騎士(笑)の日常   作:ガスキン

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潜入!乙女の園 その二

食堂への道中、すれ違う女の子達からの視線が刺さる刺さる。総勢十人もの大所帯で移動、しかもそこに野郎がいれば注目を浴びるのも仕方ないわな。

 

「な、なんか、動物園の動物になった気分ッス」

 

居心地が悪いのか、兵藤君が背筋を丸めながら歩く。対象的に、アザゼル先生は嬉しそうにその前を歩いている。

 

「おいおい、イッセー。こんなにもたくさんの女の子が視線を送って来るんだぞ。男ならもっと喜べよ」

 

「な、なるほど! 確かに・・・!」

 

「フューリ・・・神崎を見てみろ。あんなにも堂々としてやがるだろ。女の視線には慣れっこなんだよ。お前もあれくらいドッシリ出来ないと舐められるぜ」

 

「う、うっす! ・・・にしても、先輩さっきから織斑先生の背中をジッと見つめてますけど、ひょっとしてあんな人がタイプなんスかね?」

 

「さてな・・・同じ人外どうし、惹かれるものがあるんじゃねえのか。これはリアス達に要報告だな」

 

うーむ、やっぱりどんなに観察しても“滅”の字なんて見えないな。やっぱり気のせいか? ま、そりゃそうだよな。ゲームキャラじゃあるまいし。

 

(・・・この視線。どうやら“測られている”ようだな。ふふ、神崎亮真・・・先程の殺気と合わせ、今までに出会って来た男とはどうも違うようだ)

 

ん? なんか織斑先生の肩が小刻みに揺れてるぞ。寒い? それとも思い出し笑いでもしてるのだろうか。

 

「マドカ、あの神崎という男・・・」

 

「強いね。けど姉さん相手に迂闊だよ。あんなバレバレなやり方じゃ。現に私達ですら気づけたんだし」

 

「ああ。しかし、千冬さんは特に気にしているようではないな」

 

「あれが絶対的強者の余裕ってやつだね。流石姉さん、そこにしびれる憧れる」

 

うーむ、なんだか変な寒気がするぞ。この寮、冷房効き過ぎじゃないのかなぁ。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

「ここが食堂だ」

 

織斑先生が扉を開けた先には思わず目を丸くするほどの広大な広間があった。そこに並べられた机や椅子は百や二百どころではない。

 

「さて、更識は・・・あそこか」

 

織斑先生の視線の先の席に四人の少女が着いていた。みんなでそこへ近づくと、その中の一人、扇子を持った水色の髪の少女が立ち上がる。

 

「待たせたな更識」

 

「いえいえ、私達もつい先ほど来たばかりですから。それで・・・そちらが例の?」

 

「ああ」

 

「ではご挨拶を。ようこそ、弓弦女学園へ。生徒会長を務めさせて頂いている三年生の更識刀奈と申します」

 

自己紹介と共に扇子を開く更識さん。すると、そこには『歓迎』の文字が書かれていた。まさか、このためだけに用意したのだろうか?

 

「三年生、生徒会会計の布仏虚です。この度は私達の事情であるにも関わらず、ご協力頂きありがとうございます」

 

続いて、眼鏡に三つ編みという、いかにもしっかりしている少女が頭を下げる。

 

「こんにちはぁ。布仏本音だよ~。生徒会書記で二年生で~・・・く~~~」

 

「本音! こんな所で寝たら風邪ひくでしょ!」

 

なんだかのほほんとしてるな・・・と思ってたらいきなり寝ちゃったよこの子! 布仏さんが微妙に間違っているツッコミで彼女を起こした。

 

「す、すみません。この子は私の妹なのですが、こういう性格でして・・・」

 

「ああ、気にしなくていいぜ。それで、最後にそっちの嬢ちゃんの名前は?」

 

アザゼル先生が見つめる先には、更識さんと同じ水色の髪に眼鏡をかけた少女が座っている。その子は先生の視線に気づくとビクッと体を震わせた。

 

「この子は更識簪。私の妹で・・・今回の事件の被害者です」

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

簡潔に自己紹介を済ませ、俺達は席に着き、改めて今回の事件の経緯を聞く事となった。

 

「事件が起こったのは、今から三日前。セキュリティシステムのメンテナンス開始の翌日です。現場はこの寮で、被害に遭ったのはこの子を含めて三十人を超えています」

 

「さ、三十人以上!?」

 

「それは・・・」

 

「ふん、随分と派手にやらかしやがったな」

 

被害報告に驚く俺達。せいぜい一枚二枚くらいだと思っていたが、まさかたった一度でそこまで大量に盗み出すとは。

 

「私の下着は無事でしたが、虚も被害に遭っています。あと、そちらの子達も何人か・・・」

 

篠ノ之さんとデュノアさんの頬が赤い。たぶん彼女達が被害者なのだろう。

 

