東方煩悩漢   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

今回の話ですが、R―15タグが一番活躍する話です。

一番活躍してると思います。

活躍してますよ、きっと。



……それではまたあとがきで!


第二十七話『吸血』

 

 横島がてゐを徹底的に甘やかした夜が明け、朝が来た。横島はいつも通りの時間に目が覚め、体を起こす。いや、起こそうにも起こせなかった。

 

 傍らに感じる暖かさと柔らかさ、重さ。てゐが腕を抱き枕にしていたのだ。

 

「……」

 

 横島はてゐの姿を認めた後、無言でてゐの頭を優しく撫でる。てゐは頭部から生えているふわふわの兎の耳をピクピクと動かし、更に腕をきつく抱きしめていた。よく見ればパジャマの袖の部分を甘噛みしている。

 

 それを見た横島は困ったような笑みを浮かべるが、彼はこれでも一月以上妖精メイド達に似たようなことをされているのだ。こういったことに対する対処法は既に見につけている。

 

「……ふぅ」

 

 瞬間、全身の力を抜いて腕をてゐの拘束から解き放った。あまりに急激な脱力に、腕を押さえ込む力が追いつかなかったのである。更にそれだけでは終わらない。横島は腕を抜いた時に、代わりにシーツをてゐの手に掴ませたのだ。今てゐは幸せそうな顔をしてシーツをもぐもぐと噛んでいる。対象物が入れ替わったことにはまるで気付いていない。

 

 これほどまでの高等技術を習得出来たのが妖精メイドの抱き枕から逃れる為であるとは、驚けばよいのか呆れればよいのか悩むところである。しかし、横島らしいと言われれば、納得出来るのではあるまいか。

 

「……」

 

 横島はもう一度てゐの頭を撫で、洗顔と歯磨きを終えてパジャマから執事服に着替えた後、いつも通りにとりあえずの洗濯物を持って共用洗濯場へと向かう。

 

 こうしていつも通りな様でいつも通りでない朝を迎えた横島は、この後にどうしようもない程の苦悩が待ち受けていることなど、当然知る由も無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

第二十七話

『吸血』

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館の正門前。そこでは二人の少女が一人の少年に武術の指導をしていた。銀髪で二振りの刀を持った少女。赤の長髪で華人服のようなチャイナドレスを着た少女。そして執事服を身に纏い、何やら表情を盛大に歪ませている少年。即ち妖夢、美鈴、横島である。

 

「はい、良いですよー。そうやって私の『気』を循環させてください」

「……」

 

 美鈴は横島の体の一部に触れながら横島に指示を出す。横島は美鈴から体内に流し込まれた『気』を体内で循環させ、より高めるという修行を行っている。横目でその様子を眺めている妖夢は頬を少々赤く染め、横島の心情を察して同情の笑みを浮かべている。

 

「そうですそうです。良いですね、ちゃんと()()()()()()()()行き渡ってます」

「……」

 

 美鈴も平気というわけではない。彼女の頬も、否、顔全体が赤く染まっており、興奮の為かうっすらと汗ばんで息も多少荒い。そんな状態で横島の耳に囁くように声を掛けている。それは単純に姿勢の問題なのだが……横島としては色々な意味でたまらない。

 

 それもそのはず。美鈴が触れているのは第七チャクラが存在する頭頂部。そして第一チャクラが存在する会陰(えいん)……()()()()()()()()()()である。横島は健康すぎる程に健康な青少年だ。そんな彼がナイスバディな美少女にそんな場所を触られて、正気を保っていられるわけがない。

 

――――だが、彼は必死に耐えている。血涙を流し、唇を噛み切りながらも必死に耐える。全ては自分がロリコンという名の外道に堕ちない為に。……彼のこめかみから勢い良く鮮血が迸った。しかしそれが良い方向に働いたのか、思考に靄がかかったような状態になり、だんだんと耐えるのが楽になってくる。それは単なる貧血なのだが、今の横島にはどうでもよかった。

 

 では、何故こんなことになったのか。理由はごくごく単純なことだ。最初と最後のチャクラに触れていた方が、何かあった時に対処しやすいからである。気を自由に操れる者にとって、これが一番安全であり確実だ。だからこそ美鈴は横島の頭頂部と会陰をがっちりと掴んでいる。

 

 デメリットとしては触れる場所が触れる場所なだけに下手な者が同様の方法を取れば羞恥心を煽り、失敗を誘発すること。しかし美鈴は超一流と言っても過言ではない程の達人だ。確かに恥ずかしくはあるが、それでも気の操作を失敗するほどではない。

 

 ……では、横島はどうか。

 

「……」

 

 横島は終始無言で気を循環させている。それは、それだけ集中している証であり、美鈴や妖夢達といった達人級の面々には劣るものの、それでもそれに迫る程の力量を身につけたから――――では、断じてない。否、集中しているといえば集中している。スポーツにおける『ゾーン』にも近い程の超集中状態だ。そのような状態で彼が考えることは、一体どのようなものなのだろうか?

