東方煩悩漢   作:タナボルタ

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めいりんは
とてもすてきな
おねえさん
たよりになるし
とてもかわいい


第四十二話『想いを伝えるために』

 

 夕暮れの紅い光がが差し込むゲストルームで、永琳が一人紅茶を飲んでいた。元々彼女は煎茶や緑茶が好みだったのだが、咲夜が淹れる紅茶の味を覚えてからは紅茶も嗜むようになった。

 永琳は紅茶にはミルクも砂糖も入れる。ぽとりぽとりと、角砂糖を三つ。永琳は甘い紅茶が好きだ。特に、色々と考え事をした後に飲む甘い紅茶は格別である。

 

「……ふぅ」

 

 紅茶を含んだ一口永琳の口から、小さな溜め息が漏れる。それは好物であるはずの甘い紅茶を飲んだ後だというには、少々重苦しい感情がこもっていた。

 永琳はその柳眉を顰め、数時間前の出来事について思い悩んでいたのだ。

 

「――あら、今日は珍しく紅茶なのね」

「ここ最近は紅茶にもハマっているの。……というか、貴女は知っているでしょう、紫」

「ふふ、そうでしたわね」

 

 一人きりの空間に突如として割り込んできた声。永琳の前に“スキマ”が開き、その中から一人の少女がゆっくりと姿を現した。八雲紫である。

 紫はスキマから取り出した椅子に座り、これまたスキマから取り出したティーカップに永琳特製の紅茶を注ぎ、優雅に飲みだした。その紫の行動に対し、永琳は何も言わない。予想していたことであるし、何より自分も同じようなことを何度も行っている。互いに遠慮のない付き合いになってきたようだ。

 

「……咲夜に迫る美味しさね。流石だわ」

「天才ですから」

 

 永琳はお茶を淹れたりすることが得意である。それこそ、ほんの短時間で本職に追いつき、追い越せるようになるくらいには。

 暫くの間、二人は紅茶を飲みながらゆったりとした時間を過ごしていた。しかし、それも夕日が完全に沈もうとした時まで。紫は永琳に問い掛ける。

 

「……何を考えていたの?」

 

 その簡潔な問いに、永琳は簡潔に答える。

 

「さっきのことよ」

 

 永琳の答えに紫は頷いた。それしか考えられないから。何故なら、紫もその場にいたのだ。紫は答えを知っていながら問い掛けた。

 

「……」

 

 再び二人の間に沈黙が降りる。永琳は紅茶を一口飲む。ミルクも砂糖も入れた。ぽとりぽとりと、角砂糖を三つ。だと言うのに、この紅茶は()()()()()。――彼女の心境が、そう感じさせるのだ。

 

「……あの時の横島君」

「……」

「やっぱり、あの子は……――」

 

 数時間前。横島は永琳と共にこのゲストルームでお茶をしていた。横島が色々と教えて欲しいことがあると、永琳を誘ったのだ。それに便乗して付いてきたのが、どこからか話を聞いていた紫。横島としては永琳だけでなく紫もいてくれた方が心強かったので、紫の同席に賛同した。

 

 横島の教えて欲しいこと。それは妹紅や輝夜、永琳、そして自らもが変質した存在、“蓬莱人”についてだ。横島が知る蓬莱人の知識はあまりにも少な過ぎる。精々が不老不死であり、蓬莱人の生き肝を食せば、同じく蓬莱人となれることくらい。そこで蓬莱の薬の製作者にして蓬莱人である永琳に、色々と教えてもらおうと考えたのだ。

 これは永琳も考えていたことだったので渡りに船だった。永琳は横島へと蓬莱人の知識を授けてゆく。ただし、横島は永琳が知る限りでも初めて蓬莱人の生き肝を食して蓬莱人となった人間だ。従来の通り蓬莱の薬を飲んで変質した蓬莱人との間に違いが存在するのかは、詳しく調べてみないと分からない。……ただ、永琳の勘ではほぼ違いなどは存在しないが。

 

 ――それじゃあ最後に。

 

 永琳はあの時の横島を思い出す。無意識的に、脇腹(トラウマの傷)を押さえていた、横島の姿を。

 

 ――蓬莱人は……。

 

 

 

 

 ――――蓬莱人は、子供を作れますか……?