「単独犯とは思えねえな。二人・・・いや、三人はいてもおかしくねえか」

 

「私も最初はそう思ったんですが、どうも違うようなんです」

 

「なに?」

 

「・・・簪ちゃん、話せる?」

 

「う、うん・・・」

 

「無理はしないでね」と優しく更識さんが妹さんの背中を摩る。

 

「え、えっと、あの日、私は体調を崩して早退して寮に帰ったんです」

 

そうして妹さんがフラフラ状態で寮の前に着いた時、中から男が飛び出して来たのだとか。やけに膨れた片手カバンに作業服を着ていたその男は、血走った目を妹さんに向けると、恐ろしい速度で駆け寄って来たらしい。怖っ! 聞いた俺ですら怖いんだから、当事者の彼女の恐怖は凄かっただろうな。現に、今こうして話している間も、妹さんの体が震えている。男は妹さんのあげた悲鳴に驚いて逃げていったそうだが、それが不幸中の幸いだった。

 

だが、次に妹さんの口から出た言葉に、俺達はさらに驚く事となる。

 

―――男には二枚の黒い翼が生えていた。

 

「ッ・・・!」

 

「被害を受けた子はみんなバラバラの階に住んでいます。中には一番上の階に住んでいる子も。しかも、扉の鍵はしっかり閉まっていた。ならば犯人はどうやってベランダに干してあった下着を盗んだのか? この寮は階段状の設計になっていますが、まさか、わざわざ一階からよじ登ってまで上の物を狙う必要があったのか? この子の言うとおり、翼があって空でも飛べれば話は別ですが・・・」

 

流石にそんなファンタジーありえないと苦笑いを見せる更識さん。恐怖で見えないものが見えてしまったとでも思っているのだろうが・・・俺達は笑えない。何故なら心当たりありまくりだから。

 

「さらに不可解なのが、どうして犯人がこのタイミングで現れたのかです。まるで、メンテナンス中だと知っていたかのようで私には不気味なんです」

 

再び扇子を開く更識さん。あれ、『謎』って書いてある。おかしいな、さっきは『歓迎』だったのに、いつの間に別の扇子を?

 

「・・・まあ、色々わからない事件ですが、私としては簪ちゃんを怖がらせた犯人を許す気はありません。・・・叶うならこの手で断罪してやりたいです」

 

今度は『激怒』か・・・。でも気持ちはわかるな。妹さん、凄く辛そうだもんな。・・・うん、俺もムカついてきた。こういう女性を狙う犯罪はマジで許せん。

 

「更識、お前達を守るために彼等に協力をしてもらうのに、お前達が動いてどうする」

 

「あら織斑先生。私達がただ大人しく守られるだけのお姫様だと思いますか? そうでしょ、みんな?」

 

その言葉を合図にしたかのように、篠ノ之さん達がそれぞれに何かを持ち出してきた。

 

「み、みなさん、何ですかそれは!?」

 

山田先生が仰天している。いやうん、確かに色々おかしいよね。篠ノ之さんと織斑さんの木刀と竹刀は百歩譲ってわかるけどさ、オルコットさん、そのライフルは何? デュノアさん、キミの右腕を覆うそのゴツイのは? ボーデヴィッヒさん、そのぶっといワイヤーで何を縛るつもりかな? 凰さん、その青龍刀は当然模造刀だよね?

 

「サバイバルゲーム部の方にお借りしたライフルですわ。わたくし、お父様の趣味だったクレー射撃を多少嗜んでおりますから、これさえあれば、犯人なんてチョロいですわ」

 

「僕はコスプレ同好会の子に貸してもらったんだ。ええっと、確かパイルバンカーだったっけ?」

 

「私のこれはクラリッサからもらったんだ。痴漢撃退用とかなんとか」

 

「アタシは歴史研究部の部室から引っ張り出してきたわ。他にも槍とか斧とか色々あったけど、一番しっくりきたからこれにしたわ」

 

「どうです、織斑先生? これだけの有志が集まれば流石に・・・」

 

刹那、更識さん以下六人の頭に出席簿が次々と振り下ろされていった。悶える七人に織斑先生がたった一言だけ口にした。

 

「没収だ」

 

ですよねー。

 

「だ、大丈夫ですかみなさん」

 

「あはは~。痛そうだね~」

 

いや、割と笑い事じゃないと思うよ。なんか織斑さんとかオルコットさんの頭から煙みたいなのが立ち上ってるし。

 

「我の強いお前達だ。どうせそんな事を言うだろうと思っていた。だが今回は私達に任せて大人しく言う事を聞け。そもそも、犯人が再び来るかどうかも定かではないのだぞ。我々の目的は犯人を捕まえる事が第一ではあるが、そうでなくともメンテナンス完了まで待てばいいだけの話なのだからな」

