今更ながらポケモンバイオレットにハマりました。
まだバッジは一つですが図鑑が四十~五十匹くらい埋まりました。
……これだからオープンワールドは時間が掛かるんだ……。
今回のお話ではGS美神の二次創作にて時々登場するとある大妖怪が登場します。
さて、一体誰が出てくるのか……?
それではまたあとがきで。
横島とヒャクメ、そして二人を呼びに来たゾンビフェアリーが連れ立って歩く。準備が整った、と知らせが来たのだ。
目指すは地霊殿内の会議室────ではなく食堂。地霊殿の会議室はこじんまりとしており、食堂の方が広い。現在地霊殿を訪れている人数を鑑みれば、食堂に集まるほかなかったのだ。
「……ところでさ」
「んー?」
向かっている間無言もどうなのか、と考えた横島が口を開く。
「その……みんなは元気してる?」
口をついて出たのはその疑問だった。あの日、紫のスキマに落ちて世界を移動してから数か月。一五○日にも満たない日数だが、それでも一年の三分の一には優に達する日数だ。短い、とは言い難い。特に横島達人間からすれば。
「みんな表向きは元気なのね。……まあ、落ち込んでいる暇がない、とも言えるんだけど」
「……?」
ヒャクメの妙な言い回しに横島が首を傾げる。
「人間界の方は動きはそれほどなんだけど、神魔界の方ですっごいゴタゴタがあってね」
「神魔界で?」
オウム返しに聞き返す横島にヒャクメが頷いた。
「詳しいことは省くけど、反デタント派の連中がねー……」
「なるほど。メンドくさそーなのだけは分かった」
横島は難しい話は聞きたくないと会話を打ち切った。少々気まずい空気が流れる中、横島は躊躇いがちに口を開く。
「数か月……なんだよな」
「……うん。そうなのねー」
要領を得ない問いにヒャクメが頷く。
「俺があのスキマに落ちてから、数か月しか経ってないんだよな……」
「うん……」
横島は懐かしそうに天井を見上げる。
「あの日から────まるで十年以上経ってるような気分だ」
「うん。────十年以上経ってるような気がするけど、まだ数か月しか経ってないのねー」
ゾンビフェアリーは速やかにその場を離れた。
「し、失礼しまーす」
数分後、横島達は食堂へ到着した。
「遅かったな、お前ら────何があった!?」
横島とヒャクメの姿を見たレミリアが紅茶を噴き出しつつ叫ぶ。二人の姿は何故か全身真っ黒こげにアフロヘア―となっていたのだ。
天罰覿面。発言には注意をしなければならない。でなければ、突然落雷に遭遇してしまうかもしれないからネ。
なお、横島達は何食わぬ顔で席に着こうとしたが、次の瞬間には元通りの姿に戻っていた。咲夜のアシストは今日も完璧である。
何やかんやありまして。
地霊殿の食堂に全員が集合した。
「さて、それじゃあみんなには横島さんについて、そして元居た世界……ややこしいからゴーストスイーパーから取ってGS世界の現状を説明していくのね」
ヒャクメはそう言い、アタッシュケース型のパソコンを操作して食堂の壁に映像を映し出した。プロジェクター機能も備えていたようである。それに伴い、食堂の明かりが落とされた。
「まずはGS世界の神魔について。そこからアシュタロスが関わる話、横島さんの扱いについて。そして────神魔の決定について」
そこまで言うと、ヒャクメは皆を見回す。皆がヒャクメの視線に頷くと、ヒャクメも首肯し、映像をスタートさせた。
ヒャクメが語るのは大雑把な神魔の事情。最高指導部の存在やデタントについて。そこからアシュタロスの
