私ね……ついに気付いてしまったんですよ。
――――ガールズラブの警告タグ、いらなくね? ……って。
正直な話、序盤でてるもこが匂わせる程度、マリアリパチェが匂わせる程度、ゆかれいむが匂わせる程度(?)、レミ咲が匂わせる程度(?)。
……警告タグ、必要かなぁ……? 消したほうがいいかなぁ……?
「やあああああぁぁぁっ!!」
「とおおおおおぉぉぉっ!!」
繰り出される拳と拳。ぶつかり合う蹴りと蹴り。
容姿に似合わぬ雄叫びを上げ、落雷のような轟音を響かせ合い、二人の少女は空中で何度も出会いと別れを繰り返す。
「ふーむ……ちょっと見ない間に大分強くなったなぁ、チルノの奴」
「本当ですねぇ。まさか諏訪子様と真正面から拳を交えられるようになるとは……」
「いやいや、あの戦闘を見て感想がそれだけっておかしくないっすか?」
まるでどこかの少年漫画のような戦闘を繰り広げるチルノ達に対し、神奈子と早苗は呑気にもお茶を飲みながら観戦の態勢だ。横島のツッコミも物ともせず、二人はまったりとした空気を纏っている。
「チルノちゃーん!! 頑張ってー!!」
「うーん、良い記事になりそうな予感……!!」
「ほわー……何か手からビーム出しそうだねー」
戦闘が始まってから、大妖精はその前までの呆れたような空気を無かったことにしてチルノを応援し、はたてはやや興奮気味にカメラのシャッターを切っている。フランは感心しながらもどこかとぼけたようなことを口走っている。フランだって普段手から光弾を撃ち出しまくったり、炎の剣を振り回したりしているというのに、今更ビームでどうこうと言うことはないだろう。
横島は何故か自分だけ皆のノリについていけず、どこか冷めたような目で二人の戦いを見上げていた。
どうやら二人の肉弾戦のレベルは非常に近しいらしく、互いに有効打はまだ入っていない。「ちょんわー!!」という妙な叫びと共に諏訪子が蹴りを放つ。それはチルノに防がれてしまったが、横島が思わず目を見開いてしまう程のものがそこにはあった。
諏訪子は普段しゃがんだり、座った姿勢でいることが多い。そのため、彼女の下半身は外見の年齢の割にはむっちりとした肉感を有している。
尻、ふともも、ふくらはぎ、それらは全て柔らかそうな肉に覆われていながらもちゃんと張りがあり、太陽の光を反射して滑らかで鮮やかな肌の色を強調させていた。もし顔をうずめることが出来れば、極上の感触を得られたことだろう。
横島はそれを一通り眺め終えた後、神奈子に顔を向け、お願い事をする。
「神奈子様、よろしくお願いします」
「……君が望むのならあえて謝罪はすまい。ただ、君の期待に応えるのみだ――――オンバシラ!!」
「ありがとうございま゛す゛っ゛!!」
横島から何かを頼まれた神奈子は地面からオンバシラを出現させ、横島の鳩尾を強かに打ちつけた。突然の凶行に皆がまたも取り乱しかけるが、横島がお礼を言っているので「ああ、そういうことか」と瞬時に悟ることが出来た。おかげで早苗の視線は更に冷たくなってしまった。日頃の言動は大事だよね。
「……」
「……? 神奈子様、どうかしました?」
横島にオンバシラを打ち込んだ神奈子は、何かを深く考え込んでいる。横島に声を掛けられた彼女はそのまま横島の顔をじっと見つめ、小さく息を吐き、呟いた。
「……どうやら、君は変わってしまったようだね」
「……! さすが、よく分かりましたね……」
「ああ。……まあ、今日は聞かないことにしておくよ。陽も大分傾いてきたし、そろそろ二人の決着も付くだろうしね」
「……あのー、お二人とも何の話を……?」
二人の深刻な雰囲気に圧され、話に割り込むことが出来ない早苗。
神奈子が言う“変わった”とは、もちろん横島が蓬莱人になってしまったことだ。神奈子は横島を見て変化に気付き、オンバシラで打ち据えたことによって確信を得た。
早苗は横島の変化には気付いていない。元々親交がほとんど無かったのと彼に対する悪感情、そして経験不足が原因である。
