東方煩悩漢   作:タナボルタ

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イケメンってなんだろう(挨拶)


自分で霖之助をイケメンにしなきゃって言っといて何ですが……


イケメンってなんだろう(哲学)


第五十九話

 

 さて、今日も元気に「行って来ます!」と空へと飛立っていった横島一行を、部屋の窓から静かに見送った少女がいる。ふわふわの兎の耳を持つ少女、てゐだ。

 てゐは横島達が見えなくなるまで眺め、やがて短く息を吐き出すと、とある人物の元へと向かう準備をする。と言っても、その準備というのは心の準備なのだが。

 

「どこにいるかなー?」

 

 キョロキョロと周囲を見渡しながら進むのは紅魔館自慢の大図書館。そう、目的の人物というのは小悪魔だ。

 なぜてゐが小悪魔を探しているのかと言えば、話は数日前にまで遡る。

 横島への告白を決意し、色々とタイミングを見計らっていたてゐは、あることに気が付く。小悪魔が以前のように横島に近付こうとしていないことにだ。

 一体何があったのか、と考えるてゐだが、その時は気にせず、告白の絶好のタイミングを探ることに集中した。やがて見つけた絶好の機会! さあ、告白するぞと意気込んだてゐ……だったのだが、横島の顔を見て、ふいに小悪魔のことが頭をチラついたのだ。

 頭を振り、そのことを忘れようと深呼吸。しかし、どうにも喉に刺さった小骨のように小悪魔のことが頭を離れないのだ。

 一度気になってしまえば告白どころではなく、てゐは悶々としながらも一旦告白を延期し、今度は小悪魔に話を聞くことにしたのだ。

 

「先に告白しとけば良かったかなー」

 

 何気なく口に出たのはそんな言葉。しかし、それが出来ないだろうことは彼女自身がよく分かっている。決心したと思っていても、少しでも何かがあると先延ばしにしてしまう。

 達観している部分があるとはいえ、てゐもまだまだ一八〇万歳の女の子。何かと理由を付けて先送りにしてしまっても、仕方がないと言える。……まあ、一二〇〇歳や四九五歳の子達に先を越されているのだが、それだけ彼女達が早熟だということだ。

 

「うん、そう。だから私は悪くない。執事さんに告白しようと部屋の前に立っただけで足がガクブルと震えるのも仕方がないんだよ」

 

 てゐにとっては、横島と一緒に風呂に入るよりも横島に告白するほうがより勇気が必要なようだ。永い時を生きるにつれ、男女の恋愛や性愛に対する価値観が歪んでしまったのかもしれない。身体の繋がりよりも、心の繋がりに臆病になってしまったのだ。

 

「……っと、見つけた」

 

 視線の先、小さなテーブルに着いて本の修復に勤しむ小悪魔の姿を認める。出来れば以前のような関係に戻ってほしい。それはてゐが小悪魔のことを気に入っているのもあるが、何よりも彼女は自分と同じ男を好きになったのだから。

 

「だって、姉妹になるかもしれないんだからね。――――そう、竿姉まひぎぃっ!?」

「ああっ!? ど、どうされたんですかてゐさん!?」

 

 言わせねえよとばかりに偶然が働き、本棚からてゐの頭上に分厚い本が落ち、角が脳天に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

第五十九話

現実(ゆめ)から幻想郷(こちら)に』

 

 

 

 

 

 

 

 空を行く横島達。目指すは魔法の森の入り口に存在する道具屋“香霖堂”だ。しかし、横島はあまり興味を示していないというか、どうにもやる気が感じられない。

 

「おーい横島、何がそんなに気に入らないんだ?」

「んー、何がってなぁ……」

 

 香霖堂について軽く説明を終えた魔理沙は困惑しきりだ。他の者は大体分かっているので苦笑気味だが、魔理沙にはとんと分からない。ついでに言えばチルノにも分からない。

 

