くすみがかったキャンパスライフを送っていた俺は、暴走トラックに撥ねられて死に、別人の体を持って目覚めた。
ここまではテンプレだが、チートを授ける天使には出会えていない。
その代わりに、ステータスプレートと思しきモノがふよふよと浮かんでいる。
「···え?」
俺の喉から出てきたとは思えないくらい高く透き通った声と、長く艷やかな黒髪。
白く細い肢体に、やや小ぶりながらも存在感を示す双丘。
そしておそるおそる股間に手を伸ばすと···男の象徴が影も形も消え失せていた。
「ああ、なるほどね···うん···」
現実感はいまいち湧かないが、やはり異世界転生したらしい。
異世界トラックって本当に存在したんだな。
TS願望がそれなりにあった俺としては、女性として生まれ変われたのは結構嬉しい。
服は着せて欲しかったけど···
『貴女の今世での名前を教えてください』
ホログラムディスプレイ(らしきもの)に目を向けると、この文面と共に記入欄が表示されている。
少し考えた後、画面上に指で『セリナ』と書いた。
この名前に大した意味はない。
この体の声が、俺がプレイしていたソシャゲの推しキャラの声になんとなく似ていただけだ。
『セリナさん、でよろしいですか?』
『はい』と『いいえ』が表示されたが、迷わず『はい』を選択した。
···その後は淡々と、テキストと簡素なイラストで構成されたチュートリアルが流れた。
多分半分も理解できていないが、とりあえず分かった事は3つ。
①俺はダンジョンマスター
②DP(ダンジョンポイント)を使ってダンジョンをイジったり、モンスターを召喚したり、その他アイテムを入手できる
③殺る気まんまんの冒険者が時々乗り込んでくる
DPってどうやったら手に入るんだよとか、人類と敵対する存在に転生はしたくなかったなとか、色々と言いたいことはあるが···
とりあえず『ショップ』を見てみるか。
チュートリアルは何度でも見返せるらしいし。
「本当にゲームみたいだな」
これもよくあるアイテム購入画面だが、品揃えはゲームよりもずっと幅広い。
武器やモンスターだけでなく生活必需品まで一通り揃っている。
ダンジョン内に仕掛けるトラップや、地形変更も出来たりするらしい。
他にもスキルや
しかし不老不死が1兆DPとは···いろいろと凄い。
「ナビゲーター···?」
ショップの商品一覧をスクロールしていると、一つの項目が目に入った。
商品情報には『貴女のダンジョンライフを手助けします』とだけ書かれている。
胡散臭いが、値段はなんと0DP。
無料ならまあ良いだろう···深く考えずに購入ボタンをタップすると、俺と向かい合う位置に立体映像が展開されていく。
「初めまして、私はナビゲーターのアリア。貴女のダンジョンライフを手助けします」
出てきたのは今の俺と瓜二つの──いや俺の顔は分からないけど──美少女だ。声も全く同じ。
ただし俺と同じく服を着ていないので、目のやり場に困る。
「···どうされましたか?」
「いや、服着てよ」
反射的に股間を隠す仕草をしてしまったじゃないか、もう“アレ”はなくなっているのに。
「服はショップで購入できますよ」
「え、バーチャルなのに金かかるんだ···」
一応、チュートリアルで10000DPは配布されているから買えないこともない。
とりあえず2000DPと比較的安価な白のワンピースを2着購入し···一瞬でアリアと
まるでゲームのキャラメイクだ。楽で良い。
下着は無いが、ここに自分以外の人間はいないから大丈夫だろう。
···アリアは多分人間じゃないのでノーカン。
「はい、毎度ありがとうございます」
「ショップを使ったのは初めてなんだけどね。···ねえ、今後もこんな感じでDP消費させる気?」
「と、言いますと」
「例えばさ、ここってトイレ無いよね」
今俺が立っている場所は、ダンジョンというより自然の岩窟だ。
床や壁面はゴツゴツとした岩が露出しているし、勿論トイレなんて上等なものは無い。
「トイレもショップで購入出来ますよ」
「だよね···いや高すぎない!?水洗トイレ10万DPとか買えないんだけど!」
「水源が無い場所に水洗トイレを設置するには、相応のDPが必要ってことですかねぇ···知りませんけど」
「汲み取り式トイレは1000DPだけど···溜まった排泄物はどこに捨てればいいんだ」
せめて地面が土なら、穴を掘って埋めればなんとかなるのに···ん?