 

(はあぁ~~~~~~ん!!!! 美鈴が!! 美鈴の手が!!! 俺のあんな場所に触れちゃってるよ~~~~~~!!!!!? あああああ、美鈴の手があったかい!!! やーらかいいいいいい!!! あああ、これはもしかしてそーいうことなのか!? 手を出して良いのか!!? 『いけないな、美鈴。こんなことをしていては……』『ご、ごめんなさい! でも、少しでも貴方に触れていたくて……』『ふふ、いけない子猫ちゃんだ。こんなことをしなくても、君は俺の大切な人だというのに……』『まあ、何て優しい男性なの! 素敵、抱いて!!』『うはははは!! 今夜は寝かさへんでーーーーーー!!!!』とかそ-いう感じーーーーーー!!!? モテてるのか!? やはりモテ期到来か!? これがモテ期なのかーーーーーー!!!!?)

 

 ……横島の考えることなどこんなものである。まあこの状態の横島は自らの驚異的な能力を無意識の内に発揮出来るので、悪いことではないはずだ。しかし、思考がこのような方向に流れるのも仕方がないことである。横島は今まで女性にモテず、女性に蔑まれながら過ごしてきた。それは横島自身の言動や強いコンプレックスによる思い込みも関係しているが、今回は割愛する。重要なのは横島が見た目年齢が近いとはいえ、年下に見える美鈴に半ば本気で手を出していいのか悩んでいることだ。

 

 昨日までとは明らかに考え方が変化しているが、これはフランと小悪魔の気持ちを知ったことが関係している。

 

 前述したが、横島はモテない青春を送っていた。彼の普段からの言動のせいもあるが、彼に好意を抱いている女性達は彼に対して一定以上のアプローチをしてこない。フランや小悪魔も直接『好きだ』と告白したわけではないが、それでも彼女達のアプローチには横島が二人の自分に対する好意を悟る程のものがあった。……逆を言えば、あれだけのことをしなければ彼には人の好意を感じ取れない、ということでもあるのだが。

 

 恋愛に疎く、モテることに不慣れな横島はフラン達の好意に戸惑っている。勿論彼女達の気持ちが疎ましいということは全くない。全身に電流のように衝撃が走る程には嬉しさが募る。だが、問題はアプローチの仕方にあったのだ。

 

 横島は他人に思われている程女性に慣れていない。何せ女性の下着姿で完全に正気が失われ、怒りを抱いても『ほっぺにチュー』で誤魔化されるくらいだ。小悪魔に指を絡められ、フランに全身を擦り付けられ。妖精メイド達もたまに同じようなことをしてくるのだが、フラン達とは何かが違うように感じるのだ。それもあってか、横島の中ではどれだけのスキンシップが()()()()()()()()()が分かりかねていた。

 

 そして、今回の美鈴との『修行』である。横島は美鈴が自分に対して好意を持っているからこんな修行をしだしたのかと考えてしまう。その一方でこれは単なる修行だ、美鈴も恥ずかしそうにしてはいるが普段とそう変わらないじゃないか、とも考える。まさか美人局……!? ということも一瞬だけだが考えてしまった。非常に失礼なことであるが、これが疑心、暗鬼を生ずということなのだろう。

 

 やがて最後まで耐え切った横島が顔面から血をダラダラと流しながら、爽やかな笑顔で仕事へと戻っていった。足が産まれ立ての小鹿のように震えていたが、誰もそれに関して言及しなかった。いつものことだからである。

 

 横島が館に入り完全に姿が見えなくなると、美鈴が頭から蒸気を噴出し、物凄い速さで地面へと倒れこんだ。

 

「あああああああ……!! いくら、いくら修行とはいえ私は横島さんに何てことを……!!!!」

 

 美鈴は真っ赤に染まった顔を両手で覆い隠し、ぐねぐねと悶え始めた。それを見る妖夢は乾いた笑みを浮かべている。

 

「大丈夫でしょうか!? 私、引かれてたりしないですよね!!? はしたない女の子だと思われてませんよね!!?」

「お、おおお落ち着いてください美鈴さん!?」

 

 妖夢は突如ノーモーションで『バウンッ!』と起き上がり詰め寄ってくる美鈴に驚愕しながらも何とか落ち着くように諭す。その甲斐あってか美鈴は深呼吸を繰り返し、多少の落ち着きは取り戻した。まだまだ顔が赤いことから、少しの刺激で先ほどのような暴走状態に陥りそうであるのが妖夢には不安だったが。

 

「ふぅ……。で、どうでしょうか? 横島さん、私のこと嫌いになってたりしませんよね?」

「それは大丈夫だと思いますけど……」

 

 美鈴の縋り付いてくるような視線と不安たっぷりな声音に、妖夢は美鈴の抱く気持ちを理解していた。美鈴本人がそれを自覚しているのかは定かではないが、傍から見る限りでは随分と分かりやすい。

 

「でもでも、なんかこう何かを耐えるような顔をしてましたし……。私に触れられたのが嫌だったのでは……」

 

