東方煩悩漢   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

今回はとある設定が久しぶりに出てきますー。

その代わりゾンビフェアリーのことが完全に頭から抜け落ちてました()

それではまたあとがきで。


第七十六話

 

 ちょっとしたハプニングもあったが、横島はさとりの案内の元、地霊殿の客室へと辿り着いた。

 そこは紅魔館の自室をも超える、立派な部屋。客の身でありながらこれほど大きな部屋を使わせてもらうことに、横島は恐縮してしまう。

 

「いえ、お客さんなんですから気にしないでいいのでは?」

「何つーか、こういう賓客みたいな扱いは慣れてなくて……」

 

 大きく深呼吸をして高鳴る鼓動を抑えようと努める横島に、さとりは苦笑を浮かべる。紅魔館での生活で大分マシになってはいるのだろうが、横島の根底にこびりついているコンプレックスは未だ解消されていない。横島がそれらを超えるには、何かしらの切っ掛けが必要となるだろう。

 

「では、これから地霊殿を案内していきますね。うちは多くのペットを飼っていますので……ええ、はい。ハシビロコウも飼ってますよ。それではまずハシビロコウに……なるほど、楽しみは最後に取っておくのですね。ではまず無難に犬や猫といったところから見ていきましょうか。ええ、毛がもふもふの子もいますよ。毛が無い子も可愛いのですが……そういう子は苦手、ですか。残念です。……はい、子犬や子猫だって当然います。……ああ、いいですよね。ちっちゃな子達が身体の上に乗って甘えてくるのって。時々お燐やお空も混ざってきて――――すみません、横島さんの厚意に甘えすぎました。先日お会いした時にも礼を失していたというのに、また今回もこのようなことを……」

「あー……いや、まあ、その。別に気にしなくても大丈夫だって。俺だってあん時はともかく今は何とも思ってないし」

 

 さとりは横島の言葉を聞くことなく、一人で言葉を重ねていく。これは横島の心を読んでいるからであり、彼女にしては珍しく饒舌に、弾むような調子で声を出していた。しかし途中で自分の非に気付き、横島に向き直って頭を下げる。柄になく、さとりは浮かれていたのだ。

 己の能力を気にすることなく接してくれる、横島という新たな友人との(一方的な)語らい。心を読まれているというのに、相手を思いやる優しい心。そして本人も気付いていないだろうが、先程大衆食堂でかけられた()()()()。それらの要因がさとりの心に妙な焦燥感にも似た感覚を与えているのだ。

 それはどこか気恥しく、何か多くを語らないといけないような焦りを生み出し、横島の感情の動きに敏感になる。

 自分のことを知ってもらいたい。でも、それ以上に横島のことを知りたい。そういった感情がさとりの中で知らずに膨れ上がり、先の様な行動へと繋がっていたのだ。

 

「……ありがとうございます。みっともなくはしゃいでしまって、ちょっと恥ずかしいですね」

「んなこたーねーと思うけど」

 

 横島はさとりと同じく心を読むことが出来る能力の持ち主であるヒャクメのことを思い浮かべる。彼女に比べれば、さとりはまだまだ大人しい部類だと考える。もっとも、横島がそう思うのはヒャクメと小竜姫のやり取りからであり、横島自身はこれと言ってヒャクメに何か酷いことをされたわけではないのであるが。……時間移動に巻き込まれた? ははは。

 

「こほん。ともあれ、横島さんはお客様なんですから遠慮せずに何でも言ってくださいね。しっかりとお世話させていただきますから」

「さとりちゃんのよーな美少女に、この俺がお世話をされる……!! ここは地獄のはずなのに実は天国なのでは……!?」

「……またあなたはそういうことを」

 

 少々落ち着かなくなった雰囲気を変える為に出した話は、横島の手によって再び同じ……否、より妙な雰囲気へと変じられてしまう。“ペット”ではない相手に褒められることに慣れていないさとりは頬を赤く染め、やや俯きながら上目遣いに横島を軽く睨みつける。その視線は照れや羞恥といった感情が多分に込められている。ここまで思考と言動が一致しているのも珍しい。まるで飼っている動物たちの様な単純明快さだ。

 さとりは不意を突かれて高鳴っている鼓動を感じながら、これからの数日間に期待と不安を抱く。こんな調子で日々を過ごしていけば、色んな意味で心臓が持たなくなるのではないか、と。