いくら幼き頃より修行を積んでいた現人神とはいえ、流石に人間と蓬莱人の差異には気付けなかったようだ。そのことを鑑みれば、横島が妹紅・輝夜・永琳が同種の存在――蓬莱人――であると気付いていたのは驚くべきことだろう。
これも毎日が命がけの実戦だった横島との経験の差であろうか。知識では早苗がはるかに勝っていても、経験から来る感覚的なものについては、横島に軍配が上がる。
「……むっ? そろそろかな?」
神奈子の言葉に横島と、そして早苗もチルノ達へと意識を向ける。ついに膠着した戦いに変化がありそうだ。
「うむむむむ!!」
チルノが悔しそうに唸る。自分はあの頃より強くなった。それは間違いない。しかし、拳での勝負では一向に決着が付きそうにない。弾幕はまだ温存じておきたかったようだが、これでは埒が開かない。
チルノは懐からスペルカードを取り出し、その名を宣言する。
「氷符『アイシクルフォール』!!」
それはチルノのスペルカードでは最も代表的な物であり、最も扱いやすい物だ。ある意味では、チルノの代名詞とも言えるスペルカードである。言い換えるならば、最も対策されているスペルカードというわけだ。――――しかし。
「はーっはっは!! そのスペカで私を倒せるとは思わないことだねチルノ!! そのスペカは既に十一回も破っているんだ!! 今回だって簡単に攻略――――出来そうにない!!?」
それは、今までの『アイシクルフォール』とは明らかに違っていた。
弾幕の数も、そこに込められた力も、作り出された氷も、全てが異なっている。そう、今までの物が
完全に油断し、舐めきっていた諏訪子は驚きのあまり思考が停止してしまう。今からでは回避も間に合わない。だが、そのような状態でも諏訪子の身体は次の行動を選択している。
選択したのは回避でも防御でもない。――――迎撃だ。
「鉄輪『ミシカルリング』!!」
諏訪子がそれを宣言した瞬間、彼女の両手に鉄の輪が出現した。諏訪子がその鉄輪を強く握り締めると輪はどんどんと小さくなっていき、やがて拳を保護するかのように装着された。
諏訪子は胸いっぱいに空気を吸い込み、拳を思い切り引いて――――。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
「うそおおおぉぉっ!!?」
「ええ……」
拳による
横島は諏訪子の鉄の輪の使い方が「まるでメリケンサックみたいだな」と思っていたら本当にメリケンサックだったことに困惑を禁じえない。それはチルノも同じだったようで、目の前の非現実的な光景に冷静さを完全に失って叫んでしまう。……そして、それが敗因となった。
「バック取ったぁっ!!」
「は――――っ!?」
諏訪子はチルノが正気を取り戻す前に背後へと回りこみ、渾身の力を込めて右腕を引いている。固く握り締められた拳の破壊力は想像に難くない。しかも、今は神の鉄の輪も装備しているのだ。それをまともに食らってしまっては、敗北は必定である。
「必殺『ケロちゃんパンチ』!!!」
「――――ッ!!?」
迫り来る神の拳。チルノは瞬時に氷の盾を作り出してみせるが、諏訪子はその防御をいとも容易く突き破り、拳をチルノの腹に向かって思い切り振りぬき、境内へと文字通り叩き落した。
チルノが墜落した場所にはクレーターが出来ており、激突の威力をこれでもかと誇示しているかのようだ。
「おいおい……チルノ、大丈夫かー!?」
「チルノちゃーん!!?」
「チルノーっ!?」
当然、そんなことになってしまえば横島達が心配しないわけが無く、クレーターの中心へと走り寄る。もうもうと立ち込める土煙ははたてが風を起こして散らし、ようやくチルノの姿を認めることが出来た。
「チルノちゃんっ!!」
「チルノ……!?」
はたして、そこにいたチルノは。
「きゅう~~~~~~」
「……ほっ。大丈夫そうだね」
目をぐるぐると回し、完全にノビていた。身体中に細かな傷はあるがどれも深刻なものは無く、命に別状は無い。いくら妖精が死んでも復活する存在だとはいえ、横島達としてはチルノが無事……とは言い難いが、それでも生きていたことにほっと胸を撫で下ろしている。
