――キヴォトス、連邦生徒会
「……」
連邦生徒会首席行政官・
彼女は腕時計を見つめながら、険しい表情を浮かべていた。
「……遅い」
知らされている時間から、5時間が経とうとしている。
お昼時も近い。
彼女の苛立ちは頂点に達そうとしていた。
あの連邦生徒会長が、これほど大事な件で時間を間違えるなんてことをするはずがない。
アクシデントも考えられるが、それならば連絡が来るはず。
一体、どういうことなのか。
……彼女の限界も、近かった。
その、ときだった。
「リン首席行政官、大変です!」
一人の連邦生徒会役員が、慌ただしくリンのいる部屋に入ってきた。
「どうされたのですか?」
そう答えるリンの目は笑っていなかった。
「あっ……いえ……」
そのことを察してしまった役員は怖気づく。
「……失礼しました」
彼女はそそくさと、もとの配置に戻ろうとした。
「待ってください」
鋭い声が響き渡る。
彼女は出ていこうとした役員に睨むような目線を向けた。
「今日、私が席を外せないことは、理由も含めて連邦生徒会全体に連絡が行っているはずです」
「……例の方がいらっしゃるから、ですよね」
「ええ」
彼女は小さく溜息を吐いた。
「そうだというのに、あなたはこの部屋に入ってきました。あなたの行動は、言ってしまえば『私の反応次第で先送りにできる』程度の事情だと判断できます」
「うっ……」
リンが言わずとも、役員はその言葉の先に気付いた。
役員は黙り込んでしまった。
部屋に、静寂が訪れる。
リンはもう一度、彼女の方へと向き直った。
「……まぁ、今回はいいでしょう。丁度私も一度席を外そうと考えていたので」
「……え?」
彼女にとって、リンのその言葉は全くの予想外だった。
しかし、すぐに納得した。
彼女を怯えさせた鋭い視線の向け先が、彼女ではなくなっていたのだ。
「して、要件は何ですか?」
とはいえ、まだ鋭いままであった。
「はい、簡潔に言うと……」
「?」
「……ビルの前で、所属不明の方が倒れてました」
「……それだけですか?」
「いえ、でしたら私達でなんとかしてます。ただ、問題は……」
彼女は一度深呼吸して、リンにその報告をする。
「……その方のそばに、連邦捜査部のネックストラップが落ちていたんです」
「っ?!」
「ですから、リン首席行政官には報告しておいた方がいいかなt」
「その方はいつ頃現れましたか?!」
リンは食い気味に訊く。
「つ、つい先程でs」
「今その方はどうされてますか?!」
やはり食い気味である。
「近くにいたもう一人が様子を見ています。一階のソファで横にさせましたが……」
「今から行きます! ついて来てください!」
「え、でも首席行政官は例の方を受け入れるじゅんb」
「いいから、早く!」
「は、はい……」
先程まで保っていた冷静さの欠片は、最早そこにはなかった。
しかしそこには、彼女の一種の期待があった。
……もしかすると、その、倒れていた人こそが、リンの待ちわびていた「例の方」なのかもしれない。
倒れていたのは少々不可解だが……
D.U.は広いから、迷って力を使い果たしたのかもしれない。
「例の方」はキヴォトスの人ではないから、納得はいく。
とすると、連絡がないのが更に謎だが。
何にせよ、ようやく状況が動くかもしれない。
その可能性に期待しながら、彼女は足早にビル一階へと向かった。
……報告に来た役員は、彼女がなぜここまで豹変したのか、勿論さっぱり分からなかった。
分からなかったが、取り敢えずリンに着いていった。
――?????、?????
「……んん」
次に目が醒めたとき、私の視界にはいつもの天井が広がって「いません」でした。
「……え?」
……表現を変えましょう。
起きたら、知らない天井が広がっていました。
「……ええええええええええ?!」
今の今まで自分が寝ていたところを見ると、いつも寝ている敷布団ではなく、長椅子の上でした。
……長椅子にしては、柔らかい感触でしたが。
周囲を見渡しましたが、やはり私の家ではありませんでした。
「……目を覚まされましたか」
声のした方を向くと、そこには白い服を着た、長髪の凛々しい女性が立っていました。
見た感じ、十代後半から二十歳ほどでしょうか。
どこか、映姫様に似た雰囲気を感じました。
勿論、仕事の時の、スイッチの入っている映姫様の。
そんなことを考えながら、小さく頷きました。
「どこか、身体に異常はありませんか?」
「いえ、大丈夫です」
「……本当ですか? 頭から真っ逆さまに落下して大丈夫なんてことないと思うのですが……」
「えっ、そうだったんですね。知りませんでした……」
……いや、今更ですけど冷静に考えたらおかしくないですか?
地面にぶつかったときの衝撃を一切感じてないなんて……
「ですけど、どこも怪我してないです!」
自分に加護をかけたつもりはないんですけどね。
なにか不思議な力でも働いたんでしょうか。
「それなら良かったです」
彼女は安堵したような表情を浮かべました。
しかしすぐに冷静な表情に戻り、会話を続けました。
「私は
「……?」
「そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生……のようですが」
「……え?」
思わず声が出てしまいました。
キヴォトス、連邦生徒会、先生……
当時の私にはわけもわからない単語が次々と並べられ、混乱するしかありませんでした。
ところが、説明を求めようと、七神リンと名乗った少女の方を向くと、彼女も困惑しているような表情を浮かべていました。
「……どうも、事前にもらっていた情報と違うんですよね」
「どういうことですか?」
「いえ、こちらの話ではあるのですが……」
そう言うと彼女は少し黙り込んで、そして、
「……いえ、話したほうが良いですね」
そう、結論づけたようでした。
「申し訳ありませんが、あなたのお名前を教えてください」
「
「やはり……」
彼女は深刻そうに溜息を吐き、私の方に向き直りました。
「……可能性は限りなく低いですが、もうその線を信じる他ありません」
ついてくるよう言われたので、私は彼女の後を追って、別の部屋へと移動しました。