「だーってさ、その“こーりん”って奴は男なんだろ? ついでに言えば俺の勘がそいつは美形だと告げている。こんなんじゃあ関心が無くなっても仕方ないってもんだぜ」

「お前って奴は……」

 

 魔理沙の呆れたような視線が突き刺さるが、横島はなんのその。まるで気にしない。更に魔理沙以外の者も呆れた視線を送っているのかと思えば、意外と皆気にしていないようで。

 例えばはたてなどは横島のレアな表情にだらしなく相好を崩し、彼の顔を無数にパシャリ。横島に対して本格的に遠慮が無くなってきたの、はたして歓迎すべきかどうか。

 フランも横島が拗ねたような表情を見せたことに逆に機嫌が良くなっている。普段自分には見せてくれない表情。それを知れて嬉しいのだ。

 

「お兄さんもまだまだ子供なのね。あたいみたいに大人にならなきゃダメだよ?」

 

 逆に否定的なのはチルノだった。と言っても本格的に失望したでもなく、ただ単に彼女が大人ぶりたかっただけなのかもしれないが。

 

「――――っと、どーでもいいことに気を取られてたら、もう見えてきた」

「どーでもよくはねーし」

「分かった分かった。……ほれ、あれが目的の“香霖堂”だ」

 

 魔法の森の入り口。そこに何かを主張するでもなく存在している、こじんまりとした店舗。それが香霖堂だ。

 

「なんか、想像してたのと違うな」

「あー? どんなの想像してたんだ?」

「いや、外の世界とか冥界だの妖怪だの魔法の道具があるって聞いてたから、もっとでかい店なのかと」

「あー、なるほどな」

 

 確かに魔理沙の説明を受ければ大きな店だと勘違いしても仕方がないだろう。予想を外した横島はやや落胆の表情を覗かせるが、ここで彼は元の世界のオカルトショップ“厄珍堂”を思い出す。

 よくよく考えてみれば厄珍堂も名の知れた店であったはずだが、その店舗は目の前の香霖堂のようにこじんまりとしていた。もしかすれば、店舗の大きさに関して何かオカルト的な要素が絡んでいるのかもしれない。

 

「ま、今はそれはどうでもいいだろう。それより入ろうぜ。そんで、出来ればなんか買ってやってくれ」

 

 魔理沙が扉に手をかけ、そんなことを言う。何だかんだ言いつつ、彼女も香霖――――森近霖之助(もりちかりんのすけ)のことを心配しているようだ。

 

 そして開かれる扉。始めに目に入ってきたのは雑多に置かれた種々様々な道具達。一目でそれが何であるか分かるものもあれば、今まで見たことがないような道具も存在している。

 そこから年甲斐もなく湧き上がるのは、子供の頃に還ったかのような高揚感に緊張感、そして好奇心。あるいは冒険心と言ってもいいかもしれない。

 香霖堂とは、そんな不思議な魅力を放つ商品を扱っている店だった。

 

「――――、……」

「……、……――――」

 

 と、商品に気を取られて気付かなかったが、どうやら先客がいたらしい。聞こえてくるのは理知的な響きを湛えた男性の声と、やや勝気な、あるいは少々高飛車な印象を与える、しかし可愛らしくもある少女の声。道具に隠れて見えないが、現在店内にはお客が一人のようだ。

 店の奥のカウンターにまで行けば、そこにはとある道具について熱く、それでいて静かに語り合う二人の男女の姿があった。

 

「おっ? 聞いた声だと思ったが、またこっちに来てたんだな“菫子(すみれこ)”」

「だからこれは――――って、あれ? 魔理沙さん?」

 

 魔理沙の声に振り向いたのは()()()()()()()()()()()()である、宇佐見菫子。当然横島の視界に収まるのは彼女だけであり、霖之助など目に入らない。

 

 ――――黒い帽子に変な模様のマントに眼鏡。なんかマジシャンみたいだな。歳は中学生……いや、高校生くらいか? 美人ってわけじゃないけど、可愛い子だな。ちょっと幼い感じがするけど。ま、今はいいか。最近煩悩の調子が悪いし、魔理沙の顔を潰すのもなんだし。

