GANTZ 〜SIDE G〜   作:@蛇足

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FILE.5 黒い玉

 

 

バスが駅に着こうとする時に。

窓の向こうから大型トラックが突っ込んでくるのが見えて。

咄嗟に身体が反応した次の瞬間には……。

 

 

ぎゅっと瞑っていた眼を開くと、純は見知らぬ場所にいることに気がついた。

先ほどまでバスの中にいたはずなのに。

ここは…。

 

 

 

 

「……。は?」

 

 

 

 

窓から差し込む月明かりだけが部屋の照明替わり。

特徴的な三角屋根に合わせてはめられた窓から、僅かな光が照らされる暗闇に、視界のピントが少しずつ適応してくる。

純は丸くしていた身体を起こすと、自身の目の前に広がる光景を見渡した。

 

 

 

 

 

「なん…で? 俺、バスの中に……」

 

 

 

 

床一面に敷き詰められたフロアタイルの上には3人掛けのベンチが複数設置されており、年季を感じる壁には様々な種類の広告が貼られていた。

禁止事項、ガイドマップ、そして一際目を引いたのが“時刻表“。

そしてその隣に伸びる"改札口"。

ここがどこなのか。

その答えを知るのに一発で辿り着くほどの充分な情報。

 

 

 

 

 

「駅…駅舎なのか」

 

 

 

 

しかし、よく見るとこの時刻表、上下線ともにかなり少ない。

外を見てみれば、木々が生い茂っており、とても人が頻繁に利用するような駅には見られない。

目的地であった駅とは外観も内装も全く異なる場所。

加えて年季の入った雰囲気が、時代錯誤を襲わせる。

 

極め付けは部屋の奥に佇む…巨大な黒い玉だ。

壁紙よりも、インテリアよりも、尋常じゃない存在感を放つ謎の物体が部屋の後部中央に鎮座している。

位置で言えば、出入り口の扉から改札口までの直線上途中。

高さは純の胸元くらいまである。

何も変哲のない巨大な玉。

だからこそ、返って一層の不気味さを助長させている。

 

 

 

 

 

「なんなんだよこれ」

 

 

 

 

 

滑らかな質感に、無機質な冷たさが手から伝わってくる。

これは…現実か?

さっきまでバスに乗っていたのに、トラックが突っ込んできた瞬間、気がついたら駅の中って。

どうしたら、こんなことになるんだ?

 

 

 

 

 

「そういえば。岡島さんはどうなった」

 

 

 

 

ここがどんな所なのかの疑問が吹き飛び、続いて襲ってくる岡島の行方。

キョロキョロと首を動かすが、この広い空間にはたった一人、羽鳥純の姿しかない。

 

 

 

 

「誰もいないのか」

 

 

 

 

駅舎の中をぐるぐる見回っても、人のいる痕跡は見当たらなかった。

つまり、今ここにいるのは純ただ一人ということになる。

彼女、無事だといいが。

とりあえずは助かったようだけど、これからどうするか。

どこかわからないこの場所で、暗闇の中で森を彷徨うのもな…。

壁に寄りかかり、座り込む。

外に出るのは、朝まで待ってから。

ぼんやりとした頭でそう決めたとき、一筋の光が部屋の中を横断した。

 

 

 

 

ジジジッ…………

 

 

 

「⁉︎」

 

 

 

部屋で閃く青白い光は黒い玉から伸びていた。

そしてその青白いは、あろうことか。

…人を創り出していた。

 

 

 

 

「マジかよ…」

 

 

 

 

下から上へ作り出される人間は断面がモロに見えていた。

モザイクなど一才ない、生の内蔵。

脚、胴と創られ、遂に頭へ。

そして全貌が現れると、玉から伸びていた青白い光は、線香花火のように儚く消えた。

 

 

 

 

 

「……。」

 

 

「………。」

 

 

 

 

 

出来上がった…もとい、出てきたのはスレンダー体型の女。

切れ長の一重の目に、ひとつに纏めたお団子ヘアをしている。

それよりも目を引くのは、女が着ている独特なデザインをした黒いスーツだ。

暗闇の中で青白く光るポインターがところどころに付いていて、その奇抜さが一層増して見える。

 

 

 

 

「こら中学生。(ヒト)の身体をジロジロ見るんじゃないの」

 

 

「いや、別に…。というか、違います。俺高校生です」

 

 

「そこかよ」

 

 

 

 

中学生か、高校生か。

実際のところどっちでもいい。

そうとれる返事をすると、女は待ってた服を身につけると部屋の隅まで進み、立ったまま壁に寄りかかった。

 

 

 

 

「あ、あの」

 

 

 

 

純が女に再度会話を試みる。

しかしそれを遮るように、純の目の前をあの青白い光が横切った。

 

 

 

 

「あぶね」

 

 

 

 

続いて伸びる青白い光も先程と同じように人を創り出している。

今度も下から上へ。

見えてくるのはびちょぬれになった制服に身を包まれた女。

 

 

 

 

 

「あ…」

 

 

 

 

出てきた人物を見て、純は思わず声を上げた。

それは見覚えのある人物。

純が乗っていたバスにいたあの女子高生だった。

 

 

 

 

「え……。は…?」

 

 

「君は…」

 

 

「……?……!」

 

 

「あらかわいい子。すごいびちょびちょじゃん。なんでそんな濡れてんの?」

 

 

「なんなんだよさっきから。どうなってんだこれ」

 

 

「どうって。貴方もこうして出てきたんだよ。ここにね」

 

 

 

 

オドオドしている女子高生の様子を、女は可笑しそうに笑って見ている。

先ほど出てきた純と全く同じリアクションをしている女子高生は、純の存在には気がついたようだが、状況の飲み込みは出来ていなさそうだった。

 

 

 

 

「なんで…?私、バスに乗ってたのに」

 

 

「バス…そうかやっぱり」

 

 

「何?同じバスに乗っていたの?」

 

 

「はい。大雨の中バスに乗ってて。そしたら急に大きなトラックが…」

 

 

「なるほど、それでここに来たわけね」

 

 

 

 

純の言葉を聞いて女は顎に手を添えた。

どこかひとり納得した様子を見せる女に、純は確信を覚えると堰き止められていた言葉が湯水のように込み上げてくる。

 

 

 

 

「はあ…さっきからジロジロと…」

 

 

「あの、ここはどこなんです?俺たちは一体どうなって…」

 

 

「あーもう嫌だ嫌だ」

 

 

「……。」

 

 

「はあ…キモ」

 

 

「えっ…」

 

 

「そのうちわかるから。黙って大人しくしててくれない?」

 

 

 

 

無情にも女は背を向け、再び部屋の隅へと移動とした。

必死な訴えも、露知らず。

話し始めてから、二人は一度も目が合うことのないまま、一方的に拒絶の意思を示された。

 

 

 

 

「あ、女子高生。身体早く拭いた方がいいよ。ワイシャツが透けててあらセクシー。男からいやらしい目で見られちゃう」

 

 

「!?」

 

 

 

 

勢いよく身体を丸める女子高生を見て女はまた微笑んだ。

それからも、部屋には続々と人がやってきた。

老若男女問わず、バラバラ。

どちらかといえば、年配の人たちが多いだろうか。

黒い玉から出てきた人たちは皆口を揃えて状況が飲み込めず、慌てふためいている。

これが女の言っていたことなのか。

そのうちわかる。

これから何か起きるのか。

まるで何かを暗示するように、外の木々が夜風に吹かれて唸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

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