「────という訳で。横島さんの存在ってデタント推進派にはかなり重要な意味を持っていたのよ。異類婚姻譚なんてのはいくらでもあるけど、流石に世界を救ったヒーローはいなかったからねー」
横島の神魔界での扱いだが、どうやらデタント推進派には英雄視されているようだ。敵陣に単騎で潜入しスパイ活動、敵幹部を味方に引き入れ、魔神すらも打ち倒した。更に言えば
ヒャクメはそれをそうとは言わなかったが、言外にそう言った見方をされていると臭わせた。その事実に皆がそれぞれ不快感を示す中、当の横島はと言うと……。
「ヒーロー……!! 俺が神魔界ではヒーロー扱い……!! ようやく俺の時代が到来してくれたのか……!!」
何故か感動の涙を流していた。
「アンタね……いや、らしいと言えばらしいけど……」
これにはレミリアも呆れればいいのか怒ればいいのか。そんな風に迷っていると、横島は姿勢を正し、「とりあえず冗談は置いといて……」と何かをどける動作をし、隣に座る美鈴に向き直る。
「その……何か、前の狂気状態っぽいけど大丈夫か……?」
少々引き気味に美鈴にそう問うた。そう、美鈴はいつぞやの時のように目が赤く光り、髪が逆立って全身が赤く発光し、攻撃的な気を迸らせている。
「大丈夫ですよ、横島さん。これはバーサーカーシステムじゃなくて怒りのスーパーモードですから」
「……ああ、そうか。……何がどう大丈夫なんだ……?」
横島にはどこがどう違って何がどう大丈夫なのか定かではなかったが、といあえず肩に手を置き、「ま、まあ落ち着けよ」と引き気味ではあるが気遣いの声を掛ける。
「……」
「あ、戻った」
たったそれだけのことで怒りのスーパーモードとやらは収まったらしく、美鈴はいつもの姿へと戻った。これには横島も一安心。さりげなく髪を一撫でし、ヒャクメへと視線を戻した。何やら今度は隣から金色の光が放たれているが、構うと話が進まなくなりそうだったので無視をしておくことにする。
「それで、なんだけど。神魔の最高指導部の決定を伝えるのね」
そのヒャクメの言葉に緊張が走る。そう、ヒャクメは元々この為にこの世界に来たのだ。
横島の安否の確認と、神魔の決定を伝える為に。
皆が期待を込めてヒャクメを見る中、先に全てを聞いていた永琳と、ヒャクメの言葉からある程度予測を立てていた紫は目を閉じ、俯いた。
「横島さんの────
ヒャクメの口から紡がれた言葉に、時は凍り付いた。
「────え……?」
それは誰が呟いたのだろう。何も分からない、理解が及ばない────そんな声。
誰もが声も出せぬ沈黙の中、当の横島は納得したような、諦めていたような顔で頷いたのだった。
第九十五話
『彼の居ない世界にて』
────GS世界、日本の京都府京都市、二条公園。
そこに大勢の人間が倒れている。中心に存在するのは強大な妖気を纏った一体の妖怪。相対するのは三人の人間と
「ヒョオォォオオオオォーーーーーーッ!!!」
妖怪の咆哮が京都の地に響き渡る。その
「く……っ! 凄まじい妖気だ……!」
この場に立っている唯一の男性、西条輝彦が妖怪の放つ妖気にぶるりと身体を震わせる。これほどの妖気を感じるのは、アシュタロスとの一連の戦い以来の事だ。
「まったく……! 伝承通りとんでもない奴ね……!」
そう美神令子が毒づく。目の前に四つん這いで周囲を睥睨する妖怪を前に、流石の令子も迂闊に手を出す事が出来ない。
「拙者の霊波刀も“
「私の狐火は体毛をちょっと焼くだけ。幻術だって効きやしない」