 

「はじめまして、可愛らしいお嬢さん。僕は横島忠夫。もしよければ、君の名前を聞かせてくれないかな?」

「ぅえぇっ!? なに、ナンパ!? ナンパなの!?」

 

 ここまで本能に忠実な男も珍しいだろう。頭では違うことを考えていても、彼の心と魂と精神は煩悩に忠実である。なんとも嘘の吐けない男だ。しかし、いつもより勢いがまるでないのもまた確かである。普段なら「ぐおーっ」と迫ってビンタがお約束だ。

 

「ふ、ふんっ! 私をそこらへんの軽い女と一緒にしないで!! いくら可愛らしいとかおだてても、別に嬉しくなんてないしっ!!」

 

 菫子はつんと横島から顔を背けて拒絶するが、彼女の表情は今しがたの台詞と一致せず、頬がピクピクと動き、徐々に口角が上がっていく。本当は嬉しかったようだ。

 

「どんな時でもぶれないな、お前は。――――ほれほれ、菫子もそんな警戒すんなって。こいつは女を見ると口説かずにはいられないだけなんだからさ」

「充分に警戒すべき人じゃないですかっ!?」

 

 魔理沙が二人の間に入って横島のフォローをしてくれるのだが、それはフォローと呼ぶにはいささか言葉がまずかった。余計に警戒される横島だが、彼にとってそんなことは日常茶飯事。ダメージなんて「るー」と涙を流す程度のものだ。

 

「んなことより、だ。二人がいるんなら丁度いい。紹介するぜ、こいつが以前話した『別世界(パラレルワールド)の人間』だ」

「――――っ!!」

「……え、なに?」

 

 魔理沙の言葉に霖之助と菫子の目の色が変わる。それは思わず横島も身の危険を感じるほどであった。

 

「何か変な物が多いなー……お? これはなんだー?」

「ちょ、ちょっとチルノちゃん! もっと丁寧に扱わないと……!!」

「こういうお店の物って、ちょっとでも力加減を間違えたら壊しちゃいそうだなー……」

「落ち着いて、フランちゃん。落ち着いてその抱えてる壷を下ろすのよ」

 

 ……何だか背後から別の意味で身の危険を覚える会話が聞こえてくる。

 

「魔理沙さんから聞いていたけど、本当に普通の人間と変わりがない……? あ、えっと、私は宇佐見菫子……です。よろしく……お願い、します」

 

 興味深そうにじろじろと横島を観察しだした菫子は、その途中でまだ自分が名を名乗っていないことに気付き、慌てて名乗る。敬語になっているのは横島が年上の男だからか。

 

「君が横島君か。僕も、君のことは魔理沙から聞いているよ。僕は森近霖之助。君とは一度二人でゆっくりと話してみたかったんだ」

「……!?」

 

 爽やかに笑みを浮かべ、涼やかな声でそう告げる霖之助に、横島は驚愕の表情を浮かべていた。頬に冷や汗が流れ、急激に喉が乾燥する。横島は、緊張のため生唾を飲み込んだ。

 

 ――――何だ、こいつは……!? 銀髪……銀髪の美形!! いや、それはいい。全然良くはないがまぁいいだろう。銀髪の美形とかジークだってそうだし。問題はこいつの服だ……!! 一体なんだ、こいつのこの服は……。まるで着物と洋服を足したような、なんか……なんかよく分からん格好いい服……!! これを涼しい顔で着こなすとは……こいつ、只者じゃない!!

