今回は短め。それでか早めの更新ですね。……早めとは一体。
最近は公認の東方ゲームが結構出てきてますね。
ダンマクカグラに暁Recordsも参加するみたいで楽しみですわぁ。
古明地こいし。
「ん~むむむ……」
こいしはある出来事を切っ掛けに、命蓮寺の在家の信者となっている。白蓮からのお説教に、「徳を積みなさい」という一語があった。
何をすれば徳を積むことになるのか、それがこいしのは分からなかった。なので、素直に白蓮に質問をしてみた。返ってきた言葉が「善行――――そのまま善い行いを重ねなさい」というものだった。
では、善い行いとは?
「それを考えるのも修行かー。難しいなー」
夜の人里を歩くこいしは意外と多い人の姿を視界に収めながら、人に気にされることもなく歩を進める。目的地はないのだが、せっかくだから人の多い場所に。
珍妙な鼻歌を歌いながら歩いていると、とある居酒屋から出てきた酔っ払いの青年二人の話が耳に飛び込んできた。
「うう……どうして僕はいつもこうなんだぁ……。僕はぁ……あの子にいぃぃ……」
「分かったから自分で歩け……っ。重いんだよ、まったく」
詳細は分からないが、会話の内容からどうやら男の一人が誰かとケンカか何かをしたらしいことが窺える。どこにでもある、面白くもない日常の悩みの一つだ。だからこそ、こいしは興味を惹かれた。
気付かれぬよう後をつける。零れる言葉の端々から、大凡の内容を把握することが出来た。
青年には気になる女の子がおり、その子の前だと上手く話をすることが出来なくなる。そして焦りから咄嗟に出した言葉でその子の不興を買ってしまったとのことだ。
「あああぁぁ……どうしてすぐに謝れなかったんだぁ……」
「お前は口下手だからなあ。今なら酒の勢いもあるしいけそうなもんだが」
「無理だよぉ……。素面でも余計なこと言っちゃったんだから。酔ってると何を言うか分かったもんじゃない」
こいしは青年の言葉に同意する。変なこと口走っちゃうよね、と笑顔で頷く。そして、一つ思いついたことがあった。
――――翌日。青年は女の子の下へと謝罪をしに行くために人里を歩いていた。手にはお詫びの品のお菓子を持ち、頭の中で謝罪の言葉を何度も確認する。
そんな青年の前に、一人の少女が立っていた。
「……うわっ!? ご、ごめん。気付かなくって」
「ううん、大丈夫だよ。それより、ちょっとだけ話を聞いてほしいなー」
青年に笑顔で話しかけるのはこいしである。彼女は昨夜の青年の話を聞き、手助けが出来るのではないかと考えていた。自分ならば、
「……何で、そんなことを?」
「え? だってそーゆーことをぶつぶつ呟きながら歩いてたから」
「……何で僕は普段口下手なのに余計な時にぃ……!!」
青年は頭の中で反芻していたことを呟きながら歩いていた。その様がどうにも不気味だったので周囲から怪しげな眼で見られていたのである。
青年は羞恥から早くこの場を去りたくなり、つい咄嗟に「出来るものならそうしてほしい」とこいしに言った。
「――――うん。任せて」
こいしは人差し指を青年の額に付けた。
数十分後、青年は女の子に謝罪を済ませ、そればかりか今までの仲から一歩前進して見せた。まずはお友達から、という状態ではあるが、交際を始めるに至ったのだ。
こいしはその様子を一部始終眺めていた。青年にも女の子にも、誰にも知られず、二人の傍で。
「……」
これだ、と思った。胸には不思議な充足感が宿る。青年と女の子の笑顔を見ると、喜び、興奮、達成感が湧いてくる。
こいしは自分の能力を応用し、青年が言いたくても言えなかった言葉を紡ぎだしやすくなるようにしたのだ。ただ、これはあくまでも手助け程度の効果でしかない。謝罪、そして告白が成功したのは青年の想いがそれだけ強く真剣だったからに他ならない。
幸せそうに笑う二人を見届け、こいしはその場を後にした。こいしの能力の性質上、青年の記憶にこいしの姿が残ることはないだろう。
しかし、こいしはそれでよいと考える。自分がいたから何とかなったのだ、と喧伝するのは何か違う気がするし、何よりその方が格好良いと思ったからだ。
誰かを助け、助けられた人は助けてくれた人を思い出せない。昔のこいしならばそこに何かを思うこともなかっただろうが、今の彼女はそれを少し寂しいと思う。だが、それでもこいしはそれを良しとした。その方が徳を積んでいるっぽく感じるからだ。
「誰か、困ってる人はいないかなー?」
