騎士(笑)の日常   作:ガスキン

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オラリオに騎士(笑)がいるのは間違っているだろうか その六

 この日、ヘスティア・ファミリアに初めてのお客さんがやって来た。

 

「やあ、お邪魔するね」

 

「失礼する」

 

 小柄な男性と長髪の女性。知らない人から見れば姉弟の様に見える二人だが、その内の一人は正体はロキ・ファミリアの団長である。

 

 席に着いてもらっている間にお茶を用意する。チラッと目を遣るとディムナさんはニコニコと、女性の方は微動だにしないでこちらを見ていた。ええ……あんな風に見られる様な事したっけ俺?

 

「お待たせしました」

 

 お茶と一緒に数日前にバイト先の人に教えてもらって買いに行ったお菓子を机に並べる。

 

「どうぞ、お好きなのを」

 

「い、いや、我々は客として来たわけでは……」

 

「ありがとう。僕これ好きなんだよね」

 

 戸惑う女性と対照的に嬉々としてお菓子に手を伸ばすディムナさんを女性が睨む。

 

「フィン……」

 

「リヴェリア、こうして用意してくれたものを断るのはそれこそ失礼だと思うよ?」

 

「……はあ」

 

 溜息を吐く女性。しかし、そんな彼女が複数あるお菓子の中から迷うそぶりを見せず苺味のお菓子に手を伸ばしたのを俺は見逃さなかった。

 

「な、なんだ? 好きなものを取っていいと言ったのはキミだろう?」

 

 いや、俺何も言ってないんですけど……。まあいいや、追求しようものなら絶対ややこしい事になるだろうし。

 

 とりあえずお茶とお菓子を平らげてもらったところでぼちぼち本題に入る事にした。

 

「さて、今日お邪魔させてもらったのは他でもない。ロキ・ファミリアの団長として、改めて謝罪をさせてもらおうと思ったからだ。本来であれば、主神であるロキにも同席してもらうのが一番だったのだけど……」

 

「……ヤツをここに連れて来ると、謝罪どころではなくなる可能性があったからな。不服かもしれないが、代わりに副団長である私、リヴェリア・リヨス・アールヴが同席させていただく」

 

 アールヴさんの言うロキ神をここに連れてこなかった理由。それは、ロキ神がウチの主神であるヘスティアとすこぶる仲が悪いからだ。

 

 あの『豊饒の女主人』でロキ・ファミリアの面々と顔を合わせた日、遅れて来たヘスティアは俺達の傍にいたロキ神の姿を見つけるといきなり「こら絶壁! ボクの大事な家族に何しようとしてる!」と詰め寄ったのだ。対するロキ神も「はあ!? いきなり現れたと思ったらケンカ売っとんのかドチビ!」と言い返し、次の瞬間には取っ組み合いのケンカを始めてしまったのだ。

 

 ちなみに、二人がケンカしている最中、ベル君は周りにいた冒険者の人達に囲まれていた。

 

「おう小僧! 中々言うじゃねえか!」

 

「見ろよ。あいつ等すっかり意気消沈してるぜ」

 

「こっち来なよ! 面白いもん見せてくれた礼に一杯おごってあげるわ!」

 

「え? え?」

 

 違う席に引っ張られていくベル君を見送りつつ、俺は一人飲み物片手に過ごそうとしたのだが、ヴァレンシュタインさんとディムナさんに捕まってしまった。

 

「お兄さん、遠征中に聞きたい事まとめたから今からお話しよう?」

 

「おっと、少し待ってもらえるかなアイズ。やあ、お兄さん。彼だけではなくキミにも正式な謝罪をしなければならないのだけど……どうもそんな空気じゃなさそうだ。近い内にキミ達のホームにお邪魔させてもらうよ」

 

 その二日後、バイト先にやって来たディムナさんから訪問日を伝えられ、そして今日、宣言通りやって来たというわけだ。

 

「さて……。では、改めて。この度は僕達のファミリアの人間がキミに対して不快な発言をしてしまった事、まことに申し訳なかった。ロキ・ファミリア団長、フィン・ディムナとして深く謝罪する」

 

「同じく、ロキ・ファミリアの副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴとして、団員の非礼を謝罪する。今後、二度とこのような事が起らぬよう、全団員へ徹底させる事をここに誓う」

 

 先ほどまでのにこやかな表情から一変、誠意ある顔と声色で深々と頭を下げるディムナさんと、再発防止を約束するアールヴさん。

 

