Hollow & Wish【仮称】   作:舞うL

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加筆と展開の変更の為、初投稿です


1話

 

……

 

………

 

累計一九五回目のチェックを行います。

体温、心拍、呼吸、脳波活動──完了。異常なし。

DNA配列──照合一致。異常なし。

覚醒の兆候無し。チェックを続けます。

抑制液の排水を行います──完了。

再注水プロセス開始──完了。

全スキャン項目完了しました。

現在発生している不具合はありません。

 

引き続き、対象の確認業務にあたってください。

 

「……」

 

──エラー。

外部からのハッキングを確認しました。

対象の脳波に微細な振動を感知。深度N2へ移行しました。

 

N2──N1

 

N1──REM

 

 

────WKに到達。

 

覚醒の兆候を確認。

担当者は直ちに状況を確認、報告してください。

 

繰り返します。

 

担当者は直ちに状況を確認、報告してください…

 

………

 

……

 

 

 

〇□〇

 

 

……暗闇の中、私の意識は覚醒した。

最初は何も感じなかったが、心拍音、呼吸音と徐々に聴覚が回復し、頭には耳障りの悪い電子音が繰り返し鳴り響いていた。

 

「おはようございます」

 

若々しい男の声に瞼を開けば、暗がりの中、目の前に白衣を纏った背の低い童顔の男……少年?がいた。

周りには怪しく光る機械、デカい箱型の計測器らしきもの、文字がびっしりと流れる画面と、見事なまでに機械まみれの部屋だ。

そんな私も少し濁った、灰色の液体が入った恐らくカプセルらしき円柱状の筒の中に閉じ込められている。

 

(…誰?)

 

そう少年に疑問を呈しよう…とするが、何故だろうか。違和感がある。

その違和感はなんだろうかと考える。考える、考える…。

 

 

…そうか、声が出ていないのだ。

 

 

人間は言葉を発する際、声帯を震わせて声を出す。そしてその感覚はなんとなくだが分かることだ。だがしかし、だ。

私はその感覚を掴めなかった。

つまり発声出来なかった。私の少年に対する言葉は届かなかった、ということだ。

 

しかし何故だ?私は声に関する疾病を持ち合わせていなかったはずだし、そうなる事象に遭遇することも無かった筈だ。

口元に何か機械を付けられてはいるが、もしやこれのせいか?

どうしてかと考えていると少年が口を開く。

 

「その感じだと何か考えているんですね?例えば…どうして声が出ないのか、とか?」

 

驚いた。眼の前の少年は私の思考を読んでいるのか?

いや、見てくれは医者か科学者。経験、と言うやつだろうか。

 

「…あぁ、当たりました?考える時じっと一点を見つめる癖がありますから、分かりやすいんですよね」

 

そう切り出し、少年は私の置かれている現状について話し始めた。

というかそんな癖が私にはあるのか。

 

「何から話そうかな……あんまりこういうのは得意じゃないんですが……貴女がどんな立場にいるか、から話しましょうか」

 

カプセルの中で私は前のめりになった。

気になる。とてつもなく気になる。

声が出ないことも、どうしてカプセルの中に閉じ込められているのかとか色々。

 

「食いつきが凄いですね……驚きました。僕はこういう説明が苦手なので少し冗長に感じるかもしれませんが、よろしくお願いします。まずは『代償の力』という言葉を覚えていますか?『魔素』とか」

 

……何だそれは。

聞いたことのない単語に首を傾げる私に少年はまぁそうですよね、といった感じで話し続ける。

 

「……覚えてなさそうですね。簡潔に言えば魔法みたいなものです。掌から水を出すとか。それこそ生態系に影響を与える危険な力もありますが……見せたほうが早いですね」

 

瞬間、空気が振動しバチッという鋭い音がしたかと思えば目の前から少年の姿が消えた。

跡形もなく……とまではいかない。少年のいた位置には少し焼け焦げた跡があり、微かに白煙も登っている。

発火した感じはなかったが、焼けたような感じ。

そして何より周りの電子機器の画面にノイズが走っている。

であれば……これは。

 

(──プラズマ?)

「プラズマ。これが僕の『代償の力』です」

 

強い光に振り向けば、少年が青白い光に包まれていた。

目を細めなければならないぐらいには眩しい。……それでも目が痛いな。

バチバチと静電気のような音を立てながら徐々にその光量が落ちていく。

少年の逆だった髪の毛がふわりと元に戻り、その顔には疲労の色が滲んでいた。

 

「……実は燃費が悪いんですよ。長時間は使えません」

 

はぁはぁと細かい息遣いの中、そう教えてくれた。

プラズマ、とは使い方によっては色々出来そうな能力なのだが……。

 

「『代償の力』は『魔素』を身体に取り込むことで発現します。その取り込む量や方法によって力の強さも変わるんですが、僕は昔緊迫した状況で取り込んだのでこのザマです。あまり使いたくないんですよね。……取り敢えず、ここまでは大丈夫ですか?」

 

取り敢えず、ここまででも大丈夫ではない。

なんだそのSFじみた設定は。『代償』?『魔素』?小説やアニメじゃないんだぞ。

目の前で見たとは言っても理解が追いつかない。

……ただこのまま疑問を呈するのも時間の無駄だろう。

首を縦に振り肯定の意を示す。

 

「ホントに分かってます…?分からないのも無理はないんですが……」

 

