1-1-1 少女遭難中(ただの準備不足)
……いや、私も冗談だと思ってたんですよ、街のど真ん中で道に迷って遭難する人がいるだなんて。
妖怪の山も畜生界もかなり広いですけど迷ったことありませんし……
遭難する可能性があるのは迷いの竹林とか魔法の森とかですけど、あれは自然環境ですし……
人間が作り出した街で遭難するなんて考えづらいじゃないですか……!
「すみません……私が最新の地図をインプットしてなかったがために……」
「いえ、私も方位磁針の一つくらい買っておけばよかったです……」
学校が見つからず迷い続けて早5日。
どこまで歩いても砂漠、砂漠、砂漠、砂漠……たまに人。
ずっと同じ場所を回っているだけなのか疑いたくなるくらいです。
お水と食べ物もそろそろ底をつきそう……
私はなんとかなりますけど、ピヨちゃんがまずいです。
後悔してももう遅いですけど、もうちょっと準備してから来ないとだめでしたね……。
「ピヨちゃん、お水飲みます?」
「ピ……!」
「ふふっ、どうぞ!」
水筒に入れてきたお水を少しだけ飲ませます。
かなりぐったりしていたピヨちゃんも少し元気が戻りました。
……それはそうとして、暑いです……。
そもそも暑いのに、動いているから余計ですよね……。
お水、そろそろ補給しないと……
「でも、こんなところに湖とか川があるはずないですよね……」
砂漠地帯ですから、あったらすぐにわかります。
でも……見る感じなさそうですよね……。
雨も暫く降らなさそうですし……。
「かつてはここにもオアシスがたくさんあったみたいですけどね……」
「そうだったんですね……」
…………ん? オアシス?
「アロナさん、オアシスってなんですか……?」
「砂漠なんかの乾燥地域にある緑地のことです。中央に湖があることがほとんどです」*1
「その湖って雨水とかですか?」
「いえ、大きいものは雪解け水や河川を水源とします。でも代表的なのは地下水を水源としていまs」
「それです!」
「……?」
「地下水ですよ、地下水! それならなんとかなります!」
「……先生?」*2
「ちょっと待っててください!」
私は目を閉じて、その気配を探ります。
……感じる、地上に現れていない、数々の水源たちを。
いえ、正確に言えば「砂に塞がれて現れることができない」水源でしょう。
でも、まだ枯れてはいない。
ええっと、一番近くのお手頃な水源は……
「あそこですね!」
私はまっすぐそこへと向かいました。
「先生、何をしようとしてるのですか?」
「砂に埋もれているだけでまだ使える水源が沢山あります! それをもう一度地上に現せば!」
「えぇ?! 無茶じゃないですか?!」
「大丈夫です! 私に任せてください!」
こう見えてミクマリの神でもあるので!
「……ここですね」
そうして私たちが辿り着いたのは、道から少し外れた、砂漠の真ん中でした。
周囲には廃墟らしい建物がたくさんあります。
「ここですか? かつてはオアシスがあったみたいですけど、今はもう……」
「まぁまぁ、見ていてください!」
私は水源の近くに歩み寄りました。
そして、目を閉じ、手を水源の方にかざします。
キヴォトスでも私の神力が発揮できるのは、アロナさんのときに証明しました。
その時とは規模が全然違いますが、元々の水行がここまで強ければ……!
次の瞬間、暫く感じていなかった冷たい感触が私を包みました。
「おおっ……!」
見上げると、水の柱が勢いよく噴き上がっていました。
「凄いです、先生! まさか本当に水源を使えるようにするなんて……!」
「私、ミクマリの神でもありますので! このくらいはなんてことないですよ!」
アロナさんとそんな会話をしている最中も、まだ水は止まりません。
砂しか感じなかった足元に、段々と冷たい感覚が伝わってきます。
私は水源に近付き、空の水筒に水を入れていきました。
「水を差すようで申し訳ないんですけど……その水、衛生面って大丈夫ですか?」
「その点はご心配なく。この水筒の飲み口に浄水できる仕組みがついているので」
これは私が幻想郷にいるときに独自開発したもの*3なんですけど、キヴォトスでも再現できて良かったです!
