――久侘歌が水源に気づく少し前、アビドス高等学校
「……」
「どうしたの、アヤネちゃん?」
「大丈夫です。ただ……」
そう言って、アヤネはまた黙り込む。
「……要請のこと、でしょうか?」
「はい。手紙を送ってから、もう5日経ちます」
対策委員会が連邦捜査部の存在を知ったのは、一週間前。
セリカが
〈『連邦捜査部の先生』……?〉
〈ええ。数日前にキヴォトスにやってきた『大人』よ。連邦捜査部ってのは、連邦生徒会長が失踪前に設立を命じた『部活』。目的は私も知らないんだけど、凄い権力を持ってるらしいわ〉
〈……あっホントだ。公式サイトがある。えっと、なになに……? 『キヴォトスの生徒の皆さんの力になれるよう精一杯頑張ります!』だって〉
〈ここからは私も噂で聞いた話だから信憑性は落ちるけど、『先生』は礼儀正しく公正で、平等と利他を優先しているらしい。どこの学校のどんな生徒でも真摯に向き合って問題解決を試みるみたいよ〉
冷静に考えると都合の良すぎる話ではある。
この手の話にはたいてい裏がある、そんなことは誰でも推測できるだろう。*1
だが考えてほしい、相手は
セリカはバイトが終わり、家に帰ってすぐにそれについて調べ始めた。
それが土曜日の話だったので、月曜日に定例会議で案として出したところ……
〈もう、それに縋るしか選択肢はないですね……〉
〈おじさんはそれでも大丈夫だよ〜〉
というアヤネとホシノの判断(判断?)により、久侘歌に手紙が送られることになった。
それが、5日前の朝の話。
丁度久侘歌たちがアビドスへと旅立った日だった。
久侘歌とアロナの当初の予定通りなら、とっくのとうに補給が来ているはずである。
だが、現実はどうだろう。
「すみません……私が最新の地図をインプットしてなかったがために……」
「いえ、私も方位磁針の一つくらい買っておけばよかったです……」
……そんなわけで、対策委員会、特に手紙を送ったアヤネの不安は増すばかりだった。
「自分で言うのもなんですけど、内容が内容なので目には止まっていると思うんですけど……」
「まさか、キヴォトスでは割と当たり前のことなの?!」
「ん、それだけはない」
「だといいですけど……」
部屋にまた、静寂が訪れる。
万事休す……アヤネの脳内に、その四文字があらわれた。
手紙を送った時点でも弾薬が厳しかったというのに、ヘルメット団の襲撃は一向になくなる気配がない。
手紙を送ってなにか変化があったかといえば、そういうわけでもない。
ありもしない希望に縋っただけではないか……とすら、考えてしまう。
考えて、しかし、彼女はそれを邪念と切り捨てた。
とはいえ、状況が厳しいことに何ら変わりはない。
天気がいいからといって屋上で暢気に昼寝している場合ではないのだ。
「……ずっと考えていてもなんですし、一旦お昼にしませんか?」
「賛成!」
ノノミの提案に、セリカはすぐに反応する。
「じゃあ、ホシノ先輩を呼んでくる」
「お願いします、シロコ先輩」
「ん、了解」
***
今日、シロコはホシノに会っていない。
しかし、シロコにはホシノの居場所がなんとなく分かっていた。
階段を登り、一番上にある扉を開く。
「ん、ホシノ先輩、そろそろお昼」
「うへ〜……おじさんはまだ大丈夫だよ〜……」
「みんなで食べようってことになってるから、行くよ」
「もうちょっとしたら行くから先に行ってて〜……」
「ん、わかった」
シロコはその返答を聞いて、階段を下っていった。
さて、ここだけの話、実はシロコはホシノを見たわけではない。
いつもののんびりした声での返答があったから大丈夫だろうと考えて屋上を去った。
では実際、
「うへ〜! ジンベエザメだよジンベエザメ! おじさんも本物を見るのは初めてなんだよね〜!」
……もう一度言っておこう。
天気がいいからといって屋上で暢気に昼寝している場合ではないのだ。
***
「あっ、シロコちゃん。先に食べてます」
「ホシノ先輩は?」
「ん、もうちょっとで来るって」*2
シロコは鞄から弁当を出し、机に置く。
今日は作るのが面倒で学校の近くのお店で買ってきた。
「そういえば、皆さんって今週末は何か予定とかはあるんですか?」
「私はショッピングです☆」
ノノミが真っ先に答える。
「今週はちょっと趣向を変えて、行ったことのないショッピングモールに行こうと思ってるんです」
「ちなみにどこのショッピングモールに?」
「D.U.郊外に最近新しく出来たところです! このあたりで展開していないお店も結構集まってるみたいなので楽しみです☆」
「ショッピングか……しばらく行ってないですね」
「でしたら、一緒に行きません?」
「えっ、いいんですか?」
「はい!」
「ありがとうございます!」
「集合時刻とか、集合場所はまた考えましょう☆」