 

 

 

 

 

 

 

第七十六話

『地霊殿動物ふれあいパーク』

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんながあって次に横島が案内されたのは犬の部屋である。地霊殿では基本ペットは放し飼いであるのだが、そのペットを妖怪化したペットが育てるということになっている。

 ここ、旧地獄は怨霊が渦巻いている。地霊殿に棲む動物たちは普通の餌の他にこの怨霊達をも食べることで強力な妖怪となるのだ。そのペット妖怪はさとりに懐いており、他のまだ妖怪化していない動物たちの面倒を買って出る。それがいつの間にか習慣化したのである。

 やはり最初は古くからの人間の相棒である犬から、というわけで横島を連れて来たのであるが――――。

 

「横島さん……羨ましいことになってますね」

「……いや、助けてほしいんだけど」

 

 部屋に入った途端、横島は大量の犬に飛び掛かられた。そして多くの犬が横島に積み重なり、幻想郷名物の毛玉のような姿になってしまっている。もっふもふだ。横島も迷惑そうな口調ではあるが、その実眦が下がり、口角が上向いているので満更でもなさそうである。

 

「ここの子らってこんな人懐っこいの?」

「いえ、私でもここまで甘えられたことはないですね……羨ましい」

 

 さとりですら羨むこの状況。さとりですら体験したことがないもふもふ状態なのであるが、これには一応理由が存在している。そう、最近めっきり言及されることのなかった横島の霊波だ。

 横島の霊波は紅魔館の妖精メイド達が骨抜きになる程リラクゼーション効果が高い。人間よりも遥かに鋭敏な霊感を持つ犬、しかも地霊殿での生活で半ば妖怪化している彼等は横島の霊波が齎す癒しに目ざとく気が付いたのだ。

 さとりは動物たちの心から流れ込んでくる本能的な声を捉え、危機感を持つ。

 

「……横島さん、私以上にペットたちに懐かれる気分はどうですか……?」

「そんな目で見んといて!?」

 

 飼い主としてのプライド故か、さとりは横島に物凄くじっとりとした目を向ける。横島からすれば何もしていないのに理不尽であるが、それはさとりとしても同じこと。

 とりあえず横島は霊波の質を意識して調節する。攻撃的になりすぎないよう注意しながら、何とか幻想郷に来る以前に近い質へと変えることに成功した。……もっとも、横島は幻想郷に来る前から人外の存在に好かれていたので、効果はあまり望めなかったのであるが。精々が数匹ほど離れたくらいである。

 

「むう……。では次に行きましょうか。犬の次はやはり猫。気まぐれなあの子達です。きっとこの子たちの様に一瞬で陥落することなどないでしょう」

 

 横島から離れた数匹の子犬たちをひとしきり撫で、さとりは今度は猫の部屋へと向かう。

 

「ワンちゃんたちはともかく、にゃんこたちなら一瞬で陥落はしない。そう思っていた時期が私にもありました……」

 

 案の定、横島は部屋に入った瞬間に大量の猫たちに飛びつかれた。今の姿は新種の毛玉マーク2である。こちらも同様にもっふもふだ。

 

「くうっ、妬ましいですね。これがぱるぱるしいという感情ですか……」

「何だよその新しい感情は。……ほーらお前ら、さとりちゃんが寂しがってるぞー?」

「にゃー?」

 

 影を背負って爪を噛む姿はつい先ほど知り合ったパルスィの姿を幻視させる。なるほど、妬ましいとはつまりパルスィということなのか。横島は自分でも意味が分からないことを考えながら、猫たちにさとりを構うように声を掛ける。猫たちはさとりをじっと見つめ、そして一斉に“ぷいっ”と顔を背けた。気まぐれの発動である。

 

「そ、そんな……っ!! これがネトラレというものなのですね……っ!!」

「大げさだし人聞きの悪いことを言うなー!?」

 

 猫たちの様子にショックを受けるさとりは涙目で頽れる。床に手を付いて悲嘆にくれる姿は哀愁を誘うが、理由が理由だけに滑稽に映ってしまう。しかも、そんなさとりを前にしても猫たちは横島から離れず、ずっとくっついたままだ。その中の一匹など顔や体を擦り付けたり、ぺろぺろと頬を舐めたりしてくる。その猫の尻尾は二又にわかれており、耳元にはリボンが付けられていた。

