東方煩悩漢   作:タナボルタ

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お待たせいたしました。

今回はこいしちゃんのお話です。
智霊奇伝のこいしちゃんが思ってたよりアクティブで驚きました

煩悩漢のキャラはみんなネガティブ気質ですね……

それではまたあとがきで


第九十四話『ながいながい贖罪の始まり』

 

 あれから一眠りして目が覚めた横島は身体を休めていた。

 あの時の横島からすれば何故か数日間程記憶が飛んでいたり、なぜか恋人達が居たり、なぜか紅魔館の主要メンバーが揃っていたり、何か身体の調子が悪かったりというよく分からない状況だったので現状の把握もままならなかったのだが、それはそれとしてレミリア達が居るのだからととりあえずいつも通り執事として働こうと“こんなこともあろうかと”持ってきていた執事服に着替える横島。

 そんな彼に永琳や鈴仙から「何もせずちゃんと休みなさい」と圧を掛けられたので、とりあえず今は大人しくしている。

 さとりからも「地霊殿では執事として振る舞わないでいいんですよ」と言われてしまい、横島は何となく居心地が悪くなりながらも言うとおりに過ごすことにする。その様子にレミリアからは呆れられたような溜め息を吐かれ、ちょっとショックを受けた。

 話があるから少し待て、と言われて一人寂しくお部屋で待機。室内にはさとりのペット達も居らず、ハシビロコウさんとのにらめっこ対決の決着も付けられない。何もしないと身体がそわそわむずむずとして気分が落ち着かず、誰もいない部屋でロングソファーに背を預けながら、横島は落ち着かないと息を吐いた。

 

 

 

 

 

第九十四話

『ながいながい贖罪の始まり』

 

 

 

 

 

「うーん、これがあの横島さんとは。人間変われば変わるものなのねー」

「いや、俺は元々けっこう働き者な好青年だぞ?」

「えー? ……あー、言われてみれば確かにそうかもなのね」

 

 ヒャクメの言葉に横島が不服そうに返す。それを受けて元の世界での横島の普段の様子を思い返すヒャクメだが、確かに彼は働き者であったと納得した。

 時給が安い、更には下心を満たすためという理由からであったが、それを抜きにしても横島の美神への奉仕っぷりは中々に見事なものだった。

 ついでに言えばスパイとして逆天号に潜り込んだ時にも素晴らしい丁稚ぶりを発揮している。

 やはり横島にとって“誰かに仕える”ことが天職なのではないか。……女性限定であろうし、色々と目を瞑らなければいけない事柄もそれなりにあるのは間違いないが。

 

「………………」

「………………」

「……ん? ……ヒャクメ? ……ヒャクメっ!? なんっ、何でおまっ!? お前がここに!? え!? ここって幻想郷じゃないの!? 幻想郷だろここ!!?」

「やっっっと気付いてくれたと思ったら大混乱なのねー」

 

 ようやく今になってヒャクメの存在に気付いた横島は二度見どころか三度見をして勢い余って転んでしまう。そんな横島を見てヒャクメは笑った。今まで気付かずに放置してくれた罰なのだ。

 

「まあ私のことは後で纏めて説明するから、今は置いておくのね」

「いやお前そんな置いとけと言われても無理だっての!! 色々と……色々とこう……あるだろ!! あるだろ色々と!!?」

「うん、それはそうなんだけど……まずはあの子の話を聞いてあげて?」

「あぁん!?」

 

 鬼気迫る勢いで詰め寄る横島を宥めつつ、ヒャクメはドアの隙間から部屋の中の様子を覗いている()()()()()を指差す。さすがに今の心理状況では余裕の欠片も無く、横島は思い切りその少女を睨み付けた。

 

「……っ!」

「……んー?」

 

 果たして、そこに居たのは緑の少女、こいしであった。横島から睨まれたこいしは肩をビクリと跳ねさせ、身体を震わせながらも目は逸らさない。()()()()()()()()()

 対する横島は首を傾げ、たっぷり数秒間考え込むと、やがて答えに行き着いたのか右手を左掌にぽんと打ち付ける。

 

「思い出した。さとりちゃんの妹のこいしちゃんだ」

「う、うん。そうだよ」

 

 先程のような剣呑な眼差しではなく、一気に柔らかなものへと変わる。だがそれも束の間、横島は再び首を傾げる。

 

「……で、話ってのは?」

「……っ」

 

