東方煩悩漢   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

前回文字数がどうのと言っておきながら、結局増えるというね……何でだろうね……

それではまたあとがきで


第二十九話『裏目』

 

 慧音とさとりが紅魔館を訪れてから数日。満月の日の朝。紅魔館のとある一室へと続く廊下を、ふわふわの兎の耳を生やした、幼い少女が歩いている。

 彼女の名はてゐ。紅魔館の執事、横島に恋する少女だ。今、彼女の瞳にはある決意の炎が燃え盛っていた。

 

「執事さん、待っててね……」

 

 そう、彼女は決意したのだ。横島に告白することを。

 今の今までどうしても決心がつかなかったのだが、横島の周りの環境を見て早い方が良いと判断したのだ。

 

「ま、独り占めしよーってんじゃないんだけどねー」

 

 てゐは独り言を呟きながら目的地へと歩を進める。彼女の口ぶりから横島にいの一番に告白をして、独占しようという気はないことが窺える。彼女が告白を決意したのは、最近の横島に変化が見られたからだ。

 最近の横島は特定の人物達を意識している。それがフランと小悪魔だ。どうも二人の気持ちを知り、それから彼女達に対する態度が変化してきたようだ。他にも、つい先日レミリアの部屋から妙にすっきりした様子の横島が出てきたという報告もある。

 

 これらの情報から、てゐはある一つの結論に達する。

 

――――横島が、ロリに傾倒しだしたのだ……と。

 

 日頃自分はロリコンじゃないと言っている横島だが、彼だって健康的過ぎる程に健康的な少年だ。さほど変わらない年齢(見た目)の美少女達に好意をぶつけられれば、例え自分の好みの年齢(見た目)から外れていても、どうしても意識をしてしまう。特に彼は日頃の言動のせいでモテない青春を送ってきている。こんなチャンスは滅多にない。誰かに取られる前に受け入れてしまった方が良いのではないか……。そんな考えが頭をちらついても無理はない。

 だからこそ彼は紫達に相談を持ちかけたのだ。このままでは煩悩が暴走してしまう、と。

 

 それを知ってか知らずか、てゐは好機と判断し行動へと移す。何事も早い方が良い。鉄は熱いうちに打てと言うし、今のうちに横島に想いを告げておけば、彼の中で何かと特別な立ち位置になれるかも知れない。

 てゐは横島に何人もの女が出来るのは構わないが、どうせなら自分が正妻ポジションにつきたいと考えている。()()()()()()になるかもしれないのだ。一番近くで愛する者を見ていたいと思うのは、ごく自然なことだろう。

 

「……さて、着いた」

 

 てゐがその歩みを止める。どうやら目的地に到着したようなのだが、彼女の表情には濃い緊張の色が見て取れる。横島に告白をするということに、それだけのプレッシャーを感じているのだろうか。

 

――――そうではない。そうではないのだ。

 

 今てゐが立っているのは横島の部屋の前ではない。そもそも今彼は元気に執事業をこなしている。この部屋は何の変哲もない、ただのゲストルーム。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 ここに来たのは他でもない。()()()()()()()()()()()()()()()()来たのだ。

 

 てゐの頬に冷や汗が伝う。てゐはそれを乱暴にハンカチで拭うと、にやり、と不敵に微笑んで見せた。

 

「……行こう」

 

 てゐはドアレバーに手を掛ける。目を閉じ、数回深呼吸した後、一息にドアを開け放った。

 

 

 

 

 

第二十九話

『裏目』

 

 

 

 

 

――――まるで、自分の周囲のみ重力が数倍になったかのように錯覚してしまうほどの重圧。全身から冷や汗を流し、てゐはその重圧にひたすら耐える。彼女にそれ程までの重圧を掛ける存在。それは言わずもがな永琳だ。彼女はてゐを見つめている。否、もはや睨みつけていると言ってもいいだろう。少なくともてゐにはそのように感じられる。

 

「……てゐ、もう一度言ってくれるかしら?」

 

 それはいつもと変わらないはずの声音。だが、今のてゐには何故だかとても恐ろしく聞こえてしまう。てゐはカラカラに乾いた喉に何とか唾を飲み込むことで、かろうじて発声を可能にした。

 

「……えっと、執事さんに、いっぱい迷惑を掛けて、いるけれど。私は、その。執事さんのことが、好きになったので、どうか、告白、の、許可を、いただけたら……と」

 

 乾燥しきった喉では声を出すのも困難になる。しかし、てゐはつっかえながらも、しっかりと永琳の目を見据えて言い切った。尋常ではない緊張がてゐを襲う。彼女の言葉を聞いた永琳は何の反応も示さない。時間だけが過ぎてゆく。どれだけの時間が経ったのか、少なくともてゐには数時間とも思える時間の流れの果てで、永琳がてゐに問いを投げかけた。

 

「……本気なのね?」

 

 それは、てゐの意思の確認。てゐは襲い来るプレッシャーをはねのけ、しっかりと頷いた。

 

「……」

「……」

 