 

「おー、なんだなんだ? 随分と甘えんぼがいるな。うりうり」

「にゃーん」

「……あら? あなたは……」

 

 他の猫に比べ、積極的に甘えてくる猫を左腕一本で横抱きにし、顎や腹を優しく撫でる横島。彼のテクニックにその猫もご満悦なのか、すっかりととろけた声で鳴き、腕の中でぐでぐでの姿を晒す。どことなく息も荒くなっているのが不思議だ。しかしこの猫のおかげなのか、横島の体からは他の猫たちが離れていっている。ボス猫か何かだろうと横島は当たりをつける。

 さとりは横島の腕の中で甘えている猫を見て驚いた後、大きく溜め息を吐く。まさか()()()がこのようなことをするとは思わなかったからだ。

 

「わざわざその姿にまでなって、何をしているの、お燐」

「え? お燐ちゃ――――おわぁ!?」

 

 さとりの言葉に呆けたような声を出した横島だが、次の瞬間には驚きの声を出さざるを得なかった。ぽんっ、という軽快な音と共に煙が発生し、腕の中の猫が姿と重さを変えて正体を現したからだ。

 咄嗟のことにも関わらず横島の腕はそれを腕一本で支えている。それは人型だ。赤いおさげの髪に猫耳を生やした少女。さとりの言葉通り、お燐である。

 横島は腕の中にいるお燐とばっちりと目が合う。お燐は恥ずかしそうに視線を彷徨わせた後、そのまま頬を赤く染めて俯いた。確かにこの状況は恥ずかしいだろう。横島もお燐という美少女を横抱きにしているのだから照れがある。同時に特大の歓喜もあるが……お燐が顔を赤くしているのには他に理由があった。

 

「横島さん、そろそろお燐を下ろしてあげてください。でないとお燐のお尻が歪んでしまいます」

「さ、さとり様……っ!」

「おし……おわーーーーーーっ!? か、堪忍やー!!」

 

 横島は指摘された内容を理解し、お燐をさっと床に座らせて土下座へと移行する。横島は突然体積と重量が増した猫を支える為に、その体をがっしりと支えたのだ。そう、お燐のお尻の片側をがっしりと掴むことによって。小振りながらも指を跳ね返す弾力に富んだお尻だった、とは横島の心の声。さとりは椅子に座っていることが多いのでお尻が大きく、お燐の小さなお尻を羨ましく思ってたりするのはどうでもよいことである。

 

「いやー、横島さんが猫の部屋に行くって聞いたから、とりあえずドッキリを仕掛けようと思ったんですけどねー」

「何で初対面の人にそんなことをしようとするの……」

「まあ、びっくりはしたけど……」

 

 照れ笑いを浮かべながら釈明するお燐にさとりは呆れたように叱り、横島は正座をしながら一応の感想を述べる。ちなみに心の中ではお燐のお尻の感触を反芻しており、それを読んださとりから頭をぺちぺちと叩かれた。

 どうも地霊殿に漂う怨霊から猫の部屋に行くと話を聞き、驚かせてやろうという考えに至ったようだ。よく分からない結論である。

 

「まったく……とにかく、あなたは戻りなさい。横島さんの案内は私だけで大丈夫よ」

「はーい。……それじゃあ横島さん、あたいはこれで失礼するよ」

「おう、そんじゃあまた後でな」

 

 ばいばーい、と手を振って去っていくお燐。と、不意にお燐は振り返り、最後に爆弾を残していく。

 

「お燐、待ちな――――」

「今晩、横島さんの部屋に行くからね!」

「っ!!?」

「優しくしてね?」

「っ!!!??」

 

 爆弾発言の後、今度こそ去っていくお燐。残された二人の周囲の空気は何やら異様なものとなっている。

 

「……今のってつまり」

 

 横島が生唾を呑み込みつつ核心に触れようとする。しかし、さとりは軽い溜め息を吐くだけだ。

 

「いえ、そう深い意味があるわけではなく、単純に先程の撫で方が少々強すぎたので、今度は優しく撫でてほしい、といった感じのようですね」

 

 勘違いしてはいけませんよ、とさとりは流し目で言う。その視線は横島を震え上がらせるに十分な威力を持っていた。

 

