ファミリア探しを再開しようとした俺達の前に現れたのは、小柄ながら一部やけに自己主張の強い黒髪の少女だった。
「ヘスティア? ボクの? ……ッ、ま、まさか、あなたは神様なのですか!?」
「おいおい、ちゃんと聞いていなかったのかな? 仕方ないなぁ。ではもう一度名乗ってあげよう。ボクはヘスティア。さっきもいったけど三大女神なんて呼ばれてる凄いヤツなんだぜ? どうだい、キミさえよければボクのファミリアに来ないかい?」
……これがこの世界の神。見た感じは普通の女の子って感じだが。……いや、イカンイカン。見かけに惑わされたらダメだってオカンから学んだだろ。
「い、いいんですか!? 僕、こんな見た目だからってたった今他のファミリアから断られたばかりなんですけど」
「はあ? なんだいその失礼なファミリアは。まあでも、断られて正解だったよ。おかげでボクとこうして出会えたんだからね。キミ、名前は?」
「ベルです。ベル・クラネル」
「ではベル君。ボクのファミリアに入ってくれるかい?」
「はい、お願いしま……」
頭を下げようとしたベル君がふと気づいたように俺の方に目を向けて来た。
「あ、あの、リョーマさん。勝手に決めちゃいそうになっちゃいましたけど、僕、この神様のファミリアに入らせてもらおうと思って……」
ああ、なるほど。俺の同意無しに決めようとしたと思ってるのか。律儀だなぁ。冒険者になるのはキミなんだから決める権利はキミにあるのに。
「もちろん構わないよ。どこに行こうと、俺は力の限りキミを支えるから」
「ッ……! はい! ありがとうございます!」
「お、キミも入団希望かい? もちろん大歓迎さ。名前を教えてくれるかい?」
「神崎 亮真です。よろしくお願いしますヘスティア神」
「ふむ、キミは極東出身かな? うん、よろしく。……それはそれとして。んー、固いなぁ。もっとフランクにいこうよ。ヘスティアでいいし敬語もいらないよ」
えぇ……。まあでも本人が言ってるからいいのか?
「……わかった。ヘスティア」
「うんうん。それでいいよ」
「ぼ、僕は流石に恐れ多いので神様って呼ばせてもらいます」
「えー、そりゃないぜベル君。リョーマ君はこうして変えてくれたのに」
「か、勘弁してください~!」
からかう様にベル君に抱き着くヘスティアと、そんな彼女にたじたじになるベル君。そんな二人を見て、先ほど彼女が言っていた通り、こうして出会えて正解だったんだと何となく感じたのだった。
数分後、ベル君いじりに満足したヘスティアが離れた所でこれからどうするかを話し合う事になった。
「すみません、神様。色々お話させてもらいたいんですけど、まずは荷物を置かせてもらいたいので神様の本拠(ホーム)に行かせてもらってもいいですか?」
「うっ……」
ベル君の提案にギクリとするヘスティア。なんだ、何か都合が悪いのか? でも、確か団員はそのファミリアの本拠で生活するものだと聞いていたが。
「あ、もしかして新人の僕達じゃまだ早いとか? そういう事なら今日は宿屋に……あー、でもおじいちゃんが置いてたお金ももうそんなに残ってないしなぁ……」
「となると、野宿かな」
「ですね」
「ま、待って待って待って!」
頷きあう俺達にヘスティアが慌てたように割って入って来た。
「ボクの眷属になってくれた子達にそんな事させられるわけないだろう! い、いいとも。ボクの本拠に案内してあげるよ!」
「いいんですか?」
「もちろんだとも! ……ただ、その。見たら驚いちゃうかもしれないけど」
「わあ、そんなに凄い所に住まれてるんですか?」
「あ、あはは。うん、ある意味ね」
「?」
「じゃ、じゃあ案内するからボクについてきて」
なんだろう。身長も相まって今の彼女が隠し事が親にバレそうになって焦ってる子どもに見えて来たんだが。
そんなアホな感想を頭に浮かべながらベル君と共にヘスティアについて行く。入り組んだ路地をスイスイ進んで行く彼女を見失わない様に歩く事数分、すっかり街の中心部から離れてしまった俺達の前にボロボロになった協会が姿を現した。
