東方煩悩漢   作:タナボルタ

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チルノ達出せませんでしたあああああ!!
ロリ組出せませんでしたあああああ!!

次回は……次回こそは……


第四十八話

 

「ふいー、いい湯だったなー」

 

 慧音宅の風呂で血を流した横島は、さっぱりとした様子で皆のいる居間への廊下を歩いている。

 現在彼が着用しているのは慧音から貸し与えられた浴衣。深い藍色をした無地の浴衣は横島に落ち着いた印象を与え、それがまた、彼の雰囲気にも合っていた。

 白い手ぬぐいを首にかけ、悠々と歩く姿はどこか年齢不相応なイメージを見る者に与えるだろう。まるで休日のお父さんみたいだ、と。

 

「しっかし、汚れてたのは身体だけなんだから、髪を洗わなくてもよかったかな?」

 

 横島は濡れた髪を撫で付けながら呟く。

 横島は気付いていないが、彼の髪には彼が流した鼻血が付着していたのだ。なので結果的には良かったといえるだろう。

 

「……ん?」

 

 居間の襖を開けようと手を掛けようとしたとき、中から楽しそうな笑い声が響いてきた。横島が風呂に入っている間に随分と打ち解けたようで、大変結構である。ちゃんと影狼と一応赤蛮奇の声も聞こえるので、いつの間にか退治されてたとかそういうのも無いらしい。横島は胸に手を当て、そっと安堵の息を吐いた。

 

「戻りましたー。何か随分と楽しそうだけど、みんな仲良くなったんだなー」

「あ、横島。湯加減はどうだった?」

「いやー、いい湯だったっすよー」

 

 居間に入り、「失礼します」と空いている場所に座りながら慧音と言葉を交わす。他の者達は何やらほうと息を吐き、感嘆している様子。

 

「……いいな、その浴衣。よく似合ってる」

「お兄様のユカタ? 姿って、すごい新鮮な感じー……」

「いいですねー、一気に大人っぽい感じが出てますよ! 格好良いです!」

「マジで? マジで? 格好良い……!! この俺が……!! 格好良い……!!」

 

 3人の恋人達に褒められ、横島は舞い上がらんばかりに気を良くする。3人の感想には恋人としての欲目もあったのだろうが、それでも彼女達の言葉は真実である。慧音も妹紅達ほどではないにせよ今の横島を中々に格好良いと思っているし、阿求や影狼、赤蛮奇も横島の総髪(オールバック)姿に不思議な魅力を感じている。

 ただ一点、顔が盛大に歪んでいなければそれを素直に言葉に出せたのだが……。

 

「いつも執事服とか洋服だし、横島はそういう和装ももっとした方がいいんじゃないか?」

「幻想郷では和服が多いもんね」

「私みたいな中華系の服も着てみましょうよー。格好良いとい思いますよー?」

「格好良いかなー、そういう服着たら格好良いって言われるかなー? うは、うははははは!!」

 

 まあ、本人は幸せそうなので何よりである。

 それにしてもこういう風に恋人達と笑い合っている姿を見ると、以前に見た姿は幻だったのではないかと疑ってしまいたくなる。慧音は何の悩みも無さそうな横島に対し、知らず苦笑を浮かべる。

 

 もし自分が彼と同じ立場だった場合、ああして笑うことが出来ただろうか?

 慧音は自問する。自分が元々存在していた世界から外れ、全くの異世界――平行世界に投げ出され、元居た世界には戻ることは出来ないと告げられて。

 友人や恋人を得たは良いが、自身はとある異変に巻き込まれ、蓬莱人という特殊な存在と化してしまう。

 

「……私では、無理かもしれんな」

 

 慧音は誰にも聞かれないように口の中で呟いた。

 人より何倍も長生きをしている慧音ではあるが、それでもこの短い期間にそれだけのことが起きれば毎日を楽しく笑って過ごすことなど出来ないだろう。

 そう考えると、横島のメンタルの強靭さ、とりわけ正気を保っていられることが正直に言って信じられない。……彼の正気が常人の正気と同じ尺度で推し量れるかどうかは置いておくしかない。煩悩的に考えて。

 ともかく、慧音はそういう面では横島のことを尊敬しているのだ。

 

 だから、慧音は横島に()()を聞いてみた。いや、思わず口にしていたと言った方が近い。

 