こうして、こいしは自らの能力で困っている人の手助けをしていく。少しずつ、僅かながらでも、困っている人の手助けをするために。それはたとえ考えが足りず、独りよがりな行いであっても、確かに善行に間違いはなかった。
こいしは失敗をしなかった。運が良かったのか、彼女が手を差し伸べる人間は皆善良であったのだ。ただ一人、結末がどうなったのか分からない者がいた。
霧の湖に住む氷精である。彼の妖精はとある少年に淡い恋心を抱いているようだったが、それに気付いていない様子だった。だからまずはその想いを自覚させ、そこからどうするのかの相談にのるつもりだったのだが……気が付いた時には、目の前には誰もおらず、周囲は凍り付いていた。何があったのかはまるで分からない。まるで狐か狸につままれたような気分だった。
それからその氷精とはまだ会えていない。
そして、久しぶりの里帰り。久々の地霊殿には一人の人間の少年が遊びに来ていた。
どうやら少年の名は横島というらしく、何と平行世界からやって来たというのだから驚きだ。彼の元の世界の話はどれも興味深く、そして面白かった。意外に多い語彙から表現される数々の物語は、それだけで脳内に詳細な映像を浮かび上がらせるほどであった。
楽しそうに、嬉しそうに元の世界の思い出を語る少年に、こいしは一つ疑問を持つ。
「ねえ、お兄さん。
――――返ってきた答えは「分からない」だった。
平行世界からの漂流者。横島はこの世界に大切な人がいる。さとりとの話を聞いた限り、あのレミリアがそうだという。なるほど、そういうものが出来てしまったのならば、どうすればよいのか分からないのも納得だ。
こいしは思う。こういった問題だからこそ、はっきりと答えを出した方が良いのではないのか、と。
こいしはレミリアとは違う。紫とは違う。永琳とは違う。横島の恋人達とも違う。そして、さとりとも違う。出会ったばかりの、他人である。
こいしの考えは正しい。残酷なまでの正しさだ。そして、必ずしも正しいことが成功に繋がっているわけではなく、これは、初めての失敗に繋がってしまった。
そしてそれは――――致命的な失敗だった。
第七十九話
『喪失』
「違う――――違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うっ!!!」
「え……? え……!?」
頭を抱え、違う、違うと叫び、全身から強烈な霊波を放出する横島の姿に、こいしは理解が追い付かなかった。今まで自分の能力を行使したことでこのような状態になった者など、ただの一人として存在しなかった。だからどうすればいいか分からない。苦しげに呻く横島を前におろおろと狼狽えることしか出来ない。
横島が膝を着く。暴風のような霊波で近付くことが難しいが、こいしは横島を支えようと奮起する。そして、自らの能力を使えば横島を苦しめる原因を打ち消せるのではないかと思いついた。
こいしは横島の“無意識”を引き出すことで彼の本心を自覚してもらおうとした。ならば、その無意識に働きかける力を抑制すればいいのである。
それを、もう少し早く発動出来ていれば良かったのだが。
深い深い水底の様に、一切の光も差し込まない世界。それは深淵の闇。横島の意識はその闇の中で悶え、苦しみ、喘いでいた。
「違う……違う……っ!! 俺は……俺はぁ……っ!!」
横島は否定する。己の中にある答えを。こいしの能力によって自覚させられた真実を、必死になって否定する。
しかし、それも。
「――――ヨコシマ」
背後から声が聞こえた。
愛する者の声。愛した者の声。もう、聞くことの出来ない声。
振り向いてはいけない。振り向けば壊れてしまう。だが、今の横島には縋るものが必要だった。極小の可能性に飛びつきたかった。何より、その声を無視することは出来なかった。
「――――
だから、振り向いた。
「――――――――――――ぁ」
振り向いた、その先。そこにいた者。横島は、
「うああああああああああああああああああああああああ――――――――!!!!!」
「うああああああああああああああああああああああああ――――――――!!!!!」
「っ!!?」
魂が砕けたかのような、様々な感情が混ざり、それら全てが互いを殺し合わせたような悲鳴が横島から発せられた。心を読むことが出来なくなったこいしですら背筋に怖気が走るような、心からの悲鳴。横島の身体に、今までにない霊力の高まりが感じられる。
