ちょっと今月も激務なので短めですが、何とか出来ました。
果たして地底はどのような展開を迎えるのでしょうかー?
今回は場面転換ばっかだなぁ
紅魔館が誇る図書館にて、一人の少女が静かに本を読んでいた。
机に山積みにされた様々な本に埋まっているようにも見えるその様は、現在の彼女の心の内にある不安を誤魔化すための物にも見える。
ふと、少女がその顔を上げる。自らの隣に突然一つの気配が現れたからだ。
「お茶が入りました、パチュリー様」
「ありがとう、咲夜」
読書をしていた少女、パチュリーに紅茶を持ってきたのは、紅魔館のメイド長である咲夜だ。
パチュリーは咲夜から紅茶を受け取ると、読書を一時中断し、ティータイムへと洒落込むことにする。まずは紅茶の色、次いで香り。そして熱と共にその味を堪能する。
熱い紅茶を一口啜り、一つ深呼吸。ややささくれ立っていた心が、落ち着いていくのを感じる。
「良かったのですか、こちらに残って」
「そういう咲夜こそ」
咲夜からの確認の言葉に、パチュリーは同じ問いを返す。
横島が地底で行方不明となった。その報せを聞いた紅魔館・永遠亭の主要メンバーはすぐさま地底へと向かった。この二人は、そんな彼女らを見送り、ここ紅魔館へと残ったのである。
咲夜は主であるレミリアの留守を守るために、己の不安と心配を押し殺して職務を全うしている。落ち込み、不安がる妖精メイド達を叱咤して元気づけるのも彼女の仕事だ。
パチュリーは、そもそも心配などしていないと言う。横島のことだからすぐに見つかり、ひょっこりと帰ってくるに決まっている。だから自分はここで待っているのだと、親友達を送り出したのだ。強がりを言っているという自覚はある。しかし、どれだけの不安があろうとも、横島が帰ってくるということだけは疑っていない。
だから、自分は待つだけでいい。きっとすぐに皆が横島を連れて帰ってくるだろうから。
「……あの二人は?」
自分達のことはもういいだろうと、パチュリーは話題を変える。あの二人、とは紅魔館の新人メイドである影狼と赤蛮奇のことだ。この二人は横島との関わりも深く、それだけにどのような状態であるか気にかかっていたのである。
「影狼は過去のトラウマからか一時かなり取り乱しましたが、赤蛮奇のおかげで今は持ち直し、一号と共に職務に励んでいます。赤蛮奇の方もショックは大きかったようですが、先の通り影狼を慰撫し、現在は二号と共に美鈴の代わりに門番を務めています」
「……そう」
どちらも大きな問題は無かったようで、そっと息を吐く。尤も、影狼の取り乱し様は中々に酷かったのであるが、今この場において問題が無ければ構わないというのがパチュリーの考えである。
「……大丈夫でしょうか」
ふと、咲夜が呟く。誰に聞かせるでもない独り言のようではあったが、隣にいるパチュリーには聞こえてしまった。どうやらパチュリーと横島について話したせいで、不安がぶり返したようだ。
パチュリーは表情に影を差す咲夜を見て苦笑を浮かべる。
自分を見て笑みを浮かべるパチュリーに、咲夜は怪訝な顔をする。パチュリーはそんな咲夜の背をポンと叩き、今自分達がするべきことを言い聞かせる。
「横島のことをレミィ達に任せてここに残った以上、私達が出来ることはたった一つだけよ。――――信じなさい。横島は、レミィ達が必ず連れて帰って来るわ」
「パチュリー様……」
咲夜にとって、最も信に値する人物は言わずもがなレミリアだ。咲夜はそのレミリアに横島のことを託し、自分は紅魔館に残った。では、そのレミリアのことを自分が今ここで信じなくてどうするというのか。
パチュリーの言葉は咲夜の胸に強い衝撃を齎し、自分の主の親友であり、誰よりもレミリアを信頼しているその姿に感動すら覚えたのだった。
「……私、今ものすごくカッコいいこと言わなかった?」
