これまで薄い本は漫画しか買ってこなかったのですが、最近は何故かイラスト集を狂ったように買いあさるようになってきました。(どうでもいい)
それではまたあとがきで。
大妖怪“鵺”をたった一人で打ち倒した少年、横島忠夫。そんな彼は今、衆人環視の中、たった一人の少女に押し倒されて顔面をめちゃくちゃに舐め回されていた。
「ひどいでござるひどいでござるー!! 拙者という者がありながらーっ!!!」
「むぁーーーーーーっ!!?」
べろべろと。それはもうべろべろと少女・シロは横島の顔を舐め尽くしている。
オカルトGメンの年若い職員などはその光景に顔を赤らめ、思わず喉を鳴らして注視してしまっている。そして、その痴態に夢中になってしまっている者の中には
「す、すごい……! あの人狼の子、若いのに何て大胆な……!! いや、若いからこそ大胆なのか……!!」
誰あろう妹紅である。妙なところに感心と興味と興奮を覚え、ついついシロの行動に見入ってしまう。
「おお。あんな風に舌を……。な、なるほど……ただ舌先だけで舐めるんじゃなく、べったりと全体を押し付けてゆっくりと……。勉強になるなぁ……」
一体何の勉強になるというのだろうか。妹紅は変なことを口走りながら食い入るようにシロの舌技を吸収しようと見詰めてしまう。
「なあなあ、レミリアも見てみろよ。すごいぞ、あの子の舌の動き」
興奮のまま、隣のレミリアにも話を振る妹紅。
「……え? ああ、すいません藤原さん、話しかけないでもらえますか? 友達だと思われたら迷惑ですので」
「レミリアさん!!?」
しかし妹紅はレミリアからものすごく冷たくあしらわれてしまうのであった。
第九十九話
『憎まれ口』
「はいはい、そこまでにしときなさいな」
「あっ!? タマモ!!」
「うひ~……」
いつまでも横島の顔を舐め続けるシロにいい加減我慢が出来なくなったのか、タマモがシロを羽交い絞めにする形で動きを止めさせる。シロは拘束を振りほどこうと暴れるが、一向に振り解ける気配もない。いつもの力も覇気もなく、タマモが想像していた以上に精神的なダメージが大きいようだ。
「……」
そしてそれは
愛する男が見知らぬ女と肉体関係を結んだなどと聞いては、精神に負った傷は相当に深いだろう。
キヌの脳内ではドロドロなあれやこれやといった情報が渦巻いている。週刊誌に毒され過ぎてしまったが故の黒い感情がふつふつと沸き上がってくる。
そんな中、場の空気を切り裂くように、タマモが横島に問いを投げ付けた。
「アンタ……本当に、ヨコシマ……なのよね?」
タマモの戸惑ったような声が響いた。目の前の男が横島忠夫本人なのは理解している。だが、
鼻をひくつかせ、タマモは横島の匂いを嗅ぐ。直感型のシロとは違うその慎重さに、幻想郷世界の住人たちは同じ九尾の狐である藍との相似点を見る。
「へえ……。九尾の狐ってみんなあんな感じなのかしら」
「興味深い話ですわね。世界を異にしても、同一の種族は似たような性質を持ち得るのか……」
「ってことはあの子も藍みたいにあの人狼の子を溺愛してるのかな?」
ひそひそと内緒話をしている紫たち三人であるが、犬神の一種であるタマモには丸聞こえだ。面白いテーマではあるが、比べられる方はたまったものではない。
特に『シロを溺愛』の部分で、タマモはキッと妹紅を睨み付ける。その睨みを受け、妹紅たちは頭を下げ、謝罪の意を示した。確かに不躾であり、また失礼極まりない行為であったと自省する。
「んー……俺が横島忠夫であるのは確かなんだが、それはそれとして色々と説明しなきゃならんことがあってな。んで、それはここでは出来ないとゆーか……。だよな、ヒャクメ?」
腕を組みながら、横島は難しい顔で答える。自分の証明とは、中々に困難ではなかろうか。まあ、横島の場合は『煩悩全開』を披露すれば大丈夫だろう。次点で文珠の生成か。どうして文珠が次点なんです?