 美鈴は随分と後ろ向きな考え方をする。横島に対し、無意識に後ろめたい気持ちを抱いたのが関係しているのだろう。しゃがみ込み、頭を抱えて懊悩している。妖夢はここで下手なことを言っても負のスパイラルが生じるだけだと考えたが、元より自分は口が上手くない。だから見たままずばりを言うしかないと小さく溜め息を吐いた。

 

「横島さんは嫌がっていたのではなく、理性を保つのに必死だったように見えましたが……」

 

 妖夢の言葉に美鈴は動きを止める。その顔は青を通り越して白くなっていた。

 

「つまりそれは怒りを抑えるのに必死だったと……」

「何でそうなるんですか。違いますよ、美鈴さんに煩悩のまま襲い掛からないようにするためですよ。……多分」

「――――ゑ?」

 

 余りにネガティブな発言を繰り返す美鈴に妖夢が辛抱堪りかねたのか、呆れたように息を吐きながらきっぱりと言い放つ。言葉の最後に多少の自信の無さが滲んでいるが、ほぼ間違いないだろうことだ。それを聞いた美鈴は間の抜けた声を出し、固まった。直後、瞬時に頭が沸騰したのか顔が爆発したかのように赤く染まり、頭頂部から湯気が噴き出した。

 

「え、ええええぇ!!? つ、つつつつまり、横島さんが、私のことをそういう風に見た……ってことですか!!?」

「ええ。まあ、あんな状態になったらそれはそうですよ」

「あ、あわわわわわわ!? どどどどうしましょう!? 私、心の準備がまだ全然ーーーー!!?」

 

 美鈴は真っ赤になった顔を両手で押さえ、キャーキャーと悶え始める。そんな彼女の姿と漏れ出る言葉から、本当に自覚が無いのだろうかと妖夢は疑いを持つ。好意を持っているのは確かだろう。何せさっきまでの横島との修行ははっきり言って居心地が悪かった。美鈴がその大きな胸を横島の背中にむぎゅっと押し付け、右手を頭に、左手を会陰に。更に耳元で囁くように指示を出していたのだ。堅物の妖夢ですらバカップルの特殊なプレイにしか見えなかった。知らない人にあれは修行を行っていると聞かせれば、「痴漢の修行かな?」と思ってしまうことだろう。

 

「あのー美鈴さん。ちょっとお聞きしたいことがですね」

「あわわわわっ、えーとえーと、こういう時は落ち着いて素数を数えて――って、はい?」

「……お聞きしたいことがありましてですね」

「は、はい。何でしょう」

 

 美鈴は何度も深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとする。その甲斐あってか顔の赤みは引いてきた。それを見る妖夢は美鈴の慌てふためく姿に多少のショックを受けている。普段の落ち着いたお姉さんのような姿に、妖夢は憧れを抱いていたのだ。しかし、何も失望したり嫌いになったというわけではない。ただ普段とのギャップが強すぎて心の整理が追いついていないのだ。

 

「単刀直入にお聞きします。美鈴さんは横島さんのことが好きなんですか?」

「――――……え」

 

 妖夢の言葉は美鈴には予想外に過ぎた。横島のことが好きかどうか。妖夢はそれを聞いている。単純に好きか、ではない。横島のことを一人の男性として好きなのかを聞いているのだ。

 

「え……と、それは……」

 

 上手く言葉に出来ない。それどころか思考も上手く回らない。頭の中が急にぐちゃぐちゃになり、意味のあることを考えられなくなった。

 

 美鈴の顔が徐々に赤く染まる。上手く言葉に出来ない。思考も回らない。()()()()()理解出来た。自らが横島に抱く気持ち。その存在に。

 

「わた、しは……」

 

 頭に浮かんでくるのは横島の無邪気な笑顔。レミリアやパチュリーに弄られて涙を浮かべている顔。フランや妖精メイド達に見せる、父性を湛えた顔。過去の傷を曝け出し浮かべた、憂いを帯びた顔。――――怪我をした自分を、心配そうに覗き込む顔。

 

 思えば、美鈴は横島の色々な顔を見ている。そして、それらが決して色褪せることなく、その当時の色を鮮烈に保っていることに気付いた。

 

――――ここまで来れば、流石の美鈴も完全に自覚出来た。横島のことを思うと、心の底から湧き上がって来る想いがある。

 

「私は――」

 

 妖夢を見つめ返す美鈴の瞳。そこには一つの確固たる想いが宿っていた。

 

 

 

 そして、そんな美鈴を見つめる者達が存在した。紅魔館のとある部屋から、遥か正門の美鈴を見つめる四つの瞳。その持ち主達はまるで天使と見紛うばかりの笑みを湛えていた。

 

――――フランと、小悪魔である。

 

 

 

 

 

 

「さて、横島君の相談事って何だと思う?」

 

 永琳は自分が淹れた紅茶を一つ啜り、同じテーブルを囲む二人に語りかけた。

 

()()()()からだと、簡単に割り出せるわね」

「心を読むまでもありませんでしたね。……ところで私もご一緒してよろしいのでしょうか?」

 