お手上げね、とばかりに息を吐くのは犬塚シロとタマモの二人だ。己の最も信頼する武器が一切通用しない現実にシロは唸り、タマモはどうやって皆と逃げるかを考え始める。
「私の笛も効果はないし……」
グロテスクな見た目の横笛、“ネクロマンサーの笛”を胸に、氷室キヌは己の不甲斐無さを嘆いた。
────始まりは、オカルトGメン日本支部のトップ、美神美智恵からの要請だった。
「京都に行ってほしい?」
「ええ。オカルト専門の歴史研究家の護衛を西条君たちと一緒に頼みたいの」
美神令子除霊事務所を訪れた美智恵は、娘である令子にそう告げた。
「最近、京都で霊能者が襲われる事件が複数起きているの。向こうのゴーストスイーパーも何とかしようとしているみたいだけど、後手後手に回っててね。研究のためにどうしても優秀な護衛がほしいって先方が」
「だからって何で私が行かなきゃいけないのよ。
美智恵の言葉に令子が噛み付く。続く言葉に美智恵は黙るしかなく、静かに紅茶を口に含む。
「……他のゴーストスイーパー、小笠原さんや唐巣先生、伊達君何かにも声を掛けてみたんだけど、みんな予定が入っててね。まあ、それがなくても私はあなたに頼んだでしょうけど」
「何でよ? 小竜姫から聞いてるでしょ? 私たちは……」
「私の」
喉を潤した美智恵は令子に依頼した理由を述べる。他の候補達が軒並み動かせられなかったとのことだが、それでも美智恵は始めから令子に頼むつもりだったと言う。
令子も小竜姫の名を出して断ろうとするが、重ねるように美智恵が言葉を発し、令子を黙らせる。
そして、続く言葉は────。
「私の、
「……」
美智恵の言葉に今度は令子の方が何も言い返せなくなる。美智恵の言う通りだった。京都の話を聞いてから、令子の霊感が激しく主張をし続けている。
「やっぱり親子ね」
「……」
図星を突かれた令子は不機嫌そうにそっぽを向き、そんな娘を
結局、令子はその依頼を受けることにした。キヌ達には盛大に反発を受けたが、それを一睨みで黙らせ、西条率いるオカルトGメンの職員達と共に京都までやって来たのである。
「さーて、どうしたもんかしら」
令子は神通棍を構え、じりじりと間合いを測る。力も速度も相手が上。眼前に佇む
「ヒョオオオオオオッ!!!」
強大な妖気が迸ると同時、微細な電気が散ったかと思えば、それはバチバチと轟音を響かせる稲光となる。
────その姿は異形。猿の頭、狸の身体、虎の手足、蛇の尾、鳴き声はトラツグミ。それは平安の時代、都を恐怖に陥れた正体不明の
大妖怪────
「来るわよっ!!」
令子の鋭い声が飛ぶ。瞬間、
「うわわわわっ!?」
「ひええええっ!?」
同じ妖怪だからか、それとも
二人とも人外の瞬発力を以って回避しているが、それも長く続きそうはない。
空気の流れ、焼けた空気から臭うオゾン臭、野生の勘、そして霊感。それらを獣の嗅覚で纏め、先読みをして雷から逃れようと足掻くが、遂に追い詰められてしまう。
「シロ!! タマモ!!」
「んなっ!?」
「みか────っ!?」
だが、そんな二人の前に立ち塞がり、雷を受け止めた者が居た。轟音を立て、地をも穿つ雷をその身に受けたのは令子であった。
「ヒョォォオァハハハハハハッ!!」
爆煙が辺りを覆う中、鵺の哄笑が響く。また一人獲物を狩る事が出来た。
「お生憎様!! 電気は私の大好物なのよ!!」
土煙を突き抜け、鵺の雷を己の力へと変換し、先の数倍もの霊力を纏った令子が鵺に肉薄する。
「極楽に────!!」
滾る霊気を神通棍に宿し、そのまま鵺の胸の中心、霊核へと突き立てる────!!