 二人の間に沈黙が舞い降りる。だが、そこで永琳が、ふ、と微笑んだ。それにより、てゐを襲っていたプレッシャーが跡形もなく消失する。

 

「本気なら、私から言うことは何もないわ。告白が成功するように祈っててあげる……頑張りなさい」

 

 ひどく優しい声色で、永琳はそう言った。瞬間、てゐの口から吐き出されたのは、特大の溜め息だった。

 

「……人がせっかく応援してあげているのに、その態度は何なのかしら?」

「あー、いや、違うんだよ。物凄く緊張してたから、それでつい……」

「緊張って、私に告白するわけじゃないんだから、どうして緊張なんかするのよ」

 

 てゐの物言いに、永琳は口を尖らせて文句を言う。だが、文句を言いたいのはてゐの方だった。

 

「だってさ、私は執事さんに取り返しのつかないことをしちゃったわけだし。それを理解して告白しようってんだから怒られるのは覚悟してたんだよ。それが結局なんにもなかったから、ほっとして……」

「……いや、流石に人の好いた惚れたに口出しはしないわよ? そういうのは当人達の問題だし、二人が納得するのならそれが一番なんだし……私からの許可なんて必要ないでしょうに」

「えぇーっ!? あー、もう、緊張して損したー。だったらあんな極大のプレッシャーを掛けないでほしいよ」

「……? プレッシャー?」

 

 ぶちぶちと文句を言い始めるてゐに、永琳が疑問の声を上げる。てゐが感じていたプレッシャーについてだ。

 

「プレッシャーって、私にそんなのを感じてたの?」

「感じてたのって……。あんなにぐわーっ! って重圧を掛けてきてたじゃない」

「……いえ、そんなことはしていないけれど……?」

「え……?」

 

 再び二人に沈黙が舞い降りる。不思議そうにしている永琳に、嘘を吐いている様子は一切見られない。長い付き合いだ。それくらいのことは分かる。

 と、いうことは。

 

「……私の、思い込み?」

 

 てゐが小首を傾げる。一体永琳にどのような印象を持っていればそのような現象が起こりうるのか。永琳の目が徐々に細められていく。

 

「あ、あー!! こうしちゃいられないなー!! 思い立ったが吉日って言うし、私は執事さんの所へ行って来るよー!!」

 

 永琳の機嫌が急降下したことを長年の経験から察したてゐは、わざとらしく大声を発して席を立ち、脱兎の如く部屋から逃走を試みる。それに慌てたのは永琳だ。

 

「あ、待ちなさいてゐ!!」

 

 永琳がてゐに向かって手を伸ばす。だがてゐはそれを体を深く沈めることで回避した。その際、急激に体を動かしたせいか、てゐは眩暈を覚える。しかしてゐはそれを無視して部屋を飛び出した。目指すは横島が居るであろう中庭だ。

 てゐは走る。愛しの横島の元へとひた走る。てゐの心情を表しているのか、未だかつて感じたことがないほどに軽やかに、飛ぶように走ることが出来た。

 

――見つけた!

 

 程なくしててゐは中庭に辿り着き、横島の姿を認めた。てゐは彼の元へと駆け寄り、その勢いに任せて飛びついた。横島はてゐの行動に驚きつつもしっかりと受け止め、てゐを軽く抱きとめる。

 

――あのね、私、執事さんに伝えたいことが……。

 

 てゐは息切れを起こしながらも必死に横島へと想いを伝えようとする。だが、横島はそれをさせなかった。

 

――あ……。

 

 横島が、てゐを強く抱きしめたのだ。まるで、言葉は不要だと言わんばかりに。思わず横島の顔を見上げたてゐの頬を、横島が優しく撫でる。その感触に目を細めていると、横島がてゐの顎に手をやり、そのままくいと持ち上げた。

 てゐが驚きと喜びに驚く暇もなく、横島の顔は、唇はその距離を縮めてゆく。てゐはその短くも長い二人の距離にもどかしさを感じ、しかしその距離を埋めるという行為に歓喜を募らせる。

 近付く横島に合わせ、てゐはそっと目を閉じる。思わず、目の端から涙が零れる。

 

――執事さん。私、執事さんのことが――

 

 数瞬後、てゐは極大の幸福感と共に思考を真白に染める。暖かな温もりに包まれ、てゐの意識は急速に失われていった。

 

 

 

「……だから待ちなさいって言ったのに」

 

 片手で顔を押さえ、深い溜め息を吐くのは永琳だ。彼女の眼前に広がる光景。それはてゐがやたらと幸せそうな表情でゲストルームの絨毯に倒れこんでいる姿だ。極度の緊張からの開放による意識と体の緩み、そして急激な運動による血圧の変動にてゐの体が耐え切れず、てゐは永琳の手を避けた段階で失神していたのだ。

 

「むにゃむにゃ、もう飲めない……」

「……全く、世話の焼ける子ね」

 

 幸せそうな顔で寝言を言うてゐに、永琳は苦笑を浮かべる。普段の言動とは裏腹に、その寝言はまるで子供のようだ。

 