 紫とさとりが永琳に返答する。ここはゲストルーム。紫と永琳のいつものお茶会にさとりが混ざった形で開催されている。ちなみに横島から相談があると言われたのは紫と永琳だけであり、さとりは含まれていない。

 

「ま、別に構わないでしょう。むしろ貴女が居た方が良いかもしれないじゃない」

「可能性の話じゃないですか……」

 

 さとりは永琳の楽観的な言葉に溜め息を吐く。紫もさとりと同じことを思っているのだが、それでもさとりが居た方が良いと考えている。それが誰の為になるのかを考えての行動であるか、さとりはそれを読み取ったので強く口には出せない。

 

 事の始まりは昼食の時間。横島の様子が明らかにおかしかったのだ。

 

 何事かを真剣に考え込んでいるように見え、かと思えば急に壁にガンガンと頭突きをし始め、頭から血を噴き出したまま料理の配膳をしようとしたり、いきなり床に倒れ伏して悶え始めたりなど……。その時の横島はいつもに増して余計におかしかった。特にフランや小悪魔、美鈴に対して露骨にギクシャクとした対応をしている。……余談だが妹紅も横島に対してかなり挙動不審になっていたのだが、横島のインパクトの方が強かったのでそれに気付いた者は少なかった。

 

 昼食後、横島は食堂でゆったりとお茶を楽しんでいた紫と永琳の二人に「相談に乗ってほしい」と頼んだのだ。その時の横島は明らかに憔悴しており、一目で精神的に追い詰められていることが分かる。一体昨夜から今の時間までで何があったというのか。

 

 紫達が横島の様子を思い返していると、ドアから控えめなノックが四回響く。

 

「横島っす。入っても大丈夫っすかね?」

「あら、来たわね。入ってもいいわよー」

 

 疲れたような声音の横島の声に、永琳が応える。やがてゆっくりと入ってきた横島は紫と永琳の存在を認め、そしてさとりが居ることに驚いた。

 

「あれ、さとりちゃんも?」

「すいません。私も遠慮したほうが良いと思ったのですが……」

 

 ちらりと永琳の方を見てそういうさとりの顔は、申し訳なさとそれ以外の感情で歪んでいた。

 

「……結局ここにいる時点で私も私ですね。すみません、大事な相談だというのに」

 

 さとりは横島に頭を下げる。彼女は既に横島の相談の内容を把握していた。それだけ横島は今回のことを重く考えているのだ。もっとも、横島の()()を鑑みればそれは当然なのだが。

 

「いや、謝るこっちゃないと思うけど。さとりちゃんには全部筒抜けだろーしさ。それにほら、三人寄れば文殊の知恵って言うし。そうなると慧音先生もいてくれた方が良かったかな? でも昨日晩飯後に帰っちゃったし」

 

 横島はさとりの謝罪を受けておどけて返す。しかしすぐに話が横に逸れ、ぶつぶつと呟き始めた。本当に気にしていないようで、さとりとしてはありがたかったが。

 

「それで、横島君の相談したいことっていうのは何なのかしら?」

 

 放置していては話が進まないと判断した永琳が横島に問う。すると横島は途端にくしゃりと顔を歪めた。今にも泣きそうなその顔は、情けないという感想を抱かせるには十分であった。

 

「……実はですね」

 

 横島は何故か紫達三人の前に正座をして話し始める。彼からすれば後ろめたい感覚があったからなのだろう。まるで罪を告解をしているようにも見える。

 

 そうして話された内容は、やはり紫達の予想通りではあった。フランと小悪魔の気持ちを知り彼女達との距離感が掴めなくなり、美鈴との修行による接触により自分は彼女にも好かれているのか、という疑問を持ち。そしてフラン達を過剰に意識してしまったことで、彼女達に煩悩を抱いてしまう。

 

「このままじゃ……このままじゃ本当に皆に手を出しちゃうかも知れないんすよー!! 俺は、俺はどうしたらいいのかーーーー!!?」

 

 双眸からとめどなく涙を噴出させながら横島は叫ぶ。その姿はとても情けないものであり、内容もそうなのだが、それも彼が抱えている問題を考えれば非常に重いものとなる。事実、横島の事情を知っている紫達は沈痛な表情を浮かべている。

 

「……確かに、難しい問題よね」

 

 永琳が息を長く吐いて発言する。今までの彼女ならばこういう場合には横島をからかったりなどしてその反応を楽しんだりするのだが、事情を知った今となってはそれも出来ない。むしろ知らなかったとはいえ、今までの横島への対応を反省したくらいだ。

 

「レミリアも、少しタイミングが悪かったわね……」

 

 永琳がぼそりと呟く。レミリアは横島の事情を知る前にフラン達の気持ちを教えてしまった。あらかじめ事情を知っていれば、レミリアも教えはしなかっただろう。それほどまでに横島の抱える問題はデリケートなものだ。

 

「……?」

 

