連邦捜査部の番頭神   作:九長秀真

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序章-11 目覚ましのニワタリ神、庭渡久侘歌

「ここは…………教室?」

 

 次に目を開けると、そこにあったのは、水平線の広がる、寺子屋の「教室」のような空間でした。

 しかしその教室は壁と天井が崩れ去っていて、床も水浸しでした。

 まるで、波に飲み込まれた後のような……

 あのとき、夢の中で見た景色のような、透き通る美しさがありました。

 その教室の中で、一人の少女が机の上にうつ伏せで居眠りしています。

 

「くううぅぅ……Zzzz」

 

 周りを見渡してみましたが、私とこの少女以外に人は見当たりませんでした。

 ここは恐らく「シッテムの箱」の中でしょう。

 ……あくまで私の直感ですが、多分、私の肉体が直接入ったわけじゃありません。

 何らかの作用で、魂だけがこの箱の中に入った……といったところじゃないでしょうか。

 傍から見たら、普通に操作しているだけに見えているんじゃないですかね?

 

「くううぅぅ……Zzzz」

 

 ……それは、そうとして。

 私は何をすればいいんですか、これ?

 

「むにゃ、カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクのほうが……」

 

 えっ、カステラって何もかけずに食べるものじゃないんですか?!

 

「くううう……Zzzzzzz」

 

 どうやら、幸せそうな夢を見ているみたいです。

 カステラ……そういえばこの前、映姫様と小町さんと人里の甘味処を巡ったときに食べました。

 人気の老舗店らしいんですけど実は行ったことなくて……

 とっても美味しかったです!

 

「えへっ……まだたくさんありますよぉ……」

 

 っとと、いけないいけない。

 元々の目的を忘れるところでした。

 ……申し訳ありませんが、彼女を起こして色々聞いてみるしか無さそうですね。

 

「もしも〜し、おはようございま〜す!」

 

「うにゃ……まだですよ……しっかり噛まないと……」

 

「朝ですよ〜!」

 

「あぅん、でもぉ……」

 

 ……なかなか起きませんね。

 それほどまでにカステラが美味しいのでしょうか?

 こうなったら仕方ありません。

 ニワタリ神の本領を見せてあげます!

 ……周りに迷惑をかけそうな方は誰もいませんよね?

 ……よし。

 

(すぅっ)

 

 

 

 

 

「コケコッコー!!!!!!」

 

「うわあぁぁ!!!!」

 

 流石に届いたようで、少女は飛び起きました。

 

「んもう……ありゃ?」

 

「おはようございます!」

 

「ありゃ、ありゃりゃ……?」

 

「とても綺麗な場所ですね!」

 

「え? あれ? あれれ?」

 

 ……何だかすごく動揺してるみたいです。

 

「えっと、大丈夫ですか?」

 

「せ、先生!? この空間に入ってきたっていうことは、ま、ま、まさか久侘歌先生……?!」

 

「はい!」

 

 落ち着かせるためにも、笑顔で答えました。

 

「う、うわああ!? そ、そうですね!? もうこんな時間!?」

 

「お、落ち着いてください! 時間はたっぷりありますから……ね?」

 

「うわ、わああ? 落ち着いて、落ち着いて……」

 

「落ち着くなら深呼吸が一番です! 深呼吸は先に息を吐くといいですよ!」

 

 あれ、この助言、さっきどこかでしたような……?

 うーん……

 ……多分、気の所為ですよね!

 

「はぁ……すぅ……はぁ……すぅ……」

 

 そして、何度か吐いて吸ってを繰り返して。

 

「ありがとうございます!」

 

「いえいえ、落ち着かれたようで何よりです!」

 

「……あっ、そうだ! 自己紹介しないと!」

 

 少女は私に向き直りました。

 

「私はアロナ! この『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」

 

「よろしくお願いします、アロナさん!」

 

「こちらこそお願いします、久侘歌先生! やっと会うことができました! 私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!」

 

「そうだったんですね!」

 

 すみません、待たせちゃって……

 さっき寝ていたのも、きっと待ち疲れからでしょう。

 待つのって実は結構疲れますから。

 アロナさんみたいに小さい方だったら、なおさらです。

 仕事中の私だったら、寧ろ嬉しいんですけどね。

 

「まだ身体のバージョンが低い状態でして、特に声帯周りの調整が必要なのですが……」

 

 確かに、さっきから声が時々不安定になっているときがあります。

 なんというか、ちょっとかすれているような……?

