画面が、薄水色に光りました。

 その薄水色の画面の上には、英語の「S」のような文字が白く映っていました。

 

[...]

 

「……?」

 

[Connecting To Crate of Shittim...]

 

「……??」

 

 画面の上に、文字が表示されました。

 英語がわからないので、何が書いてあるのかわかりませんが……*1

 「Shittimの木箱に接続する」……ですかね?*2

 つまり、「シッテムの箱」に接続しているってことなんですかね?

 うーん……訳がわかっても私には何がなんだか……

 と、思案していると、

 

[システム接続パスワードをご入力ください]

 

 突然日本語で、そんな文字が出てきました。

 

「……パスワード……」

 

 勿論、知るはずもありません。

 ない……のですが……

 

(これ、ですかね……?)

 

 なんとなく、脳裏に浮かんできた言葉の羅列。

 意味は分かりませんが、パスワードなんてそんなものでしょう。

 私は入力方法に戸惑いながらも、ピヨちゃんに教えてもらい、その羅列……いえ、文章を打ち込みました。*3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……我々は望む、七つの嘆きを」

 

「……我々は覚えている、ジェリコの古則を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[……]

 

 ……あれ、何も起きないですね……

 もしかして、違った?!

 すみません、リンさん……

 私は……解決者(フィクサー)には、なれませんでした……

 

[接続パスワード承認]

 

「……え?」

 

[現在の接続者情報は庭渡久侘歌、確認できました]

 

 ということは……

 

「よかった……ってことですか?」

 

「ピ!」

 

 ピヨちゃんもそう言ってますし、合ってそうですね!

 本当に、本当に良かった……!

 

[「シッテムの箱」へようこそ、久侘歌先生]

 

 さて、ここからが本番です。

 一番の不安要素であった、「起動」に関してはなんとかできました。

 あとは、リンさんが言っていた「サンクトゥムタワー」の制御権を取り戻せるかどうか、です。

 

[生体認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します]

 

 画面がもう一度暗くなりました。

 そして、何故か私も、その中へと引き込まれるような感覚に包まれて…………!?

*1
じゃあなんで「アルゴリズミックファントム」なんてスペルカード持ってるんですか

*2
分かってるじゃないですか

*3
この世界のピヨちゃんは菫子やら守矢神社やらに時々預けられていて、その結果電子端末の取扱いにちょっとだけ詳しいという、なんとも都合のいい設定です。




今回でアロナと会わせようと思ってたんですけどね……
思ったよりも長くなって、アロナを足すと元々の想定より長くなりすぎそうなんで一旦投稿します。
序章はあと2話で終わる……と思います。
モチベーションが恐らく過去一で高いので今月中にはアビドスに入れる、かも?
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