 皆が真剣に横島のことを考えてくれている中で、横島本人は違和感を覚えていた。いつもならこういった話の時にはもっと明るい雰囲気が流れていたはずだ。だというのに、今回の空気は重すぎるほどに重い。真剣に相談があると言ったからだろうか? だとしても疑問は残る。永琳は何と言っていた? 『難しい問題』と言っていた。普段なら『皆貴方より年上よ』と言って、こちらの精神にダメージを与えてくるはず。

 

「……」

 

 横島は考える。何気なく視線を動かすと、非常に辛そうな顔をしている紫とさとりの姿が見えた。

 

(……ああ、そういうことか)

 

 横島が心中で納得すると、さとりの体がびくりと跳ねた。

 

「あ、あの、横島さん……」

 

 さとりの視線が揺れる。横島の最大のトラウマを覗き見、それを他者へ伝えたことを申し訳なく思っているのだ。これには流石の横島も顔をしかめ、機嫌を悪くする。誰だって多くの人に知られたくないことを抱えている。それを数人とはいえ言いふらされれば怒りを感じようというものだ。

 

「……はぁ。いや、まあいいよ。紫さん達にはいつか話そうと思ってたしな」

 

 しかし、横島はお人好しが過ぎた。既にさとりを許し、笑みさえ浮かべている。彼は敵対する女性には顔面に蹴りを叩き込もうとするくらいには厳しいが、身内となると涙一つでそれまでの行動をチャラにするほどに甘くなる。

 

「……本当に、ごめんなさい」

「……ん」

 

 横島はさとりの謝罪を受け取った。横島はさとりに苦笑を浮かべている。そこに紫と永琳も入ってきた。

 

「私達からも謝らせて。元はと言えば私達が画策したことだから。……本当なら真っ先に謝らないといけないのに。ごめんなさい、横島君」

「本当に、貴方には迷惑を掛けてばかりね。失敗を繰り返している私には貴方に許してもらう資格もないだろうけれど、それでも謝らせてほしいの。……本当に、申し訳ありませんでした」

「ちょちょちょ、重く考えすぎっすよ紫さん!?」

 

 土下座せんばかりに頭を下げる紫に横島は慌ててしまう。横島が幻想郷に墜落してしまう原因の一つである紫には、今回のことは堪りかねたのだろう。今までの横島との交流から少々軽く考えてしまっていたが、その実真相は強烈なまでに悪辣だったのだ。

 

「えーっと、ほら! 紫さんにはいつもお世話になってますし、もう済んだことなんすからこれで終わりにしましょうよ、ね!!? 俺も話す手間が省けたと思うようにしますし!!」

 

 横島はうなだれる紫を何とか励まそうとする。横島の優しさが身に沁みる紫だが、同時にそれが痛くもあった。しかし横島の必死な姿に紫もこのままではいけないと思う。紫は横島に数秒ほど抱きついたあと離れた。

 

(今、何で抱きついてきたの……!?)

 

 横島は紫の行動に胸がドキドキであった。トラウマを覗き見られたことはもう既に本格的に気にしていないらしい。

 

「さて、横島君との仲直りが終わったところでそろそろこれからについて話しましょうか」

 

 永琳は手を打ち鳴らしながら場を纏めだす。横島にとってはそのさっぱりとした対応が何よりありがたかった。

 

「と言っても……何をどうするんです?」

 

 横島が首を傾げる。横島には皆に今後どういった距離感でいればいいのかも分からないのだ。

 

「対症療法でしかないけど、私に良い考えがあるわ」

 

 そう言って永琳が右手の人差し指をピッと立てる。

 

「何となく不安な台詞だけど、何をするつもりなの?」

 

 紫が永琳に問う。永琳は一つ頷くと徐に口を開いた。

 

「簡単なことよ。――レミリアに、血を吸ってもらうの」

「お嬢様に……?」

 

 横島の頭には疑問符がいっぱいだ。レミリアに血を吸われることで、一体何が変わるというのだろうか。しかし、それを理解できていないのは横島だけであった。

 

「……確かにそれなら大丈夫かもしれないけど、それでも問題があるでしょう? 私は反対よ」

「私は何とも言えませんが……やはり安全策を取った方が良いのでは?」

 

 紫は反対、さとりは消極的反対といった意見を返す。しかしその内容は意図して横島に知らせないようにぼかしている為、横島にはやはり何が何だか分からない。

 

「それで、何でお嬢様に血を吸われたらいいんすか?」

「それは……」

 

 横島の質問に紫は何とか誤魔化そうとする。だが、それは一歩遅かった。

 

「知らない? 吸血行為はセックスの隠喩でもあるのよ?」

「――永琳!!」

 

 紫は永琳の言葉に声を荒げてしまう。横島の抱えるトラウマにとって、その言葉は出してはいけないものだ。紫の思考が瞬時に沸騰する。だが、自体は紫の予想を超えた事態を招くことになる。

 

「セ……ッ!!!!!?」

「――ひぃっ!!?」

 

 横島は永琳の言葉に反応し、こめかみから恐ろしい勢いで血液を噴出させた。紫や永琳達にしてみればそれは見慣れた光景だったのだが、当然知り合ったばかりのさとりはそうではない。結果としてさとりが「ち、血が!! 血がーーーー!!?」と錯乱するはめになってしまう。ちなみに現在は横島のこめかみを必死に押さえている。戦闘が得意ではないとはいえ、人間以上の力を持つ妖怪であるさとりに全力で頭を掴まれているのだ。その苦痛は筆舌に尽くしがたい。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい横島さん!!」

「大丈夫……大丈夫だから……」

(セックスの隠喩って言っただけでここまでの過剰反応とは……。さとりの言うように、本当に意外と純情なのかしら?)