 

 

 

 

 横島のその質問に対する答えは、一つだけだった。ある程度の融通は利くとはいえ、蓬莱人とは()()()()()()()。であれば、男にしろ女にしろ、蓬莱人が子供を作ることは不可能だ。

 

 ――そう……っすか。

 

 脇腹から血が滲み、心の傷がジクジクと痛みを訴える。その時の横島の表情(かお)、感情、そして涙……。

 

「――横島君……」

 

 思わず、永琳は横島の名を呟く。その声に込められていた感情は、哀れみか、それとも――。

 

 

 

 

 

 

第四十二話

『想いを伝えるために』

 

 

 

 

 

 

「鈴仙さあああああああんっ!!!」

 

 美鈴は鈴仙の名を叫びながら、紅魔館の廊下をひた走る。その姿は普段の美鈴からは想像もつかないものであり、すれ違った妖精メイド達は何事かと目を丸くしている。尤も、美鈴がこうした姿を見せるのは二回目であるのだが。

 そうして走ること数分、美鈴は目的地へと到着した。そこは鈴仙の部屋。

 

「鈴仙さん鈴仙さん鈴仙さん鈴仙さん鈴仙さあああああああん!!!」

 

 そしてそのまま大声で名前を連呼しながらドンドンとドアを強くノックする。はっきり言って迷惑極まりない。そんなことをされてはたまったものではなく、丁度部屋で休んでいた鈴仙は泡を食ったように飛び出してきた。

 

「ちょ、ちょっと何っ!? 何かあったの!!?」

「鈴仙さあああああああん!! 助けてっ!! 助けてくださいいいいいいい!!」

 

 慌てて飛び出した鈴仙に縋りつく美鈴。その尋常ではない様子に鈴仙は一気に気を引き締める。美鈴の肩に手を置き、目線を合わせて問いただす。

 

「落ち着いて! 何があったの? まずは理由を話して――」

「助けてください……っ!! 私だけじゃ、何も考え付かなくて……!!」

「いや、だから何があったのかを――」

「私に出来る事なら何でもしますから、助けてください!! 頼れるのは鈴仙さんだけなんですぅ……っ!!」

「だからまず何があったのか――」

Help me, REISENNNNNN(たすけてれいせんさあああああん)!!」

「あーーーーーーもうっ、うるさあああぁぁぁーーーーーーい!!!」

 

 割とマジで遠慮のないゲンコツが美鈴を襲った――。

 

 

 

 

 ――間――。

 

 

 

 

「で? 結局何があったのよ?」

 

 現在、美鈴は頭頂部にでっかいたんこぶをこさえ、正座をしている。鈴仙はそんな美鈴の前に椅子を用意して腕を組み足を組み座っている。美鈴からは位置の関係上鈴仙の下着が丸見えであり、同性ながらもついついそこに目が行ってしまっていた。

 

「あの、鈴仙さんパンツ丸見え――」

「今はどうでもいいからさっさと何があったのかを説明しなさい」

「あっ、はい」

 

 今の鈴仙には逆らいがたい何かがある。美鈴は鈴仙の迫力に圧されるままに、何があったのか身振り手振りを交えながら懇切丁寧に説明していく。

 

「……つまり、天狗三人が紅魔館にやってきて、その中の一人が横島さんのファンで、横島さんも満更では無さそうで、以前私が言った“ぽっと出の女の子に先を越される”とかが現実味を帯びてきて、横島さんと恋人になるという決心を固めたけれど何をどうしたらいいのかが分からなくて私を頼ってきたのね?」