 

「ですが・・・」

 

「それとも何だ? この私が下着泥棒などという下衆に遅れを取るとでも?」

 

不敵な笑みを見せ、某冥王さんみたいに胸の前で拳を合わせる織斑先生。やだ、この人イケメン過ぎる。すごく美人だけど、生まれてくる性別間違ってたような気がする・・・。

 

「織斑先生の言う通りだ。ここは俺達に任せとけ。・・・どうも、お前らじゃ荷が重そうだからな」

 

「アザゼル先生、犯人に心当たりが?」

 

「当たらずとも遠からずとだけ言っておこうか。とにかく、もし犯人がまた来たら俺達が絶対捕まえてやるから安心しろ」

 

「先生の言う通りだ! 話聞いてて、俺マジで犯人が許せなくなった! もしも俺の前に現れたら絶対にぶちのめしてやる!」

 

おお、兵藤くんがイケメンモードを発動したぞ。こうなった彼は頼りになるからな。よし、俺も気合を入れる為に何か言わないと!

 

「俺は男だ。下着を盗まれる辛さを真の意味で理解は出来ないだろう」

 

一旦言葉を切り、俺は更識さんの妹さんの方を向いた。妹さんもやや俯きがちながら、俺の視線から逃げずにいてくれていた。

 

「だが、そんな俺でも、キミの抱く恐怖の原因を消し去る事は出来るかもしれない。キミの笑顔を・・・そして、ここにいるキミ達全員の平穏を取り戻す為、俺の全力でこの事件に挑む事をここに誓う」

 

ちょっと芝居がかかったセリフになってしまったが、自分を追い込むという意味ではこれくらいがちょうどいい。さあ、これで何も出来ませんでしたじゃ済まなくなったぞ、俺。せいぜい頑張れよ。

 

けど、やっぱり慣れない真似はするものじゃないね。顔が熱いし、今更ながら恥ずかしくなって来たわ。

 

(お、おお、先輩もかなり頭にきてるみたいだな)

 

(犯人終わったなこりゃ・・・。むしろコイツがやり過ぎないよう見張っておく必要がありそうだ)

 

ほら見ろ、兵藤君が顔を引き攣らせてるじゃないか。アザゼル先生も呆れたようなジト目だし。「こんな時くらい真面目にしろ」って言われてるみたいだ。

 

(この人・・・まるで・・・)

 

その中で、妹さんだけが笑うでもなく、呆れるでもなく、真剣な表情で俺を見ていた事にちょっとだけ救われた。他の子はみんな顔が赤くなるほど怒ってるみたいだし。あののほほんとした布仏さんの妹さんですら頬が若干紅色に染まっている。

 

まあ、一番怖いのは織斑先生なんですけどね。なんなのあの獲物を狙うような目は。そんなにさっきの俺の発言が気に食わなかったんですかね。

 

「ゴ、ゴホン! そ、そういう事でしたら、この件は先生達にお任せいたします。とはいえ、直接的な事は自重しますが、何か手助けが必要な時はいつでも声をかけてくださいね」

 

わざとらしい咳をし、更識さんがそう纏める。それはいいんだが、扇子に書かれた『無自覚?』ってどういう意味だろう?

 

「決まったな。なら、俺はちょっと連絡する所があるから一度外に出てくる」

 

アザゼル先生がそう言って立ち上がる。そしてそのまま食堂から出ていこうとして・・・動きを止めた。

 

「何だありゃ・・・?」

 

気づけば、食堂の入口の方に大勢の女の子達の姿があった。皆興味津々といった様子で俺達に視線を向けていた。

 

「更識。早速だが、あそこにいる連中を即刻解散させろ。これでは食堂から出られん」

 

「了解です。ほら、あなた達! 織斑先生の出席簿をお見舞いされたくなかったら道を開けてちょうだい」

 

更識さんの言葉に、女の子達が一斉に道を開けた。どうも、織斑先生の出席簿の恐怖はここにいる子達全員が知っているようだ。

 

「イッセー、神崎、俺が戻るまでにこの寮を一通り回って敷地内の把握をしておけ。まずは大まかな侵入経路の予想をたてるぞ」

 

「わかりました」

 

「ウッス!」

 

「私も行こう。詳しい者がいた方がいいだろう」

 

「あ、それでは私も」

 

「では、山田君は兵藤君の方を。神崎君の方は私が案内しよう」

 

「お願いします」

 

こうして、俺達は下着泥棒の再来に備え、それぞれ動き始めるのだった。




今回、更識姉妹と布仏姉妹が出てきましたが、この世界の更識家は暗部なんて物騒な設定の無い普通の裕福な家庭なので、名前も刀奈のままです。簪の方は原作よりもさらに引っ込み思案で、今回の事件で若干の男性恐怖症になっております。
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