「うぅ……ん、執事さんの牛乳(ミルク)で、私の(ナカ)は、いっぱいだよぉ……。これ以上、飲まされたら、吐き出し(溢れ)ちゃう……」

「……健全な夢、よね……?」

 

 やはりてゐはてゐでしかないのであろうか。永琳は痛む頭でそんなことを思った。

 

 

 

 

 さて、そんなてゐの思い人である横島が現在何をしているのかというと、レミリアの部屋で大絶賛そわそわとしていた。本日は給料日であるし、またつい先日レミリアに()()()()とさせてもらった部屋だ。彼が意識してしまうのも無理はない。

 そんな横島を生暖かい視線で見つめるのは彼の主であるレミリア。やや嫉妬を瞳に滲ませているのがメイド長の咲夜だ。

 

「相変わらず分かりやすい奴だな……。もっと慎みを持ちなさいって前にも言ったでしょ?」

「すんませーん、貧乏人の性なんです……」

 

 横島は幻想郷に来るまでの極貧生活を思い出し、滂沱の如く涙を流す。紅魔館で執事をしてからは高給取りとなったはずだが、今回でもまだ二回目の給料日なのだ。横島が未だ貧乏時代を引きずっていても仕方がない。

 

「さて、これが今回の給料よ。受け取りなさい」

 

 レミリアがどこからか取り出した茶封筒を咲夜に渡し、横島へと届けさせる。横島は喜色満面といった風情で何故か恭しくそれを受け取った。単純計算で前回の倍近くはあろうかというその分厚い茶封筒を恍惚の眼差しで見つめ、横島はレミリアに感謝を述べる。

 

「ありがとうございます、お嬢様!! これからも頑張ります!!」

 

 覇気が漲る横島の声にレミリアはうんうんと頷く。ここまで喜んでもらえるならば、給料に色をつけた甲斐があったというものだ。

 

「……ちなみに、今回はおいくらほどで……?」

 

 横島が異常に腰を低くし、給料の額を尋ねる。失礼なのは承知の上だが、給料としてこれほどまでに分厚い茶封筒は未だかつて受け取ったことがない。可能ならば確認をしておきたいのだろう。

 

「こら、そういうのは卑しいわよ」

「あー、いいよいいよ別に。減るもんじゃないしね」

 

 横島を咎める咲夜をレミリアが止める。横島は首をすくめ、恐縮している。レミリアはそんな横島に苦笑を浮かべつつ、指折りで計算をする。

 

「まず1000×24で24000円。それが30日で72万円。でも切りが良くないし前回半月で40万だったし、今回から時給制はやめたのよ。とりあえず今回からアンタの給料は毎月100万にしといたから」

「――――ゑ?」

 

 何でもないかのように告げたレミリアに、横島の思考が追いつかなかった。はて、今彼女は月に何万円の給料を支払うと言ったのか。

 

「ん? 聞こえなかった? 月100万って言ったんだけど」

 

 月100万。横島の頭の中でその言葉が何度も何度もリフレインする。月100万。俺が働いて、月100万。俺が、100万、貰える……?

 すでに横島にまともな思考を出来るほどの余裕はなかった。月100万。その圧倒的なインパクトが横島の意識を遠くへと追いやってしまう。

 レミリア達は急に静かになった横島をいぶかしみつつも、前回のような顔面崩壊が起こるのではないかと少々警戒している。しかしその兆しは一向に表れない。ならばまた泣くのか、とも思ったのだが、どうやらそれもないようだ。

 純粋に嬉しさの余り現実感が湧かないのか、それとも、もしかしたら失神してしまったのだろうか。咲夜は苦笑を浮かべて横島の顔を覗き込み、そして硬直した。

 

「……? 咲夜、どうかした?」

 

 レミリアが声を掛けるが、咲夜はそれに応えない。それどころか、横島の口元に耳を持っていったり、首筋に指を当てたり。その不審な行動にレミリアの不安が広がっていく。

 

「まさか……」

「……はい。呼吸、脈拍共に停止。――――死んでいます」

 

 たっぷり数秒間、世界が凍った。その凍った世界を溶かしたのは、レミリアの怒号。

 

「アホかーーーーーー!!!!!! たかが100万もらったくらいでショック死するなーーーーーー!!!!!!」

 

 レミリアは一瞬で横島の懐へと入り込み、そのままの勢いでいくつもの残像が出来るほどの速さで往復ビンタを食らわせる。見る見るうちに腫れ上がっていく横島の頬。それを止めたのは未だ冷静さを失っていなかった咲夜。

 

「いけませんお嬢様! こういう場合には速やかな処置が必要です。とりあえずはまず心臓マッサージを――」

「任せなさい!!」

 

 レミリアは咲夜の言葉を聞くや否や横島から大きく距離を取った。咲夜はレミリアの行動を疑問に思うが、まさか助走をつけて殴る気なのではないかと思い至る。だが、現実はもう少し斜め上を行っていた。

 

「必殺『ハートブレイク』――――!!!」

 

 レミリアは右手に生み出した魔力球を握りつぶし強力な槍へと変化させ、それを思い切り横島へと投げつけたのだ!!