 

 一体何に緊張しているというのか。確かに霖之助の服装は漫画やアニメなどに出てくるような、異常なまでに凝った造形をしている。そして、彼はその服の存在感にまるで負けず、まるで部屋着のようなリラックス具合を発揮している。

 美形は何を着ても似合う、ということだろうか。横島の心に嫉妬の炎がメラメラと燃え盛り、横島は霖之助をキッと睨みつけ、何故かお尻を手で隠しながら、「すすす」と魔理沙の背後に避難する。

 

「……なんだよ?」

「いや、だって俺と二人っきりで話したいとか……」

「ああ、なるほどね。また厄介な勘違いをするものだ……」

 

 溜め息を吐き、眼鏡を指でくいと持ち上げる仕草すら様になっている。これが美少女の仕草なら大歓迎なのだが、男のそんな仕草を見せ付けられても何とも思わない。むしろやっかみが増すだけだ。

 

「あ、あれ面白そう! ビンにドクロマークの紙が貼ってあるやつ!」

「ちちちチルノちゃん、それはあからさまに怪しいからダメー!?」

 

 しかし幸いかどうかは不明だが、背後からの声に横島の身勝手な怒りは鳴りを潜め、逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

「……ちょっとすまん。――――こーらっ、さっきから何やってんだー?」

「ぅえっ?」

 

 一応断りを入れ、横島は背後のチルノ達の元に赴き、何やら怪しげな薬ビンを取ろうとしていたチルノを捕獲し、そのまま胸に抱える。まるで大型犬が持ち上げられているかのような姿だが、何らかの効果はあったようで、チルノは特に抵抗することもなく借りてきた猫のように大人しくなった。

 

「ああいう怪しい薬をいじって、もし落としてみろ。下にいた人造人間の女の子や古代中国の石像に中の薬品がかかったりしたら、頭を粉々にされそうな威力のキスをされそうになったり、胴体がぶっ千切られるような抱擁をされたりするかもしれないんだぞ?」

「なんですか、そのありえない例えは……」

 

 残念ながら本当にそうなりかけたことがある。そのせいか、横島は元の世界の人造人間の少女“マリア”が少しだけ苦手だったりするのだ。

 横島はチルノがこれ以上迂闊なことをしないように、彼女を抱えたまま菫子達の元へと戻る。一連の横島の行動を見ていたフランは横島の背中に負ぶさりかかり、横島の肩から覗くように菫子達を眺める。

 

「悪かったな、森近」

「ああ、気にしなくていいよ。妖精は好奇心旺盛だからね。万が一悪戯されてもいいような仕掛けは施してあるんだ。そういった意味ではそのままの方がいいかな?」

「なるほど。あれはトラップだったわけか」

 

 うへえ、と横島は唸る。恐らく商品等には一切害を及ぼさないような仕掛けなのだろうが、それだけにどんな罠が仕掛けられていたのかが想像もつかない。何せここはあらゆる道具を扱っている店だ。それこそ妖精だけに効果のある薬品なども存在するのではないだろうか。

 

「はじめまして! 私はフランドール・スカーレット。よろしくね!」

 

 横島が物騒な想像を働かせている内に、フランは菫子と霖之助に挨拶をしていた。にっこりと浮かべたその笑顔はとても作ったキャラとは思えないほどに自然である。これもレミリアや永琳、そして横島のおかげであろうか。

 

「うん、はじめまして。僕は森近霖之助だ」

「私は宇佐見菫子。よろしくね、フランちゃん」

 

 にこやかに挨拶が交わされる。どうやら二人と初対面だったのは横島とフランだけだったようであり、魔理沙を除く他の三人は顔見知りであるようだった。

 

「それで横島君。君は別世界から来たそうなのだが、色々と話を聞かせてくれないかな? 例えばどうやってこちらに来たのか、それから元いた世界はどのような世界だったのか」

「あ、私もそれ知りたいです! 特にオカルト関係についてとか!」

 

 互いの挨拶も終わり、少し間が空いてから霖之助がそう切り出した。冷静さを装っているが、彼の瞳は隠しきれない好奇心で輝いている。それに便乗してオカルトの話を聞きたがるのは、もちろん菫子だ。“秘封倶楽部”初代会長として、オカルト話……それも、別の世界のオカルトは何よりも聞きたいことだろう。

 

「いや、俺はいいんだけどさ……」

 

 菫子達の放つ熱気は相当なものだ。横島はそれに気圧されながらもはたてや魔理沙に視線を送る。

 