「その通りです……」

 

 鈴仙は思わず天を仰いだ。正直な話自分でどうにかしろと言いたい。しかし、美鈴は鈴仙にとって得がたい友人だ。以前から相談に乗っていた事柄でもあるし、何よりついに美鈴が告白を決意したのだ。ここは溢れそうになる溜め息を飲み込み、友人の背中を押してやろうではないか。

 

「そうね……ただでさえ横島さんには妹紅とフランっていう恋人がいるんだし、やっぱり悠長に構えるよりは早めにバシッと決めたほうがいいと思うわ。後でどこかに呼び出して、そこで想いを伝えれば……」

「うーん……でも……」

「ん……? 何か気になることでもあるの?」

 

 鈴仙のアドバイスに美鈴は煮え切らない態度を取る。それが気になった鈴仙は疑問でもあるのかと思ったのだが……。

 

「いやー、何というか……告白するより、告白されたいなー、って思いまして……」

「……」

 

 鈴仙のこめかみに、井桁が浮かぶ。

 

「昔からの憧れなんですよねぇ……。素敵な男性に呼び出されて、ムード満天な状況での男性からの告白……」

「……へぇ、そう。……今まで長生きして一度もなかったんだ。そんなだから先を越されるのよ?」

「ぎゃふん」

 

 鈴仙はいい年こいて夢見がちな乙女のようなことをのたまう美鈴に対し、辛辣な言葉を投げかける。既に鈴仙のこめかみには井桁がいくつも形成されている。しかし誤解のないように述べておくが、美鈴は少女である。何百年と生きてはいるが、美鈴は紛うことなき少女なのだ。

 

「そんなに告白されたいのなら色仕掛けでもしてみたら? 師匠が言ってたけど、男の子は女の子がちょっと露出を増やしたり、ちょっとボディタッチをしたら簡単にメロメロになるって言ってたし」

 

 鈴仙は少々投げやりになってきたのか、そんなことを言う。美鈴はその言葉を受けて俯いてしまい、体も小刻みに震えだしてしまう。言い過ぎたのか、と鈴仙が思った瞬間、美鈴がガバっと上体を起こした。

 

「やりました……やったんですよ、必死に!! その結果がこれなんですよ!!」

「……!?」

 

 突然の叫びに鈴仙の身体がびくりと跳ねる。

 

「横島さんの前で露出度高めの服を着て無防備な私を演出して、型の稽古にかこつけて露骨なボディタッチを増やして、今はこうして鈴仙さんに泣きついている!!」

「あんた……そんなことしてたんだ……」

 

 意外と積極的にアピールを繰り返していたという事実に、鈴仙は少しだけ美鈴を見直した。しかし、とも思う。そこまでやって気持ちに気付いてもらえないというならば、最早残された道は二つしかない。まず、一つ目から言ってやるべきか。

 

「これ以上何をどうしろって言うんです!? 何をしろって言うんですか!!?」

「さっさと告白しなさいよ」

 

 鈴仙はばっさりと切り捨てた。

 

「そうやって正論ばかり並べる鈴仙さんはキライです!!」

「何だと?」

 

 またもや鈴仙のこめかみにビキビキと井桁が浮かぶ。しかし、鈴仙は一度大きく息を吐き、何とか冷静さを取り戻す。何せ、美鈴がここまで感情を昂らせているのを初めて見る。それだけ横島が美鈴の中で重要な位置にいるのだろうが……。

 

「はぁ……。美鈴、さっきも言ったけどそんな調子だから先を越されていくのよ?」

「うぅ……!!」

「確かに美鈴の今までのアピールが実を結んでないのには同情するけど、やっぱり気持ちを言葉にして伝えた方がいいと私は思うのよ」

 

 鈴仙の真摯な言葉に美鈴も冷静さを取り戻してきたのか、黙って話を聞いている。

 