「ええ。申し訳ないんだけど、諸々の説明は美神さんの事務所に移動してからなのね。紫さんの能力を使えばすぐだから、今すぐにでも────」
「待て待て、それって紫さんは大丈夫なのか? ただでさえここに来るのに無理をしてくれたんだ。俺の頼みのせいでもあるんだし、紫さんの体調を最優先してくれ」
「横島君……!」
自分を心配してくれる横島に、紫は感動しきりだ。自分の式である藍ならば、またその式である橙であれば同じように労わってくれるだろう。しかし、一個人として紫を心配してくれる存在が、はたして幻想郷にどれだけ居るだろうか。
少なくとも親友であるはずの幽々子などは「紫なら大丈夫でしょう?」と笑って済ませるだろう。
幽々子の剣術指南役の妖夢は「何か問題があるんですか?」と、信頼を超えてもはや無関心にも思われかねない返しをしてくることも考えられる。
霊夢に至っては「いいからさっさとスキマを開いてよ」と催促すらしてくるだろう。
そんな中、己をただ純粋に心配してくれる横島の存在が紫の心にスーッと効いてくる。それだけでもう元気百倍胸いっぱいだ。
「私なら大丈夫です、横島君。むしろあなたの時間を無為に消費してしまうことこそが私には辛いことですもの」
紫は柔らかく微笑み、大きくスキマを開く。それは異なる場所を繋げる空間の綻び。いくつもの“眼”が覗く、異次元の穴だ。
「これは……!」
令子が紫に対し、瞬時に臨戦態勢を取る。シロやタマモ、そしてキヌも同様に。彼女らの前に開いたスキマ、それは
「どれどれ?」
「ちょっ、ヒャクメ!?」
ひょい、とヒャクメがスキマを覗き込む。スキマの中の無数の眼がヒャクメを捉える────どことなく、シュールな光景だ。
「……うん、ちゃんと美神さんの事務所と繋がってる! こっちに来たばかりなのに、流石は紫さんなのねー!」
「恐縮ですわ、ヒャクメ様」
ヒャクメの賛辞に紫が微笑むと、気のせいだろうか、スキマの中の眼がほっと息を吐いたように感じられた。
「それじゃ、みんなこの中に入るのね! そうすれば事務所まで一気にワープ出来るから」
「……」
令子たちに声を掛けるヒャクメだが、令子たちは動かない。当然と言えば当然である。
紫という妖怪と他二人は、横島とヒャクメと共に現れた。しかし、だからと言って自分たちにも友好的とは限らない。自分たちを除いた『横島だけの味方』という可能性だって有り得るのだ。
「……あの、この人たちは美神さんたちに危害を加える気はないのねー? 私が仲良くしてるところから察して警戒を解いてほしいなって……」
「でも……ヒャクメだし……」
「ヒドイ!?」
あまりにもあまりな言葉にヒャクメが涙を噴き出す。美神が何を言うかなど分かっているだろうに問い掛け、視えている通りの答えを言われて涙する。横島としても懐かしい光景であり、その変わらぬ様子に苦笑が浮かぶが、それは妹紅たちには信じられない対応であった。
「ヒ、ヒャクメ様への信用が、低い……!?」
「え、な、何でだ……!? 確かにちょっとおとぼけではあるけど、めちゃくちゃ頼りになる神様なのに……!?」
「威厳は無いけど、優秀な神様のはずなのに……?」
GS世界と幻想郷世界の住人たちとのヒャクメに対するイメージの温度差に、横島は風邪を引いてしまいそうだ。すっかりと拗ねてしまったヒャクメは「私も幻想郷に住む!」と紫に泣きついてしまっている。それをするとGS世界の
「ほれ、もう泣き止んでちゃっちゃと移動しようぜ。……美神さんもみんなを警戒するのは分かるけど、今はヒャクメの言う通りにしてください。────
「……っ!? それはどういう……っ!?」
「それも含めて全部、向こうで説明しますんで」
「横島さん……!?」
「先生、そんな……っ!?」
「……マジなの?」
横島の言葉に嘘偽りは無い。霊能者としての直感が、犬神の嗅覚が、それが真実なのだと訴えかけてくる。
「さあ、早く」
横島がスキマを指し示す。令子と交わされる視線。数秒の沈黙。
「……安全なの?」
「もちろんっす」
「────分かった」
令子は紫を見やると、「フン」と鼻を鳴らし、恐れを見せずスキマに飛び込んだ。気丈な令子の姿を見て、紫は知らず苦笑が浮かぶ。かつて見た、初めてスキマに入り込んだ霊夢と、どこか重なったのである。
「ほれ、シロタマも」
「纏めないでよ」
「うぅ~! 先生~……」