「いやー、別に俺もそーゆーことは別に期待なんかしてなかったしなー! 残念だなーとかも思ってねーし-!? ……っていうかお燐ちゃんくらいの外見年齢の子に期待だとか残念だとかワイは何を考えとるんやー!!? ワイはまだロリコンに堕ち切っていないはずなのにー!!」

「もう手遅れなのではないですか?」

「いやーーーーーー!? さとりちゃんが言うとシャレにならないーーーーーー!!?」

 

 頭を抱え、OH NO! と懊悩する横島をしり目に、さとりは赤くなった頬を押さえる。

 

「お燐ったら……」

 

 その呟きと、先程読んだお燐の心。咄嗟に誤魔化しはしたが、お燐の言葉の意味はそれとは別であった。では、どういう意味だったのか……それは、言うまでもないだろう。付け加えておくならば、お燐が猫状態だった時、横島の指が尻尾の付け根に当たっていたのだ。

 

 

 

 さて、ドキドキなハプニングも乗り越えて横島達は数々のペットたちの部屋を見て回った。ウサギやハムスターといったメジャーなペットたち。牛や豚、馬に鶏といったどちらかと言うと家畜の部屋。中にはライオンや熊といったペットと呼ぶには少しワイルド過ぎる動物たちもいたが、精々が横島が頭を噛まれるぐらいの被害で済んだのでこれといった問題は無かったと言えるだろう。むしろ、問題は今発生している。

 

「………………」

「……さとりちゃーん……?」

 

 さとりは廊下の壁に額を付け、そこを支点にもたれかかっている。何とも不思議な姿だが、彼女がこの体勢を取っているのにはちゃんとした理由があるのだ。

 

「私は……飼い主失格です……」

 

 そう、見て回った全てのペットたちが横島の虜になっていたのだ。恐るべきは横島が無意識に発する霊波。考えてみれば、幻想郷の各派閥のトップたちが横島と友好的なのもこの霊波が関係しているのではないだろうか。そう思えてしまう程のあり得ないほどの効果である。

 

「私なんて……動物を飼うだけ飼って放し飼いにして、お世話なんかを他のペットたちに押し付けるような、ダメ飼い主なんです……」

「……そこだけ聞くと否定し辛いな」

 

 どう考えてもダメ飼い主でしかないさとりの自嘲に、流石の横島も咄嗟に慰めの言葉が出てこない。さてどうしたものか、と考えあぐねていたところ、廊下の先から一人の少女が近付いてきた。

 

「あれ? さとり様と横島さんだ」

 

 黒髪の少女、お空である。お空は不思議な姿を晒しているさとりに「さとり様ー」と名を呼びながらハグを求める。これまでのことで心に傷を負っていたさとりはそんなお空の純粋な甘えに感動し、ハグ・頬ずり・なでなでの三点セットをお見舞いする。くすぐったそうに「うにゅ~」と声を上げるお空はそれでも嬉しそうだ。

 

「良かった良かった。……ところで、ずっと気になってたんだけど、窓の外に見えるあのでっかい塔は何なんだ? 何か地上にまで通じてそうな感じがするけど……」

 

 今なら色々と誤魔化せる! と踏んだのかは定かではないが、横島はこれ幸いにとかねてから気になっていたことについて問うてみた。窓から見える、この旧地獄の天井にまで到達している巨大な塔。恐らくは地上にまで続いていそうなそれが、一体何のために存在しているのかが気になっていたのだ。

 

「ああ、あれは“間欠泉地下センター”と言いまして、妖怪の山の神様達と河童が開発した研究施設です」

「神様……諏訪子様たちが?」

 

 神である二柱と研究施設の繋がりがいまいちよく分からない。そもそも一体何を研究しているというのか。それは、お空の口から語られた。

 

「うん。あの場所では核融合の研究をしてて、最下層では私の仕事場でもある核融合炉があるの」

「か、核融合!?」

 

 お空から語られた衝撃の事実に、横島は驚愕せざるを得ない。核融合炉など外世界でも実現していない、言ってしまえば未だSF映画や漫画アニメの中の存在と言っても過言ではないものだからだ。

 

「え……だ、大丈夫なのか? 放射能とか、そーゆーのは……?」

「んーとね、神様達が言ってた外の世界での核融合炉とかだと、有害な放射線が出てきちゃったりするんだけど――――」

 