「このままじゃ、自分の気持ちを伝えられない、どんどんと先を越されていく……。仕舞いには横島さんへの感情が裏返って、嫌いになってしまうかもしれない。……もしくは、そうなる前に諦めてしまうとかね」

「そ、そんなぁ……!?」

 

 美鈴は鈴仙が語る“もしかしたら”に愕然とし、泣きが入った情けない声を出す。鈴仙の言葉は確定ではないが、それでもその“もしかしたら”は現実味を帯びてきている。美鈴の頭の中で、それらが容易に想像出来てしまったことが根拠と言えるかもしれない。

 

「私は美鈴のことを応援してるし、二人に結ばれて欲しいと思ってるの。だから今まで相談に乗ってきたんだけど……肝心の貴女がそれじゃあ、そんな気も失せてくるわ」

「……」

 

 美鈴は鈴仙の言葉に打ちのめされる。彼女の言っていることは正しい。正しいからこそ、美鈴の心に突き刺さる。胸に走る痛み、それは鈴仙にこんなことを言わせてしまっている罪悪感、そして自分への嫌悪感。

 

「いい加減はっきりと決めましょう。横島さんが好きなんでしょ?」

「……はい」

 

 鈴仙の問いにゆっくりとだが、しっかりと頷く。

 

「告白する? 現状維持をして、どんどんと先を越されていく? それとも、諦める?」

 

 挑発するような鈴仙の言葉。はっきりと現実を突きつけてくる彼女に、美鈴は一度深呼吸をする。

 胸に手を当て、自らの心を再度確かめる。あの時に宿った火は、未だ消えずにちゃんと胸の中で燃えている。

 

「……私は、横島さんに告白します。ちゃんと、言葉にして」

「……ん。そっか」

 

 美鈴から発せられる、力強い言葉。それは真実彼女の心がこもった言葉だ。鈴仙はその言葉が持つ力と想いを受け止め、満足気に頷いた。

 鈴仙は椅子の背もたれに身体を預け、大きく息を吐く。美鈴を思ってあえて厳しい言葉を選んでいたのだが、それが彼女の精神をすり減らしていた。必要なことではあったのかもしれないが、鈴仙としてはもう少し控えめな方が良かったのではなかったかと今更ながらに思う。

 

「……ごめんね。嫌なことばっか言っちゃって」

「い、いえそんなっ! 私がいつまでもうだうだと言っているのが悪かったんですし……!」

 

 改めて鈴仙は美鈴に頭を下げた。美鈴はそんな鈴仙に慌ててしまうが、こうしないと鈴仙の気が済まなかったのだ。

 

「……しかし、美鈴が告白を決意してくれたのは良いんだけど……正直、怖かったりする?」

 

 弛緩していく空気の中、不意に鈴仙は美鈴にそう問い掛けた。それに対する美鈴の答えは肯定。見るからに身体が震えている。

 

「や、やっぱり、いざ決意をしてみても……よよよ横島さんにこ、断られたら、とか考えると……!!」

「……横島さんなら美鈴を振らないと思うけどねぇ……」

 

 横島の性格を把握している者なら誰もがそう言うだろう。美鈴は美少女だ。それも、紅魔館の中では横島と見た目年齢が最も近く、抜群のプロポーションを誇っている。今の横島は妹紅に加え、フランという見た目十歳程度の少女と恋仲になったのだ。そんな彼が、美鈴の告白を撥ね付けるわけがない。

 

「ま、それでもこういうのは仕方ないものよね……」

 

 しかし、それを分かっていても告白とは勇気がいるもの。告白に必要な勇気は武術を極めても身に付かず、妖怪と戦うことでも手に入らない。美鈴は武術と違い、恋愛に関しては達人ではなかったのだ。

 鈴仙は震える美鈴に最後の手助けを提案する。

 

「貴女が少しでも告白しやすくなるように、ちょっとだけお手伝いをしてあげる」

「え……?」

 