「しかし、本当にすごいですね、先生の力!」
「ありがとうございます!」
正直なところ、ここまで上手くいくとは思っていませんでした……。
「折角ですのでちょっと休憩しましょう♪」
「そうですね!」
そうして私は近くにあったちょうど良さそうな瓦礫に腰掛けました。
水はなおも噴き出し続けています。
それもかつてのオアシスを再現するかのように。
「アロナさん、今って何時くらいかわかります?」
「えっと……大体14時半位です」
「14時半……」
太陽の位置から方角を特定できるかも?
そう思ったので真上を見てみましたが……
……うーん、わかんないです!
「この後はどうします?」
「充電」中のシッテムの箱から、アロナさんが話しかけてきました。
「一度高くまで飛んでみて、周囲に人が住んでいるところがないか上から探してみます。見つけたらそこまで行って、道を聞こうと思います」
幸い近くに山なんかはないので、かなり遠くまで見えそうですし。
それでアビドス高等学校の校舎が見えればラッキーですね。
ある程度遠くても、飛んでいけば多分一瞬です!
……なんで飛ばなかったんでしょう、今まで。
「ピ! ピ!」
ピヨちゃんはもはや湖とも言える水たまりで遊んでいます。
ずっと暑かったですもんね。
「ピヨちゃーん、もう少ししたら出発しますよー!」
「ピ!」
ピヨちゃんを水たまりの中からすくい上げて、体を拭いてあげます。
噴き出る水の勢いは弱まる気配がありません。
それなりに時間が経ったと思うのですけど……
「……先生って、不思議な力をたくさん持ってますよね」
「不思議な力、ですか?」
「はい。『外』の方なのに空を飛んだり、さっきみたいに水を噴き出させたり、ヒヨコと会話ができたり……ユウカさんたちと共闘しているときには、魔法の弾? みたいなものを発射してましたし」
「あぁ……確かに」
そういえば、そのあたりの説明を全くしてませんでしたね。
すんなり受け入れられすぎて、てっきり忘れてました。
「もし先生がよろしければ、先生の故郷について教えてください!」
「そうですね……」
ピヨちゃんを拭きながら、考えます。
正直なところ説明が難しいんですよね、幻想郷って。
時間さえあればちゃんと教えられるんですけど……
「……ちゃんと話すとかなり長くなってしまうので、かなり簡略化しますけど、大丈夫ですか?」
「ありがとうございます!」
アロナさんは満面の笑みでそう言いました。
「いえいえ。私もいつかは話さないととは思っていたので」
私は目を閉じ、幻想郷のことを頭の中で想起します。
「私がもともと暮らしていたのは……」
そうして、幻想郷のことをアロナさんに話そうとした、その瞬間でした。
「いた!」
誰もいなかった砂だらけの景色から、大きな声が聞こえました。
「?」
目を開けて、声のした方を見てみます。
……すると。
「ちょっとあんた! こんなところで水を噴き出させて何してるの!」
黒髪の、猫耳の生えた少女がそこに立っていました。
……いえ、彼女だけではありません。
少し周りを見渡してみると、彼女を合わせて三人の少女がそこにいました。
というか……怒ってる?
もしかして、ここの掘削計画でもありました?!
「すみません、道に迷っていて水がそろそろ切れそうだったんでつい……!」
「本当?」
少女は鋭い口調で言いました。
「本当です! アビドス高等学校から支援の要請があったので向かっていたら、こんなことに……」
「……えっ?!」
「もしかして、連邦捜査部の『先生』ですか?!」
近くにいた、薄い茶髪の少女がそう聞いてきました。
……まさか、偶然出会った人まで、私の噂を聞いているだなんて。
「え、ええ、まあ、そうですけど……」
そう答えた瞬間、彼女たちの顔色が変わりました。
「水はなんとかして止めますから、もしよろしければアビドス高等学校までの道を」
「わあ☆支援要請が受理されたのですね!」
「……はい?」
「良かったですね、アヤネちゃん!」
「これでかなり状況が良くなるわ!」
……顔色が変わるって、こういう場面だと基本負の変化が多い気がするんですけど、
なんだか……すごく喜んでません?
そんな様子に私が困惑していると、銀髪で犬のような耳の生えた少女が私に近づいていきました。
「ピ……」
あっ、ピヨちゃんが警戒してる……
「ん、警戒させてごめん。水はそのままでいいからついてきて」
「は、はい……」