 その槍は狙い通りに横島の胸部を直撃し、そのまま横島もろとも壁へと突き刺さる。幸い人体を貫通することはなかったが、横島の服は胸部を中心にジャケットやシャツといった上の部分が消滅。下も所々にほつれや破れが散見される。おまけに彼が叩きつけられた壁はクレーター状に大きく陥没し、その威力の程を知らせている。

 横島は壁からズルズルと力なく滑り落ち、やがて床へと倒れこんだ。

 

「……」

 

 咲夜はあまりのことに声も出ない。だがそれも数瞬のこと。咲夜はすぐさまレミリアへと詰め寄る。

 

「何やってるんですかお嬢様……!! 何やってるんですかお嬢様ーーーー!!!!」

「いや、その……心臓マッサージ……」

「じゃあ何で『必殺』なんです!? 何で『ハートブレイク』なんです!!?」

「いや、だってグングニルだと横島が消し飛んじゃうし……」

「何でスペルカードを使う前提なんですか!?」

 

 咲夜がレミリアを怒鳴る。非常に珍しい光景だ。普段見ることのない咲夜の姿にレミリアはしどろもどろになり、ろくな対応が出来ていない。レミリアはレミリアで横島がショック死したことに動揺していたようだ。

 そしてそれは咲夜にも言える。こんなお馬鹿なことで自分の負担を減じてくれる存在を亡くしてしまうのは勘弁願いたいのだろう。それに、咲夜も何だかんだで横島のことは気に入っている。仲の良い人物がこんな死に方をしてしまっては泣くに泣けない。

 そんな珍しい光景を終わりに導いたのは、倒れ付した横島の口から漏れた、声とも言えない僅かな呼吸音。

 

「横島さん!?」

「生き返ったのか!? ……やっぱり私のハートブレイクが功を奏したんだな、うん」

 

 咲夜はレミリアと共に横島へと駆け寄り、状態を見る。流石に死んでいたところにあれだけの威力の攻撃を受けたせいで、所々に小さな傷が出来ている。逆を言えば例え死んでいてもあの攻撃でその程度の怪我しかしなかったわけなのだが……。

 

「見た所自発呼吸は出来ていますね。とりあえず永琳を呼んで傷の手当を……」

「分かった。咲夜は永琳を呼んできて。私は人工呼吸をしておくから」

「え!? いえ、横島さんは自発呼吸出来ていますから……」

「咲夜!! ……事は一刻を争うようなことなのかもしれないのよ?」

 

 レミリアは咲夜に言い聞かせるように強い口調を使う。その間にも横島の頭を自らの膝の上に乗せているレミリアに対し、咲夜は戸惑いを隠せない。

 その体勢では横島の口に自分の口が届かないのではないかとか、気道の確保が出来ていないとか、そもそも自発呼吸をしているのに人工呼吸をするのは危険だとか、何故お嬢様自らとか、突っ込みたい部分が多いせいだ。

 それでもレミリアは真剣な顔で咲夜に語りかける。このままでは横島がまた死んでしまう、と。

 

「ほら、見てみろ。こんなにも血色がわる――」

「……お嬢様? どうかされまし――」

 

 咲夜へと言葉を掛けながら横島の顔を見るレミリアだったが、何かに気付いたように押し黙る。それを不審に思った咲夜が横島の顔を見ると、その理由が理解出来た。

 

「……」

「……」

 

 横島が目を閉じて思い切り唇を突き出している。いつにまにか手を胸の前で組み、何やら落ち着かなさそうに、あるいはナニかを期待しているかのように足がもじもじと動いている。体から溢れる霊力も強まってきているし、その姿はまさに煩悩少年の面目躍如と言った所か。

 

「……」

「……」

 

 レミリア達から濃密な怒気、殺気が溢れ出る。それに敏感に反応した横島の体がびくりと跳ねる。咲夜は横島に馬乗りになり、その手に銀のナイフを取った。

 

「どうやら横島さんは私のナイフに口付けをしてほしいみたいね……?」

 

 その言葉で横島の体がガクガクと震える。だが彼は目を開けない。今目を開けたら何か怖いモノを見てしまいそうだからだ。それでも首は全力で横に振っておく。せめてもの抵抗なのだが、それもレミリアに頭を掴まれることで終わりを告げた。

 

 横島はこのまま儚い命を散らせてしまうのだろうか。だが、天は彼を見放してはいなかった。突如部屋のドアが乱暴に開かれたのだ。

 

「さっきからうるさいわよ!! ドタバタドタバタと、一体何を……して……」

「……パチェ?」

 

 突然の乱入者はパチュリーだった。あまりにうるさいレミリア達に注意をしに来たのだが、その叱責はしりすぼみに消えていく。

 一体どうしたのかと訝しんだレミリアがパチュリーへと声を掛けようとするが、それよりも前にパチュリーの悲鳴にも近い声が遮った。

 