 核融合はクリーンなエネルギーである。とは言っても、現在研究・実現を目指している核融合炉に関して言えば、放射線、放射性廃棄物が生成され、燃料として放射性物質を使うものも多い。ただ核分裂によるものと比べ、核融合で造られた放射性物質は半減期が短く、無害化に時間は掛からない。……数十年から数百年を短いとするならば、だが。

 このため、核融合は()()()クリーンか、というと実際はそうでもないのである。しかし、半減期が何億年ともなる放射性廃棄物を多く排出する核分裂反応との違いは大きいと言える。

 さて、ではこの間欠泉地下センターで研究されている核融合炉はどういったものなのか。そも、この自然界では核融合は普通に行われている。遥か空の向こう、暗黒の宇宙にて自ら輝きを放つ恒星――――最も身近な物を言えば、太陽がそれである。

 恒星の輝き、それは核融合によって発せられているのだ。

 太陽は『陽子―陽子連鎖反応』によって核融合を起こしている。この反応は反応の過程で放射線を一切出さず、生成物もただのヘリウムであり、この反応ならば()()()()()()()()()()()()()と言ってしまっても構わないだろう。核融合炉の研究を『地上に太陽を作る』と例えられているのはそのためだ。……しかし、この反応を地球上で再現するのは不可能であると言われている。

 だが、ここでその前提が覆る。お空の身体に宿っているのは“太陽の化身”である八咫烏。そう、上記の問題点を河童の超技術と八咫烏の不思議な神様パワーで超・強引に解決してしまったのだ!!

 

「――――とは言っても、まだまだ研究段階なので出力はまだまだ低いんだけど……」

「はー……言ってることがなんだか分からんけど……なんだか分からんけど分かったぜ!」

「それ全然分かってないじゃないですか」

 

 専門的なことを言われてちんぷんかんぷんな横島は、とりあえず勢いだけで分かったことにした。さとりにも突っ込まれてしまうが、それでも一つだけ、本当に一つだけ横島にも分かったことがある。

 

「とりあえず俺達が放射能を浴びて緑色の泡になって消滅することはないんだな」

「……横島さん、放射能を何だと思ってるの……?」

 

 意味の分からないことを宣う横島に、困惑を隠せないお空であった。

 

 その後、横島は最後に取っておいた鳥の部屋へと案内される。お空も鳥の部屋に用があるらしいのでそのまま同行し、遂に念願のハシビロコウとの面会を果たす。

 

「おお……!!」

 

 部屋にいくつも設置された止まり木、その中でも部屋の最奥に位置する止まり木に、ハシビロコウは鎮座していた。射貫かれるような視線、とはこのことを言うのだろう。彼が送る余りにも鋭い視線は、否が応でも緊張を強いられる。

 ごくり、と。知らず横島は唾を飲み込む。お互いに視線を離さず、横島がハシビロコウに歩み寄ることによって彼我の距離は縮まっていく。横島は何故かハシビロコウの横に並び――――彼と共に、とてもキリっとした目でさとりたちを見つめだした。

 

「ぷふっ!?」

「あははははははははははっ!!」

 

 何とこの行動、まるで何も考えずに行っているのでさとりにも何をするのかが読めず、結果彼女の笑いを誘うことに成功した。止まり木の補強に来ていたお空もハシビロコウそっくりの横島を見て大笑いだ。

 二人の笑いを取ったことで横島とハシビロコウも満足したのか、お互い頷いている。と、ここで横島はあることに気付いた。

 

「んー、ハシビロコウさんって横から見るとけっこうひょうきんな顔してんだな」

「……」

「……」

 

 横島は立っている向きを変え、今度は彼の横顔を再現しだす。

 

「……っ!!?」

「あははははははははははっ!!」

 

 さとり、今度はツボにはまり過ぎて最早声も出せなくなり、床に膝を着く。お空は横島たちに指をさし、涙目でまたも大笑い。横島の再現度は異常であったことだけは伝えておこう。

 ちなみにこのハシビロコウ、実はお空を除くさとりに飼われている鳥たちのボスであり、客人の目的の一つが自分に会うことだと聞いた時からずっと緊張していた。しかし今はこうして横島と友誼を結んだことによってその緊張は解かれた。張り詰めた空気が弛緩したその瞬間、部屋中の鳥たちが横島に殺到し、またも新種の毛玉が誕生することになったのだった。