「そうですね。……それがなければ完璧でしたね」
第八十二話
『来訪者』
地霊殿のとある一室。現在、さとり達地底組とレミリア達地上組は同じテーブルに着き、情報の交換を行っていた。
それぞれが地底を調べて回り、その結果を報告しようというのだが……。
「……一体どういうことだ……!?」
募る苛立ちから、レミリアの組んだ両手に力がこもる。ミシミシと音を立てるその手は、レミリアの感情の強さをそのまま物語っている。
「横島さんが地霊殿を出てもう三日……。地底をくまなく探しているというのに、何も情報が出てこないなんて……」
こめかみをガリガリと掻きながらそう呟いたさとりは、普段よりも更に目の隈が濃く、憔悴している。
さとりは横島の失踪に責任を感じ、自分から地底を探し回っている。自分の負担を度外視して能力を駆使して聞き込みを行っているというのに、横島の情報は一切入ってこないのだ。焦りや不安が表出してしまっても仕方がない。
「もう、地上に出てる……ってことはないんだよね?」
てゐの確認にさとりは力なく頷く。地上と出入りが可能な場所は真っ先に調べた。その際に
無論全て調べ尽くしたとはとても言えないが、それでも現在のところ何の情報も入ってきていないのには疑問が残る。
「……パルスィさんとは軽い情報交換しかしていないんですよね? やっぱりもう少し話を聞いた方が……」
「必要ありません」
レミリアの背後に立ち、考えを纏めていた美鈴がそう進言するが、さとりに切って捨てられる。美鈴もそれ以上何も言わず、その言葉を受け入れる。いや、美鈴だけではない。その場の全員が、それを当たり前の様に受け止めているのだ。
「
皆はさとりの言葉に頷く。誰も反対しない。誰も異を唱えない。
――――否。
一人。ただ一人だけ、現在の状況に違和感を覚えている少女が存在する。
「……あ、れ……?」
今回の騒動の元凶とも言うべき少女は、脳裏に走った微かな揺らぎに目を細める。
どこもおかしくはないと認識している。しかし何らかの違和感が拭えない。
こいしの無意識の能力が、何かに反応を示している。
「……こいし、どうかしたの?」
「あ、ううん。何でもないよ、お姉ちゃん」
さとりに話しかけられ、こいしは先程まで巡らせていた思考を隅に置く。今は考えていても仕方がない。一刻も早く横島を見つけなければいけないのだ。
――――彼女達の中で、とある感情が膨らんでいく。
「……今日も良く寝てるわね」
目が覚めてから約三時間。パルスィは側臥位の体勢で隣の布団で眠っている横島の寝顔を何とはなしに眺めていた。
横島がパルスィの家に厄介になってから三日が経つが、横島は一日の内、およそ十五時間程を睡眠で過ごしている。まるで疲れ切った心と身体を癒すために魂が強制的に眠りに就かせているようにも見えるが、余りに深く静かに眠り続けるさまは、まるでもう目が覚めないのではないかという不安を毎度抱かせるには十分なほどだ。
だからパルスィは横島の寝顔を見つめている。その目を開き、朝の挨拶を交わすまでは彼女の不安が取り除かれることはない。
何となく、パルスィは手を伸ばし、横島の頬に触れる。そっと頬を摘まみ、軽く横に引っ張る。少しだけ横島の眉が顰められた。それに安心と、少しの嫉妬を覚える。
「……まったく、この私にこんなにも心配を掛けさせるなんて」
この三日の内に、何度この言葉を口にしただろうか。自分の中で、日に日に存在感を増していく目の前の少年に、パルスィは強い嫉妬を抱く。
「私に
少し頬を摘まむ力が強くなった。いやいやとむずがるように首を振る横島の姿に、パルスィの溜飲が少し下がる。
横島を住まわせて以来、
横島もあの発作のことは気に病んでおり、苦労と迷惑を掛けたことを詫びている。しかし、パルスィはそれを苦労とは思っていない。