「はい。お二人の謝罪、確かに受け取りました。ですのでこの件はもうお終いです」

 

 もう気にしてないという意味を込めてあえて明るい口調で言ってみる。そうすると顔を上げた二人も表情を和らげた。

 

「ありがとう。キミの寛大な心に感謝を。今リヴェリアが告げたように、団員達の意識の改善はすでに始めている」

 

「キミとあの少年……ベル・クラネルを侮辱した二人はペナルティとして雑用係への降格を命じている。まったく、報告すら怠るなど門番という役目を何だと思っていたのだ」

 

 え、あの二人そんな事になってたの? それはまあ、頑張れとしか言えないが、いきなりそんな事命じられたら不満なんじゃないのか?

 

「ああ、逆恨みとかは心配しなくていいよ。万が一反省もせずキミ達に危害を加えようとするのなら、容赦無く“追放”すると明言しておいたからね」

 

「それと、先日の『豊饒の女主人』での騒ぎを鑑みて、しばらく店を利用しての宴会を自粛する事にした。酒で気が大きくなるのは仕方ないが、それが他の冒険者を貶していい理由になどなるわけがないからな。しかも、それが人目の多い酒場でなど論外もいいところだ」

 

「ああいう所での話っていうのはあっという間に広がるからね。実際あの日以降ベル君を笑っていた者達は他所のファミリアの冒険者達に実力者(笑)なんて散々煽られて肩身を狭そうにしてるよ」

 

 ? 何でそれが煽りになってるんだ? ベル君の言う通り、それだけの実力あったから笑ってたんじゃないのか? いくらなんでも自分が出来なかったくせに他人が出来なかったらそれを笑うなんて恥知らずな真似、出来るはずがないし。もしそんな輩がいたら見てみたいもんだわ。

 

「おいフィン。身内の恥をわざわざ晒すんじゃない」

 

「そうじゃないよリヴェリア。初めて潜るダンジョン。初めて戦ったモンスター。初めて感じた死の恐怖。僕は今でもハッキリ覚えている。キミだってそうだろう?」

 

「……」

 

「始まりは皆一緒。僕達だって彼と同じ頃があったんだ。けれどそれを忘れた彼等はベル君を笑った。……ねえ、リヴェリア。今、このオラリオに本当にベル君を笑える冒険者が果たして何人いると思う?」

 

「……さあな。そもそも、実力があろうがなかろうが、ダンジョンの過酷さを知る者が同業者を笑っていいとは思わない」

 

「はは。まあそれが当たり前なんだけどねぇ。……っと、ごめんごめん。すっかり置いてきぼりにしちゃったね。とにかく、団員達の意識改革はしっかりやらせてもらうから」

 

 いきなり話を振られたのでとりあえず頷いておく。なんか意味深な空気だったけど、俺、聞いててよかったんだろうか。

 

「さてと、こうして無事に謝罪も受け入れてもらえたし、ここからはもっと楽しい話を……」

 

「待てフィン。お前、まだ彼に謝らなければならないことがあるだろう」

 

「何かあったっけ?」

 

 ?マークを浮かべるディムナさんにアールヴさんが鋭い目でツッコむ。

 

「偽名を使って彼に近づいた事に決まっているだろう! どういう意図か知らないが、失礼にもほどがある!」

 

「あー……。ゴメン、僕の姿や顔を見ても全然反応なかったから、ちょっと面白くなっちゃってつい……」

 

「つい……じゃない! それと謝るのは私じゃなく彼にだ!」

 

「わかったわかった。別に騙すとかそういうつもりじゃなかったんだけど、本名を名乗らず混乱させてゴメンね。ええっと……」

 

「どうした?」

 

「……そういえば、キミの名前聞いてなかった」

 

 たはは~と頭を掻くディムナさんにアールヴさんの額に青筋が浮かんだ。

 

「フィンッ!!!」

 

 それから、平謝りするアールヴさんを宥めた所で、改めて俺は名前を告げた。

 

「じゃあ、これからはリョーマ君と呼ばせてもらうね」

 

「私も構わないだろうか?」

 

「ええ、どうぞ呼びやすい様に」

 

「ところで、今日は他の二人はどうしたんだい?」

 

「ベル君はダンジョンで、ヘスティアは友人の所に訪ねるといって留守にしてます」

 

………

 

……

 

 