「行かせてあげる────っ!!」
「ヒィイイアア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーッッッ!!?」
鵺の口から令子をして怖気が走るような不気味な悲鳴が周囲に木霊する。霊核を貫かれた鵺は、断末魔の叫びと共に消滅する────かに、見えた。
「……っ!?」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァヒヒヒヒヒヒッ!! ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッッッ!!!」
断末魔はいつしか嘲笑へと変わっていた。
「な……っ!? わ、私の霊力が……!?」
神通棍を通し、令子に伝わるその感覚。
「ちっ!」
令子は自身の霊力まで吸い切られる前に神通棍から手を離し、大きく後ろへと跳躍する。軽い音を立てて落ちた神通棍を鵺は手に取り、まるで子供がおもちゃの剣で遊ぶかのように振り回し始めた。
「……今の、感覚」
令子は震える手をぎゅっと握る。神通棍を通して伝わってきた、あまりにも黒く、重く、深い────怨嗟の念。
「まさか────
鵺の胸の中心、そこに何やらどす黒い
しかし、鵺の『あれ』は後天的に埋め込まれた物に見える。令子の勘が間違っていなければ、極々最近に、だ。
「西条さん! 件の研究家の専門は!?」
鋭い問いが西条へ飛ぶ。
「あ、ああ。彼の専門は平安時代の妖怪退治についてだよ。特に
ここに来て西条にも令子の言わんとしている事が理解出来た。鵺の胸に埋め込まれている物、それは鵺と同じく平安時代に京都で大暴れし、源頼光と頼光四天王に退治された大妖怪『土蜘蛛』────その身体の一部である。
「鬼の顔に虎の胴体、そして蜘蛛の手足を持つとされる大妖怪! 言わば鵺と同じく日本のキメラのようなもの! 様々な動物の特徴を持った二者は相性も良いということか!」
「それだけじゃないわ。土蜘蛛は元々
「それでこその今までの被害という訳か! くそっ、どうして気付けなかった!」
鵺が遊んでくれている間に情報の共有を済ませる。人間の霊力では対処が難しいのならば、伝承を元にした武器でも退治が出来ない可能性が浮上してくる。
「一応聞いておくけど、かつて鵺を射抜いたとされる“双生竹の矢”は?」
「流石に鵺が出てくるとは想定してなかったからね。申し訳ない」
「そう……。なら頼れそうなのはシロの霊波刀にタマモの狐火、私の霊体ボウガンに西条さんの銃と霊剣ジャスティス……そして」
令子は言葉を切り、キヌへと視線を移す。
「おキヌちゃんなら鵺に埋め込まれている『まつろわぬ民』たちの怨念を浄化出来るかも知れないわ」
「……っ!」
それを聞き、キヌに衝撃が走る。先の演奏では何の効果も無かった。鵺にネクロマンサーの笛は効かなかった。だが、土蜘蛛の破片ならば。かつて朝廷に追放された人々の想念にならば、己の想いは届くのではないか……?