令子を見送った横島は、次にシロとタマモに声を掛ける。先の横島の言葉がどうしても気になり、今すぐ聞きたいとシロが纏わりついている。いつもなら止めに入るタマモも今回はそうせず、ちらちらと横島を見るのみに
「二人とも、横島さんの言う通りにしましょう?」
そんな二人の肩に手を置き、声を掛けて宥める少女が一人────キヌだ。
「おキヌちゃん」
「おキヌ殿……」
不安そうな、今にも泣きそうな瞳がキヌを見上げる。二人の気持ちは痛いほどよく分かる。よく分かるが……だからこそ、ここで余計な時間を使ってはいけないのだ。
「横島さん……」
「おキヌちゃん」
視線の交錯は一瞬。キヌは目を伏せ、横島に問う。
「全部……教えて、くれるんですよね……?」
「ああ」
キヌの念を押すようなその問いに、横島は頷く。
「ヒャクメが説明してくれる」
「ここで私に振らないでほしいのね……」
……少し、余計な言葉が付いていたが。
キヌは少し笑った。弱く、儚くではあるが、それでも横島が不格好ながらも気遣ってくれたのが分かったから。
「ヒャクメ様……」
「うぅ……っ」
ジトっとした目でヒャクメを見やり、キヌはシロとタマモを連れて、恐る恐るスキマに入った。ちらりちらりと「これ本当に大丈夫?」という目で紫を何度も見やりながら。
「……そんなに怖いかしら、私のスキマ……」
紫はキヌの視線に少々ショックを受ける。
「……お、俺は良いと思いますよ? 中の眼も紫さんに全身じっくりたっぷりねっとり見られてるような感じが癖になるというか……」
「………………………………あ、ありがとう」
横島の慰め(?)の言葉を受け、紫は長い長い葛藤の末に、一応感謝の言葉を返した。
「……じっくり、たっぷりねぇ」
そういう使い方も出来ると言えば出来るのだし。
「おーい、横島君」
「む、西条」
一息吐いたと思われるタイミングを見計らい、西条が横島に声を掛ける。先のこともあり、少し警戒を露わにする妹紅はレミリアの背後に隠れ、ジトっとした目で西条を見やる。あのような辱めを受けては仕方のないことだろう。西条の心に少々傷がついた。
「んだよ。俺も色々と制限があるからあんま時間は取れねーぞ。横から割り込んで鵺を倒して
「……ああ、うん。鵺とのアレコレは実は映像記録も撮れてるし、後のことはこっちで受け持つから心配はしなくてもいいよ」
「……じゃあ何だよ?」
周囲を見れば、Gメンの職員たちが横島たちを気にしながらもバタバタと忙しなく動いている。映像記録があるとはいえ、行方不明だったはずが数人の女性(人外)を引き連れ、たった一人で鵺を打ち倒した横島が何の調書も取らせずに現場を離れるというのだから、色々と面倒なことになるはずだ。
神族であるヒャクメが便宜を図ってくれるだろうからそう大した事態にはならないだろうが、それでも頭が痛いことに変わりはない。
では、一体何故横島に声を掛けたのかと言えば。
「いや、なに……せっかく帰ってこれたのに、結局とんぼ返りすることになる可哀想な君の顔を最後に見ておこうとね!」
「このクソロン毛野郎っ!」
互いの拳が互いの頬に突き刺さった。
「ぐおぉっ!?」
「ぐふぅ……っ!?」
「ちょ、お前ら……!?」
慌てて妹紅が止めに入ろうと間に入る。今までの二人なら構わずケンカをおっぱじめるところだが、今回は違った。互いにどこか神妙な顔つきで、殴られた頬を拭う。交わされる強い視線。間に挟まっている妹紅は混乱してしまう。
「え……? え……!?」
横島を見て、西条を見て。レミリアと紫は逆に呆れたような表情を見せ、ヒャクメは苦笑している。他のGメン職員は未成年に暴行を働いた上司を見て顔を真っ青にしている。強さで言っても鵺を軽く単独で倒せるほどの存在に、何という暴挙をかましたのかと、戦々恐々だ。
場の空気を物ともせず、二人は暫し睨み合い、先に視線を外したのは西条の方だった。
長く深く息を吐き、ぽつりと言葉を零す。
「……今の君なら、僕の部下としてGメン職員に推薦してあげても良かったんだけどね」
歪められる口元。寂しげな形を作るそれは、きっと本心からの言葉であったのだろう。西条にとって、横島は良くも悪くも強く意識せざるを得ない存在だ。そんな横島のこの先の運命を予想出来る西条にとって、現状は本当にやり切れない気持ちでいっぱいになる。
そんな西条の心中が察せられたのか、横島は驚きから少し目を見開いて、何事かを口にしようと言葉を探すが、出てくる物は