 

 横島は特に何もしていないのにグロッキー状態となっていた。倒れ付す横島に謝り続けるさとりの姿は傍から見ればシュールに映る。見慣れている永琳は別のことを考えていたが。

 

「……それで、吸血がそういうことの隠喩だってのは分かりましたけど、それで何とかなるんすか? 結局はただの例えじゃないっすか」

 

 横島の言うことも尤もだ。例えはあくまでも例え。それが実際に効果を及ぼすことは無い。だが、その前提はひっくり返る。

 

「確かに例えは例えよ。でも、横島君にも覚えはあるんじゃない? レミリアに血を吸われた後、妙にすっきりとした気分になったことが」

 

 永琳の言葉に横島は過去を回想する。

 

「……言われてみれば、そんな気もするような……。そんな効果があるんすか?」

「そこまで劇的なものじゃないけどね」

 

 永琳には頷かれたが、それでも納得はいかない。そんな様子を見て取った永琳が、更に言葉を続ける。

 

「よく考えてみて? 横島君が幻想郷に墜落して既に一ヶ月以上が過ぎているのよ? その間横島君は一回も()()をしていない。思春期の男の子である横島君の性欲は言うに及ばず。自分はロリコンじゃないと言ってはいても、それでも溜まるものは溜まっていくわ。しかも周りには自分を好意的に見てくれる美少女がいっぱい。――――さて、どうして横島君はこんなにも耐えることが出来ているのかしら」

 

 横島は永琳の言葉に深く考え込む。今のところ横島はレミリアに二回血を吸われた事がある。一回目の時は給料のことで舞い上がっていた為に妹紅に飛び掛ったりもしたが、今のようにどうしようもなくなるほど思いつめることはなかった。二回目も同様だ。その後夢の影響で一時暴走したりもしたが、今ほど切羽詰っていたわけではない。

 

「……それが、血を吸われたおかげ?」

 

 横島としては半信半疑といったところ。しかし今まで耐えることが出来た理由としては一番信憑性が高いように思える。一度そう思うと不思議なもので、血を吸われれば煩悩を抑えることが出来るのだと思えてくる。

 

「……言われてみれば何かそんな気がしてきましたね」

 

 横島は神妙な顔つきでそう言った。それに永琳はうんうんと何度も頷き、紫はそんな永琳を軽く睨んでいる。

 

「ん? と、いうことは……」

 

 ここで横島があることに気付く。思い返すのはイタリアに存在する吸血鬼達の生活する島、ブラドー島でのこと。あの時横島は吸血鬼と化した美神のライバル、小笠原エミに噛まれて吸血鬼となった。だが、()()()()()は横島が思い出したある出来事の前には霞んでしまっていた。

 

 脳内で展開されるあの時の光景。それは、親友であるピートとその父、ブラドー伯爵の対決。ピートは皆を助ける為、支配秩序の崩壊を狙った。吸血鬼は血を吸うことで対象を支配する。噛まれた者は、噛んだ吸血鬼に絶対の服従を強いられる。だが、支配者である吸血鬼が他の吸血鬼に噛まれてしまえば、その支配が崩壊し、相手を支配していた魔力が消滅してしまう。これが支配秩序の崩壊であり、横島もそれで吸血鬼から人間へと戻ることが出来た。

 

――――そして横島は思い至る。永琳の話を聞き、あの時のことを改めて思い返す。あの時互いに噛み付き合っていたピートとブラドー伯爵。あれはつまり、親子での超濃厚なホモセッ――――

 

「ぅおえっ!!? うぶぅぇえええええ!!!!」

「横島さん!? それ以上考えてはダメです!!」

 

 横島は以前の反省を活かし、ポケットから取り出したエチケット袋に胃の中の物を吐き出した。横島の目から涙が零れ落ちる。美少女達の前で嘔吐するのは二回目である。ちくしょう。何故俺ばかりがこんな目に合わなければならないんだ。覚えていろ、ピート。戻ったら絶対にボコボコにしてやる。主に顔面を。横島は決意を新たにした。

 

「大丈夫、大丈夫ですよ。全部吐き出してしまいましょう。我慢しても苦しいだけですよ」

「ううっ、くぅぅう、うううううぅぅぅ……!!」

「よしよし……」

 

 色々な意味で涙が止まらない横島の背中を、さとりが優しく撫でる。その暖かな感触に横島の心が癒されていく。

 

「何かしら。こう、私の立場を奪われたような……」

(紫ってそんな立場だったかしら……?)