「おキヌちゃん……」
「いえ、大丈夫です」
キヌの精神が研ぎ澄まされていく。まだこんなところで終われない。まだ死ぬことは許されない。
何故なら自分は、またあの人に会わなければならないのだから────。
「────!!」
「……ヒ、ヒ?」
清く澄んだ音色が響く。その“音”が聞こえた途端、鵺は胸を押さえ、がくりと膝を着いた。何とも奇妙な感覚。力が抜けていくような感触に、鵺はぐるりと首を回し、そしてキヌを見付けた。
「ヒ────ュルルルルル……!」
ぎしり、と。鵺が歯を剥き出しにした。真っ直ぐな敵意がキヌに向かって放たれ、その衝動のまま飛びかかろうとし。
「僕が牽制する!」
鵺の後ろ脚に銀の弾丸が撃ち込まれた。
「ヒョオオッ!?」
「シロ君! タマモ君! サポートを頼む!」
短く指示を飛ばし、西条は鵺へと駆け出す。シロとタマモも即座に反応し、鵺を攪乱するように動く。
「ウオオオオオンッ!!」
「狐火!」
シロは素早く動き回り、鵺の身体をすれ違いざまに何度も斬り付け、タマモは視界を塞ぐように火を放つ。ダメージは与えられないかもしれないが、隙を作り出すことは十分に可能だ。
「霊体ボウガンと破魔札の大盤振る舞い……!! 破魔札は効くか分かんないけど赤字覚悟でやってやるわよコンチクショーーーーーーっ!!」
「ヒョオオオアアアッ!!?」
一枚一千万円の破魔札が何枚も命中し、更には霊体ボウガンの矢が肉を穿つ。
「くううっ、自分の未熟が恨めしいでござるな!」
己の霊波刀が文字通り
「あれが人間を栄えさせた知恵って奴よ! 霊波刀でどうにかしたいのならもっと霊気を収束させて物質化させなさいよ!」
愚痴を口にするシロにタマモが怒鳴るように解決策を出す。しかし、その内容はまだシロには実現不可能なものだった。
「無茶ゆーな! そんなことが出来るのは横島先生ぐらい────」
そこまで口にし、シロは砕けんばかりに歯を食いしばる。今この場に、シロが最も頼りにする
「……っ」
タマモも、シロの言葉を聞いて眉間に皺を寄せる。普段は頼りないが、ここぞと言う時には一番頼りになる存在。そう、ちょうど今のような時に。
そして、先の言葉はキヌにも届いている。
「────っ!!」
だからこそ。だからこそ、だ。
横島忠夫はこの場に居ない。この世界に居ない。
だからこそ、全力を尽くす。死力を尽くす。
キヌから放たれる音波は霊波に変換され、鵺に埋め込まれている土蜘蛛の欠片に作用する。
キヌの過去、人身御供として命を捧げた彼女の霊波は、土蜘蛛の欠片をゆっくりと
「ヒョオオオ、オオ……!? オォ、オォオ……ッ」
藻掻く鵺の動きがどんどんと弱くなっていく。鵺の莫大な妖力が散っていっているのだ。
鵺は胸を押さえ、遂には身体を地へと伏せる。もはや先程までの禍々しい妖気の欠片も無い。
「……ヒョオ、オォ……オオォ……」
か弱く、掠れた声が鵺から零れる。霊的に繋がっていた土蜘蛛の欠片が浄化されたことで、その身にも反動が来ているのだろうと西条は判断する。
「封印から解放されて喜んでいたところ悪いが、また封じさせてもらうよ」
キヌの笛の音が響く中、西条はそう言って最高峰の封印処置を行うべく、意識を取り戻していたオカルトGメン職員からおおよそ人間大の『箱』を持ってこさせる。
今まで鵺が封印されていた平安時代の霊具ではないが、ドクター・カオスの協力もあり、かつての物と遜色ない物に仕上がっている。
その箱が鵺に向けられると、鵺の輪郭がぼやけ、妖力が箱に吸い取られていくのが見える。
「……ふぅ」
その様を見たキヌは軽く息を吐き、口から笛を離した。
「────ヒョホ♪」
瞬間、粘着質な悪意と笑い声が場を支配した。
「ヒョオオオアアアアアーーーーーーッ!!!」
「んなっ!?」
鵺の身から放たれる
「きゃっ!?」
「うわあっ!?」
爆発的に広がった“それ”は令子を、キヌを、他の皆も全て吹き飛ばし、封印の箱すらも破壊する。
「っ!? ネクロマンサーの笛がっ!?」
