東方煩悩漢   作:タナボルタ

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お待たせいたしました。
続きを投稿するのに一年以上掛かってしまいました。というのも鬱病になって色々とありまして……。
快復してきたのもあって何とか投稿を再開してみた次第です。
リハビリも兼ねてますので文字数は短めですが、よろしければ読んでやって下さい。

それではまたあとがきで。


第九十三話『消えた後に残る物』

 

 ────閉じられていた目が開き、()はゆっくりと身を起こす。あまりにも緩慢な動作、倦怠感に歪んだ表情から、起き上がるのにも相当な負担が掛かっているのが窺える。

 ふと、()の目が()()()の姿を捉える。()()()()()()()、何でもない調子で彼女達の名を呼ぶ彼。瞬間、彼女達に抱き締められ……押し倒されて彼は情けない悲鳴を上げる。

 ────彼とその恋人達。彼は()()()から今までの記憶が無いのか、涙を流す恋人達に大慌てだ。何でもするから泣かんといてと、今度は彼自身が泣き出す始末。

 それはいつもの光景。彼が彼として目覚めた証だ。

 

 

 

 ────その瞳に私は映らない。その視界に私は入らない。

 ああ、やっぱり、と。私は己の内の諦念を受け入れた。

 

 

 

 もう、()の中に────()()()は、居ないのだ、と。

 

 

 

 

 

第九十三話

『消えた後に残る物』

 

 

 

 

 

「ず、頭痛がする……は、吐き気もだ……! こ、このTADAOが……気分が悪いだと……!?」

「だ、大丈夫か横島!?」

「鈴仙! 診察お願い!」

あんた(てゐ)でも出来るでしょうに……まあ、今は私の方が冷静……っていうか、この場合はヒャクメさんに任せるべきなんじゃないの……?」

 

 誰も彼もが絶妙に冷静さを欠いている。横島は霊的・肉体的ダメージが抜けきっておらず体調を崩しているのは本当だが、それを茶化してパロディネタを仕込むも誰もそれに気付かず、真剣に受け取って右往左往。当の横島はいつの間にか敷かれたピンク色のハートマークが可愛らしい布団(さとりの私物)の上でネタが通じず困惑中だ。

 なお、元ネタもしっかりと把握しているヒャクメはこれを無慈悲にもスルー。彼女の()は既に横島の検査を終えており、今は恋人達との触れ合いが何よりも横島の癒しになると理解したからだ。そのことに、ヒャクメは少しだけ寂しい気持ちを抱く。

 

「うーん、霊的・肉体的な負担のせいで相当に疲労が溜まってる状態ね。蓬莱人であることもあってか、身体の方は一週間もせずに回復するだろうけど、霊的中枢(チャクラ)の方はもっと時間が掛かっちゃうかも」

 

 診察を終えた鈴仙はちらりと永琳に目をやり、首肯されたことでほっと胸を撫で下ろす。

 

「つまり?」

「またしばらく安静に、ってことよ」

 

 首を傾げて尋ねるフランに、鈴仙は小さく苦笑しつつ答える。

 

「ふむ……なら、とりあえずは横島の身体の疲れが取れるまでは、私達も地霊殿(ここ)で厄介になろうか」

 

 片目を閉じつつ、レミリアがさとりにそう言った。場の何人かがレミリアに驚きと共に視線を向ける。

 

「それは……いえ、お心遣いに感謝します。レミリア」

「ん」

 

 少ない言葉ながらもさとりは心からの礼を言い、それを受け入れるレミリア。そんな二人の様子についていけない横島の恋人達。ただ、てゐだけは「まあしょうがないよね」と、唇を尖らせ、渋々ながらも納得している。

 要するに、今のは地霊殿の面子(メンツ)を考えての言葉なのだ。

 さとりの行動は彼女の影響力から様々な組織・集団に注目されている。

 特に今回はさとりと勇儀の迂闊な行動のせいで横島がさとりの男なのではないか、という噂が流れ、その後地霊殿で謎の爆発騒ぎ、直後行方不明になる横島、地上の妖怪が件の横島を捜索しに何人もやってくる……という、下世話な話が大好きな者達からすれば極上の話のタネが盛りだくさんだ。今も飲み屋等では一連の話を酒の肴に吞兵衛達が騒いでいるだろう。

