とある病室、大団円を迎える老人がいた。
「おじいちゃん・・・。」
「親父・・・。」
彼の家族が勢揃いしている。男は別に凄いことをしたわけでも無く、特別な存在でもない。人並みに苦労して人並みに家庭を作り、人並みの人生の終点にたどり着いただけだ。
「ああ、ありがとう・・・。」
穏やかな終わりをその老人も感じていた。
そして彼は過去を振り返り後悔を思い出した。
「そう言えば・・・」
それは弟の死だった。
弟はプロの野球選手だった。それはもう小学生の頃から努力に努力に重ねやっとの思いでプロの座をつかみ取ってみせた弟だった。
(祐二・・・。)
弟の死因は自殺だ。遺書もなく自宅で人知れず死んでいた。
男は仕事で忙しかったのもあり血を分けたった一人の兄弟を鑑みることすら出来なかったのだ。
(あの時、もしほんの少しだけ気をかけていればどうなっていたのだろう・・・。)
叶わぬ妄想だ。だが、その後悔は人生の終わりという前に降ってわいてきた。
(無理か・・・。だが、もし・・・。)
もし、もう一度があったのなら・・・。
弟のように生きてみよう、死した弟がどんな思いだったのかせめて、それを知らなければ。
それがたった一人の弟を亡くした男が最後に思ったことだった。
◆◆◆
そして彼には奇跡を起こした。
そこは剣と魔法の世界アステジア。
そこで男は少女となった。
後悔と共に・・・。
◆◆◆
「親父!お替わり!」
「ったく、ミリー!食い過ぎだ!」
「そんな怒らないのあなた。食べるのは良い事よ。」
「食い過ぎだろ!俺の分が減る!」
「あなた親でしょう!子どもに譲りなさい!」
「パアパ~。」
「おお、グリ坊恐いでちゅね~。」
そこにはこの世界での一般的な生活があった。
仲の良い両親に生まれて間もない弟とその姉。
(まさか、本当にもう一度人生があるとは・・・)
それが転生した、老人もとい現在ミリーと呼ばれる少女の感想だった。
「ほら!ミリー!たーんとお食べ!」
「ありがとう!ママ!」
この世界では言語も異なり常識も違う。だが、ミリーはすっかり順応していた。
(まあ、数年も生きてれば嫌でも順応するよね)
男から女に性別が変わったこと、老人から子どもへとなったこと、生活レベルの大幅な低下、等々挙げたら切りが無いほど多くの変化が男を襲った。だが、その戸惑いも慣れてしまった。
「それじゃミリー、食べ終わったら仕事頼むぞ!」
「はーい!」
分かったことがいくつかあるが、時代は中世、王侯貴族が切磋琢磨している世界。そして何より、うちは農家なのである。
「はあ、今年の税は安いと良いがなあ。」
私は勿論平民であり、特権階級とは無縁である。故に畑を耕しそしてその税を領主に届けるという生活をずっとしている。正直生活は前世より楽ではないが、転生した私にとってはどこか生きやすい世界だった。何より明るい父と母、そして生まれてきた「弟」今度こそ守ると決めたものがあるからだろう。
だから、私ははせっせと働くのだ。
それはもう働いた。
「それにしてもミリーは良く働くなあ。」
「おう!ケインじゃねえか。俺の娘はそう簡単にやらねえぞ?」
「うちの子には勿体ねえな。っているか、そう言う言い方は止めてくれ、俺が狙ってるみてえじゃねえか!うちの上さんこええの知ってるだろ!」
「・・・さすがミザリー。村一番の女好きを真人間にした女は格が違うねえ。」
「はああ。そっちは良いよな。だってレインだろ。」
「おうよ!全部最高だ!」
ジェイドの妻レインは元々恋人同士でありそのまま夫婦となった村でも希有な存在だ。今でもおしどり夫婦である。
「さすがだよ。ジェイド。こんなみんなの前で愛を叫べるなんて。」
「みんなっていってもここは知り合いしかいないがな!ガッハッハッハ!」
父のそんな笑い声に私ははにかんだような笑みを浮かべていた。
これが私が生まれそして育つ村の日常だ。
「え?私がシンの嫁候補?」
さらに数年が過ぎた。
ここは中性の社会だ。勿論お家の断絶になると村全体が困るので基本子どもの結婚は親同士で決まる。私だって例外じゃない。
でも、そうか・・・私もそんな年かあ。