 あの日、酒場での騒ぎを耳にしたヘスティアは怒り心頭といった様子で、ホームに戻るなり「おのれ~。絶対ぎゃふんと言わせてやる~! ロキ・ファミリアめ、ボクを怒らせたらどうなるか思い知るがいい!」などと発言し、殴り込みでもかけるのかとベル君が慌てて止めようとした。

 

「お、落ち着いてください神様。いいんです。ちゃんと謝ってもらえましたし」

 

「それじゃボクの気が済まないのさ!」

 

「だ、だからといって乗り込むのはちょっと……」

 

「乗り込む? いや、そんな事はしないよ」

 

「へ? そうなんですか? なら何を……」

 

「武器だ! ベル君、ボクがキミにすんごい武器をプレゼントしてあげる! ミノタウロスなんか一撃で倒せちゃうような強力なヤツをね! 任せてくれ、ボクの友人に頼めばそれくらいちょちょいのちょいさ!」

 

 ムフーと鼻息荒く胸を張るヘスティアに、ベル君は一瞬嬉しそうな顔をしたが、静かに首を横に振った。

 

「……いえ、神様。すごくありがたい提案なんですけど、それは必要ありません」

 

「ど、どうしてだい? ボクの事、信用できない?」

 

 断られた事に酷くショックを受けたヘスティアが見る見る内に萎んでいく。そんな彼女にベル君は微笑む。

 

「そんなわけないじゃないですか。神様が僕の為に一生懸命になってくださっているのは普段からよくわかっています」

 

「じゃあ、どうして……」

 

「生意気かもしれないですけど、僕は、僕の力でミノタウロスを倒したいんです。どんな相手でも、諦めずに頑張ればいつか勝てる。……僕があの人達(鋼の救世主)から学んだ事です。だから、僕は他の人より遅くても一歩一歩確実に進んで行こうって決めたんです。そしていつか、神様やリョーマさんが自慢出来る様な立派な冒険者になる。……それが僕の目標の一つなんです」

 

「ベ、ベルぐ~~~~~ん!!!」

 

 感極まったヘスティアがベル君に抱き着く。正直、俺も同じ様にしたかったが、俺みたいな野郎にひっつかれても絶対嫌だろうから自重する。

 

「……わかったよベル君。けれど、武器自体は必要だろ? キミが今使っているヤツ、大分ガタが来ているんじゃないかい?」

 

「そうですね。鍛冶師の方にお願いして何度か手入れしてもらってるんですけど」

 

 ベル君が冒険者になったその日に買った短剣は近くで見ると確かにボロボロである。これじゃ確かに心もとないだろう。

 

「うん。じゃあやっぱりボクから武器をプレゼントさせてもらうよ。これからキミの目標の為に一緒に歩んでいく“相棒”をね。それくらいはいいだろう?」

 

「ッ、はい! ありがとうございます!」

 

………

 

……

 

 

 そういうわけで、ヘスティアはベル君の新しい武器を作ってもらいに友人の元へ向かったというわけだ。

 

「ところでリョーマ君、キミは冒険者としてダンジョンに潜ったりしてはいないのかい?」

 

 回想していたらディムナさんからそんな風に聞かれた。

 

「そうですね。俺はヘスティアから『恩恵』を授かってません」

 

「何か理由が? あ、いや別にどうというわけではないのだが、この街に来る若者は冒険者を目指す者がほとんどだからな」

 

「冒険者になりたいと言ったのはベル君なんです。俺は、彼が冒険者として活動に専念できるよう支えるために一緒に来ただけなんです」

 

「ベル君とはどういう関係なんだい?」

 

「彼の家に居候させてもらっていたんです。それでベル君が家を出るタイミングでこの街に」

 

 別世界から呼ばれましたなんて言えるわけないしな。

 

「居候という事は、元々は別の場所に住んでいたのかな? 名前から察するに極東の方からこちらへ移動して来たとか?」

 

「止めろフィン。まるで尋問ではないか」

 

「でもリヴェリアだって気になるでしょ? アイズの『母親』として噂のお兄さんがどんな相手なのかをさ」

 

「んなっ!? わ、私は別に……」

 

「母親?」

 

「幼い頃からアイズの面倒を見てくれていたのが彼女なのさ。そんなアイズが、最近やけに楽しそうだから理由を聞いてみたら、キミの話が出てね」

 

「……昔から物静かで感情も表に出さない娘だった。けれど、ある本を読み聞かせている時だけは目を輝かせ、続きをせっつかれたものだ」

 

「もしかして、その本というのは」

 

「そう。『鋼の救世主』さ。作者も不明。いつ書かれたかもわからない。けれど、人々の為に命をかけて巨大な悪に立ち向かう。そんな英雄達に憧れたんだろう。……だからこそ、全てを救う存在は物語の中にしか存在しない。……自分を救ってくれる存在は現実には決して現れる事は無いと思っているのさ」

 

 最後にぼそりと呟くディムナさん。隣にいるアールヴさんには聞こえたのか、少し悲しそうな表情をしている。何言ったんだこの人?