チルノ、第十二回弾幕ファイト、KO負け。通算戦績、十二戦〇勝十二敗。
第六十二話
『ケンカ友達』
「いたたたたたたたっ!!?」
「こーら、暴れんな。そんなに動かれたら傷の手当も出来ねーだろ?」
あれから数分後、横島は目を覚ましたチルノに手当てを施す。妖精であるからすぐに怪我は治るのだが、それでも気分の問題なのか、横島はポケットから救急箱を取り出し、治療を開始したのだ。早苗がどうやってポケットに救急箱を入れていたのかを尋ねたが、横島は「ああ……ちょっと、入れ方にコツがあって……」と言葉を濁すばかり。彼に常識を期待してはいけないのだ。
「ほれ、後はこれを貼ってろ」
「ふぎゅっ」
最後に鼻をちょんちょんと消毒し、絆創膏を貼る。絆創膏は小さめの物で、活発なチルノの雰囲気に良く似合っている。オシャレに使う物でもないので似合っているといっても、それは褒めているのかは微妙なところだろうが。
チルノは絆創膏が気になるのかしきりにカリカリと掻いている。あまり触らないようにと横島に言われたことで頻度は落ちたが、それでもやはり落ち着かず、絆創膏を触っている。
「うーん、流石に慣れたもんだね。八意永琳と一緒に住んでるだけはあるよ」
「あんまり関係ないような気はしますけど……それより、諏訪子様も手を出してください」
「んん? 何で?」
チルノの治療を終えた横島は、今度は諏訪子に手を出すように言う。諏訪子はとぼけたように首を傾げるが、そんなことでは横島の目は誤魔化せない。横島は諏訪子の腕を優しく握り、長く膨らんでいる袖をそっと引いて、その手指を露出させた。
「す、諏訪子様!? 大丈夫なんですか、その手!?」
「ん……流石にあの威力の弾幕と氷を砕いては無傷ではいられないか」
「いやー、はっはっは。随分と強くなってたからさー」
皆の前に晒された諏訪子の手は、皮がボロボロになり、血が滲んでいた。諏訪子としては早苗に心配を掛けたくなかったのだろうが、こういうものは隠されたほうが心配が募るというもの。横島は諏訪子の手を診察し、特に後遺症が残るような怪我ではないことを早苗に伝える。
横島に対して隔意を持っている早苗も永琳の教え子という彼の話は疑わず、ほっと安堵の息を吐いていた。
「んー、これでも神様だし、ほっとけばすぐに治るんだけどねー」
「そうは言っても、こんだけになってたら痛いでしょ? ちゃんと治療したほうが傷の治りも早いでしょうし、それに神様とはいえ痛いのは我慢せずにちゃんと言わなきゃダメっすよ」
隠していたのがバレて気まずくなったのか、諏訪子が口をやや尖らせて拗ねたように言い訳をする。横島はそれを軽く流し、テキパキとした動きで処置をする。数分後には治療も終わり、諏訪子の手にはきっちりと包帯が巻かれている。
「おお……包帯なんて初体験だよ。私の初めて、横島君に奪われちゃったね……」
「横島さんっ!!?」
「何で俺が怒られんのっ!?」
諏訪子のちょっとした悪ふざけで早苗が理不尽に怒る。両手で頬を押さえて意味深な発言をする諏訪子は可愛いが、何故か早苗に怒られている横島には憎たらしく見えてしまう。
横島達の背後ではフランと大妖精がチルノに怪我の具合を聞いており、オロオロと心配そうにしている。大妖精は泣きそうだ。チルノは心配を掛けないように「だいじょーぶだいじょーぶ!!」と言ってペチーンと自らの腹を叩いて見せるが、そこは諏訪子の『ケロちゃんパンチ』を食らったところ。チルノは「おおおぉぉ……」と呻きながら、膝を付いてしまうのだった。ちなみに打ち身である。
「チルノちゃーん!?」
「何やってんだあいつは……」
「あっはっは、あの子のお守は大変そうだね」
盛大に自爆をしたチルノに大妖精は叫び、横島は呆れ、諏訪子は大笑いだ。
空を見れば、綺麗な夕焼けが瞳を焼く。赤く、燃えるような日差しに、フランは傘をバリヤーのように向けて立っている。それを見てもう少し大きな日傘を用意したほうが良いのかと思案する横島だが、彼女達スカーレット姉妹が持っている日傘はどれも彼からすれば小さすぎる物。
