この世界において人間の立ち位置は最強じゃない。
魔物、魔族、そして絶対的な悪の代表として魔王が実在している。
その他にもドラゴン等々、人間には及びもしないようなモノ達がこの世界では普通にいる。
そんな存在に人間はどう立ち向かうのか。
簡単だ。己を鍛え、魔力を迸らせ、絶対的強者に抗うのだ。
よって、アグニ村の狩猟の家系はその絶対強者たるモノ達に抗うことが義務づけられている。
と言うわけで
「ミリー、うちに嫁に来てもらう以上君にもある程度の狩猟の技術を覚えてもらう。」
シンの父クレスに連れられてミリーはシンと一緒に森の離れに呼ばれていた。
(・・・狩猟か、あれかな前世で息子がはまってたモン〇ンみたいなことをするのかな?)
「まずは魔力についてミリーに覚えてもらう。」
「・・・はい?」
(あれ、モン〇ン、じゃなくてドラ〇エ?)
「まあ、ミリーは知らなくても仕方ない。」
「そうだね。この力は僕達狩猟の家系しか知らない。」
シンもこの話に乗ってきた。
「まあ、見た方が早いね。」
すると一本の剣をシンは持ってきた。
そして、
「はあ!」
大上段からその剣を振り下ろした。
すると、
「うわああ!」
ミリーはそんな声をいつの間にか上げていた。
風が吹き荒れていた。
ただ剣を振り下ろしただけで、強風が吹き荒れたのだ。こんなもの物理的にありえない。
「ほら、見てみて!ミリー!」
見ると、10m先の木に亀裂が走っていた。
「・・・斬撃を飛ばした?」
「うーん、まあ、遠からずそんな感じ?」
「これは強化魔法の効果だ。」
「・・・強化魔法。」
「そう。強化魔法とは体の魔力を体内において満遍なく通して、筋力から瞬発力、思考の速度といったあらゆるもの強化する技術のことだ。」
「まあ、これは基礎魔法とも呼ばれているんだけどね。」
「ほえー。」
・・・まさかここが魔法のある世界だとは。
「あのー?これ他の人にも教えればもっと畑仕事が楽になるんじゃあ・・・。」
「そう、なんだけどねえ・・・。」
シンは隣の父に目線を送った。
「こればっかりはなあ、まあこの国が決めたことなんだ。この法を破ると俺達は一家全員死刑になりかねん。」
「ひえ!」
「まあ、そう言うことなんだ。それにこの力僕達にとって便利だけど畑仕事とは相性が悪いんだよねえ。」
「・・・どういうこと?シン。」
「簡単に言うと魔力の総量の問題さ。」
「総量?」
「僕達、平民は総量が少ないんだよ。だからまあ、一日中仕事をしなくちゃいけない畑仕事とは相性が最悪でさ。それにもし魔力が枯渇しちゃうとその日、一日中動けなくなっちゃうんだよねえ。まあ、例外もいるんだけど・・・。」
「・・・成る程。私にできるでしょうか。」
正直、科学社会に居た身として全く理解できないがやらなきゃいけないらしい。
「・・・多分大丈夫だよ。」
「そうだな。君はジェイドの娘だなら案外たやすくこなすだろう。」
「・・・どういうこと?」
「あれ、知らないの?僕のお父さんと君のお父さんは一緒に・・・」
「シン!」
「あれ?言っちゃいけないんだっけ?」
「全く・・・同じことをされたら敵わないからな。」
「まあ、と言うわけでこの力は秘密だよ。使って良いのは僕達狩猟の家系だけなんだから。」
「分かりました。」
「と言っても大人はみんな知ってるがな。主にジェイドのせいで。」
「結局言ってるじゃん。父さん・・・。」
「えっと・・・パパがすみません。」
「いや、いい。むしろあいつが幸せな家系を築けているんだ。あれはあれで良かったんだよ。」
「確かに親馬鹿ですしねえ。」
「だろう。ジェイドらしい。」
シンとクレスは、うんうんと納得した様子で話を続けた。
「それじゃあ、色々と教えていくよ。」
「はい!」
そうして私は強化魔法なるものを教わった。
「うわーー。」
「やはりジェイドの娘か・・・。」
なんかできた。
「ということがありました!」
早速私は今日あったことを両親に話した。それはもう興奮しながら。
ミリーは興奮していたのだ。それはもう興奮していた。ミリーの前世はドラ〇エ世代であり自分もゲームのように凄いことできないかと妄想に耽ることも若かりしころはあったのだ。それが現在子どもに戻ったことと実際に自分が使えたことで暴走した。
「ねえ!パパ!ママ!どういうこと!どういうこと!」
「騒ぐなミリー弟達が起きるぞー。」
「そうよミリー。そんなに興奮することはないわ。」
「ええー。」
「それにミリー、一日で使えたんでしょ。」
「う、うん。」
そう言えばシンもクレスも驚いていた。そんなに凄いことなのか?