「なあ、横島。お前は――――――お前は、どうしてそんな風に笑えるんだ?」

 

 しかし()()は、彼の()()()()を浮き彫りにすることになる。

 

 

 

 

 

 

 

第四十八話

『無意識のズレ』

 

 

 

 

 

 

 

「えー……っと? どういう意味です?」

 

 慧音の突然の質問に、横島は首を傾げる。どうして笑えるのか、そんなことを聞かれても困ってしまう。

 

「ああ、すまん。つい、な。正直言い辛いことではあるのだが……お前は幻想郷に来てから随分な目に遭って来たからな。それでもそうやって笑うことが出来ているのが凄いと思って。……私にはとても真似出来ん」

 

 慧音は少々早口ながらも理由を述べる。話の内容が内容だけに、場の空気は重いものとなっていく。特に、妹紅と影狼はは横島が()()()()()原因の1つとも言え、2人は顔を俯かせ、瞳に涙を滲ませる。

 影狼は自分のせいで横島の命を危機に追いやり、妹紅は横島を失いたくがない為に自らの生き肝を食べさせた。そんな分かりやすい地雷を思い切り踏み抜いてしまった慧音だが、だからこそ先程早口気味になっていたのだろう。

 どうも最近口がよく滑る。異変が立て続けに起こり、里の住人達のケアに奔走し、寺子屋の教師として忙しい毎日を送り、更には親友とその想い人に起こった事件。

 慧音の中に知らず知らずの内にストレスが溜まり、どんどんと余裕やゆとりを奪い去っていったのだろう。今現在の人里でも、彼女に掛かる負担は馬鹿に出来ないものがある。

 自分の失敗を悟りながらも、今の慧音にはどうすることも出来ない。何故口に出してしまったのか……と、己を悔いるばかりだ。

 

「んー……」

 

 だからこそ、横島が先の質問に答えてくれることが彼女達にとって何よりの救いとなる。

 しかし、彼の答えは――――。

 

「いやー、やっぱり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……なんて思いまして」

「――――――な、に……?」

 

 自分でもちゃんと言葉になったか不安を覚える程に、掠れた声が慧音の口から出る。今横島が言った答えは、彼の事情を知っている者からすれば、違和感を抱かずにはいられないものだ。

 

 そもそも。そもそもだ。

 横島は――――()()()()()()()()()()()()()はずだ。

 

 横島を見る妹紅を初めとした恋人達の眼も、困惑を強く宿している。こちらの世界で横島と恋人関係になった3人だが、彼女達は横島をこの幻想郷に縛りつけようとは考えていなかった。

 妹紅は横島が元の世界に帰ろうとも一緒についていくつもりであったし、美鈴もフランも似たような考えだ。まあ、その時にはレミリアという高過ぎる壁をどうにかしなければいけないし、レミリアは横島を紅魔館から出す気はなさそうなのだがそれはともかく。

 横島は幻想郷に墜落し、紫から元の世界に帰ることが出来ないと聞かされた時も、文珠を精製出来た時も、元の世界に帰りたがっていた。

 確かに「こちらの世界に骨を埋めるべきか」という考えに至っていた。だがそれはあくまでも本気ではなかったはずだ。無意識の領域だったはずなのだ。

 だとすれば、いつからそれが表出した? いつからそれが顕在化した?

 

 今の横島は――――――元の世界に帰りたくないと、本気でそう思っているのだろうか?

 

「……横し――」

「そういや、ケーキはもう食ったんすか?」

「え……いや、まだだが」

 

 疑問を口にする前に、横島からの疑問に遮られる。本来ならば簡単に話を逸らされる慧音ではないのだが、その時ばかりは抗えなかった。そうした方がいいと感じたからか、それとも何か別のものを感じたからか。他の皆も何かを言うことはない。妹紅達もそうだ。何となく、この話題には触れたくなかった。

 

「……やっぱり美味いな、咲夜が作るケーキは」

「本当ですね。甘さは控えめなのに、それを感じさせないというか……。それに、紅茶もとても良い香りです」

 

 それから数分。慧音と阿求は横島達から受け取ったケーキを食べている。紅茶は横島が淹れ、その腕前に阿求も感心しきりだ。

 

「あのー……」

「ん?」

 