オシャレを兼ねているとはいえ、小さいものしかないのはどうしたものか。
「んー、いっそ日焼け止めを塗ってみるとか……?」
とりあえずの思い付きを言葉に出し、思案する。元の世界でそのような映画を見たこともあるし、意外と良い案なのかもしれない。
「……日焼けといえば」
ここで何かに思い至ったのか、横島はチルノを見る。
――――最近、高空を飛んでばっかだったせいか、
日焼けについてちょっと煩悩を滾らせる横島。日焼けした妹紅に美鈴。妹紅は白い髪に小麦色の肌が映えそうであり、美鈴は赤い髪小麦色の肌でより情熱的に見えるだろう。
これからの季節で日焼けを望むのは難しいかもしれないが、それとなく話をしてみるのもいいかもしれない。胸が高鳴り、夢が広がる。横島の顔はにやけだし、早苗の視線は更に冷たくなった。その隣で横島の写真を撮っているはたてに対しては、ちょっと引いたような視線を送っている。
「さって、もうそろそろお暇しようかと思うんですけど……」
「ありゃ、もう帰るのかい? せっかく久しぶりに会ったんだから夕飯でもご馳走しようかと思ってたんだけど……」
「そうだね。私も横島君をオンバシラでぐっちゃぐちゃにしちゃったし、そのお詫びも兼ねて」
「そう、ですね。諏訪子様を治療してくれたお礼もありますし」
陽も沈みそうな頃、横島達はそろそろ守矢神社を辞そうとするが、諏訪子はそれを止める。それは嬉しいことに神奈子と早苗も同様だったようで、諏訪子の援護をする。
しかし、今日は急な訪問だったこともあるし、やって来た時間も遅かった。更に言えば横島達一行は五人。流石に今から五人分の夕食を用意してもらうのは気が引ける。これは他の皆も同様であり、何より夕飯は別のところで取る予定なのだ。
「いえ、ありがたいことではあるんですけど、やっぱり今回は急なことでしたしね。もし今度誘っていただけるのなら、その時はお邪魔しようかと思いますけど……」
「うーん、そっか。そこまで気にしてくれなくてもいいんだけど……まあ、確かに今からじゃ大したものも用意できないからね。仕方ないか」
残念がる諏訪子に横島は嬉しくなる。見た目が幼い方であるとはいえ、やはり美少女に惜しまれるのは嬉しいものだ。
「それじゃあ、また今度」
「今度会う時は絶対に勝ってやるんだからなー!! バーカバーカ!! 覚えてろ、カエルの神様!!」
「別にカエルの神様ってわけじゃないんだけどねー……ま、いいや。どーせ次も私の勝ちだし? 負け犬の遠吠えくらいいくらでも聞いてあげるよー?」
「むっきゃー!! 絶対に氷漬けにしてやるー!!」
「いつもうちのチルノちゃんがすみません……」
「いえ、うちの諏訪子様も似た様なものですので……」
帰り際にも随分と賑やかなことだ。大妖精と早苗は互いに頭を下げあい、その背中に苦労人オーラを背負っている。やはり緑の髪の子は不憫な目に遭うようだ。
彼女達の後ろでチルノと諏訪子は罵りあい、ついにはポカスカと殴り合いを始めてしまう。なるほど、確かに二人は気が合うのだろう。弾幕ファイト中ではないので見た目にも可愛らしいものだが、流石に怪我をした状態で殴りあうのは看過出来ず、それぞれチルノに横島が、諏訪子に神奈子がゲンコツを食らわし、大人しくさせた。
「これ以上怪我を増やす気か、お前は」
「諏訪子も、横島君の治療を無駄にするつもりなのか?」
「ごめんなさい……」
正座をするチルノと諏訪子、その前に立つ横島と神奈子。どこか親子を髣髴とさせる姿であり、これには大妖精と早苗も苦笑い。もちろんはたてはカメラのシャッターを切っている。横島と出会ってから、新聞のネタがまるで尽きない。
「それじゃ、今度こそ失礼します」
「またねー!」
「また今度取材させてね?」
「……次は勝つもん」
「チルノちゃん、ちゃんと挨拶しないと駄目だよ?」
こうして横島達は守矢神社から飛び立っていく。チルノと諏訪子がわちゃわちゃしていたせいか、やや時間が過ぎており、陽もすっかりと沈んでしまっていた。