現在、パルスィは二つの能力を行使している。コンプレックスの塊である横島、そして孤独な存在であった龍神のおかげでパルスィの力は飛躍的に向上していた。
だからこそ
しかしその力も無限ではない。力の源の一つである横島は記憶を失い、そのコンプレックスから来る強烈なまでの嫉妬心を持っておらず、龍神は横島と妖精達との触れ合いで孤独から解放され、“共に在る者達”への嫉妬心を失くしつつある。
力の供給源が断たれた今、パルスィは無茶だと分かっていても“無理をして”能力の行使を続けている。
「んう……」
横島の口から呻きが漏れる。そろそろ、目が覚める頃合いだろう。
パルスィは能力を解除し、一つ息を吐く。幸い、能力を行使しなければパルスィは回復する。横島が起きるまでの数分間、目を閉じて一時の倦怠に微睡む。
そうして次に目を開けた時。
「……おはよう、ございます。パルスィさん」
どこか照れくさそうな、横島の笑顔が目に入る。その締まりのないふにゃりとした笑顔を見て、またパルスィもくすりと笑い。
「ええ、おはよう。横島さん」
こうして、挨拶を交わすのだ。
それは幸せな一時と言えた。あまりに脆く、あまりに儚い幻が如き幸せ。
パルスィは分かっている。充分に理解している。こんな幸せは、すぐに消える。風に吹かれる蠟燭の火の様に、決して長くは保たない類のものだ。
だが、それでもパルスィはこの時間を失いたくはなかった。
「――――っ、ぅ、あ……っ!」
ここは幻想郷の
部屋の中央に敷かれた布団の中で、紫は固く目を閉じ、喘ぐように荒い息を吐いていた。
左右には藍と橙が紫を挟むように座り、意識を共有して解析の術を数日間全力で行使している。既に彼女達から時間の感覚など完全に消失しており、二人の全身は汗でぐっしょりと濡れている。
何故紫がこうなってしまったのか、ことは数日前まで遡ることとなる。
「……っ!!?」
その日、紫のスキマの中に
変化は劇的だった。他の者達もそうであるが、特に紫とスキマの能力は強く結びついている。
そのスキマ内に現れた何者かがあまりに強い力を持っていたから……というわけではない。むしろその者の力は紫よりも遥かに弱く。下手をすれば橙にも劣るかもしれない、そんな程度の力しか有していない。
――――そう。そのケタ外れに巨大な存在規模の理由は
既にスキマの中では空間の繋がりも時間の流れすらも正常に働いてはいない。何者かが真っ直ぐに進んでいるように見えても、実際は滅茶苦茶なルートを超高速で、あるいは超低速で進んでいる――あるいは戻っている――のだ。
しかし、その何者かは迷うことなくスキマを進む。目的地までのルートが見えているのか、躊躇う様子も見られず、狼狽えることもない。ただ一直線に
「く……っ」
藍の口から呻きが漏れる。どうやってスキマに入り込んだのか。一体何が目的なのか。何一つ分からない。ただ、一つだけ分かるものがあるとすれば、それはこの何者かが敵意・悪意といったものを一切持ち合わせていないことだ。むしろそれとは正反対の、何か大切なものを探しているかのような、そんな必死さ、真摯さを感じ取ることが出来る。
――――本当は分かっている。その何者かが目指す場所も、目的も。本当は既に分かっているのだ。だからこそ、こうして
「……え?」
と、急に藍と橙の負担が軽くなる。ハッと集中の為にずっと瞑っていた目を開けば、意識を取り戻した紫が二人に弱々しくも確かに微笑みかけていた。
「紫様! 意識が戻られたのですね!」
「ゆ、紫様! 大丈夫ですか~!?」
「ちょ、二人とも落ち着い……むぎゅっ!?」
二人は紫に殺到し、その身体を圧し潰してしまう。直後、我に返った二人に土下座で謝り、紫はそれを受け入れる。単に怒るだけの気力がなかったとも言う。後日、二人は大変な目に遭うだろうが……それも仕方のないことである。