 ……あっ、そうだ!

 

「すみませんが、喉、見せてもらってもいいですか?」

 

「……?」

 

「あ、嫌なら全然大丈夫ですよ、無理に見せなくても」

 

「いえ、気にしないでください。先生の目的が分からなくて困惑してただけです」

 

 確かに、急に「喉見せてくれ」なんて言われても困惑しかないですよね。

 ……そもそもお医者さん以外でそんなことを聞く人っているんですかね?

 

「すみません……もしかしたら、私なら喉をいい感じに出来るかもしれないって思って」

 

 キヴォトスにニワタリ神の信仰があるかはわかりません。

 少なくとも、幻想郷にいたときより神力は弱くなっています。

 ……ですけど、零になったわけではありません。

 もしそうだったら、私は今存在していませんからね。

 

「本当ですか?! では、ぜひお願いしたいです!」

 

 アロナさんは目を輝かせました。

 

「わかりました! では、ちょっと失礼しますね……」

 

 私はしゃがんで、アロナさんの喉に手を当てます。

 

(なるほど……?)

 

 人妖を診ているときの喉の炎症とは、少し違った「異常」がありました。

 何箇所か、周りから浮いている部分がありますね……。

 目を閉じて、神力を手のひらに込めました。

 そして、優しく、ゆっくりと、その力をアロナさんの喉に移していきます。

 

「っと、これで大丈夫なはずです!」

 

「……おお! 声帯まわりがかなりアップデートされています! なんだか喉も潤っている気がします!」

 

「それはよかったです!」

 

「ありがとうございます、先生! これから先、頑張って色々な面で先生のことをサポートしていきますね!」

 

「これからよろしくお願いします、アロナさん!」

 

「はい!」

 

 アロナさんはさっきよりも明るい声で返事をしました。

 声もかなり綺麗になりましたね。

 私の力がちゃんと効いたみたいで何よりです!

 

「ではまず、形式的にではありますが、生体認証を行います♪」

 

「せーたい……にんしょう……? 何ですか、それ?」

 

「……久侘歌先生って、もしかして機械に疎かったりしますか?」

 

「あはは……実はそうなんですよね……」

 

「生体認証は、指紋だったり顔だったり声だったり、人によって違う身体的な特徴や行動による本人確認のことです」

 

「そんなことができるんですね!」

 

「はい!」

 

 キヴォトスの技術って凄いですね……!

 もしかしたら、私達の幻想郷の「外の世界」でも同じような技術があるかもしれませんね。

 折角ですし、もし帰る機会があったら菫子さんに聞いてみましょう♪

 

「……では、先生。この私の指に、先生の指を当ててください」

 

 アロナさんはそう言って、人差し指を私の方に向けました。

 私は頷いて、同じ人差し指を当てます。

 

「うふふ。まるで指切りして約束するみたいでしょう? 実は、これで生体情報の指紋を確認するんです!」

 

「えっ、指切りで指紋がわかるんですか?!」

 

「はい! 画面に残った指紋を目視で判断するのですが……すぐ終わります! こうみえて目はいいので!」

 

「なるほど……お願いします!」

 

「任せてください! どれどれ……?」

 

 ……そういえば、さっき「画面に写った指紋」って言いましたよね。

 アロナさんの指に触れたとき、人肌の感触もあったんですけど、同時に機械の画面を触っているような感じもありました。

 ということは、やっぱりここでの私の行動が現実での行動と結びついているんでしょうか?

 あくまで私とピヨちゃんにはこう見えているだけ、みたいな。

 

「……はい! 確認終わりました♪」

 

 そんなことを考えている間に、認証が終わったみたいです。

 やっぱり、最先端の技術は凄いですね。

 指紋の判断という、目視でも時間のかかることをこんなにも素早くやってしまうだなんて。

 

「ありがとうございます!」

 

「いえいえ!」

 

 アロナさんは嬉しそうに答えました。

 

「……そういえば、先生はどうしてシッテムの箱に来たんですか? なんとなく、ただ初期設定をしに来ただけでは無さそうに見えますが……」

 

「あっ、そうでした!」

 

 すっかり忘れるところでした。

 危ない危ない。

 

「私もすべてを知っているわけではありませんし、殆どが他の人から聞いた話なんですが……」

 