「やっぱりかー。」
「ジェイド。あなたの子ね。間違い無く。」
「フッフッフ。」
「どう言う意味?」
「簡単に言うとあなたは天才よ。ミリー。」
「俺譲りのな!」
「てん、さい?」
「普通そんな簡単に使えないのよ。それ。」
「そうだろ。そうだろ。」
「でも、あなたは一日で使えた。それは要するに異常なのよ。現に私は使えないしね。」
「あれ、この力って普通秘密なんじゃ・・・。」
「そうだったのだけどね・・・。」
「俺とクレスがぶっ壊した!」
何と言うことだろう。うちの父は随分とやんちゃな青年時代を過ごしたようだ。
「・・・あれはひどかったわ。まさか領主様と争うなんて。」
「仕方ねえだろ!うちの村が潰れかねなかったんだ!」
「それもあんたのせいよ!」
「・・・何したのパパ。」
「いやー。領主の息子がなー。レインを持って行こうとしてさー。」
「違うわよ。ただメイドとしてどうかっていう誘いがあったのよ。」
それ半分強制では・・・。
「それで勘違いしてな。思わず、その、な。」
「この男、殴っちゃったのよ。」
中世やってはいけないランキング1位を平気でやったのかこの父。
「・・・領主を?」
「領主を。」
やりやがったらしい。この父は。
「それで、どうなったの?」
「いやー、その、なー。」
「色々あって決闘騒ぎになったのよ。」
「・・・本気?」
「ええ。本当に。起こったのよ。そんなことが。」
「それで・・・。」
「勿論、勝ったぞ!」
マジか。あれ、でも確か貴族は魔力がどうたらこうたらって・・・。
「勝っちゃったんですか・・・。」
「何だ?ミリーそこはお父さんスゲえっってなる所だろう!」
「いやー。村長、お疲れっていうか。その、スミマセンっていうか。」
「分かるわ。ミリー、私も当時そんな気分だったわ。」
「でも、ママ。パパ大好きだよね。」
「それはそれ。これはこれ!よ。」
この父あってこの母ありだろう。うん。両親の仲が良くて何よりだ。
「なんか、クレスさんが言ってたけど貴族って確か・・・」
『平民の魔力は簡単言うとしょぼい、強化魔法の場合はまあ出力もあるが最低限使用でも一刻持てば良い方だろう。』
『平民の?じゃあ、お貴族様は違うんですか?』
『ああ。貴族の場合は総量、出力も平民と比べるのもおこがましい程の差がある。』
「って言ってたんですけど・・・。」
「そうだぞ?」
「そうよ。」
「・・・どうやって勝ったの?パパ。」
「そんなもん無理矢理だ。」
「はい?」
「うーんとね。ミリー魔力を使って少しは分かったと思うけどね魔力を扱う出力は一人一人違うのよ。どれだけ魔力が多くても普通その出力以上の力はだせないの。」
「出力・・・。あれ、貴族ってそれが大きいんだよね。」
「まあ、そうなんだが、魔力の量はどうしようもないが、出力は裏技がある。」
「裏技・・・。」
「そう!その方法はな!」
「はい!そこまで!」
「ママ?」
「それ以上はだめよ?あなた。」
「な、何故だ。レイン。」
「簡単よ。教えたらこの娘も多分やるからよ!」
「「・・・・・」」
思わず見つめ合う私とパパ。
やるだろうか?私。
・・・もし、それで家族が助かるとするなら。
私は父を見た。恋人のために領主に挑んだという父を。
その顔は正しく「何か俺変な事した?」とも言わんばかりの顔をしていた。
「ほらやっぱり。」
私の顔を見て母は諦めたようにそう言った。
「当たり前だろ!愛する家族のために命かけるのは!」
「それでこの村の全員死にかけたのよ!このおバカ!」
「・・・すみません。」
「あはははは!」
つまり、そう言うことだ。
どこの世界に行ってもこういう馬鹿はいるのだろう。
・・・本当に前世の自分とは大違いだ。
もし父が私の立場だったなら父は自殺した弟を助けられたただろう。
そんな感じがこの父には存在する。
「なれるかな。パパみたいに。」
もし、叶うなら私はそうありたい。
人生全部をかけて守って幸せにできるような人になりたい。
もう、あんな気分はごめんだ。
「・・・はあ。」
「おう!なれるぞ!ミリーは俺の娘だからな!」
ありがとう。ジェイド。
「私!頑張る!」
「やっぱりこうなっちゃうか・・・。」
(side レイン)
私には愛する家族がいる。
だが、ここまで来るのには波瀾万丈な人生だったと断言できる。
恋人はやんちゃで、その周りの奴も暴れ回っていた。
私の世代が村において最もヤバいというのは、当時の村長の言葉だった。
まあ、全くもってその通りだったのだが・・・。
「まさか、子どもにも遺伝するなんて・・・。」
レインは寝た愛しい子の頭を撫でながらそうつぶやいた。
「なんだよ!俺の血が悪いってか!?」
それにはジェイドも突っ込みをいれた。
「いいえ。でも、まあこれも運命かも。」
「運命?・・・なんだよ。えらく詩的じゃねえか。」
「だってそうでしょ。領主様に逆らって生き残ったあなたとクレス。その子ども達が夫婦になるなんて私もびっくり。」
「そうか?俺はこうなる気がしてたがなあ。」
「あら、それならなんでそんなに落ち込んでるのよ。」
「いや!その、なあ。分かるだろ!親なら!」
「あらあら。ひどい親馬鹿ねえ。」
まあ、自分もその親馬鹿なのだろうが。
「この子は何をやらかすのかしら。」
「おいおい、やらかす前提か?」
「そりゃそうよ。私達の子とクレスの子。何も起こさないはずが無いじゃない。」
「血は争えないってか。」
「ええ。」
「そうかよ!でもこいつらの人生だ。好きにしろ!俺は言うね!」
「まあ、今更ね。」
レインもジェイドもクレスも村の大人達も分かっている。今の平穏は永遠には続かない。近接する森は物騒。解決したとは言え領主という権力者に立ち向かってしまったという事実。不穏な事この上ない。
「どうかそれまで健やかにミリー。」
「安心しろよ。俺とクレスがいてそうそう出し抜ける奴はいねえ。」
「あなた、勇敢と無謀は違うのよ。」
「知ってるつうの!」
どうか私達の子が笑って居られるように。
それがレインの願いだ。