 

 夕食の時間。この時ばかりは特に何事もなくゆったりとした時間が流れていった。夕飯の話が出た瞬間、横島が献立を確認して厨房に立とうとするというハプニングもあるにはあったが、これは今までの物と比べるとただ微笑ましいだけである。旅行先で仕事をしようとするのはいただけないが。

 食事を共にしたのはさとりだけであり、会話もほとんどなかったのだが、さとりの持つ雰囲気がそうさせるのかほとんど気にならなかった。食後に出されたのは、紅魔館御用達の茶葉を使った紅茶。淹れた者の違いもあるだろうが、同じ茶葉を使用しているというのに全くと言っていい程違う味わいに横島も驚く。こちらの方がより濃く、甘い。横島には少し甘すぎたが、これはこれで満足いくものがある。

 

「この紅茶に合わせるならどんなお茶菓子がいいか……甘さを控えたものの方が……」

「……いい加減仕事から離れません……?」

 

 本当は旅行じゃなくて研修に来たのでは? という疑念がさとりの中に生まれ始めた。

 

「……カレーライス!」

「何を言ってるんです?」

 

 どうやら甘いものにはカレーだ! という結論が出たようだ。実際インドやスリランカではカレーを食べる際に紅茶を飲むことが多いようなので、気になった方は試してみよう。

 

 

 

「あ゛~~~~~~……紅魔館の風呂じゃこの感覚は味わえねーよなー……!」

 

 地霊殿の一角にある大浴場。十人以上が楽に入れそうな湯船が複数ある内の一つに、横島は一人浸かっている。縁に頭を乗せ、手足をだらしなく伸ばしてリラックスするのは、紅魔館では出来ないことだ。

 この浴場、実はもっと小規模なものだったのだが、ペットが増えてきた際にさとりが「ペットたちがのんびり入れるように広くしよう」と鬼たちに頼んでリフォームを慣行。しかしペットたちは風呂嫌い……というよりは水嫌いが多く、結局この浴場はあまり使われることのないまま放置されることになったのだった。それでもきちんと管理されており、今回こうして日の目を見ることが出来たので、無駄ではなかったと言えるだろう。

 

『お空! ここは横島さんが使ってるから入っちゃダメってさっき言ったでしょう!!』

『うにゅ、そうでしたっけ?』

「……」

 

 脱衣所から聞こえてくるさとりとお空の声に、横島の煩悩が反応した。脳裏に先の光景が蘇る。あどけない表情に似合わぬ肉感的な胸が弾む様。思い出すだけで鼻血が噴き出しそうである。……脱衣所のさとりから殺気が飛んできた気がするので、横島はあらゆる思考を放棄して温泉に身を委ねた。決して現実逃避ではない。

 

 

 

 温泉を堪能し、心身ともにリラックスした後、待っているのは就寝である。鬼の酒を呑んだり、新種の毛玉になったりで意外と疲れが溜まっていたのか、少々瞼が重くなっている。もっと構いたそうにしていたさとりだが、彼女は我を押し通そうとするタイプではなく、むしろ相手に気を遣うタイプである。横島を部屋へと連れていき、ゆっくりと休むように言って彼女は自らの執務室へと向かう。今回の経験を活かし、“古明地観光”(仮)という旧地獄の旅行ツアー事業を展開しようと思いついたのだ。

 

「勇儀さんに相談して……ヤマメさんにも話を通してみようかしら……」

 

 かつての不可侵条約もかなり緩和されており、これならば旧地獄に今以上の発展を齎せるだろう。とは言え、今はまだ構想段階。ちょうど横島という旅行者も来ているのだ。横島からも話を聞き、どういったところをツアーに組み込むか意見を聞いてみてもいいだろう。

 

「んー……」

 

 さとりが部屋を出て数十分、横島は眠気があるのに眠れない状態が続いていた。神経が過敏になっていると言えばいいのか、少しの物音が気になり、その度に少しずつ眠気も薄れてきている。

 この名状しがたい状態に辟易していたが、不意に一日であったことが頭を過ぎる。こうなってくるともう止められない。様々な出来事が浮かんでは消え、それらに意識を割いてしまう。結果、あれほど強烈だった眠気はすっかりと無くなってしまった。