「ダンジョンを作り変えればいけるかも」
『ショップ』の『ダンジョン』タブを開く。
どうやら初期状態は岩窟で固定されるけど、DPを支払えば区画ごとに地形を変えられるらしい。
岩窟、草原、森林、渓谷、山岳、水中···他にもいろいろあるけど、今回は草原を選択。
『範囲を指定してください』
購入ボタンを押すと、このダンジョンのマップが表示された。
現在は100×100マス程の入り組んだ洞窟迷路だが、指定したマスを緑化できるらしい。
お値段は1マスあたり50DPとかなりお手頃。
画面上の1マスが実際にどのくらいの大きさなのか分からないので、試しに俺が今立っている1マスだけを指定した。
すると俺を中心とした一辺2mほどの正方形のエリアが、一瞬で雑草の生い茂る土地に変化した。
足裏に伝わる感覚も、冷たく硬いゴツゴツではなく土と草のやわらかな感触になっている。
「これならトイレ問題もひとまず解決···解決···?」
「目の前で
「見なきゃいいじゃん!?」
野糞は嫌だがDPが足りない。
暫くは多少原始的な生活でも我慢しよう。
「トイレはこれで良いとして。後は衣食住を整えたいな」
衣···裸ワンピースとかいうエロ同人みたいな恰好だが、それでも全裸じゃないだけマシだろう。
それにこの開放感が中々クセになる。
優先順位はさほど高くない。
となると、問題は食料と住居か。
食料はDPで買えるようだが、有難いことに種類がかなり豊富だ。
カロリーブロックから肉汁したたるステーキまで幅広く、おそらく数千種類はある。
異世界でも現代メシが食えるとは···。
とはいえ、1日3食をDPのみで賄うのはさすがに厳しいかもしれない。
残りは5950DPだから、1食200DPとしたら300食未満。
手持ちのDPだけなら3ヶ月ちょいで飢える。
ワンピースを買ったのは失敗だったかも。
そして住居はもっと大変だ。
なにせ一番安いプレハブでも5万DPである。
「···『暗黒』エリアを設けて、そこにベッドと弱めの光源を置けば寝るには困らないかな」
よし、服と寝床は決まった。
後は食料···うーん···
いっそ外に出て野草を摘んだり、野生動物を狩ったりするか?
「そういえば、DPってどうやったら貯まるんだっけ?チュートリアルで、冒険者と戦ったら貯まるとか聞いたけど」
「はい、DPは他生命との戦闘で発生します。相手が強ければ強いほど、獲得DPも増加します」
「出来るだけ戦いたくないなあ···」
「模擬戦でもDPは貯まりますよ?敵対生命だけでなく、他生命ならOKなので」
「あれ、そうだっけ」
これは朗報かもしれない。
適当なモンスターを呼び出して、飼いならして、戦闘訓練を重ねれば生き延びられる。
「じゃあどのモンスターを召喚しようかな」
「え?そこは私を実体化させてくれるんじゃないですか?」
「実体化出来るの!?」
驚きつつも『ショップ』を開くと、確かに『ナビゲーターの実体化』という項目がある。
しかもこれまた0DP。···それなら最初から解放しとけや。
内心で軽く愚痴りながら『実体化』ボタンぽちー。
「ほぇー、これが人間のカラダ···」
人としての実体を得たナビゲーターちゃんが、白く小さなおててをぐっぱぐっぱして感動している。
中々に可愛らしいけど、これで遠隔で生身の人間がナビゲーターとして振る舞っている可能性はほぼゼロになってしまった。
つまり目の前の彼女はやっぱり人間じゃない。
「ひと目見た時から思ってたけど、アリアって本当に何者なの?AI?」
「AIとは···人工知能の事ですか?人類に私レベルで高度な知的生命を造るのは無理だと思いますけど」
「そういう事自分で言うんだ。···じゃあ誰が造ったの?」
「さぁ···神の戯れでしょうか?」
「この世界に神って存在するの?」
「いえ、適当に言っただけです。私の事を誰が、何のために生み出したのか···一切知りません。貴女によって目覚めさせられたのが一番最初の“記憶”で、ダンジョンに関する情報は“予めインプットされた情報”です」
···もしアリアの過去に上位生命体が関わっているのだとしたら、下手に詮索しない方が良さそう。
知覚しただけでSAN値を削られるタイプだったら最悪だ。
「っと、少し話が脱線しましたね。···DPは戦闘によって発生するというのは先程も言ったとおりですが、どういう訳か、その中でも一番効率が良いのは敵対生命との戦闘です。しかし貴女は“いのちだいじに”タイプなので、DPはあまり稼げないでしょう。食料はダンジョン外でも調達する必要があります」
「じゃあ武器とか防具とか買って、早速行こう。なんならモンスターをダンジョン外に···」
「いえ、ダンジョンで生まれたモンスターは、基本的にそのダンジョンの中でしか生きられません。よほどハイスペックでも無い限りは、外に出た瞬間に破裂して死にます、それこそポップコーンみたいに。···そして、貴女もこのダンジョン内で生まれた存在。よって、このダンジョンからは出られません。しかしスキル『環境適応(小)』さえあれば···」
「どんだけDPを搾り取りたいんだ、この世界」
前途多難である。
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セリナ「全裸ワンピの感想を述べよ」
アリア「中々悪くないですね」
追記
Q.トイレの時お尻拭いた?
A.描写し忘れてましたが、トイレットペーパーを『ショップ』で購入して事なきを得ました。