「れ、レミィと咲夜が横島をナイフで脅して3(ピー)に持ち込もうとしている――――!!?」

「違ああああああぁぁぁぁぁうっ!!!?」

「誤解ですパチュリー様ーーーー!!!?」

 

 状況証拠は完璧だ。傷だらけの上に衣服をずたぼろにされた横島に咲夜がナイフを片手に馬乗りになり、レミリアが横島の体を押さえつけている。パチュリーの灰色の脳みそは瞬時に答えを導き出し、その余りにも余りな真実に驚愕を露にする。

 

 その後、何やかんやともめにもめた一同だったが、横島からの証言もあり、何やかんやで誤解は解けた。ぼろぼろになった執事服や部屋の壁は横島と咲夜を中心にパチュリーが魔法で手伝い、一時間も掛からずに修復を終える。そして横島達はその場であったことを全てなかったことにし、何やかんやでそれぞれの持ち場へと帰っていった。

 

 

 

 

 今まで、横島は夕暮れ時に紅魔館の時計塔の近くにある木の下で飛行の修行をしていた。修行したての頃は木の枝に触れることすら覚束なかったのだが、浮かぶことに慣れてからは格段の進歩を見せていた。現在では木よりも高く浮かぶことも容易になっているのだ。

 そうすると次に目標となるのは、木よりも遥かに高さがある時計塔。今の横島の目標は一号達の補助なしに、この時計塔の周りを10周することだ。勿論、ある程度の高度を保ちつつ。

 

「さて、今回の目標は……?」

 

 そう言って横島は懐から奇妙な球体を時計塔の壁に投げつける。それは木製の玉に十字の棘が大量についた物。かつて小悪魔とのデートの時ににとりの露天で見つけた物だ。にとりはこれを何の役にも立たないと言っていたが、こうして横島の修行の役に立てている。

 壁にぶつかった球体はそのまま壁を垂直に登ってゆき、ある部分にぶつかり、落下した。ある程度の段差ならば問題なく進んでいけるのだが、流石に文字盤に程近い場所まで登っていけば勢いも減衰する。今回の目標は、文字盤だ。

 

「うっへ、かなり高いな。今の俺なら大丈夫だと思うけど……」

 

 横島は落ちてきた球体を懐に直し、霊力を集中して浮かび始める。

 

「それにしても、何であの形で壁を登っていけるのかね。強力なダウンフォースでも発生してんのかな?」

 

 横島は実にミニ四駆のチャンピオンらしい考察を展開する。それが誤りなのは理解しているが、それでもある種の説得力は存在しているのが不思議だ。

 馬鹿なことを考えつつも修行は順調だ。加減速に前後左右への移動、回転。様々な慣らしをしながら横島はどんどんと高度をあげてゆく。そして、数分後には文字盤の高さまで危なげなく到達した。

 

「うしっ、上出来上出来」

 

 横島はこの成果に満足し、休憩のために文字盤の前の返しに腰を落ち着ける。真正面、とはいかないが、赤く沈んでゆく夕日を視界に納めることが出来るその場所。この時より、この場所は横島のお気に入りの場所となったのだ。

 

 じっと夕日を見続ける横島。どれくらいの時間が経ったのかは分からないが、時間を忘れさせるまでにこの場所から見る夕日は綺麗だった。

 こうして夕日を見ていると、横島は望郷の念にかられる。今の自分ではどうしようもないことは理解しているが、だからこそ思いは募っていく。

 

「……これがホームシックってやつなのかね? 寂しいっちゃ寂しいけど……」

 

 横島は頬杖をついて考えに耽る。思考を巡らせるのは元の世界のこと。彼は確かに自分の元居た世界に帰りたいと思っている。それは真実だ。

 だが、それと同時に沸きあがる感情もある。その正体に今の横島は気付いていないが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ位は理解出来ている。

 

「……はぁ」

 

 横島は思わず溜め息を吐いた。もしかしたら、正体不明のこの感情が栄光の手や文珠を創れない原因なのかとさえ思う。

 普段なら溜め息にのせることのない、暗く、澱んだ感情。誰にも聞かれることはないと思っていたそれが、横合いからの声に勘違いだと気付かされた。

 

「――なんだ、随分と辛気臭い溜め息吐いてるな」

「ぅえっ?」

 

 声が聞こえた先に目をやると、そこには不思議そうな顔をした妹紅が立っていた。

 

「あ、妹紅。いやなんつーか……」

「んー? ……まあいいや。言いにくいこともあるだろうし。ここ、座っていい?」

「あ、ああ」

 

 妹紅は横島の隣に腰を下ろす。そこで、横島に少々戸惑いが発生する。妹紅との距離が近いのだ。今も肩先が少し触れている。だというのに、妹紅は離れようとしない。どころか、逆に横島の肩に自らの体重を預けている。視線は夕日に向かい、しかし意識は横島に向かい。

 妹紅の髪から香る甘い匂い、伝わる体温と柔らかさが横島の煩悩を揺さぶる。

 