横島達の姿が見えなくなるまで見送っていた諏訪子達だが、早苗は夕飯の支度に一足早く住居スペースへと戻る。諏訪子と神奈子は黒く染まっている空に散らばる小さな星を見ながら、今日のこと……横島について話していた。
「横島君……あの子、やっぱり変わってしまっていたよ」
「うん、そうみたいだね。あれは八意永琳と同じ……蓬莱人、か」
天魔から上がってきていた報告を思い出す。妖怪の山の生物を食い荒らしていた『何者か』について。それは鴉天狗の文から提出された報告書だ。横島の部分は濁されていたが、一目見て理解が出来た。
「早苗は気付いてないようだね」
「あの子にはまだ分からないだろうね。もうちょっと経験を積まないと」
早苗は横島の変化には気付いていない。彼女がこれを知ったとき、一体どのような表情を見せるだろうか。
「それはそうと、手の方は大丈夫かい? まさかチルノの力があれだけ上がってるとは思わなかったけど……」
「ああ、確かにね。まさかチルノに手傷を負わされる日がこようとは……」
諏訪子は包帯の巻かれた両手を見て「むむむ」と唸る。あの弾幕の威力。それは規格外とは言え、決して
諏訪子は両手を握り、開く動作を繰り返す。思っていたよりも強い痛みが彼女を刺す。
「……チルノ、大丈夫かな」
ぽつりと、諏訪子は呟く。過ぎたる力は身を滅ぼすもの。彼女は
神奈子は諏訪子の様子にふっと薄い笑みを浮かべ、彼女の帽子に手を置くと、元気付けるように声を掛けた。
「なに、そんなに気になるなら今度はこっちから会いに行けばいいんだ。その時に力を持て余しているようなら封印するなりすればいいしな……まあ、素直に力を封印させてはくれないだろうが」
神奈子の言葉に、諏訪子は小さく頷く。予感がするのだ。きっと、その時はすぐにやってくるだろう。
諏訪子は両手をぎゅっと握り締める。その時は、今日のように全力でぶん殴ってやろう。手加減なしで、思い切り。
「さ、もう中に入ろう。早苗も心配する――――あ、忘れてた。諏訪子、お前は境内のクレーターを何とかしてから戻ってきなさい。流石にあのまま放置するわけにはいかんからな」
「……りょうかーい」
一先ず、諏訪子は神の力で境内のクレーターを何とかすることにした。
横島一行は人里を進む。目指すはミスティアが経営しているヤツメウナギの屋台だ。初めて会ってから大凡ふた月。今までは時間が合わなかったが、今日は違う。ちゃんと外で食べてくると言ってあるし、フランもミスティアの作る料理を食べたいとレミリアにおねだりしていた。これで全ての条件はクリアされた。
「……おっ、あれかな?」
横島は屋台の常連である文から聞いていた場所へと向かい、八目鰻と書かれた赤い提灯を発見。見れば既に何人かの客がいるようだ。しかも、その客はつい先日知り合った少女である。
「あれ、幽香さんとメディスンじゃないっすか? それにリグルにルーミアも」
「横島さん? チルノに大妖精にフランも」
「おー、昨日ぶりー。みんな元気にしてたー?」
「はたてちゃんもいるのよー?」
ミスティアの屋台にいたのは幽香とメディスン。それだけではない。幽香の周りには他にも二人の少女がいる。リグルにルーミアだ。この二人……そしてミスティアはとあることが切っ掛けで気まずい関係になっていたようだが、こうして皆そろって屋台で食事をしているのを見ると、どうやら仲直りは出来たらしい。
フランはチルノ達と共に、早速リグル達友人達の元へと突撃している。キャイキャイと騒ぎ、笑顔を浮かべる様は周囲にも笑顔を伝播させ、はたてのカメラが唸りを上げる。
「おっす、ミスティア。第九話で初めて会ってから、ようやくこの屋台に来ることが出来たぜ。一体どんだけ掛かってんだって話だよな」
「あはは。いらっしゃい、横島さん。リアルで三年経ってるなんて、おかしな話ですよね。作中の時間は二ヶ月くらいですけど」
にこやかにとても危険な内容の挨拶を交わす二人。それ以上は天罰の雷が落ちてしまうぞ?
