GANTZ 〜SIDE G〜   作:@蛇足

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FILE.4 ある事故

 

 

[羽鳥 純]

市立昴星条高校 正門前/05:28 P.M.

 

 

学校が完全下校時刻を迎える頃、純は正面玄関にいた。

既に下駄箱で靴に履き替えているはずなのに、何故かすぐ帰らずその場で座っている。

雨が弱まるのを待っているのだろうか。

頬杖をついて外の様子を眺めていると、1人の生徒がやってきた。

 

 

 

 

「ごめん羽鳥くん。お待たせ」

 

 

「全然大丈夫。話しまとまった?」

 

 

 

 

全く気にしてない。

そんなジェスチャーを交えて純は立ち上がり、相手を迎えた。

やってきたのは文化祭の実行委員である岡島。

今日初めて会話を交わした2人。

接点など今まで全くなかった2人がどうして一緒に帰ることになったのか。

きっかけは数十分前。

純が完成させた看板を岡島に渡したときのこと。

 

 

 

 

「ううん。飯田さん達の分、誰が賄うか決められなかった」

 

 

「そうか」

 

 

 

 

純が岡島に看板を渡したとき、彼女はクラスメイトと衝突していた。

その時は何があったか聞かなかったが、気になった純が後から聞いてみるとクラスメイトに均等に分け与えた仕事が一部進んでいなかったようで。

進んでいなかったのは、あの時純とすれ違った女子生徒、安倍と飯田の分とのことだった。

岡島が話していたのは安倍と飯田と仲の良いクラスメイトだったらしく、同じ班としてどうにかノルマを達成して欲しいとお願いしたのだが。

 

 

 

 

「本当は自分たちの仕事なんだから、本人にやってもらいたいのに…なかなか上手くいかないな…」

 

 

「しょうがないよ。安倍さんたちみたいな人とは俺らみたいなとのは、住む世界が違うから」

 

 

 

 

日向と日陰。

派手と地味。

別の境遇で育った人の価値観の差。

それが今浮き彫りになっていると、純と岡島は認識を共有する。

 

 

 

 

「うん…。でも実行委員になったからにはもう少し勤めを果たしたい。ちゃんと手伝ってくれてる人たちに申し訳が立たなくなっちゃう。女子同士でダメなら男友達に行ってみるしかない。1番2人と仲良さそうなのは林くんかな…」

 

 

 

 

岡島の言葉に純の眉間が微かに動く。

純は岡島に悟られないように顔を背けて話を続けた。

 

 

 

 

「いい案だと思う。林くんなら期待できるよ」

 

 

「私一度だけ林くんとお話しする機会があったんだけど、とても優しかったんだ。背高いし、髪ツンツンしてるから怖い人だなって思ってたんだけどそんなことなくて。なんか私、見かけで相手のこと決めつけちゃったなって少し反省したし…ってごめん。そんなことどうでもいいよね…」

 

 

 

 

誰も促した訳でもないのに、喋り出した内容に我に返った岡島が慌てて否定した。

特別気にしてなかった純だったが、その淡々とした彼の様子がかえって自らの恥ずかしさを浮き彫りにさせたのか、岡島は話題を変えてきた。

 

 

 

「そう、だから協力してくれるかもって思ったの。それで、さっき言ってたことなんだけど…ほんとにいいの?」

 

 

「うん。この雨だし1人じゃ大変だと思うから、買い出し手伝うよ」

 

 

「本当にありがとう。まさかこんなに早くペンと絵の具切らすと思わなかったから…へへ」

 

 

 

 

そう。

これが2人で帰ることになった理由。

立て続けに仕事が舞い込む岡島を見て打診してみたところ、猫の手も借りたい状態の彼女は快く受け入れてくれた。

岡島も靴を履き替えて2人は正面玄関を後に。

 

 

 

 

「雨、すごいね」

 

 

 

道幅に出過ぎないよう気をつけて2人は並んで歩いた。

視界を遮るほどの強い雨から傘で身を守りながら、目的地である文具書店へと歩を進める。

ここから近いところだから被害も負担も最小限で済ませよう。

と、考えていたのだが。

 

 

 

 

「て、定休日…」

 

 

「これは予想外だね」

 

 

 

 

無情にも到着した先の店は閉まっていた。

扉には『定休日』と書かれた看板が掛けられている。

その看板を見て岡島がわかりやすく肩を落とした。

後ろから見ても表情も落ち込んでいるのがわかる。

おとなしい子だと思っていたけど、案外感情豊かなようだ。

見かけで判断してはいけない。

岡島が言っていた言葉が自分にも当てはまった瞬間だった。

 

 

 

 

「どうしよう。明日また出直す?明日になればまだ天気はマシになってるはず…」

 

 

「そうだね。でもそしたら作業が止まっちゃう。準備期間は決まっているし。ただでさえ作業が遅れていて人が少なくなっちゃったから、少しでも巻いて行かないと」

 

 

「だよね…。どうしよう」

 

 

「駅の方まで行ける?少し遠いけど改札前に文具店あるの知ってる」

 

 

「そうなの⁉︎」

 

 

「う、うん。俺そこで学校行く前に買ったこととかあるから…」

 

 

「なら行こう!」

 

 

 

 

岡島の気迫に気圧されながら、純は彼女に連れられて駅の方へと歩いていった。

約5ヶ月前。

入学する時には想像もしていなかったシチュエーション。

環境の変化というのは、時に自分が予期しない出来事も起こり得るのだと純は思った。

それは当然、プラスだけでなくマイナスにも変化する可能性を帯びていることを忘れてはいけない。

 

もし。

運命というものがあるのなら。

数ある条件と確率から収束された1つの事実が運命と呼べるのかもしれない。

あの時、もう片方の選択をしていたら。

あの時、いつもより行動を起こすのが早かったら。

別の未来が待っていたのだと考えてしまうのは自然なことだ。

 

 

 

 

「あ、あれ駅に向かうバスじゃない?」

 

 

「うそ!私たちツイてる!羽鳥くんあれ乗って行こう!」

 

 

 

 

この瞬間だってもしもの可能性は考えられる。

もし。

大型台風が迫っていなかったら。

もし。

もっと道具を準備していれば。

もし。

文化祭期間でなかったら。

 

あの時間(とき)あの場所であの条件で。

 

純はきっとたまたま通りかかったバスなど乗っていなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『速報です。今日午後6:20ごろ、群馬県高崎市の駅前でバスとトラックが衝突する事故が発生しました。この事故でバスに乗っていた乗客、少なくとも2人が死亡、3人が意識不明の重体です。現場では先日発生した台風により強烈な雨が降っており、警察によりますと事故原因はトラックの運転手による操作ミスと見られているとのことです』

 

 

 

 

 

 

 

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