「私は大丈夫。もしかしたら何かお宝話を聞けるかもしれないしー」

「適当に話しとけよ。私はこっちでコーラ飲んどくから」

 

 はたてはメモ帳片手に聞きの体勢。魔理沙が勝手に用意したイスに座り、取材開始といったような雰囲気だ。さりげなく横島の隣に座っているのはご愛嬌。その隣に、申し訳無さそうに大妖精が席に着く。

 魔理沙は魔理沙でカウンターに置いてあった霖之助の読みかけの本を拝借し、商品であるコーラを勝手に飲み始める。

 魔理沙の所業に霖之助は何も言わないが、代わりに深い深い溜め息を吐いた。いつものことではあるのだが、それがいつものことになってしまっているというのは非常に厄介である。

 

「……まあ、いいか。イス、借りるぞ?」

「ああ、ご自由に」

 

 そうして皆が席に着く。チルノは横島の膝の上に収まり、フランは変わらず横島の背中にはりついている。イスに背もたれが無いタイプ……木製のスツールだったのが幸いした。ちなみにだが、このイスはレミリアの部屋にあった物と同一の物であるらしい。恐らく、この香霖堂で購入したのだろう。

 

「んー、どっから話せばいいのか……とりあえず、俺が元いた世界の話からかな?」

 

 頭の中で情報を整理し、ゆっくりながら分かりやすく自分の世界について話をしていく。紫から幻想郷の外の世界についての話を聞いていたので、外の世界との違いを自分が知る範囲で何とか言葉にしていく。

 幻想郷の外の世界は科学が発達し、オカルトが衰退している世界だという。しかし横島の世界はオカルトが色濃く残り、科学と共に発展してきた世界だ。

 例えばゴーストスイーパーは国家資格であるし、ザンスという小さな島国は全ゴーストスイーパーの切り札である精霊石の八割を産出し、全世界のオカルト経済の中心となっている。他にも国際刑事警察機構(ICPO)に超常犯罪課、通称“オカルトGメン”というものが存在していたりなど。

 話を聞くにつれて、菫子の目が輝きを増していき、どんどんと笑顔が深くなる。対する霖之助は眼鏡の輝きが強くなり、どんどんと相槌や質問が多くなる。その質問は国家資格とは具体的にどんなものか、ICPOとは何か、といったものだが、それには菫子が答えていく。彼女はオカルトだけでなく、様々な知識や雑学を有しているらしい。

 

「あああぁぁ、どうして私はそっちの世界で生まれなかったんだろう……!! いや、でも待って!! 私は秘封倶楽部(ひみつをあばくもの)。オカルトが公に認められている世界だと逆に生き辛いんじゃないかな……!?」

「いや、んなこと俺に聞かれても……」

 

 何だか妙にエキサイトしている菫子に横島は引き気味だ。ちらりと視線を霖之助へと向ければ、彼は「ふむ」と唸り、菫子に声を掛ける。

 

「どちらの世界に生まれるべきだったか、というのは僕も分からないが。でも、菫子君がこちらの世界に生まれてきてくれなければ、僕達はこうして会えなかったかもしれない。その点では、君がこの世界で生まれてくれたことに感謝をしなければならないね」

「……そ、そう、デスカ……?」

 

 霖之助の言葉に菫子の顔が赤く染まり、語尾が片言になる。横島は二人の様子に頬をひくつかせ、魔理沙は大きく「ケッ」と吐き出した。

 

「ああ。それに……うん。オカルトについて考察しているときの君は、とても輝いているからね。恐らくだけど、横島君の世界に生まれていればその輝きはなかっただろう。どこの世界に生まれても菫子君は菫子君だとは思うけど、こうして今僕達と語り合う君は、全ての世界を合わせても――――やっぱり、この世界に一人だけの菫子君だからね」

「……」

 