「神様、あの、ひょっとしてこの今にも倒壊しそうな教会が……?」
「……はい。ボクの本拠です」
「他の団員は?」
「いません。キミ達がボクにとって初めての眷属です」
ベル君が問いかけるたびにどんどん小さくなるヘスティア。
「なるほど……確かにこれは凄い」
思わず呟くと、ヘスティアはそれはもう見事な土下座を披露した。
「ご、ごめんよ~! 騙すつもりはなかったんだ! まさか、ボクの誘いに応えてくれるなんて思ってもみなかったから……!」
「? どういう事ですか?」
「その……ボク、下界に降りてからしばらくは友達の所でやっかいになってたんだけど、その子を怒らせちゃって追い出されたんだ。それから慌てて眷属を探し始めたんだけど、それも全然。だからあの時、偶然キミ達の会話が聞こえて来て思わず声をかけちゃったんだ。正直、断られるんだろうなって思ってたのに、ベル君もリョーマ君も誘いに応じてくれたから……」
「―――なーんだ、そういう事だったんですね」
「ベル君?」
跪いたまま懺悔するかの様に声を絞り出すヘスティアが、あっけらかんとした声でそう返すベル君に顔を上げる。
「とりあえず、荷物を置いたら少し掃除でもしましょうか。神様、掃除用具ってどこにありますか? 流石に教会ならどこかにしまってあると思うんですけど」
「それなら地下に……じゃなくて! べ、ベル君? 怒ってないの?」
「? 何で僕が怒らないといけないんですか?」
「だ、だってボク、こんなボロボロな所を本拠にしてる神だよ? キミからしたら騙されたって思うんじゃ……」
「あはは。そもそも、神様は驚くかもって言ってたのに、僕が勝手に勘違いしただけなんですから騙されたも何もないですって」
「でも……」
「……嬉しかったです」
「え?」
「僕、他のファミリアに断られたって言いましたよね? 冒険者は無理だって。だから、声をかけてもらって、ファミリアに誘ってもらえて嬉しかったんです。僕でも冒険者になれるって、英雄になれるって言ってもらえたみたいで」
どこまでも優しい微笑みを浮かべながら、ベル君がヘスティアに手を伸ばす。
「だから僕は神様の眷属として、このヘスティア・ファミリアで頑張っていきたいと思います。改めて、これからよろしくお願いします神様」
(はは、ベル君ならならそう言うと思った)
一緒に過ごしてみて何となくわかってきたが、この子ナチュラルにカッコいい言動見せるんだよな。立ち寄った村や町でも親からはぐれた子どもに真っ先に声をかけて探し回ったり、重そうな荷物を抱えた老人に駆け寄って家まで荷物を運んだり。
(……嘘じゃない。この子は本気でそう思ってくれている)
潤んだ目でベル君を見つめるヘスティア。そして、彼女が差し出された手にゆっくりと自分の手を乗せようとしたその瞬間、ベル君が今までで一番と言ってもいい明るさで―――
「それに……英雄を目指すならこれくらいの逆境も跳ね返さないとダメですよね!」
「……へ?」
その勢いと声量にヘスティアの動きがピタリと止まる。それに気づいていないベル君はさらに続ける。
「よーし燃えて来た! この教会を元に戻せるくらいたくさん活躍してみせるぞー! 神様、リョーマさん。見ててくださいね!」
「え、ベル君? え? ここはボクを立たせて夕陽をバックに感動的な雰囲気になる所じゃ? というか、キミさっきまでとキャラ違わない?」
ああ、そうか。まずはそこから説明しないといけないのか。
夕日に向かって叫ぶベル君。いつまで経っても立たせてもらえないヘスティア。そして、そんな二人を横から見つめる俺。
これが俺達三人の最初の記憶。ヘスティア・ファミリア始まりの記憶だった。
おかしいな。省けるところは省くつもりだったのに。
ベルの性格に違和感があるかもしれませんが、そこは鋼の救世主の読みすぎでおかしくなったと思ってください。