「……けっ、どうせ無駄にこき使う気だったんだろうがそうはいくかよ。だーれがテメーの部下になんぞなるか」
「ふっ、まあ、君はそう言うだろうね」
お互いにこういったやり取りになるのは分かっていたことだ。横島にとっても西条はある意味特別な存在。いがみ合い、罵り合い、分かり合えない不倶戴天の敵である。だが、今回はほんの少しだけ違った。頭を掻き、視線を逸らし、そして小さな声ではあるが。
「……ま、
そう、西条に伝えた。それは照れ隠しか、西条には判断が付かない。だが、西条はその言葉の意味するところを理解し、目を閉じて頬を緩ませる。
「……そう、か。なら、その時は声を掛けてくれたまえ、横島君」
「男に声を掛ける趣味なんざ無いんだけどなー。ま、考えといてやるよ」
交わされる言葉はそれで最後。もう会えないかもしれない二人だが、別れの言葉を掛け合うだなんて、そんなことをすれば鳥肌が立って収まらないだろう。
「ほら。俺らも行こうぜ、妹紅」
「え、ちょ、横島……?」
頭にクエスチョンマークを大量に浮かべる妹紅の手を引き、横島は紫に一礼してスキマに入る。紫は二人のやり取りを見て呆れ半分微笑ましさ半分といったところ。言葉にはしないが、ニヨニヨとした笑みを以って横島を見送りつつ、西条にも同様の笑みを向け、そしてレミリア、ヒャクメと共にスキマへと入っていった。
す、と。もうそこにスキマはもう残っていない。空間に亀裂が入っていた痕跡もなく、風が西条の髪を靡かせる。
「……さて、まず初めに僕がしなければいけないことは────」
────横島君を殴ったことの口止めかな……?
Gメン職員さんたちの西条を見る目が厳しい。先のじゃれ合いはわりといつも通りのことではあったのだが、それを知る者は限りなく少ない。警察官が未成年に暴行を働いたなど、醜聞も甚だしいのである。
弁明、ではなく口止めを選択している辺り、西条なりに思うところがあるのだろう。少し背中が煤けてきている西条の未来に幸あれ────。
「────事務所内にスキマを開きます。床から少し高い位置に出ますので、着地には気を付けて下さいな」
紫がスキマ内の皆に声を掛ける。ほどなくしてスキマが開き、通常空間に吐き出される。
「よっと」
「あわわ……!」
「おっとっと」
「おお、ほんとに事務所でござるな」
事前に伝えられていたからか、運動音痴のキヌでもしっかりと着地することが出来た。続いてスキマから出る横島たち。こちらは慣れているのか、危なげなく降り立つことが出来た。
「……懐かしいな」
横島がぽつりと呟く。事務所内の空気、雰囲気といったもの。それは確かに長きに渡って触れられずにいたものだ。目を細めて感慨に耽る横島に、誰も口を開くことが出来なかった。だが、そんな横島に声を掛ける者が居る。
〖────お久しぶりです、横島さん〗
「……! この声、人口幽霊一号か! 本当に久しぶりだな!」
美神除霊事務所に宿る、もう一人の仲間。渋鯖人口幽霊一号だ。いつもと変わらぬ声音に聞こえるが、その声はどこか弾んでいるようにも思える。懐かしい顔との再会に、知らず心が歓喜を抱いているのだ。
〖少し前に、ヒャクメ様から念話を通して多少なりとも話を伺っております。本当ならばもう少し横島さんと語らいたかったのですが、私が
「ん……?」
人口幽霊一号の言葉に、横島は首を傾げる。まさか、と思った。背にしていたリビングのドアが開く。
「────忠夫……?」
「……ッ!?」
懐かしい声に、誰かと思う間もなく振り返る。果たして、そこに居たのは四人の姿。
赤ん坊を抱いた、令子によく似た女性。令子の母、美神美智恵と歳の離れた妹である美神ひのめ。
そして、見間違えるはずもない────会うことはないと、会えないのだと覚悟していた、遠い国に居るはずの二人。
「親父……! 母さん……!?」
横島大樹と横島百合子。横島忠夫の両親がそこに居た────。
第九十九話
『憎まれ口』
~了~
お疲れ様でした。
今回のハイライトは妹紅に塩対応するレミリアお嬢様です。
あと二話で終わり……かな? 一話かな? エピローグというか蛇足的なのは三話あるんですけども。
さて、GS美神の二次で横島夫妻と美智恵が揃ったらほとんどの場合アンチ・ヘイト展開になっちゃうんですよね。
煩悩漢でははたして……!?
それではまた次回。