今の私の年齢は13。この村では基本的に14までに結婚相手を決め、お互いが15になったら結婚する。勿論、この時の選考基準は多岐にわたり、様々の要素を経て結婚する。そして「シン」とはこの村で狩猟を生業とする家の子だ。
「勿論、嫌なら言え。パパはお前が悲しむなら何が何でも阻止する。」
いつもふざける父が真面目に話してくれた。
「いや別に。」
「軽いなあ!ミリー!本当に良いのか!?」
シンとは意外とウマが合うのだし、それが家の利益になってくれるならそれで構わない。私にとって第一は家族の安寧だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「本当に良いの?ミリー?」
「はい。パパとママが良いと思ったなら私は良いよ?」
「・・・分かったわ。」
まあ、こんな感じで私の結婚が決まった。
平民の村なんてこんなもんだ。
やっぱお見合い結婚制度ですごいなあ。
「お、おまた、お待たせ。ミリー。」
そんなこんなでシンと私は一緒にいる。
村での婚約が無事終わると私は一足先にシンの家に行き、そこでそこの仕事の手伝いをする。私の両親は普段畑を耕すことが日課だったが、シンの家は狩猟が主だ。それを踏まえて早めに体に慣れさせようって訳だ。
「じゃ、じゃあ、上がって!」
「ようこそ!ミリー!待ってたわ!」
シンの母親が出迎えてくれた。良かった。いじめはなさそうだ。
「ほら!シン!ちゃんとしなさい!」
「で、でも、母さん!」
と言うか、シンがいつもよりきょどっている。いつもはあんなに冷静なのに一体どうして・・・。
「ミリーだよ!村一番の働き者で有名でしかも僕の世代じゃダントツのこの子が何でうちに来てくれると思うのさ!だってうち獣臭いのに!」
・・・え?私そんな感じだったの?
(side シン)
僕の村はアグニ村と言う。
僕は家が狩猟を主とするだけあって父に連れられてしょっちゅう森に出ていた。
なにせうちの仕事は毎日行わなくてはならないからだ。もし大型の魔物の痕跡を見つけようものなら、領主に頼み討伐隊を用意してもらわなくてはならない。
つまり、村の防衛も僕の家の役割だ。
そんな血なまぐさいし、泥まみれなことをやっていると同世代からはあまり仲良くされない。みんな仕事が忙しいのもあるが、何よりこういったものは独特な臭いが染みついてしまうのだ。父からも「すまない。」とよく言われた。でも、まあ、やりがいはあるし大人達はみんな敬意をもってくれるからまあ、そんなに悪くないと思っている。
だが、そんな僕にも普通の友人がいる。それがミリーだ。ミリーは僕達の世代で一番人気の少女だ。彼女は仕事もよくこなすし容姿も整っており、頭も良い、加えて優しい。もう、欠点らしい欠点がないのだ。そりゃあ人気もでるだろう。むしろこんな小さい村で終わってしまうのが勿体ないくらいだと僕は常々思っている。
「ねえ、ミリー。ミリーはこの先何かしたいことないの?」
「うーん。私は家族が幸せならそれで良いかなあ。」
「ミリーは頭も良いのに、勿体ない。」
「シン。頭が良くても、運動ができても、それより大切なものの前では意味がないんだよ?」
「・・・ミリーはなんて言うか、固いねえ。」
「固い?これはね哲学的っていうのよ。」
「てつがく?」
「そう、こう生きるっていう思想よ。」
「へええ。やっぱりミリーは頭が良いよ。」
「そ、そりゃあ、まあね。あ、仕事終わらせなきゃ、じゃあまたねシン!」
「はあ、ミリーみたいな人がうちに来てくれたら楽しいだろうなあ。まあ、うちの仕事じゃ無理だろうけど・・・。」
そんなある日、父が村の会合から急いで戻ってきた。
「シン!喜べ!お前の嫁が決まったぞ!」
「・・・親父うちの仕事が毛嫌いされてるのは知ってるだろう。多分速攻で出ていくよその子。って言うかどうやって見つけたんだよ親父・・・。」
「いや、その、だな。その娘は人気があって最後は占い師の婆に決めてもらったんだ。」
「・・・僕の世代で人気っていうと、ラズリとミリーかな?え?それでうち?」
「ああ!ダメ元で俺も参加した。そしたら、うちの名前がでたんだ!」
これは・・・もしかして、もしかする?
