あれから数十分。
人は増え続け、現在部屋にいるのは全員で14人。
皆が漏れなく、あの黒い球から出てきた。
部屋と言っても場所は駅舎だが、とは言えここまで増えると流石に窮屈さを感じる。
中学生くらいの男の子に、その隣に座る老人。
項垂れて微動だにしないリクルートスーツの男に、その男に話しかけている金髪の男。
腕を組み、壁に体重を預けているメガネをかけた初老の男。
ベンチに座るヤンキーみたいな見た目の男に、先ほど話しかけてきたツリ目の女。
大柄で相応に歳を重ねているであろう、背の高い大きな目の男に、部屋の隅で震えている女子高生。
そして極め付けは騒いでやまない老人たち。
理解ができないという恐怖から、場は混沌と化していた。
「どこなんだここは!」
「なんで外に出られない!開けるどころか触れられんぞ!」
「娘に、娘に会わせてちょうだい。あの子自分の親に向かってよくもあんな仕打ちを…」
先ほどからこの寝巻き姿の老人4人が部屋から出たいがために右往左往している。
痩せ細った身体からよくそんな大きな声を出せるなと、むしろそのバイタリティに驚かされる。
「そこのあんちゃん!教えてちょうだい!ここはどこなの!」
「さっきからうるせえんだよ!黙ってくたばってろ!」
老婆に声をかけられた、ベンチに座るフェードカットの若い男、
声をかける相手を間違えたなと思うと同時に若い男の方にも同情する。
そんな男の言葉違いが気に食わなかったのか、老婆はさらにヒステリックになって激昂する。
そんな老婆を背の高い男が嗜める。
「な、なにを…」
「落ち着いてください。彼も悪気はないはずです。ね?」
「……。」
「取り乱すのも無理はないですよ。こんなところにいきなりやってきたら。私もそうでした」
「なんだ。お前さん、来たことあるのか?」
「ええ。実は」
男の言葉に、爺さんと婆さんが息を呑む。
穏やかだった表情が一変。
男の目がたちまち真剣な目つきに変わった。
「おいそこの制服」
男は老人たちを呼び寄せると、小声で彼らに話しかけた。
何を話しているのか。
純も気になるその後の内容が、今彼がいる位置からでは聞き取れない。
「おいって。そこの学生」
突然声をかけられて、思考をめぐらしている純の肩がビクッと跳ねた。
いそいそと振り返ると金髪の男がこちらに声をかけていた。
「おい、聞こえてんのかよ」
「すんません。なんですか」
「なにって。お前バスに乗ってたやつだよなって聞いてんの」
「はい?」
男は小声で次々と質問を浴びせてくる。
なんでそんなことを。
と、疑問が脳裏をよぎったが、すぐさまバスに乗っていた時の記憶が蘇る。
この男。
バスに乗っていた男だと。
「あっ」
「やっぱりか、俺も乗ってたんだよ同じバスに。そこにいる冴えない兄ちゃんもな」
そう
岡田に名前を呼ばれたことに気がついたのか、
「事故ったバスに乗っていたヤツが4人もいるなんてな。ほら、あそこにいる女子高生もそうだろ」
「そう、みたいです」
岡田は純の方を見ながら部屋の隅で震えている
「死んだと思ったら、次の瞬間ここにいて。密室の部屋に閉じ込められてる…。もしかしたらこれから何かやらされたりしてな」
「やらされるって、何ですかそれ」
岡田の答えが気になり、純が前のめりになって返事を聞こうとした、その時。
前方で男と話していた老人たちから、怒鳴り声が聞こえてきた。
「真面目に聞いていればなんだ!」
「年寄りを揶揄うのもいい加減にしろ!」
「なんだなんだ。まだ騒いでんのか爺さんたち」
背の高い男に食ってかかるように年寄り4人が詰め寄る。
静かになったと思ったらまた騒ぎ出す始末。
「はっ。」
どんなに手を打っても無駄。
部屋にいる人物のほとんどが認識を改めてたところで、大音量の歌が突然流れ始めた。
『上を向いて〜歩こう〜 涙が〜こぼれ〜ないように〜』
声を荒らげていた老人たちもすぐさま鳴りを潜める。
ラジオにしてはとても音質が古い。
ゴロゴロと渦巻くようなノイズが響き、とても不快な音を奏でている。
聞いたことある曲だが、誰かがカバーしたやつなのか、合唱スタイルバージョンだった。