「それはそうと、幽香さんと仲直り出来たんだな」
「はい。ずっと気になってたんですけど、怒られてから会うのが怖くなっちゃって……でも、幽香さんが会いに来てくれて、しかも私達が悪いのに頭を下げてくれた幽香さんを見て、自分は何をやってるんだろうって思ったら涙が出てきちゃって。……それから大泣きしちゃいました」
「ミスティア、凄い大声で泣いてたよね」
「さすが、鳥獣伎楽やってるだけはある声量だった……」
「もう、止めてよぉ!!」
照れたように笑いながらその時のことを語るミスティアに、リグルとルーミアから茶々が入る。やはりその時のことが恥ずかしかったのか、ミスティアはからかってくる二人にお怒りだ。
「おっと、二人も幽香さんと仲直り出来て良かったな」
「はい。ありがとうございます」
「もうお残しは絶対にしない。幽香と約束した」
「お、おう。そうか」
にこやかに笑みを浮かべるリグルとは対照的に、ルーミアは何故か真剣な表情でそんなことを言う。意図は分からないが、とりあえず横島は頷いておく。
「こうしてみんなと仲直り出来たのも、横島さんが切っ掛けを与えてくれたから……せっかくだからご一緒しましょう?」
「ヨロコンデー!!」
横島が幽香程の美少女の頼みを断るわけがない。今宵は皆で宴である。
そして、この宴会の後に
第六十二話
『ケンカ友達』
~了~
入れたかったけどボツにしたネタ
諏訪子「ねえねえ、横島君。私たちの中で誰が一番好み?」
横島「え? それはもちろん……」チラッ
早苗「ひぃっ!?」
横島「……」がっくり
横島「そうっすね。神奈――――」
諏訪子「まだまだ未熟で半人前な早苗と!!」
横島「っ!!?」
諏訪子「立派な神様だけどオンバシラで横島君をぐっちゃぐちゃにした神奈子と!!」
横島「っ!!?」
諏訪子「
横島「――――っ!!!???」
横島「ぐ……っ!! が……っ!!」ぐにゃ~
諏訪子「さあ、誰が好みなのかな? 遠慮せずに言っていいんだよ? この私にさぁ?」
横島「うう……っ!! す……で、す……!!」
諏訪子「なにぃ~? 聞こえんなぁ~っ!?」
横島「諏訪子様です!! 三人の中で一番の好みは、諏訪子様ですっ!!」
諏訪子「はぁーっはっはっは!! 聴いたかい早苗!? 神奈子!? 男の心変わりは恐ろしいねぇ!!」
神奈子「諏訪子……お前……」
早苗「諏訪子様……」
終わり
お疲れ様でした。
諏訪子様とチルノはケンカ友達という関係が似合いそうなので。
さて、次回か次々回にチルノ編も大きく動き出すことになります。
独自設定てんこ盛りのやりたい放題になりますので、苦手な方はご注意ください。
「仕方ないな。――――付き合ってやるさ。最後まで、な」(ニヒルな笑み)
という方は……ああ、行こう。一緒に、最後まで――――!!
何だこのノリ
それではまた次回。