 そんな中で発見された横島という男がさっさと地上に連れ戻されれば……さとり、ひいては地霊殿の面子はそれこそ丸潰れだ。最悪、下手をすれば地上と地底の友好関係に再び罅が入ってしまうことも考えられる。

 どこの世界にも特定の二者間の交流を良く思わない者が居る。()()()()()()()()しかり、()()()()()()しかり。

 故にレミリアは先の提案をし、さとりはそれをありがたく受け入れたのだ。きっと、そこにはレミリアなりの友情もあったのだろう。

 と、てゐは色々と分かっていない“恋人達”+αにこっそり事情を説明する。

 あまり大っぴらにする話でもなく、()()()()()()配慮が行き届いていると永琳も頷いている。“今”ではなく“後”であればより完璧だっただろうが、頬を膨らませたフランが何をするのか分かったものではないので、むしろこれが最善だったりする。

 

「ん……っと?」

 

 これまで布団の上で胡坐をかいていた横島だったが、ぐらりと上体が傾き、敷布団に手を突く。強烈な眠気が横島に襲い掛かっているのだ。

 

「あ……っ。レミリア、そろそろ横島さんが限界みたい。色々と話すことはあるだろうけど、今は休ませてあげないと」

「む、それもそうね。ほらアンタ達、横島が心配なのは分かるけど離れなさい。というか放してやんなさい。ほら、離れ────離れろっつってんでしょーが!!」

 

 レミリアは“恋人達”を一喝する。彼女達は横島の身体がぐらつくやいなや、すぐさまその身を支えようと全員が横島に抱き着いた。それはもはや抱き着くというより締め上げていると言っても過言ではない程の強さである。

 もう横島を放したくない────。その想いの強さが抱き着く力に変換され、強く強く締め上げてしまう。あっという間に横島の顔色が青白くなった。

 一人ひとりぺいぺいとレミリアに剥がされ、名残惜しそうに「あー」と鳴く。とにもかくにも横島の安全は確保された。

 

「とりあえず私は一旦席を外してもいいかい? ()()()も休ませてあげたいし、さ」

 

 良い感じに空気が弛緩したところで声を上げたのは勇儀だ。その傍らには俯き、顔を背け表情の読めないパルスィが居る。

 

「……まあ、私は構わんが」

「ええ、私もです」

 

 レミリアとさとりは短く答えた。今回の事件の黒幕であると言えるパルスィだが、彼女の心情を鑑みれば勇儀の言に頷かざるを得ない。特に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 話はまた後日聞けばいい。誰もがそう思う程に、パルスィは打ちひしがれていた。

 パルスィは勇儀に背を押され、ゆっくりと歩き出す。その足に力はなく、その身には気力がなく。ただその心の中には激しい嫉妬と、それを超える悲しみと罪悪感。

 誰もパルスィに声を掛けられない。声を掛けてどうしようというのか。誰もパルスィを引き留められない。引き留めて何が出来るというのか。ただ、何となく誰もが思う。こんな形で終わってほしくはないと。

 しかし、誰もどうすることも出来ないのもまた事実。今のパルスィを救える者が、この場に存在しているわけが────。

 

 

 

 

 

「────()()()()()()

 

 その声は静かに響いた。歩き去ろうとする少女の背に、届くように。

 

「────……」

 

 この部屋に、パルスィの耳に、何より心に。

 パルスィの歩みが止まる。いなくなってしまったはずだ。消えてしまったはずだ。有り得ない────その、はずなのだ。

 だが、自身を呼ぶ際の、()とは少し違うイントネーション。優しく、どこか甘えを含む声音。

 そして、()()()を呼ぶ時に込められる、想いの色は────。

 

「────っ、……」

 

 声は言葉にならずにただ消える。ゆっくりと、ゆっくりと顔を上げ、振り返った先。揺れる緑の瞳が見つめる先に。

 

「また、あなたに会いに来てもいいですか?」

 

 少女(パルスィ)が愛した────少女を愛した、少年の微笑みがあった。

 