 横島の疑問にこいしは肩を震わせる。一瞬目を伏せ、今度は目を閉じつつも天井を見上げ、大きく深呼吸する。やがて目を開けると、横島に対して頭を下げた。

 

「ごめんなさい!!」

「……!?」

 

 突然の謝罪に横島は驚く。なぜいきなり謝られたのか()()()()()()()

 

「私が……私が、横島さんの無意識を開放して、それで……横島さんに、横島さんにもひどいことをしちゃって……!!」

「……」

 

 こいしの言葉に横島の目が細められる。場に満ちる“圧”が強くなり、沈黙が舞い降りる。

 

「ひどいこと……か」

「……! ご、ごめんなさい! 謝って許されることじゃないけど……でも、私は……」

 

 こいしは必死に頭を下げ、言葉を重ねる。それしか出来ない。それしか分からない。これが、初めての心からの償いだからだ。

 こいしは無意識を操る能力に目覚めてからこれまで、一度も悔いることはなかった。何をしようと、何をされようと後悔など何もなかった。そのような機能(じょうちょ)など、無意識を操る自分には不要だったからだ。

 ただ思うままに、気ままに。心のままに為したいことを為す毎日。意識的でなく、無意識にそう行動する。

 

 ()()()()()()()()()

 

 今回は意識的に善行を為そうとした。自らの意思で、これが正しい行いなのだと思い込んで行動に移した。

 

 ────それが、間違っていた。

 

 正しいと思っていた。善行だと思っていた。だから……間違っていたら、失敗したら、そういった想定などあるわけがなかった。

 

「……こいしちゃん」

「……う、うん」

 

 少し前までのこいしならばこの様な想いは抱かなかっただろう。だが、今のこいしは以前と違っていた。

 多くの者と知り合い、触れ合った。友と呼べる者が出来た。────たとえ心からの目標でなくとも、為してみたいと思えるものが出来た。それを教えてくれた者がいた。

 ────今のこいしは、『眼』を閉じる以前のこいしに戻ってきている。否、更に成長していると言っても過言ではない。

 人の想い。感情。────心。それらを理解出来るようになった。慮れるようになった。

 

 ────故に。

 

「……ごめん、覚えてない」

「………………え?」

 

 ────故にこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いや、それが何かここ何日かの記憶がごっそり抜け落ちててな。こいしちゃんと話をしたのは覚えてるんだけど、気が付いたら寝てたというか、そんな感覚なんだよな。妹紅たちが言うには俺が記憶喪失になってたとか、精神世界に入ってなんやかんやして記憶を呼び覚ましたとからしいんだけどなーんにも覚えてなくて……」

「……」

 

 申し訳なさそうに頭を掻きつつ、横島はそう言った。こいしはそれを聞いて大きく目を見開いて呆然とする。そして、次に告げられた言葉によって、彼女の胸に例えようのない痛みが走ることになる。

 

「だからまあ何というか、()()()()()()()と言うか……」

「……っ!」

 

 胸にずしりと圧し掛かる“何か”。内臓が凍えるかのような冷たさ。こいしは身体が震え、徐々に顔を俯かせていく。身体はこんなにも冷たいというのに、心臓の鼓動だけは熱く、急激に血を全身に巡らせている。

 どくん、どくんと高鳴る鼓動。半面凍えゆく身体。それは、こいしの心が齎した異常であった。

 

「こいしちゃん?」

「……」

 

 横島の言葉にこいしは反応できない。ヒャクメはそんな二人を見つつ、静かに息を吐く。

 

「……」

 

 ヒャクメはそっと横島の心を走査(スキャン)する。少し前までの彼ならば出来なかった読心も、今は何の抵抗もなく受け入れてくれる。それの何と喜ばしいことか。ようやく昔のような仲に戻れたようで、胸が熱くなる。

 だが、横島の心を読み切り、ヒャクメの表情は少しばかり曇ることとなる。

 

 ────やっぱり、横島さんの影法師(シャドウ)が変化してるのね。レミリアさんたちの情報と照らし合わせれば……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かしら。

 

 ヒャクメの眼は高島の存在すらも横島の現在の心から読み取った。そして出した結論がこうだ。『高島が消えたことによって己の闇を自覚する原因と過程の記憶が消えてしまい、闇を自覚したという結果だけが残ってしまった』のだと。

 影法師とは己を構成する要素の一つ。あの時こいしの能力で横島が見たルシオラ(よこしま)は影法師である高島だった。その高島が居なくなってしまったことによって切っ掛けに当たる部分が認識出来なくなってしまったのだ。