 もはや菫子は何も言えない。爽やかな笑みを浮かべている霖之助の顔も見れず、頬を染めて俯き身を縮こまらせるばかりだ。

 横島は戦慄した。「これが……美形の力なのか……!?」と、畏敬にも似た念を抱く。そしてそれと同等の殺意と嫉妬も。

 魔理沙はコーラのビンの口をガリガリと噛んでいる。彼女に渦巻く感情はどんな色をしているのか、それは自分でも分かっていないだろう。嫉妬であるのは確かだろうが……。何故か、無性にアリスとパチュリーに会いたくなる。

 不機嫌そうな顔で菫子を見やる魔理沙。すると、妙なことに気付く。菫子の身体が徐々に透けてきているのだ。

 

「おい、菫子。お前……消えるのか?」

「は? 消えるって……うおぉっ!? 本当に消えそうになってるーっ!?」

 

 魔理沙の言葉に疑問符を浮かべる横島だったが、菫子を見てみれば、魔理沙の言う通り身体が消えかかっていた。菫子の事情を知らない横島からすれば実にショッキングな光景であり、混乱してしまう。

 

「あ……外の世界の私が目覚めるみたい。まだまだ話し足りなかったのに……」

「外の世界の私が目覚める……!? 何だ、どういうことだ!? 大丈夫なのか!?」

 

 横島、大混乱。菫子の身体が消えていくのはトラウマを刺激されるのか、そのうろたえぶりは尋常ではなかった。事情を知らない魔理沙はそのことを怪訝に思いながらも、目の前で人が消滅しそうになればこうもなるかと納得する。

 

「心配すんな。菫子は元々外の世界の人間でな。寝ている時だけ、夢の中でのみこの幻想郷に来ることが出来るんだ。」

「……えーっと。つまり、菫子ちゃんは大丈夫なんだな?」

「そういうことだ」

 

 魔理沙の説明を受けてもよく分かっていない横島だが、菫子に問題は無いということが分かり、ほっと息を吐く。問題が無いわけではないのだが……それは、今の横島には教えないほうが良いだろう。魔理沙は一つ秘密にしておくことにした。

 

「ああ、そうだ。菫子、お前に伝えなきゃいけないことがあったんだ」

「え、こんな時に? 何なの、魔理沙さん?」

 

 菫子の身体はもうほとんど透けてきている。そんな時に伝える内容とは一体どのようなものなのか。

 

「実はな……横島(こいつ)、何とあの妹紅の恋人なんだぜ」

「……本当に何でこんな時にそんな大事なことを言うのよー!! 私が妹紅としばらく会ってない間に何があったの!? 待って、待って待って!! 詳しく!! 詳しく話を聞かせ――――」

 

 その言葉を最後に菫子は消えた。現実で目が覚め、外の世界へと帰ったのだ。

 魔理沙は悪戯が成功し、腹を抱えて笑い転げている。嫉妬心から来る八つ当たりもあったのだろうが、何とも意地の悪いことだ。

 横島や霖之助、はたてやフランに大妖精はおろか、チルノですら非難がましい目で魔理沙を見つめている。

 

「本当に、君ってやつは……」

 

 霖之助の呆れたような言葉が店内に浸透する。何だか微妙な空気になってしまった店内には魔理沙の楽しげな笑い声と、他の皆の溜め息が重なって響くのだった。

 

 

 

 

第五十九話

現実(ゆめ)から幻想郷(こちら)に』

~了~

 




イケメンってなんだろう(しつこい)

お疲れ様でした。

うーん、菫子のキャラが掴みきれない……
個人的に霖之助のカップリングで一番好きなのが菫霖なんですよね。



※裏話※

すまない……ここ毎回言い訳ばかり書いてすまない……。

紅魔館でのパーティーでレミリアが横島と挨拶回りに赴きましたが、それは初期プロットで横島がお手伝いに行く場所でした。
そのための大量キャラ出演と挨拶回りでしたが、プロット変更によりそれもなくなり、ガタガタになりました。(涙目)

ちなみにもし初期プロット通りに話が進んでいたら、メインのヒロインは妹紅と正邪になっていました。

それではまた次回。

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