 ケーキに舌鼓を打つ慧音と阿求に、おずおずと声が掛けられる。その声の主は影狼であり、彼女と赤蛮奇の前には慧音達と同じくケーキと紅茶が置かれていた。

 先程までの話と雰囲気についてこれなかった2人であるが、これはこれでついていくことが出来ない。どこか緊迫した空気から脱却出来たのは嬉しいのだが、それでも横島達に迷惑を掛けた自分達にケーキを分けてくれるとは予想もつかなかった。

 

「本当に、私達もいただいてよろしいのでしょうか……?」

「ああ、構わないさ」

 

 影狼の疑問に慧音が頷く。こうして会ったのも何かの縁。ケーキも同じものが2つずつ入っていたのだし、皆で分け合ったほうがより美味しく食べられるだろう。

 赤蛮奇は慧音の言葉におろおろとするばかり。何せ彼女は横島に血を流させたのだ。そんな自分がケーキをご馳走してもらうなど、理解が追いつかない。

 

「わ、私はやはりその、ここまでしてもらうわけにはいかないのでは……」

「あー、まあその気持ちは分かるがな」

 

 最早泣きそうな赤蛮奇の様子に慧音は苦笑を零す。せっかく皆で美味しくケーキを食べようと思ったのだが、やはりそう上手くはいかないらしい。赤蛮奇は怯えながらも妹紅達に視線を寄越す。

 そんな彼女の様子に同情を抱くのは横島だ。これもある意味当然だろう。彼は美少女の泣き顔などは見たくない。……いや、美少女の泣き顔は好物の1つであるが、こういった怯えからくる泣き顔は駄目だ。美少女のナニかによる泣き顔なぞは大好物だが、これはいただけない。

 なので、横島は妹紅達に視線を送る。「もう許してやったら?」という意味合いを込めて。

 

「……いいから食べなよ。横島はもう気にしてないみたいだし、私達ももう怒ってないからさ。……むしろ私達の方がやりすぎちゃったというか……とにかく、悪かったよ」

 

 結果、妹紅は真っ先に折れることにした。彼女とて弱い者いじめは好きではない。横島からの視線もあるし、何よりもこのままにしておくのは良心が咎める。頭をぽりぽりと掻きながらではあるが、それでも妹紅は赤蛮奇へと謝罪の言葉を口にした。

 

「あの、そんな私の方が……」

「……あの時は怖がらせちゃってごめんなさい。お姉さんは友達を守ろうとしてたのに」

「いや、そんな!! あれは、ちゃんと確かめもせずに攻撃した私が悪いのだし……!!」

 

 妹紅に続き、フランも赤蛮奇へと謝意を表す。そんな彼女達に赤蛮奇も慌ててしまう。混乱から言葉が上手く口から出ない。ただあわあわと焦るばかりの赤蛮奇に、美鈴も頭を下げる。

 

「確かに切っ掛けは貴女かも知れませんが、それでも私達がやりすぎたのも事実です。……すみませんでした」

「あ……う……!!」

 

 3人から頭を下げられ、赤蛮奇の混乱は頂点を極める。何故こんな話になったのか。何故加害者である自分が被害者の恋人達に頭を下げられているのか。そもそも頭を下げるなら自分の方が――。

 

「……っ」

 

 そこで、はたと気付いた。

 はたして自分は、横島とその恋人達にちゃんと謝罪をしただろうか?

 

 ――――していない。友人の命の恩人に怪我を負わせたにも係わらず、自分は一切謝罪を口にせぬまま流されるばかり。影狼に頭を下げさせ、先程談笑していたときにも自分から行動せず、挙句の果てには被害者である彼女達に頭を下げさせている。

 自分は一体何をしているのか。まず頭を下げるべきは自分だ。自分のあまりの情けなさに涙すら出てくる。

 

「……ーつ」

 

 赤蛮奇は息を大きく吸い、そのまま勢い良く横島と、そして妹紅達に向けて頭を下げる。

 

「横島さん、私の勘違いで怪我をさせてしまい、申し訳ありませんでした。まず謝るべきは私だったというのに、妹紅さん達に頭を下げさせてしまいました。本当に、すみませんでした……!!」

 

 それは赤蛮奇の心からの謝罪だった。あまり口が上手いとは言えない彼女の、拙いながらも心を込めた、精一杯の謝罪。それを受けた妹紅達3人は視線を交わし、それぞれが行動に出る。

 