 それは横島の精神が崩壊しないようにするための防御機構。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ────横島の壊れかけた心は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 それは、今のこいしにとって何と残酷な罰だろうか。他人の心を肯定的に見れるようになり、いざ罪を裁かれようとした矢先────こいしの罪は永遠に許される機会を失ってしまったのだ。

 仮に今の横島がこいしの罪を聞き、それを許したとしてもそれは横島の経験の中にはなく、ただ空ろな言葉となるだろう。それでは何の意味もありはしない。

 

「え……と、大丈夫か?」

「……うん。私は大丈夫だよ、横島さん」

 

 明らかに様子のおかしくなったこいしを気遣う横島だが、今のこいしにとってそれこそが更に彼女を追い詰める行為となってしまう。そう、こんなにも優しい男の人を自分はあれほどまでに追い込んでしまったのだと。

 こいしの胸に去来する様々な感情。痛み、苦しみ、悲しみ、後悔、慚愧……色々な物がないまぜとなった重く巨大な物。それにあえて名を付けるならば、もっとも近しい物はそれこそ“罪悪感”であろうか。

 こいしはそれと生涯向き合っていくことになる。向き合っていかなければならない。罪を犯すということ。罪を償うということ。それを得られる機会。失われる機会。

 生きるということは罪を犯すこと、許されること。生きるということは罪を犯されるということ、許しを与えること。

 しかし罪を犯され、犯し、許さず、許されない。それもまた生きるということ。こいしはそれを心に刻み込んだ。それを自覚した今こそ、こいしという少女の生は再び産声を上げたと言える。

 これからの永い生を、許す許されないに関わらず、それらを背負って歩んでいく。その果てにある答えは、それこそ()()()()にて告げられるだろう。その時に後悔のないように今を生きていく。

 だから、これはけじめであり始まり。こいしはもう一度横島に頭を下げる。

 

「本当はもっと話していたいんだけど、迷惑になりそうだしそろそろお暇するね」

「ああ、何かこう悪いな……って言う方が悪いか?」

「ふふ、変なの」

 

 互いに苦笑ではあるが、横島とこいしは笑い合う。いつかは腹の底から笑い合えるような未来を夢見て、こいしは部屋から去ってゆく。帰り際にヒャクメにもぺこりと頭を下げ、こいしは為すべきことを為しに動く。

 

「……これから大変そうね」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん。何もないのね」

 

 

 

 

 こいしは地上へと向かう。それは自己満足だろう。認識されているはずがない。覚えられているはずがない。それでも、行動に移さなければいけないような気がして、こいしは地上を目指す。

 自分によって無意識を引き出されて、知らぬままに現状を受け入れざるを得ない人たちの元に。

 善かれ悪しかれ、そこに彼らの意思は介在していなかった。秘めたる意思を暴かれ、それを認識できないままにあった。

 だから、謝罪をする。それが誠実だと思ったから。

 

「……前の私は、ううん。今までとこれからも、かな。きっと善行だとか徳を積むとか全然分かってなかったんだよね」

 

 何が善で何が悪かは立場によって姿を変える。だからこそ自分なりの確固たる意志が必要なのだ。こいしにはそれが無かった。あまりにも無さすぎた。

 胸に宿る痛み。それがこいしの意思に形と中身を与えてくれた。

 

「……まずは白蓮かな。ちょっと怖いけど……何もしないことの方がきっと怖いもんね」

 

 白蓮に今まで自分が行ってきた罪を告白し、考えなしに動いたことを謝ろう。それがこいしの第一歩。ふわふわとした足取りではなく、地に足を付けた、しっかりとした足取りで。

 こいしはながいながい贖罪の(みち)を、一歩一歩進み続ける。

 

 

 

 

 

第九十四話

『ながいながい贖罪の始まり』

~了~

 

 




お疲れ様でした。

正直こいしちゃんの話を入れるかは迷ってましたが禊は必要かなと思いまして……禊になってるかはちょっと分かりませんが

次回はヒャクメからみんなへの説明、そしてGS世界の話でしょうか。



ちょっと試しにオリジナル作品も投稿します。
『低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記』という作品です。ちょっとでも気になったのなら覗いてみてください。
煩悩漢すら終わってないのにまた増やすの!? ……はい、すいません。
今出しとかないと精神的にちょっとアレな感じになっちゃいそうでして……

それではまた次回。
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