 そう言って美鈴の目を覗き込む鈴仙の目は、赤く赤く、妖しげに光り輝いていた。

 

 

 

 

 

 

「いやー、まさかあの異変の犯人が既に退治されているとは、流石に驚きましたよ」

「ああ、妹紅や横島にも被害が出たからな。紅魔館と永遠亭のフルメンバーで一気に潰したんだよ。……詳しい話を聞きたいのなら、永琳に聞くといい」

「了解です」

 

 陽も落ちた現在、皆はちょっとした雑談をしながらゲストルームを目指していた。落ち着いて話をするにはもってこいの場所であるし、そこには永琳が入り浸っているからだ。

 レミリアと文が先行し、その後ろを何故か大人しいチルノを背負い、フランをお姫様抱っこしている横島、その隣でチルノとフランの羽根に興味を示し、色々といじくりまわしている妹紅が続く。

 

「お兄様、二人も抱えて重くないの?」

「全然大丈夫。むしろ二人はちょっと軽過ぎる方じゃないか? ちゃんとご飯食べなきゃ駄目だぞ?」

「……横島はあれか? 今流行のぽっちゃり系とかが好きなのか?」

「みんな痩せすぎだから心配なんだよ」

 

 妹紅にしろフランにしろ、紅魔館の何人かは小食の者が多いようだ。レミリアもそうであるし、咲夜や小悪魔もスタイルなどを気にして多くを食べようとしない。

 横島としては元の世界で皆がしっかりと食べていたこともあり、ちゃんと食べている方が好ましいのだろう。

 

「……もっと話さないんですか?」

「……い、いざ本物を前にすると、き、緊張しちゃって……!!」

 

 横島達の後ろに続くのは椛とはたて。椛は昼間あれだけ色々と語っておきながらも横島とあまり会話しようとしないはたてに疑問を抱き、はたては緊張のせいで話せないと弱気に答える。これには椛も呆れ顔だ。これでは一体何のために紅魔館までやってきたのか分からない。

 横島ははたてをチラチラ見たりと何かと気にしているのだが、それにはたてが過剰に反応してしまい、まともな会話にならないのである。はたてはとりあえずは同じ空間にいることから慣れようと考えているのだが、この調子ではどれだけの時間が掛かるのやら。

 

 ちなみに妖夢は幽々子の夕飯を作りに白玉楼へと帰った。横島の体のことも報告せねばならないし、何かと気苦労が絶えないだろう。

 

「……ところでただお兄様、めーりんの事をどう思う?」

「え、何そのいきなりな質問」

 

 会話が途切れた一瞬、そこにフランが横島に唐突な質問をした。横島は少々困惑しているが、フランとしては美鈴への援護射撃のつもりである。元々フランは小悪魔と共に美鈴へと横島の寿命を延ばすための協力を要請していた。自分達が関与せず思わぬ形でそれが叶ってしまったが、フランにとって美鈴は同盟仲間。同じく同盟仲間の小悪魔は現在自重しているようだが、ここで横島の美鈴への感情を調査しておこうというのだ。

 

「好き? 嫌い?」

「そりゃー美鈴は好きっすけど……?」

「そっかー、そうなんだー……!!」

「……何か嬉しそうっすね」

 

 フランはとりあえず好きか嫌いかの二択で聞いてみる。横島の性格からして余程のことがない限り嫌いなどと言うはずはないのだが、それでも横島が美鈴に対して好意を抱いていると知ったフランは大喜びである。反面、横島の頭には疑問しかないのだが。

 

「どういうところが好きなの?」

「どういう……んー、そうだなぁ……」

 

 フランの問いに横島は暫し天井を見て考え込む。とは言っても、出てくる答えは横島らしいものなのだが。

 

「そりゃまあ美鈴って可愛いし、良い体してるし、優しくてみんなに気を使えて頼れるお姉さんって感じだし、最近は露出度も増えてきたし、色々と教えるのも上手だし、良いチチしてるし、柔らかくて良い匂いだし、ボディタッチ多いし、可愛いし……」