 それから私はアロナさんに今の状況について話しました。

 連邦生徒会長が失踪して、キヴォトスが大混乱に陥っていること。

 サンクトゥムタワーの制御権が、連邦生徒会から失われていること。

 ……そして。

 

「……久侘歌先生は、本来の先生じゃない?!」

 

「はい。リンさんが言っていたことで、詳しいことは私にはわかりませんが、何らかの事情で『本来の先生』から『庭渡久侘歌(わたし)』に『先生』の立場が継承されたみたいです」

 

「なるほど……道理で待っている途中、先生の名前が何だったかごちゃごちゃになった時期があったわけです」

 

「そうだったんですね……」

 

「……ともかく、先生の事情は大体わかりました」

 

「そういえばアロナさん、『連邦生徒会長』さんって、どんな方かご存知ですか?」

 

「私はキヴォトスの情報の多くを知ってはいますが……連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも……」

 

「そう、なんですね……」

 

 恐らく連邦生徒会長が私の秘書として用意したアロナさんですら知らないとは……。

 相当謎な人物ですね。

 もしかしてそういう妖怪か何かだったりします?

 

「お役に立てず、すみません……」

 

「そんな、気にしないでください」

 

「ありがとうございます……ですが、サンクトゥムタワーの問題は私が何とか解決できそうです!」

 

「本当ですか?!」

 

「勿論です!」

 

 だからなんですね、リンさんが私のことを解決者(フィクサー)と言ったのは。

 「先生」である私なら、「シッテムの箱」を開いて操作することが出来る。

 「シッテムの箱」を開くことさえできれば、サンクトゥムタワーの奪還が可能なのは伝えられていたみたいですし。

 

「でしたら、お願いします、アロナさん!」

 

「はい! 分かりました。それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します! 少々お待ちください!」

 

 そう言って、アロナさんは目を閉じます。

 周囲から、機械音が聞こえてくる……ような、気がします。

 さっきまでの元気いっぱいなアロナさんはどこへ行ったのか、今の彼女からはどこか機械的な印象を受けました。

 

「サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了……」

 

 アロナさんはそう呟いて、目を開きました。

 

「先生。サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収できました。今サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります。今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然です!」

 

 アロナさんに笑顔が戻りました。

 やっぱり笑顔が一番ですね!

 

「ありがとうございます、アロナさん!」

 

「どういたしまして。先生が承認さえしてくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できます」

 

「でしたら、すぐにでもお願いします!」

 

「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」

 

 そうして、アロナさんは再び目を閉じます。

 権限取得のときより気が楽なのか、笑顔のままです。

 

 

 

 

 

 ドアの開く音が聞こえて、周囲の景色は水平線の広がる教室から地下室へと変わりました。

 でも、なんとなくさっきよりも明るいような……?

 

「サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました」

 

 リンさんが地下室へと入ってきました。

 

「ということは、上手く行ったんですね!」

 

「はい。これからは連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められます」

 

「それは良かったです!」

 

「お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします」

 

「いえいえ、私は出来ることをしただけです」

 

 お礼なら、実際に権限の取得・移管をしてくれたアロナさんに言わないとですね。

 

「ここを攻撃した不良たちと停学中の生徒たちについては、これから追跡して討伐いたしますので、ご心配なく」

 

「大丈夫でしょうか? ワカモさんなんかは物凄く逃げ足が速そうですけど」

 

「そこに関してはご心配なく。百鬼夜行連合学院と協力して対処します」

 

「わかりました、ではお任せします」

 

 一度は捕らえているわけですし、なんとかなりそうではありますね。

 ……今考えると、ワカモさんを捕まえられたって、相当凄くないですか?

 絶対タダでは捕まらないでしょうし……

 連邦生徒会と百鬼夜行連合学院、両方の主力を送り出してやっと、といったところでしょうか?

 ご武運を期待してます……。

 

「それでは『シッテムの箱』は渡しましたし、私の役目は終わったようですね」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

「こちらこそ、ありがとうございました。では、失礼いたします」

 

 そうして、リンさんは地下室から出ようとします。

 

「……あ、もう一つありました」

 

「?」

 

「ついてきてください。連邦捜査部『シャーレ』をご紹介いたします」

 

 私は頷いた後、リンさんに続いて地下室を後にしました。




Q.カステラの原料は卵なのに久侘歌様は食べても大丈夫なのですか?
A.鶏の地位向上っていうのは、別に食べるなって意味じゃあないんですよ?

次回、序章(やっと)最終回
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