不意に、バタンと部屋の扉が力任せに開かれた。
「横島さん、一体何が――――!?」
さとりである。強烈な頭痛に耐えるかのように頭を押さえ、顔を青くしたさとりが駆けつけてきたのだ。
膨大な霊力の高まり、そして横島の心が悲鳴を上げたことにより、横島の身に何かが起こったのを察したのだ。さとりの背後にはお空とお燐もいるが、この場においては最早関係がなかった。
さとりが来たことが切っ掛けになったのではないだろうが、横島の霊力の高まりが臨界を迎えた。
「――――――――――――!!!!!」
声にならない叫び。横島が放った霊波は物理的な衝撃を齎し、爆発という形でその威力を発揮した。神魔級の霊力を誇る横島の霊力が爆発すれば本来ならばさとり達もただでは済まなかったであろうが、横島の最後の意識がそうさせたのか、霊波のほとんどは指向性を持っており、部屋の壁を内から外へと打ち抜くにとどまった。
壁に大穴は空いてしまったが、幸いにも動物達もゾンビフェアリーにも大した被害はなかったようだ。
ただし横島と同じ場にいたさとり達はそうもいかず、爆発の余波を受けてしまったさとりとこいしは吹き飛ばされ、気を失ってしまう。お空とお燐もそれに巻き込まれたが、何とか無事だった。
「さ、さとり様……!? こいし様!!」
お燐とお空は倒れている二人に駆け寄り、助け起こす。気を失ってるようだが怪我は無く、じきに目を覚ますだろう。問題は……。
「横島さん……? 横島さんは……」
周りを見回すが、どこにもいない。壁の大穴から外に飛ばされてしまったのだろうかと、穴の下を見ても、瓦礫が落ちているだけだ。
「横島さん……どこに行っちゃったの……?」
お燐の呟きは誰にも届かずに消える。どたばたと大勢が走る音、自分達の名を叫ぶ声が聞こえてくる。正気に戻ったお燐は駆けつけてきたゾンビフェアリー達に指示を出し、混乱を治めることに尽力する。
まずはさとりとこいしの治療、そして横島の捜索だ。地霊殿の敷地内にいない以上、横島は旧地獄の街のどこかにいると思われるが、旧地獄は狭いようで広い。直前の横島の様子からそこまで遠くに移動することは出来ないはずであるが、相手はあの横島だ。
「紅魔館にも知らせないと……!! とにかく無事でいて、横島さん……!!」
同時刻、紅魔館の客室にて。
「うあ゛ぁ、くうぅ……っ!? ああああ゛ぁぁぁ……!!」
妹紅は胸を押さえ、床に倒れ伏し、魂を抉るような強烈な痛みに喘いでいた。直感で理解出来た。横島に何かあったのだと。
パスを通して伝わってくる痛みは、横島が感じている痛みなのだろうか。だとすれば、自分はこのまま倒れているわけにはいかない。横島の下に向かわなければ――――!!
「――――――え?」
不意に、胸の痛みが消えた。何も感じない。先程までの強烈な痛みは、何の痕跡も残さず唐突に、完全に消え去った。
がばりと身体を起こす。
「よこ………………しま………………?」
横島の存在を感じない。感じられない。
「……ふぅ」
私は一体何をやっているのだろうか。頭の中で何度もそんな声が聞こえてくる。そんな言葉と同じくらい繰り返されるのは重く深い溜め息だ。
地霊殿で爆発があったと聞いたのは昨日の夜。家に帰ろうと街を歩いていると、爆発音が聞こえてきたのだ。自分は危ない場所には近付かないようにしている。興味がないわけではないが……わざわざ危険なことに首を突っ込みたくはない。
それから翌日、つまり今日。何でも深夜過ぎにとある
あの勇儀が絡むとなれば、結構な大事になっているのだろう。
「だっていうのに、なんで私は……」
自分で自分の行動がまったくもって理解出来ない。自分はこんな考えなしだっただろうか? ……考えなしだったかもしれない。
また、溜め息。客人用の布団で寝ている
意識が朦朧としているのか、ふらふらとした足取りでどこかへと向かっているその姿は、何かから……どこかから逃げてきたようにも見えた。そんな様子に驚き、声を掛け……そして、私にもたれかかるようにして気を失った。
何があったのかは分からない。だが少年が旧地獄、正確には地霊殿に来た目的は知っていたし、本当ならばすぐに地霊殿に知らせなければいけないことも理解している。だが、何故か私は彼を自宅に運び込み、こうして寝かせてしまっている。
……本当に自分の行動が理解出来ない。私は何をやっているんだ?