倒れたキヌの手からネクロマンサーの笛が弾き飛ばされる。鵺が放った小さな妖気弾が命中したのだ。
「こいつ、土蜘蛛の欠片を完全に取り込んで────!?」
令子が叫ぶ。皆、鵺に欺かれていたのだ。先程まで見えていた土蜘蛛の欠片は全て上っ面の物。既に土蜘蛛の欠片は鵺の体内に取り込まれており、キヌの笛が効いたように見せかけていたのだ。
「ヒョオオォァアァハハハハハハハハハッ!!!」
爆発的な瞬発力を以って鵺がキヌへと迫る。その速力は今まで鵺が見せていたものとは段違いであり、天狗の動きに追従することが出来たシロですら出し抜かれてしまう。
「しまっ────!?」
令子が失態を叫ぶ。今この場で鵺にとっての最大の脅威、それはネクロマンサーの笛を駆使するキヌである。故に笛を弾き、真っ先に狙いを定めた。
キヌに振り下ろされる鵺の太い腕。響き渡る鵺の狂気を孕んだ笑い声は、まるで無邪気な子供のようだ。
それらを前に、キヌの思考は未だかつてない程に加速していた。
────死ぬ。死んでしまう。死んでも生きられます。腕が太い。つぶれちゃう。また生き返れるのかな? 手が大きい。
どうでもいいことがつらつらと脳裏を過ぎる。
────お父さん、お母さん、お姉ちゃん、弓さん、一文字さん、鬼道先生、理事長、エミさん冥子さんカオスさんマリアさんピートさん唐巣神父雪之丞さんタイガーさん魔鈴さん西条さん、小竜姫様ヒャクメ様パピリオちゃんベスパさんワルキューレさんジークさん。
大切な家族、大事な友人、様々な人物の顔が浮かんでは消えていき。
────美神さん、シロちゃん、タマモちゃん、ひのめちゃん、隊長。
そして、最も信頼する仲間たちと。
「────横島さん」
────愛する者の名を口にし。
鵺の拳はキヌへと振り下ろされ、まるでトラックの正面衝突を思わせるような轟音を響かせた。
「おキヌちゃん────っ!!」
もうもうと立ち煙る砂煙の中に、令子の悲痛な叫びが木霊する。
────瞬間。
「ヒョ……オォッ!?」
鵺の驚愕の声が漏れた。
砂煙を引き裂き、
「あの光は────!?」
信じられない物を見た令子が声を上げる。鵺の腕が、キヌの手前で止まっている。翡翠の光に阻まれている。
「……この、光は……」
キヌは呆然と呟いた。キヌは知っている。この光を、この輝きを。
「ギ……ギギ……ッ!?」
光が広がっていく。鵺の腕を、身体を押し退けるように、光の壁は厚くなる。
「ヒョオアっ!?」
やがて鵺が弾かれ、大きく飛び退いた。
「この霊気は……」
キヌは知っている。翡翠の光が放つ霊波、元となる霊気。それは、会いたくても会うことが出来ぬ、想い人の物と同じ。
眼前の光の壁、その中央になお輝く球体があり、
────【護】
「この文珠は……!!」
言葉と同時、キヌに影が差す。それが何かと考える間もなく、大きな音を立てて
「────あ……」
「……あ、ああ……」
それはゆっくりと立ち上がる。髪型が違う。体格も少し変わっている。背丈も少し高くなっている。
だが間違わない。間違えられるはずがない。
この数か月、ずっと会いたかった。ずっと探していた。
ずっと、ずっと────愛していた。
「────横島さんっ!!!」
横島忠夫、元の世界に帰還する────!!
第九十五話
『彼の居ない世界にて』
~了~
お疲れ様でした。
そんな訳で東方煩悩漢最後のイベントボスは大妖怪の鵺(土蜘蛛の欠片装備)です。
拙作に於ける土蜘蛛はまつろわぬ民が死後その強烈な怨念から妖怪化した、という設定になっております。
ちなみに初期プロットに於けるラスボス戦は
本気で殺しにかかる永琳vs横島・妹紅・正邪
という全く勝ち目のないバトルでした。普通に横島達が負ける展開でした。幻想郷からも追放される予定でした。何でそんな展開にしようとした?
多分あと二話くらいで本編は完結です。
……ここまでに一体何年掛けてるんだ……。
あともう少々拙作にお付き合いください。
それではまた次回。