「ああ、うん。私達はもう気にしてないからさ、頭を上げてくれよ」

「ほら、お兄様の紅茶を飲んでみて? 温かいお茶を飲んだら落ち着くと思うから」

「お互い様なんですから、これで終わりにしましょう? 横島さんももう気にしていませんし」

 

 美鈴がちらりと視線をやれば、横島は鷹揚に頷いた。

 

「あんな場面を見たらしょうがないって。俺もみんなもその、あれだよ。えっと……大丈夫だから」

「何が大丈夫なんだ」

 

 冷静なようで全然冷静でなかった横島の言葉に、慧音のツッコミが入る。

 それは横島の照れ笑いに繋がり、やがて他の皆にも伝播し、一同は小さく、しかし確かな笑みを浮かべていた。

 

「赤蛮奇」

「あ……」

 

 赤蛮奇に影狼は声を掛ける。赤蛮奇は当初気まずそうにしていたが、それでもちゃんと影狼へと向き合った。

 

「その、ごめん。影狼にまで頭を下げさせてしまって……」

 

 それはあの時への謝罪。いくら自分が身動きの取れない状態だったとしても、その後も何もしないのでは問題がある。影狼は赤蛮奇からの謝罪をしっかりと受け止め、頷いた。

 

「あの時は赤蛮奇のピンチだったから。……この話はこれでおしまい。ほら、ケーキ食べよう? あの紅魔館のメイド長の作ったケーキだから、きっとすっごく美味しいよ?」

 

 笑顔を浮かべる影狼に、赤蛮奇は救われたような気持ちになる。「そういえば影狼も怖がらせちゃったよな……」と妹紅達に謝られて慌てる彼女を尻目に、赤蛮奇は自分の分のケーキを一口食べてみる。

 

「……美味しい」

 

 それは、今まで食べたことがないほどに美味しく感じられた。何故かぺこぺこと妹紅達に頭を下げている影狼を見る。

 きっと、ここまで美味しく感じられるのは彼女のお陰なのではないかと思う。影狼が友達で良かったと、心から思う。

 赤蛮奇はようやく頭を上げてこちらに戻ってきた影狼に自分のケーキを一口分けてあげることにした。フォークに一口分のケーキのかけら。それを差し出す赤蛮奇。いわゆる「あーん」の状態だ。

 

「……あ、すっごい美味しい!」

「流石は紅魔館のメイド長。……影狼のも美味しそう」

「じゃあ、一口交換しよう。こっちのも美味しそうだよねー」

 

 影狼が差し出したフォークを咥え、もう1つのケーキの味を堪能する。こちらの方も劣らず美味い。

 

「ん。どっちも美味しい」

「本当だね」

 

 笑顔を浮かべながらケーキを食べる。時たまお互いに食べさせあい、2つの味を堪能しつつ紅茶を飲むのも忘れない。

 慧音も影狼達と同様に、阿求と互いのケーキを食べさせあったりしている。ふた組の美少女達による「あーん」合戦は、それを見ている横島に一時の幸福感を与えていた。

 

「美少女達のあーん……良い。凄く良い」

 

 横島の頬は緩み……というかにやけており、何やら邪なオーラを放っている。とても良い子のみんなにはお見せできない顔だ。

 妹紅達は「あーん」を恍惚の表情で見つめる横島を見て、後で自分達も横島にやってあげようと画策する。フランなぞ「さっきお兄様の血を飲んだから、今度は私の血を飲んでもらおうかな?」というある意味とても危険な考えを巡らせる。

 互いの血を吸いあう仲……。それはそれで淫靡な匂いが漂うが、横島がそれを歓迎するかは微妙である。

 

 横島のにやけた笑みは変わらず、ケーキを食べる前のことを思い返す。

 慧音からのあの質問。それに答えたあの時の言葉。

 ――――横島は考える。

 

「……そうだよな」

 

 少しだけ深い息を吐き、一瞬だけ表情を戻す。

 

 ――――――元の世界に帰ることが出来るのなら、()()()()()()()()()()()()()()

 

 その心中の呟きは、誰にも気付かれていない。そして、その呟きが意味するものに、横島自身も気付いていないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

第四十八話

『無意識のズレ』

~了~

 




日焼けしたチルノ可愛い(挨拶)

これはもう日焼けしたレミリアとか日焼けしたフランとかも出してもらわないと(流石に無理がある)

次回こそはチルノ達を出したいナー……

それではまた次回。

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