五
先程まで藤波ナツメと喋っていたやくざ者の首から突如として血しぶきが上がったので、思わずナツメも彦沢ミナミも二、三歩跳び退いた。
既に学園都市の裏社会に属するエリアに入り込んでいるとは言え、このような事態に巻き込まれるというのはまず尋常では無い。
ナツメの目は初めて鎌鼬を捉えた。
全身白装束の気味が悪い少女であるが、白装束に血飛沫が掛かって所々赤くなっているのが目立って仕方が無い。
「ミナミさん。あれがお姉さんの命を奪った張本人でしょう・・・手口からしてまず間違いありませんね。」
ナツメは白鳥の宇兵衛から鎌鼬の情報を貰ってはいたものの本当に凶賊鎌鼬の仕業かと少しばかり疑っていた。
しかしながら今回その手並みを見るとこれは間違いなく頸動脈を刎ね切って命を奪う手法そのもので、犯人と鎌鼬の情報とが一本の線となったのである。
(だがしかし、この通りでミナミさんを庇いつつ戦って捕縛するというのは大分厳しいような。)
ナツメの装備は愛用の散弾銃と警棒くらいのものであって、盾も無ければ煙幕も無い。
これでは刃物を握っている相手に対し接近戦を挑んでも勝てるか怪しいものだった。
「あれがお姉ちゃんの仇・・・!」
先程までは比較的冷静であったのにやはり姉を殺した張本人を目にするとそうは行かないのか、自身が所持していた拳銃で発砲した。
すると鎌鼬、命を奪ったばかりのやくざ者を盾にして銃弾を防ぎ、思い切り跳躍して平屋の建物の屋上にひょいと飛び乗った。
そこからミナミの首筋目掛けて躍り掛かったのでナツメはこれは不味いと思い、足元に転がっていた手頃な大きさの石を掴んで鎌鼬の顔面目掛けて投擲したのである。
風を切って突き進む石塊が鎌鼬の顔面に直撃すると、空中での姿勢を崩したのか地面に降りて来るのでその隙を突いて警棒を持ち突撃した。
「・・・!」
背中から落ちた割にはすぐに立ち上がった鎌鼬はナツメの警棒による初撃を躱して逃げて行き、ナツメもその後を追った。
まるで風のように走る鎌鼬を追い掛けて行くと、なんとこの鎌鼬を庇うように立ち塞がった者達が居たのである。
それは合わせて六人程度の生徒だったが、皆揃って腕や首筋などに寺などで使う
「お前達、殺人犯を庇い立てすると碌な事にならないぞ!」
「いやそうはならない。ヴァルキューレの中でも裏社会に通じるお前さえ始末してしまえば事態は闇から闇という訳だ!」
「ははぁ、さては白鳥川河川敷の遺体から図面を買っていたのもお前達だな。それで邪魔になったか聞かれて不味い事でも聞かれたかして呼び出して殺した、そうだろう!」
「言うなッ、言うなッ!ええいそこまで分かっていたんじゃ仕方ねえ、やれ!」
一人の首領格の生徒がそう叫ぶと、他の五人が刃物を取り出して一斉にナツメに飛び掛かった。
学園都市の生徒には銃弾はあまり効果が無いが、刃物ならば十分な効果が見込める。
ナツメは愛用の散弾銃を構えてこれを迎え撃つ。
まずは右側から刃物を突き入れんとする生徒の腕に発砲し、流石の至近距離で散弾を浴びたこの生徒が大きく怯んだ隙に腹部へ拳を突き入れて気絶させた。
続けて左側からナツメの銃を持つ手を傷つけんとしてナイフを振りかざす生徒に対しては足を払って転倒させ、その隙に散弾を三発程度浴びせてこれもまた気絶させた。
すると残りの三人は無策に突っ込んで行くのは止めてナツメとの間合いを測り始める。
(そろそろリロードをしなければならないが・・・)
その隙を狙われては仕方が無いのでリロードもままならない。
懐には長さ九センチの長針こそ忍ばせてあるが、首領や鎌鼬に使うならまだしもこのような下っ端如きに使うのは避けたいと思い、まだ温存してある。
「あッ、藤波の先生に何しやがるんでい!」
そのような声が聞こえたかと思えばこの三人を背後から撃った者がいた。
これは白鳥の宇兵衛の配下の者達であって、恐らくは銃声を聞きつけてやって来たのであろう。
一人対三人ならばまだこの刺青の生徒達にも十分な勝ち目があったが、何しろ配下の者達が七人もやって来ては勝負にならないと踏んだのか、首領と鎌鼬含めた五人は退散していった。
「さっきの連中、藤波の先生に心当たりはあるんですかい?」
「いや・・・腕や首筋に卍の彫り物がしてあった事だけが気掛かりだ。」
「あっ、そりゃあ
一人の配下がそう叫ぶように言ったので他の配下とナツメが向き直った。
「卍党と言えば、あのゲヘナの方のごろつき共を集めた殺しも盗みもお手の物というあの?」
「卍の刺青なんてしてるのはあいつらしか考えられねえ。」
「そうか・・・ああ、この道を真っ直ぐ行った所にお前さん達のお仲間が一人、仏様になっているから引き取って来な。」
「えっ、それは一体何故なんで・・・」
「鎌鼬にやられたんだ。それを追っていたら卍党とか言うのにぶち当たったのよ。」
「大変だ、おい野郎共行くぞ!」
配下の者達が駆け出して行くのを見送りながらナツメは懐の長針を取り出して眺めた。
「白鳥の宇兵衛元締の一家から仏様を出したんじゃミナミさんには悪いが表稼業での解決は無理そうだ・・・」
明日、下手をすれば今日の内にも白鳥の宇兵衛から依頼が来るだろうと直感していたのである。
して、気絶させた卍党の構成員二人を睨み据えた。
「じっくりと