ジトーっと痛い視線をこちらに向けてくる少年。

……バレてる。

本当なら色々聞きたいが、話を途中で遮るわけには行かない。

手を少し動かして、早く次の話題に進めと合図を送る。

 

「……まぁいいです。そんな強大な力には勿論『代償』があります。例えば五感や肢体の喪失、倫理観の喪失などなど。僕の場合は『年を取らなくなる』というのが代償です。ご覧の通り、背が低くて幼いでしょう?」

 

自分で言うのも何ですが、と少年は苦笑する。

 

「貴女の声が出ないというのも代償の一つ。つまり貴女にも僕のプラズマのような『力』がある。それが可愛いか危険かは……まぁ見ての通りです」

 

そう言って少年はカプセルの中にいる私を見上げる。

カプセルの中の私は身体のありとあらゆる部位に機械が取り付けられている。

勿論、衣服などはまとっていない。ありのままの、人間が生まれた直後の姿だ。

 

そう産まれたままの……

 

……待て。

 

待て待て待て!!!

 

私は、今。

生まれたままの姿を、裸を!

コイツに見られている!!??

………殺す!!絶対に殺す!私の裸を見たことを後悔させてやる!!!

 

「貴女の力は『対象を中心とした半径五m以内の存在を跡形もなく消滅させる』という危険極まりないものです。今はここの機械でなんとか抑えているみたいですが……」

 

まぁ、気をつけてください。なんて言うが私はすぐにでもお前を消滅させてやりたい。

カプセルの中で身動きはできず、ただ水が流動するだけ。

こうして見ていることしかできない、もどかしい……。

というか何だ!乙女の裸を見て何とも思わんのか貴様ァ!!淡々と話しやがって!!恥ずかしいんだぞ!!コッチは!!

 

「何を暴れてるかは知りませんが、取り敢えず落ち着いてください。貴女の力は暴走しやすく制御が利かないんですから」

 

貴女自身もどうなるのか分かりませんよ、と諭されてしまった。

はぁ…まぁつまるところ、私は声を代償に強大で危険な力を手に入れたが、危険過ぎるあまり封印まがいのことをされているって訳らしい。

見に覚えがないが、そういうことらしい。

 

「取り敢えずの説明としてはこんなところですかね。『魔素』に関してはちょっと複雑なので僕より適任の人間に任せます。記憶のない貴女には少し難しい話だったかも知れませんが……うん。まぁ大丈夫でしょう。貴女頭良いですし」

 

さらっと言ったが、どうやら私は私の知らない内に記憶喪失になっていたようだ。

脳内を探ってみるが日常生活を送る基礎的な知識はある。が、自分の名前や年齢、友人関係等の記憶がない。先程話に聞いた『代償』やその対価に得る『力』に対する記憶の一切もない。

もしかすると眼の前の少年は私の親類や友人なのか?であれば私の名前を聞くのも良いかもしれない。……声が出ないのだから伝えられないではないか。言葉が使えないというのは不便過ぎる。

しかし、記憶喪失に気付くより先に声が出ないことに興味を持っていかれるとは。もしかしたら私は研究者だったのかもしれない。

 

 

「ホント変わらないですね……らしいけども……」

 

 

少年が頭を抱えて呆れている。

記憶を失っても私は私らしい。

コイツに抱く怒りも私らしいだろうか?

というか私の置かれている立場についての説明が全くなかった訳だが、どうしてくれようか。

 

 

«ビー!ビー!ビー!»

 

 

そんな風に考えていると突如としてサイレンが鳴り響き、部屋全体が赤く染まる。

遠くからは重い物が落ちる音。

サイレンの鳴るスピーカーの方に耳をすませてみれば侵入者を発見・対応せよといった旨を繰り返し報告しているようだった。

 

「……そろそろこっちも行動しないと、ですか」

 

少年がそう呟くと、近くの機械を操作し始めた。

未だ緊張感は続き、部屋の外からは何やら人の悲鳴や発砲音なんかが聞こえてくる。

一体何が起こっているのか、少年に問いかけようとしたが……しまった。今の私は声を出すことができない。もどかしい。

 

「よし、解錠完了。あとは合流するだけ………」

 

カプセルの中の液体が徐々に減っていく。

生暖かい液体から抜け出た肌が空気に触れ、少し肌寒い。

液体が抜けきり、身体の重さを直に感じることができるようになった頃、カプセルの扉が完全に開いた。

……身体がだるい。重力とはこうも押さえつけてくるものだったか。

 

(ッ!)

 

思うように動かない身体をなんとか動かし、ふらふらとカプセルの外に出る。

片足にしっかりと重心をかける。それを繰り返す。

踏み出してみて分かったが、この場所の床は金属でできているらしい。金属特有の冷たさに少しビックリした。

目の前には私より背が低く、親しみはあるがすこし威圧感を感じる目つきの少年。

……おや?ということは。

 

「取り敢えずは此処で待ちましょう。貴女も身体のバランスに慣れないといけませんからね。すぐに回収班と合流できるはずです……えっと、何で近づいてくるんですか?」

 

怒りとは凄い。

諭されてもすぐ再燃するものなんだな。

おかげで私の思う通りに身体が動くようになった。

気分が高揚しているのも分かる。

 

「あの、その、目だけ笑うのやめてくれませんか?」

(乙女の生肌、見た罪償いやがれ!!!)

「ちょ、やめ……!」

 

──少し、心が軽くなった気がした。

 

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