「……」

 

 様々な想いが、言葉が頭を駆け回り、様々な感情が胸を締め付け、咄嗟に反応を返すことが出来ない。

 彼の……()()()の顔を見たいと思うのに、パルスィの視界はぼやけていく。

 何が起こったのかは分からない。だが、自らの心に浮かぶ、自身にとって都合の良い考えが正しいのだとしたら。

 

「……あなたは、本当に」

 

 声が震える。しかし、答えなければいけない。彼の言葉に。彼の想いに。

 伝えるべき言葉はたった一つ。返答としてはおかしなものだ。間違っていると言っても良いだろう。……しかし、パルスィと、()()と。二人だからこそ通じるものがある。

 

「────()()()()わね」

 

 その言葉にありったけの想いを乗せて。パルスィは横島から背を向け、今度こそ立ち止まらずに勇儀と共に部屋を後にする。儚くも、しかし美しい。微笑みの余韻をその場に残して。

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 パルスィが部屋を出た後、()()は首を傾げる。先のやり取りにやや呆然としていた皆は、何だ、と横島に注目する。

 

「俺って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 疲労で上手く働かない頭に顔を顰めながら、横島はそう呟いた。

 

「…………ははは」

 

 その言葉で、皆は察することが出来た。自然と笑みが零れだす。

 

「さすが横島、と言ったとこかしらね」

 

 皆の気持ちを代弁するかのようにレミリアがこぼす。無くなったはずの、消えてしまったはずのその想い。しかし、()の想いは今もなお横島の中に残り、生き続けている。

 ()もまた、紛れもなく横島忠夫なのだ。

 

 

 

 

「……」

 

 部屋を出たパルスィは俯いたまま黙って歩みを進める。それに続く勇儀もまた沈黙を貫いている。

 一歩、一歩と進むその足は次第にその速度を落としていく。

 一歩、呼吸が浅くなる。一歩、視界が歪む。一歩、身体が震える。一歩────歩みが止まる。

 

「……っ」

 

 ぽたり、と。あの時に流さなかった涙が一滴零れた。

 

「……、……っ!」

 

 それからはもう駄目だった。堪えることが出来ない。ぽろぽろ、ぽろぽろと涙がとめどなく溢れてしまう。

 

「────っ、の、こって、た……!」

「……」

 

 勇儀はただ黙って耳を傾ける。

 

「あの……人、の、中に……っ! あ、の、子が……! ()()()()……っ、()()()()……!」

「……ああ」

 

 (くずお)れそうになるパルスィの身体を勇儀が支える。手から伝わるパルスィの身体の熱。それはつい先程までとは違い、確かな気力を感じさせる。

 事情を全て知っているわけではない。それでも()()がパルスィとの日々を、想いを覚えていないだろうと聞かされていた。だが、欠片とは言えそれは確かに横島の中に残っていた。

 

「……大した奴だよ、本当に」

 

 誰にも聞こえないような声量で、勇儀は呟いた。とめどなく涙を流し嗚咽する友人(パルスィ)。この涙が悲しみの物で終わらなくてよかった。歓喜の涙となってくれた。改めて勇儀は横島に感謝の念を抱く。

 

「さ、行こう。今はとにかく身体を休ませないとだからね」

 

 勇儀はパルスィを支え、ゆっくり、ゆっくりと、その背を押して歩き出させる。ここで止まってはいけない。例えゆっくりとでも歩み出さなければならない。それは一つのけじめであり、区切りでもある。

 この歩みの先にはきっと、パルスィの望む未来と繋がっているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

第九十三話

『消えた後に残る物』

~了~




お疲れ様でした。

パルスィさんは何とか救われた感じですね。
これ以降横島はパルスィと会う時は雰囲気がほわっとした感じになります。
パルスィをさん付けし、近くに居たがり、少し甘えるようになります。
アレな表現をするならば子供(ショタ)っぽくなる感じです。

諏訪子様「……っ!!」ガタッ
神奈子様「座りなさい」
早苗さん「諏訪子様……?」


ちょっとずつ調子を戻してちゃんと投稿していけるようにしたいですね。
それではまた次回。
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