「も、妹紅? き、今日は一体どうしたんだ? なんというかいつもと感じが違うけど……」

 

 横島は何とか冷静さを保とうと妹紅との会話に集中しようとする。妹紅は夕日に向けていた視線を一瞬横島へとやり、その後軽く俯いた。たったそれだけだというのに、横島には妹紅から何やら只ならぬ色気にも似たものを感じている。

 

「今日は、さ。ちょっと聞きたいことと言いたいことがあって」

「……何だよ?」

 

 普段と違い、しおらしい表情を見せる妹紅のギャップに横島は冷静さを欠いていく。ようやく搾り出せた言葉は妙にぶっきらぼうなものになっていた。

 

「それじゃ、まずは聞きたいことなんだけどさ」

 

 妹紅はまた夕日を見つめる。赤く照らされたその顔に、僅かに朱が混じっていることを横島は気付けない。

 

「横島ってさ、今誰か好きな女の子とかいるのか?」

「……!?」

 

 その質問は、横島にとっては予想外だった。妹紅は女の子だ。そういったことにも興味があって当然だろう。ましてや千年以上色恋に触れてこなかったというのだ。身近な男性である横島に、そういうことを聞くことだってあるだろう。他愛の無い話。ただの世間話の範疇だ。

 だが、妹紅から発せられる雰囲気と真剣な声音が、それを否定している。

 

「……いると言えばいるし、いないと言えばいない」

「……曖昧だな」

 

 結果、横島が搾り出せたのははっきりとしない回答。しかし嘘は言っていないのだ。彼には愛する者が存在し、しかしその愛する者はすでに存在していないのだから。

 妹紅は横島の様子の変化に気付く。夕日を見つめる彼の瞳に寂しさや悲しみ、後悔というような、何か暗さを孕んだようなものを感じたのだ。

 

「まあ、今はそんな感じだけどさ! これから先は俺にとってきっと素敵なことが起こると思うんだよ! ほら、何つーの? 今の俺ってモテ期に入ってるってゆーかさ。皆ちょっとロリっ子だけど、将来的にはまとめて俺の物にしてみせるっつーか!? なはははは!!」

 

 横島は自らが発した暗いオーラを払拭しようと努めて明るい声を出す。発言の内容もいかにも横島らしいと言えるようなものだ。取り繕った、というわけではないのだが、本心からの言葉のはずなのに、その言葉はどこか白々しさのような物が含まれていた。

 

「最近ではハーレム……って言うんだっけ? 輝夜が男のロマンって言ってたけど」

「そうそう! 今の俺なら可能なんじゃないかなーってさ」

 

 心なしか、妹紅の横島を見る目が険しくなったように見える。横島としては冷や汗が止まらないが、先程のような暗い雰囲気ではないのだ。多少印象が悪くなろうが、その方がまだマシだと考える。

 だが、妹紅は横島に向かって微笑んだ。

 

「じゃあそのハーレムに入れる女の子にさ。――――私も含めてくれてるのか?」

「――――え?」

 

 妹紅の言葉に、一瞬息が詰まる。妹紅の言葉の意味が理解出来なかったのだ。

 その様子を見て何か勘違いしたのか、妹紅は悲しげに目を伏せる。

 

「私のこと、嫌いだったりする?」

「ん、んなわけねーって!! 妹紅は可愛いし、こっちから土下座してでも入ってもらいたいくらい……って何を言ってんだ俺は!?」

 

 咄嗟に妹紅の言葉を否定し、偽らざる本音をぽろっとこぼしてしまう横島。頭を抱えて悶えるその姿に妹紅は苦笑を浮かべ、先程とは様子を一変させた悪戯な雰囲気を纏い、問いを重ねる。

 

「じゃあさ。……私のこと、好き、だったりする?」

「――――!!」

 

 ここに来て、横島の心臓が早鐘を鳴らす。妹紅の顔を見れば、その表情はどこか意地悪く微笑んでいるように見える。しかし、その瞳には真剣さも見て取れる。横島は我知らず、吸い込まれるように妹紅から目を離せなくなる。

 

「……好き、じゃない?」

「……えっと、その……」

 

 二人を包む雰囲気はすでに変化している。横島にはこれに覚えがあった。思い出されるのは()()との日々。その時の感情がまざまざと思い出され、横島は無意識に口を開いた。

 

「……好きだ」

 

 横島は思わず口を押さえる。彼の思考は一気に膨大な数の言葉に埋め尽くされる。それは大半が意味の無い物であるが、それは横島から咄嗟の判断を鈍らせるという効果を発揮する。何を言ったのか、何故言ったのか、ぐるぐると思考のループは止まらない。

 

「……そっか」

 

 妹紅がぽつりと呟く。彼女はいつの間にか膝立ちになり、横島の肩に手を置いていた。横島がそれに気付き、自らの肩を見やる。

 

「だったら……両思いだな」

「え――――ん!?」

 