「こほん。……心配をかけてしまったわね。でも、もう大丈夫よ。貴方たちの演算経過を読み取って、何とか最適化することが出来そうだわ」
「ほ、本当ですか!?」
「さすが紫様!! すごーい!!」
紫はゆっくりと身を起こし、自分の前で正座でいる藍達に信じがたいことを口にする。
そう、紫は“何者か”の影響に苦しみ、意識を失いながらも、藍をも超越した規格外の頭脳により無意識下で演算処理を行っていたのだ。
自らの演算と藍達の演算を合わせ、スキマを“何者か”に最適化し、一気に“こちら”に引き寄せることが可能となっていた。最適化のお陰か、身に掛かる負担も大幅に減少しており、これならば回復を待たずともスキマを開くことが出来そうである。
「……まあ、引き寄せることが出来るだけで他は何も出来ないんですけれど」
「……? 何か仰いましたか?」
「いえ、何でも」
ぼそっと何事かを呟き、藍の問いを流して紫は静かに気合を入れる。
スキマを開き、“何者か”を幻想郷に招き入れるというのはつまり、
だが、紫は“何者か”を招くことに躊躇いはなかった。
紫がどれだけ幻想郷を愛しているかを知っている者がそれを聞けば、恐らくは紫の正気を疑うだろう。それでも、紫はそれを実行する。紫には確信があった。否、それを確信というには根拠があまりにも無さすぎる。
何せ、紫が“何者か”を招こうというのは、
「……さぁ、いくわよ」
「はいっ!」
「にゃっ!」
紫の号令に合わせて藍と橙はそれぞれ気合の声を上げる。紫はそんな二人に苦笑を浮かべる。もし何かがあった場合、主である紫だけは何としても守ろうとする気概を感じ取ったためだ。二人の気遣いを嬉しく感じるが、同時にそれは無駄な気負いであるとも考えてしまう。
紫の勘が告げている。きっと、それは穏やかな出逢いになるのだと。
――――スキマが開く。と、次の瞬間。
「え?」
という声が聞こえたかと思えば。
「キャアアアァァァ――――――ッ!!?」
スキマから物凄いスピードで飛び出してきた“何者か”が壁を突き破り、家具をぶっ壊し、最終的に屋敷の外まで吹き飛んで地面をガリガリと削って倒れ伏した。
……そう。“何者か”はずっと猛スピードでスキマ内を進んでいたのだ。それこそ、数か月前に
「………………予想外ですわぁ」
己の勘に従った結果がこれであった。
十数秒間呆然としていた紫達であるが、ハッと正気に戻ると倒れている“何者か”に急ぎ駆け寄る。意識の有無や怪我の具合なども含め、確認しなければいけないことは山ほどあるのだ。
“何者か”の着地点(?)に到着した三人は、その“何者か”の容貌に驚くことになる。
両側が上を向いた赤と緑の髪に、同じく赤と緑の肌にぴっちりと張り付くボディスーツと、特殊なケープのようなもの。中でも特異なのは、全身に存在する“目玉”にも見える感覚器。イヤリングやケープの留め金もそれなのだから、あまりにも徹底している。
そんな異様な風貌の
「……こ、この方は一体……?」
「――――
紫が小さく呟く。
ヒャクメ。横島の元の世界における神族の調査官。
第八十二話
『来訪者』
~了~
お疲れ様でした。
そんなわけでヒャクメの登場です。
ヒャクメの神族としての格が高いか低いかについてですが、とりあえず東方の世界では圧倒的に高いです。
GS世界では下級神族ですが、神魔の支配率=信仰の度合いの差によって東方世界では極めて格の高い存在になっているわけですね。
要は登場当初のラディッツみたいな感じ。……いやちょっと違うかな?
ちなみに横島の問題を解決できる可能性があるのは冥子もですね。まあ手段があるだけなので実際には無理でしょうが。
横島と影狼さんの話はどこかでやりたかったけど話を進める為に没にしちゃったんですよねー……
それではまた次回。