 

「……」

 

 良い一日だった。勇儀と藍の間にいざこざが発生した時はどうなることかと思ったが、新たな知己も得ることが出来たし、あの鬼の酒を堪能することが出来た。温泉も素晴らしく、料理も美味しくてベッドもふかふか。以前から興味のあったハシビロコウにも会うことが出来、更にはいろいろな動物たちとの触れ合いで癒されもした。……新種の毛玉になってしまったが。

 

「動物たちと言やあ、お燐ちゃんが猫の姿に――――」

 

 腕の中の猫がお燐に変わった時の光景が浮かび上がる。そして、そこから続く記憶の中である場面に行きついたその瞬間――――。

 

 

 

『今晩、横島さんの部屋に行くからね!』

 

 

 

 ――――どくん、と。横島の心が脈打った。

 

「……く、来るのか!? 来ちゃうのか!? さとりちゃんはああ言っとったが、実は本当にそーゆー意味だったのでは!?」

 

 途端、高まる煩悩。溢れる妄想。期待と不安が入り混じった、思春期ハートが暴走する。

 来るか来ないか、来てしまうのか、それとも来はしないのか。思考があちらこちらに飛び、心臓の鼓動も際限なく速度を上げていく。やがて横島の煩悩が『お燐が来るか来ないか』の段階から、『お燐とするかしないか』の段階へとシフトしていた。

 いつしか横島は自らの震える体を抱き締め、()()に喘ぐ。しかし横島はそれに気付かない。高速化した思考の根源にある恐怖にまるで気付かず、横島の心は軋みを上げていた。

 

「――――大丈夫ですよ」

「え……?」

 

 不意に、温かな何かに包まれるような感覚を覚えた。いつからだったのだろうか、横島はさとりに抱き締められていた。さとりが部屋に入って来たのも、こうして抱き締められていたのも、全く気が付かなかった。それだけ横島の心に余裕が存在していなかったのである。

 さとりは、そんな横島の心が上げる悲鳴を聞き届け、こうして駆けつけたのだ。

 

「怖がる必要はありません。不安に思うこともありません。怯えることなど何もないのです」

 

 頭を優しく撫でながら、囁くような声音で語り掛ける。それだけで横島の心に存在した得体の知れない恐怖や不安といった感情が消えていくような安心感に包まれる。

 さとりは横島を寝かせ、やや強張っていた横島の手を握り、頬に手を添える。

 

「あなたが眠るまで、こうして手を繋いでいますから」

 

 繋がれた手から、頬から、さとりの柔らかな温もりを感じる。それは横島がフランやチルノ、妖精メイド達に与える温もりとは似て非なる温かさ。

 横島はさとりの言っていることの意味がよく分からなかった。だが急速に遠のいていく意識の中で、微笑むさとりの発する雰囲気に、誰かの面影を見たような気がした。それが誰なのかに思い当たる前に、横島は今度こそ眠りに就く。先程までの恐怖や不安に歪んだ表情ではなく、安らいだ寝顔にさとりは更に笑みを深め、横島の額に口づけをする。

 繋いだ手は未だ離さず、そのままで。さとりは、良い夢を見れますようにと、横島の傍に在り続けるのだった。

 

 

 

 

第七十六話

『地霊殿動物ふれあいパーク』

~了~

 

 

 

 

 

 横島の部屋の前、お燐はドアを見て固まっていた。ドアには張り紙がしてあり、それにはデフォルメされたさとりの絵が描いてあって、その彼女から出ている吹き出しにはこんなセリフが。

 

「部屋に入ったら『恐怖催眠術』の刑」

 

 結局お燐はすごすごと自分の部屋に戻る。室内ではさとりがどこかに向かってピースサインを向けていたのだった。

 

 




猫のしっぽの付け根って、別に性感帯とかじゃないらしいですね(挨拶)
ホントかなぁ~?(ゴロリ)

原作の方でも横島が言っていた「放射能で緑色の泡に」というのは『美女と液体人間』というホラー映画が元ネタらしいですね。
特技監督があの円谷英二だとか。

そういえば地霊殿……というか幻想郷に、現代世界で絶滅した動物とかいたりするんだろうか。


ロストワード始めましたー。あれってけっこうハードな世界観だったんですね……。

それではまた次回。




話が進んでないなぁ。
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