 横島が何かを言う前に、その唇は妹紅の唇によって塞がれた。

 傍から見れば、慣れていないのが良く分かるだろう。首を傾けずに勢いよく押し付けたため、唇だけでなく鼻同士も真正面からくっついている。目は堅くぎゅっと閉じられ、体はぷるぷると小刻みに震えている。この時、横島は自分に掛かる妹紅の重さに床に片手をつき、もう片方は無意識に妹紅のお尻に這わせてしまっていたのだが、それにすら気付いていない程に余裕がない。

 そうしたままでたっぷりと十数秒間、二人は繋がったままでいた。やがてどちらからともなく唇が離れると、妹紅がゆっくりと口を開く。

 

「……実はさ、横島が慧音と図書館で会ってた時に、話を聞いちゃってさ」

「……」

「その、私のことについてとか話してたろ? それで、何と言うか……私のこと、こんなにも理解してくれてるんだ、って思ってさ」

 

 妹紅はたどたどしくも自らの思いを言葉にする。

 妹紅は自らの価値観が人から大きくずれてしまっていることを理解している。それについて何かを思うことは今までありはしなかった。誰かに理解されずとも、自らがそれを認識し、肯定することで安定を保っていたからだ。

 そうして永い永い時を生き、こんな自分を心配してくれる親友とも出会えた。決して自ら表に出さない、誰かに理解されない自分。恐らくは誰かに聞いたりなど、そういったこともなかったろうに。それでも、自分の胸の奥を理解し、飲み込み、可愛い女の子として扱ってくれている。

 

「横島は色々とひどい部分も……その、けっこうあるけど。気が付いたらさ。いつの間にか、そんな横島のことが好きになってたんだ」

 

 妹紅は唇を指でなぞり、視線を逸らしながらも芽生えた想いを告白する。横島は、ここでようやく妹紅の唇にかつて自分が贈った口紅が塗られていることに気が付いた。横島の胸に、不意に強い喜びが宿る。

 

「私は蓬莱人で横島は普通の人間だから、一緒にいられる時間は凄く短いんだろうけど……だからこそ、一分でも一秒でも長くそばにいたいんだ」

「……妹、紅」

 

 妹紅が横島の目をじっと見つめる。横島はその真っ直ぐな瞳に何故か罪悪感を覚えてしまう。その変化に気付いたのか、妹紅はすっと立ち上がり、少しだけ距離を取った。

 

「いきなりだったから横島も混乱してるだろうし、ちゃんとした答えはまた近いうちに聞かせてくれると嬉しい、かな。とにかく、私は本気だから。お嫁さんの一人になりたいと思ってる」

 

 妹紅のストレートな物言いに、横島の頬が紅潮する。夕日に照らされた赤い世界でも、その朱色は鮮烈だった。そしてそれは横島だけでなく、妹紅も。

 

「それじゃあ私はもう行くから。……あ、最後に一つ」

「……?」

 

 空へと浮かび上がり、横島へ首だけを向ける。妹紅は指で唇をなぞり、悪戯っぽく笑みを浮かべた。

 

「またさっきみたいに()()()()()()()()からさ、受け入れてくれると嬉しいな」

「……ぅえぇ!?」

「あはは、それじゃ!」

 

 最後に笑って爆弾を落として妹紅は飛び去っていった。真っ赤になった顔を両手で押さえ、猛スピードで空を行く姿から、相当に無理をしていたことが窺える。

 横島はそんな妹紅を見送った後、数分間固まっていた。やがて妹紅と同じように顔を押さえた後、彼は全力でのた打ち回る。

 

「あああああああああ!!? ほあああああああああああ!!?? 俺は……!! 俺は一体どうしたらああああああ!!!?」

 

 横島の思考が加速する。自分の気持ちや妹紅のこと。フランや小悪魔、他にも自分に好意を向けてくる少女達について。

 

「というか何で妹紅はハーレム肯定派なんや!? 小悪魔ちゃんですらデートの時に他の女の子とばっかり話してたら機嫌が悪く……ってそりゃ一対一のデートなら当たり前か!! じゃあ複数人でのデートならその限りじゃないのか!!? でもあの時一号達も一緒にいたし……!? 分からん……!! まるで分からん!! 親父、西条、ピート、銀ちゃん!! 俺にモテ男の知識を授けてくれーーーーーー!!!!」

 

 横島は混乱からか自分でも訳の分からないことを叫んでいる。告白したりされたりした後の姿ではないが、横島は昔からこういった面がある。これも彼と結ばれるには乗り越えなければいけない部分なのだろう。その分、一度懐に入ればとことんまでに愛されるのだろうが。

 

 ところで、横島は一つ忘れていることがある。横島は今全力でのた打ち回っているが、ここは元々時計塔の文字盤の前面にある返しの部分。その幅は非常に狭い。

 ということは、だ。

 

「あ」

 

 不意になくなった、時計塔に使われている石材の感触。目を開いて見て見れば、そこは何もない空間。それを認識した瞬間、横島は真っ逆さまに落ちていく。

 