「お、親父、どっちだ?」
ラズリとミリーどっちも気立ても良いし、容姿も満点だ。だが、ラズリはなんて言うかそのお、馬鹿なのだ・・・。正直こっちにきたら絶対に色々とやらかす。性格は良いんだけどなあ。だが、ミリーだった場合は、場合は、
(落ち着け、落ち着くんだ。シン。うん。期待はするな。それにラズリでも全然最高だ。なにせこの村で一番明るいのはラズリなのだ。この家にとってはかけがえのない存在になるのは目に見えている。そう!全然良い。全然良い。ラズリで良い。)
「驚け息子よ。・・・ミリーだ。」
「・・・な、なんて?」
「だからミリーだよ!シン!」
「本当!あなた!」
母さんも声を上げた。
僕はもう開いた口が塞がらなかった。
だってミリーだ。どう見ても村一番の容姿で村一番の働き者。そして、性格は良いし、頭も良い。もし、この村の男全員にこの村の一番の娘が誰?と聞いたら8割はミリーと答えるだろう。
「ああ!ああ!奇跡が起きた!」
この日僕は眠れなかった。
そして、ミリーがうちを了承した旨とうちに手伝いに来る日が決まり、サクサクといろんなことが決まっていった。
ちなみにミリーは何も変わらなかった。
なんというか、血なまぐさいうちの倉庫に来ても全く動揺しなかったし、全くもって揺るがなかった。っていうか覚えるのが早いのなんの。大体みとってすぐモノにするし、なんならやり方を改良してくる。
「凄いな。ミリーさん。」
「何でさん付け?夫婦になるのに。」
「え?いや、うん。そうだね。ミリー。」
うん。何というかもう、ね。これが頭が良いということだよね。うん。
多分、ミリーこの村に一生過ごすの絶対もったいないね。間違い無い。
「あの?何か不手際が?」
「無いよ!無い!って言うか覚えるのが早くて凄いな!って!僕なんて獣の解体覚えるのに苦労してさ!」
「そ、そうよね。・・・言えない前世で狩猟免許持ってやってたなんて絶対言えない。」
「ん?何か言った?」
「何も!」
「そっかあ。」
まあ、うん。僕は人生で一番喜んだ。
◆◆◆
ミリーの父ジェイドは大の親馬鹿である。
それはもう、親馬鹿である。
どれくらいかっていうと
「ミリー大丈夫か!一緒にお風呂に入るぞ!」
成長した娘のお風呂に同行する。
「ミリーそっちの仕事代わるぞ!遊んでこい!」
娘の仕事を代わるために爆速で自分の役割を全うする。
「ミリー欲しいものあるか!何でも買ってやる!」
娘のために友達からお金を借りてでも望んだものを買おうとする。
もう絵に描いた親馬鹿ぶりである。
勿論それは弟にもだ。
「大変だ母さん!グリスが泣き止まない!」
グリスが泣いてるのはあんたが変なお面を被ってるからだ。
「任せろ!俺がグリスのおしめを取り替える!」
止めろ。以前それでぐるぐる巻きのグリスになってグリスが更に泣いた。
「パパでちゅよおおおお!」
叫ぶな!
こんな父である。
それが娘が嫁に出ていくとなるとどうなるか・・・。
「ズーーーーーーーん。」
「いい加減仕事しなさい!」
「・・・・だって、グス。ミリーが、ミリーがああああ。」
「はいはい、子離れしましょうねえ。そもそもクレスはあなたの相棒でしょうに。」
「そうだよ!だからそこは不安じゃない!だけどあいつの子は知らないんだよ!ああ、どうしようどうしよう。大丈夫だろうか・・・。」
「大丈夫よ。クレスの子よ。きっと娘を、ミリーを守ってくれるわ。」
そもそもジェイドもレインもシンの親を知っていた。中でもジェイドとクレスは相棒同士で色々と悪さをしていたし、多くのことをしていた。だがらこそ分かる。腕っ節はクレスがこの村で一番だ。もしかしたら村中の大人がまとめてかかってもクレス一人に負けるかもしれない。それほどクレスは、いや、この村の「守護者」は強い。
「はあ、クレスの子だもんなあ。」
「ほら、安心したら仕事仕事。うちにはまだ子どもが3人いるのよ!」
ちなみにミリーが13になるまでに家族が2人増えていた。
「へーい。」
「パパただいまあ。」
「ミリーーーー!」
「うわあ!パパ飛びつかないで!って仕事終わってないじゃん!どうしたの!腰でもやった!?」
「いや!すぐ終わらせる!」
「そっかあ良かったあ。」
娘はまだ手伝い。そうまだ嫁に行ってないのだ。良し!仕事を終わらせて・・・。
「あ、シン。上がって、上がって。」
「はああああああ!」
「お、お邪魔しまあす。」
「な、なんでクレスの息子が・・・(唖然)」
「何でって、そりゃあ私の未来の旦那だもん。」
「・・・・・・・」
その日ジェイドは人生で初めて膝から崩れ落ちた。
なんだろう、なぜか冒険にいけなかった・・・。