 

「リョーマ君、これからもアイズに色々話をしてあげて欲しい。これはロキ・ファミリア団長としてのお願いじゃない。フィン・ディムナとして……彼女の家族としてのお願いだ」

 

 先ほど謝罪してもらった時と同等かそれ以上の引き締められた顔を見せるディムナさん。

 

「ええ。俺でよければいくらでも。それに、ベル君も愛読してますし、彼もいい話し相手になってくれると思いますよ」

 

 あのがっちり握手を俺は忘れてないからな。

 

「はは、そうだね。なら、ベル君にもよろしく言っておいてくれるかな?」

 

 それから、しばらく雑談した後、二人は帰って行った。なんか謝罪より他の話の方が長かった気がするが……楽しかったからいいか。

 

SIDE OUT

 

 ヘスティア・ファミリアを後にしたフィンとリヴェリア。交わされる会話の話題は先ほどまで顔を合わせていた青年であった。

 

「それで、どうだったリヴェリア。アイズの“お兄さん”は?」

 

「あの年にしてはずいぶんと落ち着いていたな。それにこちらへの気遣いも感じられた。……ウチの連中に見習わせたいくらいだ」

 

「大事な娘を誑かす不届きな輩じゃなくて安心したかい?」

 

「ふん、もうその手には乗らんぞフィン」

 

「あはは、残念。でもそうか、()()()()()()()()。ねえ、リヴェリア。僕がリョーマ君にした質問を覚えているかい?」

 

「彼が冒険者かどうかと聞いたアレか?」

 

「うん。そして彼はこう答えた。自分はヘスティアから『恩恵』を授かっていないと」

 

 自分の記憶と相違ない事を確認しリヴェリアは頷いた。

 

「それがどうした」

 

「これってさ、微妙に質問の答えになってないんだよね。僕は冒険者かどうかと聞いたけど、彼は『恩恵』と返答した。それに、ダンジョンに潜っていないとも言わなかった」

 

「……まさか、彼が『恩恵』も無しにダンジョンへ挑んでいるとでも思っているのか? その危険性を理解していないお前ではないだろう」

 

神の『恩恵』により己の能力を引き上げていく事で人は強力なモンスターと戦う事が可能となる。それを無視するという事=死である事は()()()()()()()()()()()の常識だった。

 

「でもね、リヴェリア。僕の親指が疼くんだ。リョーマ君が“戦う者”であると。それもとびっきりのヤツだってさ」

 

 それがこれまで何度もロキ・ファミリアの窮地を救ってきたものだと理解しているリヴェリアは目の色を変える。

 

「まさか……本当に? しかし、それが真実ならば冒険者の間で噂になってもおかしくないはずだ」

 

「そこなんだ。けど、僕が調べた限りダンジョン内で彼に見かけたものはいない」

 

 まあ、上層と中層ではの話だけど……とフィンは告げる。

 

「では下層よりさらに先だと? 一人で? 『恩恵』も無しに? そんな事はありえない」

 

 リヴェリアの中で、先ほどまでの誠実そうな青年の姿が今では得体の知れない何かに変貌していた。

 

「彼は悪い子ではない。それは断言できる。でも……秘密を抱えているのは間違いないだろうね」

 

「ロキに伝えるか?」

 

「止めておこう。ここまでの話は全て確証のないものでしかない。ロキなら面白がるだけかもしれないが、許してもらったばかりでまた怒らせるような事につながる真似は避けたい。アイズの為にもね」

 

「……わかった。お前がそう言うのならこの話は胸に秘めておこう」

 

 ロキ・ファミリアのホームまで後数分。二人は無言で歩みを進めるのであった。




悲報、オリ主何もしてないのに警戒される。

次回から怪物祭りですが、ちょっとだけオリ主が活躍する予定です。あくまでちょっとだけですが。
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