 

 二人を眺めることしか出来ない紫は、謎の焦燥感を募らせている。

 

 その後、何やかんや落ち着いた横島は何故かさとりに頭を撫でられる。撫でることに慣れている横島も撫でられることには慣れていない。結果、顔を赤くして拗ねたようにそっぽを向いているのだが、それを見る三人の感想は以下の通りだった。

 

(可愛い)

(可愛い)

(可愛い)

 

 妙なところで趣味の合う三人だった。

 

「んで、いい加減話を戻しますけど、俺はお嬢様に血を吸われれば良いんすよね?」

 

 生暖かい視線に耐え切れなくなったのか、横島は永琳に確認を取る。それに対して永琳は頷きを返した。

 

「良いの、横島君? それは……」

「……ええ。紫さんの言いたいことは分かってます。確かに……心情的にはちょっとキツイっすけど、それでもここでやっとかないともっとひどいことになるかもですしね」

 

 横島は紫の言葉を遮って自分の考えを吐露する。それを聞いた紫は何かを言おうと口を開くが、思い直したのか大きく息を吐くだけに留まった。

 

「……レミリアには私達から伝えておくわ。とりあえず、夕食後にレミリアの部屋で良いわよね?」

「ええ。それが一番分かりやすいですし」

 

 紫の言葉に横島が頷く。そしてその後は横島は午後の仕事時間へと入り、部屋を後にした。

 

「……やっぱり、性急すぎるんじゃないかしら?」

「そういう貴方は少し過保護気味なんじゃない?」

 

 紫と永琳の間にピリピリとした空気が漂う。互いが睨むように見詰め合う中、片方が唐突に大きく息を吐いた。先に折れたのは、紫である。

 

「横島君の様子からして、根が深いトラウマであることは事実。下手をすれば爆発するかもしれないわよ?」

「けど、横島君には自分からそれに立ち向かっていったわ。なら、私達はサポートしてあげないとね」

「……それは詭弁でしょうに」

 

 永琳の前提が違う言葉に紫は深く深く溜め息を吐く。紫とて横島なら大丈夫だと信じている。だが、それでも心配なものは心配だ。結局、紫に出来ることは横島の無事を祈るだけだった。

 

 

 

 

 時間は流れて夕食後。横島はレミリアの私室を目指して歩を進めている。あの後横島は胸の内を吐き出したのが功を奏したのか、最近では類を見ないほどに仕事を上手くこなすことが出来た。そういったこともあって初めの頃は鼻歌を歌いながら廊下を進んでいたのだが、それも次第に鳴りを潜めていった。

 

「……」

 

 横島の鼓動が早くなっていく。どうやら緊張してきたようだ。横島は頭をぷるぷると振り、ついに辿り着いたレミリアの部屋の扉を見やる。横島は生唾をごくりと飲み込み、ノックをした。

 

「……お嬢様、横島っす」

「――ああ、入っていいぞ」

 

 横島の言葉に即座に返答があった。横島はそれに少々驚いたが、大きく息を吸うと意を決してドアを開く。

 

「失礼します」

 

 随分と久しぶりに入ったその部屋は、巨大な玉座に天蓋付きのベッド、良く見ればそこかしこにぬいぐるみがあり、相変わらず個性的という形容がよく似合うものだった。ちなみにベッドの枕元には以前横島がプレゼントしたぬいぐるみ達が鎮座している。抱きしめながら寝ているのだろうか。

 

「話は紫達から聞いている。血を吸ってほしいんだって?」

「……そうっす」

 

 ドアの前で何故か仁王立ちしていたレミリアが口角をニヤリと持ち上げて笑う。まさかとは思うが、横島が来るまでずっとそのまま待っていたのだろうか。それを思うとその自信に満ち溢れた立ち姿が可愛らしく見え、横島は少々脱力してしまう。

 

「そうかそうか。私に血を献上する。良い心がけだな、気に入った。……あ、この椅子に座って」

「あ、はい。……こんな椅子も持ってたんすね」

 

 レミリアは部屋の奥から木製の背もたれの無い丸椅子――ウッドスツールを持ってきて、そこに横島を座らせる。部屋の雰囲気とまるでマッチしないその姿は、恐らく手に入れてから使う機会がなかったのだと窺える。

 

「よいしょ……っと」

「……っ!?」

 

 レミリアは座らせた横島の足の上に、真正面から座る。レミリアは自らの足を横島の腰に、腕を首に絡ませる。丁度横島の首元にレミリアの顔が埋まる。

 

「ちょ、お、お嬢様!?」

「んー、ちょっとはしたない格好だけど、今回は咲夜もいないし別に良いわよね。さて、それじゃあいつも通り消毒からだ」

 

 横島の戸惑う声も華麗にスルーし、レミリアは横島の首に舌を這わせる。

 