「ノオオオオオォォォォォーーーーーー!!!?」

 

 落ちている最中だというのに、横島は余裕たっぷりに頭を抱えてみせる。そんなことをしている間に地面はぐんぐん迫ってくる。だが、横島は慌てない。目を瞑り、冷静に霊力を全身に漲らせる。

 

「ふふふ……前までの俺ならこのまま地面に叩きつけられていただろうが、今の俺は違う! 空に浮かぶことを習得した俺ならば大丈夫だ!! さぁ、浮けえええぇぇーーーー!!!」

 

 横島はカッと目を見開き、霊力の操作を開始する。

 横島が目を開けた瞬間に見た景色。それは自分から数センチ程も離れていない地面。当然霊力の操作など間に合う筈もなく、横島はまたも頭から地面に突き刺さった。

 

 

 

 

 暗い闇の中に横島は居た。

 まるで深い水底のような、暗く冷たい闇。それはまさしく暗闇だった。

 

 自己の意識も曖昧なその世界。不意に、横島は自分の目の前に誰かが居るような感触を覚えた。

 

――――?

 

「……、――――……。――……」

 

 誰かが何かを語りかけてきている。横島はそれを認識出来ない。視界の端に光が見える。もしこれが夢だというのなら、恐らく目覚めが近いのだろう。

 

「――……。――――」

 

 誰かが、恐らくは自分の手を握ってきたのだろう。誰と分からないというのに、横島はそれに忌避や嫌悪を感じなかった。むしろ、懐かしいような、愛おしいような感覚が宿る。

 

 光が周りを覆っていく。どうやら意識が覚醒するらしい。誰かが嬉しそうに笑ったような気がする。それと同時に、寂しそうな気配も。

 最後の瞬間、誰かの輪郭が見えた気がした。それは、もう逢えない誰か。横島が愛した、かけがえのない誰か――――。

 

 

 

 

「――――っ!?」

 

 横島が目を覚ます。上体を起こして周りを見れば、そこは時計塔の前。夕日がまだ沈みきっていないことから、落ちてからそう時間は経っていないことが分かる。

 横島は執事服の汚れを落とすことなく立ち上がり、きゅっと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に視線をやる。

 

「……やっぱり、さっきのはルシオラだったのか? だとしたら……どうなってんだ?」

 

 手の中で球体が接触し、からからと音を立てる。

 

 横島は夕日を見つめ、手の中の宝玉、『文珠』を強く握り締めた。

 

 

 

 

 

 

第二十九話

『裏目』

~了~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――!?」

 

 妖怪の山中腹、一人の『男』が食事の手を止め、空を仰ぎ見る。その行動に意味はない。ただ、彼は何かを感知したときにそうする癖があったのだ。それはまるで臭いを探る『犬』のような物に近い。

 事実、『男』は遥か遠くに発生した神の奇跡の具現を嗅ぎつけた。

 ざわり、と。『男』の雰囲気が一変する。

 

「ははは……ははははは!! あはははははははははは!!!!」

 

 『男』は狂ったように笑い出した。鮮血が滴り落ちる口から唾を飛ばし、鮮血にまみれた両手を振り乱しながら。

 

「ついに……!! ついに見つけたぞ!! はははははははははは!!!!」

 

 喜色満面。そういうには『男』の笑みは禍々しい。体から迸る何かがそれを助長している。それは霊力とも魔力とも妖力とも言えない何か。似ている物があるとすれば、それは或いは――。

 

「これで、取り戻すことが出来る……全てを元通りに……!!」

 

 『男』は動物より多少優れた頭で、かつてのことを思い出す。文珠の威力、万能さ。その全てを。

 『男』は鮮明に思い出せる。何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 『男』――かつて『高島』と呼ばれていた男は、食い散らかした妖怪をそのままに山の中へと消えた。

 全てを元通りに。()()()()()()()()()()為に。

 

 

 『彼』は、『自分』が本当に探していたモノを忘れ去っていた――――。

 

 

 




お疲れ様でした。

フラン「まずは相談しよう」
小悪魔「まずは相談しよう」
美鈴「まずは相談しよう」
てゐ「まずは許可を取ろう」
妹紅「告白もしたしキスもした」

……一人何かおかしいですね。

妹紅ですが、元人間の蓬莱人ですので、もし人間を好きになったのならその相手の寿命が尽きるまで共にあろうとするのではないでしょうか。

元人間だからこそ人間の命の儚さを知っているはず。なので魔族化や妖怪化させずに、人間のまま最期の時まで一緒にいるんじゃないかなぁ、とか何とか。

その人が死んで長い時間ふさぎ込んだりもするでしょうが、やがてはその人との思い出を胸に永遠を笑って生きていくのではないか、とか何とか。




それにしてもおかしいな。

本当なら妹紅が勢いに任せて横島君に告白してキスしてそのままおさらばするはずだったのに、何故横島君が告白させられてるんだ……?

あれー?



次回はとあるキャラの捏造過去回です。
もしかしたら、かなり短い話になるかも……?

それではまた次回。

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