ノノミとアヤネが盛り上がっているのを見て、シロコは何かを思いついたようだ。
「セリカ」
「なに?」
「ん、私と一緒にサイクリングするべき」
「一応聞くけどどこまで?」
「軽く250kmくらい。いい景色のところがあるから」
「わ、私は用事があるからまた今度ね〜!」
「じゃあ来週末にでも」
「そこもちょっと予定があって〜……」
「再来週末は?」
「休日は基本的に全部埋まってるのよ……」
「じゃあ来週の平日のどこかで帰りに」
「どれだけ私と行きたいのよシロコ先輩は!」
なんとも必死である。
それほどまでにして守りたい約束でもあるのだろうか。
「ちなみに、セリカちゃんは何の用事があるんですか?」
「私? えっと……私は……」
セリカは言い訳をなんとか捻り出そうとする。
その、瞬間だった。
教室に、警報音がこだまする。
「……アビドス砂漠で、異常事態が発生……!?」
鳴っていたのは、アヤネの端末。
砂漠で砂嵐をいち早く察知し対応するために設置した監視システムが、作動したのだ。
「何、何が起こったの?!」
「ちょっと待っててください、今調べます!」
アヤネは素早く端末を操作する。
そのうちに、他の三人は銃を取った。
「……東に17kmほどの地点で、大きな水の柱が上がっています……!」
「水の柱?! どういうこと?!」
「私も詳しくは……ですが、すぐに湖が出来そうな勢いです」
「あの辺りはとっくに水が枯れていたと思うのですが……」
「そうですよね。なにかがおかしいです……」
改めて画面を見て、アヤネは気づいた。
「……えっ、人?!」
「人?」
「人です、ほら! 水の柱のすぐ近く!」
三人は画面を覗く。
すると、確かにそこには人が一人いた。
「なんだか、水の柱を喜んでいません?」
「本当ですね……故意なのか、はたまた偶然なのか……」
「というかここ、私の通学路の近く」
「えっそうなんですか?!」
「何にせよ、自治区内での無許可開発になりますから、すぐにやめてもらう必要があります」
「ん、それならこう行くが一番楽で近い。ノノミ、セリカ、ついてきて」
「わかりました☆」
「折角ご飯食べてたのに……」
「ホシノ先輩はどうします?」
「ん、呼ばなくてもひとまずは大丈夫。何かあったらお願い」
「わかりました。私も遠隔で指揮します。皆さん、お願いします!」
***
「にしても、こんな砂漠にまだ水が出るところがあったなんてね」
「ん、予想外」
「みんなで水遊びしたいですね☆」
「今はそれどころじゃないでしょ……」
「水の勢いは全然衰えていません。水がどんどん溜まっていっています」
「あそこ……よね」
水柱は、彼女たちからもはっきり見えるほど大きく上がっていた。
それを目印に、彼女たちは進み続ける。
「ん、もうすぐ着く」
[皆さん、気をつけてください! 近くにいた方を変に刺激しないように]
「いた!」
[……]
アヤネの忠告は一足遅かった。
「ちょっとあんた! こんなところで水を噴き出させて何してるの!」
セリカは水柱の近くにいた誰かに鋭い口調で問いかける。
「すみません、道に迷っていて水がそろそろ切れそうだったんでつい……!」
誰かはそう答える。
「本当?」
セリカは怪しんだ。
こんな偶然は、そうそう起きない。
となれば、この誰かが恣意的に水柱を顕現させたとしか思えない。
誰かは、おどおどしながら答える。
「本当です! アビドス高等学校から支援の要請があったので向かっていたら、こんなことに……」
「……えっ?!」
その返答を聞いた途端、セリカたち、とりわけアヤネの表情が変わる。
「もしかして、連邦捜査部の『先生』ですか?!」
自分たちの思い違いでないか、ノノミが確認する。
「え、ええ、まあ、そうですけど……」
[……!]
「水はなんとかして止めますから、もしよろしければアビドス高等学校までの道を」
「わあ☆支援要請が受理されたのですね!」
「……はい?」
「良かったですね、アヤネちゃん!」
「これでかなり状況が良くなるわ!」
[はい……!]
そう答えるアヤネの目には、少しの涙が浮かんでいた。
願いが、通じた。
シロコが誰か……「先生」のもとへと駆け寄る。
「ピ……」
「ん、警戒させてごめん。水はそのままでいいからついてきて」
「は、はい……」
***
水……?
いや、このあたりの水源なんて、とっくの昔に枯れているはず。
私が……
……いや、私じゃない。
でも、もしそうなら……
「……一旦、教室に戻ろう」
シロコにはとりあえず「ん、」って言わせとけばいいと思ってる人、もとい作者の九長です。
新しいブルアカ二次創作小説のネタを思いついてしまいまして、最近はそればっかり考えてました。そっちもある程度原型ができたら投稿しようと思います。
2/26追記
鍵括弧つけるの一カ所忘れてました……すみません……