 

 思いつくままに美鈴の好きなところを挙げていく横島に、何人かは「流石だな」と頷いている。椛などは横島に対する視線がきつくなったが、はたては「本当に女好きなんだー……!」と何故か感動していた。

 

「んで、それがどうかしたの?」

「ううん、別にー」

 

 フランは横島の問いを何かを含んだ笑顔で流す。だが、横島は意外と頭が回る。このタイミングで好きか嫌いか、そしてどんなところが好きかを聞かれれば、そこにどういった意図が含まれているかは想像がつく。

 

 ――もしかして美鈴って俺に惚れとったんか?

 

 横島がそう考えるのは当然と言えるだろう。実際に事実であるのだし。

 

「……ん?」

 

 もうそろそろゲストルームに着こうかというところで、廊下の先から“ドドドドド……!!”と何かが走っているような音が聞こえてきた。何かとそちらに目をやれば、猛スピードで走ってくるのは噂の美鈴。そして彼女に手を掴まれ、引き摺られるように連れられているのは鈴仙だ。

 

「見つけた!!」

「きゃあああああああああっ!?」

 

 美鈴が叫び、その場で急停止する。鈴仙はその制動に対応出来ず、すぽーんと美鈴の手から抜けて超特急で転がっていった。

 

「い、イナバちゃーん!?」

 

 自分達の脇を転がり抜けていく鈴仙を目で追ってしまう横島だが、それがいけなかった。

 

「美鈴、一体何を――」

 

 美鈴の突然の凶行を咎めようと視線を戻した時には、横島の目の前に美鈴がたまたま着用していた()()()()()が迫ってきていた。

 一瞬後、とても小気味良い着弾音と共に横島がチルノ、フランと共に吹っ飛ぶ。

 

「おあーーーーーー!!?」

「おおおおおおおっ!?」

「ひええええっ!?」

 

 美鈴が全力投球した手袋の威力はとんでもなく、横島は鈴仙同様にかなりの勢いで転がっていく。フランとチルノは何とか咄嗟に自分から離すことに成功し、フランはレミリアが、チルノは妹紅がそれぞれ受け止めることに成功した。

 

「め、美鈴!? あんた一体何を……!?」

 

 驚きのままにレミリアが美鈴に問う。レミリアだけではなく、他の皆も一様に驚愕に染まった表情をしている。

 

「ふ、ふふ、ふふふふふふふふふふふふふ……」

「……っ!?」

 

 俯いた美鈴から、狂ったような笑い声が漏れる。それは何とも人の不安感を誘うような声であり、美鈴の様子が尋常ではないことを如実に教えてくれる。

 

「うぐぅ……一体何が……」

 

 横島は涙を目に浮かべ、強打した鼻を押さえながらも上体を起こす。それに反応したのか、美鈴もまたガバっと顔を上げる。

 

「――横島さんっ!!」

「は、はいっ!?」

 

 美鈴が遠く、横島へと叫ぶ。彼女の目はまるで漫画の様にぐるぐると回っており、とても正気ではない。しかも、まるで狂気に囚われているように()()()()()()()()

 美鈴は横島をビシっと指差し、叫ぶ。

 

「横島さん、貴方に決闘を申し込みますっ!!!」

「え……」

 

 何故か、皆の耳朶に横島の呆けた声が響いた。

 

「えええええぇぇぇぇっ!!?」

 

 そして横島だけでなく、皆の声が一つとなり、紅魔館中に響き渡った。

 

 

 

 

第四十二話

『想いを伝えるために』

~了~

 

 




最近ぽんこつなお姉さんが好きです。

鈴仙がうっかり美鈴を強化しすぎてしまいました。

次回、美鈴と横島が拳で語り合います。

……拳で語る……武術家……告白……うっ、頭が

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