 確かにレミリアは紫達から横島の血を吸うように聞かされていた。しかし、聞かされたのは()()()()()()()。紫と永琳はレミリアの性格を鑑み、詳しい内容を告げずにおいたのだ。吸血がセックスの隠喩云々などレミリアに話せば、横島がどのような目に合うかが容易に想像出来る。だからレミリアには詳細を伝えなかった。

 

 だが、問題は別の所で発生した。

 

「……うっ、うう、ぐっぅぅううううう……!!」

 

 突然、横島がぼろぼろと涙を流し始めたのだ。

 

「ちょ、ちょっと、急にどうした――――ん?」

 

 いきなりのことに横島の首元から埋めていた顔を上げ、彼の顔を覗き込む。横島は何やら顔を赤く染めて何かに耐える様に固く目を閉じていた。それだけならば何があったのかは分からなかったのだが、その原因たるものはレミリアにもすぐに理解が及んだ。否、強制的に理解させられたといったところか。

 

「……」

 

 レミリアの腹が、何かに押されている。それは煮えたぎるほどの熱を持ち、レミリアの柔らかい腹を硬く、強く押し返す。横島の意思を外れ、彼の分身たる()()がその存在を()()()()()していたのだ。

 

「……あれほど自分はロリコンじゃないと言っていたくせに、これはどういうつもりなんだ……?」

 

 レミリアは上目遣いで横島の顔を見上げる。横島はその目をうっすらと開き、レミリアの目を見返す。そのせいか、流れる涙の量が増えてしまう。

 

「~~~~~~っ! だって、だってだってだってぇ……!!!」

 

 横島の声は様々な感情に彩られ、掠れてしまっていた。横島の頭の中では、永琳の言葉が止め処なくリフレインしていた。つまり、『吸血はセックスの隠喩』である。

 

 吸血鬼は血を吸うことで仲間を増やす。親となる者が子を作る行為である。そのことが横島の脳内にこびりついてしまっていた。そのような状態で、レミリアと()()()()()になってしまったのだ。今回のことは仕方がないことと言える。だが、彼はついに見た目の幼い少女に完全に()()してしまった。横島の心はあらゆる意味で軋みを上げる。

 

「――ふふっ」

 

 それを救ったのは、目の前の少女だった。レミリアは横島の眼から未だ流れ落ちる涙をその舌で舐め取った。

 

「お前は結構泣き虫なんだな。あまり泣いてばかりだと男が下がるが……今の私は気分が良いから許してやろう」

「ん……ぅえ?」

 

 横島はレミリアの言葉が信じられず、間の抜けた声を出す。一体この状況の何が彼女の機嫌を良くしたのか。

 

「何でって顔をしてるな。……一つ聞くが、パチェの裸を見ても()()()()()()()()()んだろう?」

 

 レミリアの言葉に横島は暫し目を見開いたあと、頷いた。

 

「ははは、そーかそーか。パチェからそういったことを聞いてなかったからやっぱりだ。……ついでに合点もいった。血を吸ってほしいというのもこれが関係しているんだろう?」

 

 レミリアがそう言って下腹を横島自身に押し付ける。予想外の刺激に横島はびくりと跳ね、呻きを漏らしてしまう。

 

「まったく、紫達も最初から全てを話していれば良かったものを。そうすればお前も泣くことはなかったかもしれないのにな」

「……お嬢、様」

「とりあえずの事情は理解したし、これ以上このままでいるのもお前が辛いだろうしな。……吸わせてもらうぞ? 優しく、ゆっくりと吸ってやるから、そのまま身を委ねていろ」

 

 レミリアは横島の首をぺろりと一つ舐め、牙を突きたてた。

 

「う……っ、く」

 

 横島の体が痛みに跳ねる。レミリアは首に回した腕の力を強くし、横島が逃げられないように押さえる。少しずつ、少しずつ血液を嚥下していくうちに、横島の体から力が抜けていくのが伝わってくる。レミリアは首に回していた手を解き、背中へと回す。すると横島も痛みを我慢する為か、同じようにレミリアの背に腕を回し、抱きしめてきた。

 

「……ふっ」

 

 始めは驚いたレミリアも、すぐに柔らかな笑みを浮かべて血を吸うことに集中する。その際に片手を横島の頭に持っていき、優しく撫でる。

 

 その姿は、睦み合う恋人同士の様にも見える。窓のない部屋。重なる二つの影は、暫くの間離れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

第二十七話

『吸血』

~了~

 

 




横島君の初エレクチオンは紫でも藍でも永琳でも輝夜でも鈴仙でも妹紅でも慧音でも咲夜でも美鈴でもパチュリーでも神奈子でも早苗でも文でもなくレミリアお嬢様(挨拶)

レ ミ リ ア お 嬢 様 ( 挨 拶 )

溜まりに溜まった状態→吸血はセックスの隠喩と知る→はしたない格好でぺろぺろされる→エレクチオン

……何もおかしなことはないな。

横島。君はよく我慢したが、作者がいけなかったのだよ。


……私が一番書きたかったのはピートとブラドー伯爵のくだりであるのは言うまでもない。

それではまた次回。

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