ぐるぐると何度も同じ疑問が頭を過ぎる。そうしていると、不意にお腹が空腹を訴えかけてきた。そういえば朝起きてから何も食べていない。時刻は昼過ぎ……何かを食べて頭を働かせよう。
「ん……」
眠っていた少年から呻くような声が聞こえてくる。覚醒が近いのだろうか、手足も大きく動く。やがて動きが収まると、ゆっくりと眼が開かれた。明かりが眩しいのか、何度も目を瞬かせている。
「……ここは」
手を使ってゆっくりと起き上がる少年――――横島忠夫。私が思っていたよりも元気そうで何よりだ。
「ようやく起きたのね。どう、横島さん? 身体におかしなところはない?」
「え……? ……っと、ない、と思う……ます。多分」
「何よその口調」
寝惚けているのか、横島さんのおかしな口調に思わず笑ってしまった。……笑った私も失礼だったがしかし、キョロキョロと部屋を見回すのはいただけない。こんなでもここは乙女の部屋なのだ。
「えっと……何で僕はここに?」
「……僕? 昨夜のこと覚えてないの?」
「昨夜……? ……っ!?」
はて? 横島さんの様子がおかしい。数秒の間を置いて顔が赤くなって驚いて……? ……はっ! このシチュエーションは……!!
「そーゆーことじゃなくて! 真面目に考えなさい真面目に!!」
「す、すみません! でも……その……」
どうにも調子が狂う。口調といい仕草といい、まるであの時の横島さんとは別人みたいだ。今も何かを言い出そうとしてるけど、言いにくいことみたいだし。
……何か、嫌な予感がする。何だ? 何がおかしい?
「あの、さっきの……」
「え、ええ。何かしら」
横島さんは不安そうな顔で私を見つめてくる。どんどんと胸が高鳴る。別にときめいているわけじゃない。……不安で、だ。
「その、横島って……
「………………………………っ」
その問いに、答えを返せなかった。ただ肺から空気が漏れるような音がしただけだった。横島さんは力のない笑みを浮かべている。引きつったそれは、様々な感情が交じり合って、笑うしかないという表情に見える。
そして、続けざまの言葉に、
「僕は――――誰なんでしょう?」
「――――は」
まともな声など出るはずもなく。私は壁にもたれかかり、脚から力が抜け、そのままずるずると座り込んでしまう。まったくもって嬉しくないことに、私の嫌な予感は当たってしまった。
「なんて……」
思考が高速でぐるぐると回る。どうしてこうなったのか、まるで分からない。横島さんの身に何があった? これからどうすればいい? 地霊殿に伝えるべきか? でも横島さんは地霊殿から逃げてきたように見えた。あそこで何かあったのか? ……知らせていいのか? 黙っているべきなのか?
意味のある思考が出来ているのか分からない。不意に口から零れたその言葉は、思考とはまるで直結していない、私の口癖だった。
「なんて――――
第七十九話
『喪失』
~了~
パルスィ「なんて――――妬ましい……」
横島(……パンツ見えてる)
お疲れ様でした。
こいしは困っている人のために自分の能力を行使し、悩み解決のお手伝いをしていました。
100%善意でやってたんですが、彼女にとって初めての失敗が致命的な失敗という……。
白蓮は説明不足、こいしは思慮と経験の不足。
これも作者が悪いんや。
煩悩漢の白蓮は妙な所で扱いが悪いですね……。
パルスィはどうするのか、横島はどうなるのか。
それではまた次回。