ブルアカ二次短編集   作:朱汰清家

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ミカ
先生と一緒に幸せな時間を過ごすミカの話


 コツコツと歩く音がシャーレの廊下に響く。桃色の髪が流れるように揺れる。

 歩幅は少しずつだが次第に大きくなって、歩速も同じように速くなっていく。

 彼女、聖園ミカは今楽しそうに歩いていた。いや、これからの楽しみが待ちきれないのほうが正しい。

 左手に持った紙袋からは甘い香りがほのかに漂って、廊下に置き去りにされていく。

 オフィスまであと少しというところで一度足を止める。廊下の窓に近づき自身の姿を確認し、右手で少し乱れた髪を整える。

「……よしっ」

 オフィスの扉まで近づき、一度深呼吸をしてから手をかける。

「やっほー☆ 久しぶり先生……ってあれ」

 元気よく入った先で見たのは机に突っ伏して寝ている先生だった。

「あらら、まさか寝ているとは……」

 足音を立てないように隣まで近づき、先生の寝顔を眺める。

 普段優しそうな雰囲気を出しながらも、どこかスキがない印象をおぼえていた。けれど、今はちょっと間抜け面をさらしながら寝ている先生を見て可愛いなぁと思う。

 右手をゆっくりと先生に向けて伸ばす。親指と人差し指で先生の髪を少しだけつまみ、指の腹でゆっくりと転がすようにこする。

「ふふっ」

 自然と笑みがこぼれる。髪から手をはなし、人差し指を先生の頬にあて、ぷにぷにと何回か押したりする。

「……んんぅ」

「!?」

 顔をしかめながら先生が唸る。起こしてしまったかと思いとっさに手を引いて様子を見る。

「…………すぅ」

 寝息を立てる先生を見て安堵する。

「せっかく気持ちよさそうに寝ているのに起こしちゃうのは気がひけるなぁ。……でも、あんまり時間もないし……」

 頭を悩ませる。自由にしていられる時間は一時間もない。

「んー。このまま先生の寝顔を眺めているのもいいけど……やっぱり先生とお話ししたいっ」

 肩をつかみ軽く揺らす。

「先生。起きて先生っ」

「んんんぅーー。あと十分……」

「もー、早く起きないと」

 先生の耳の近くまで近づき、ささやく。

「……イタズラ、しちゃうぞっ☆」

「ッ!!!?」

 ビクンと先生の体が反応する。ガバッと頭をあげ、あたりをキョロキョロと見まわし視線が合う。

「ミ、ミカッ!? いつの間に!?」

「おはよー先生。来ちゃった♪」

「いやまあ、別にいいんだけど。連絡ぐらい…………え!? なんでいるの!?」

 寝起きであまり状況がうまく把握できないのか、少し遅れて反応する。

 そんな先生を見ていたずら心がわいてくる。

「抜け出してきちゃった☆」

 そういうとアワアワし出す先生。

「と、とりあえずナギサに連絡して、迎えに来てもらわないと……」

「じょーだん、じょーだんだって先生」

「そ、そうなの。でもなんでここに?」

「ナギちゃんに頼んで、少しだけ時間をもらったんだ。先生に会いたかったから。あっ、お土産もあるよ」

 左手に持った紙袋を胸のあたりまで上げる。

「そっか。それじゃあ時間まで一緒にいようか」

 先生は微笑みながら立ち上がる。

「とりあえず向こうのソファーに座ろうか」

 壁際にある三人用のソファーに促してくる。ソファーに二人で座りローテーブルに持ってきた紙袋を置く。

「それで、その中身は何なの?」

「ロールケーキ」

 紙袋から新聞紙に包まれたお皿とフォークを二つずつ取り出しテーブルの上に置き、同じように紙箱を取り出し、ラップに包まれたロールケーキをお皿の上にのせる。

「おいしそうでしょ」

「確かにおいしそうだね。でもなんでロールケーキ?」

「実は、ここ最近ロールケーキしか食べられなくてちょっと嫌いになりかけてるんだよね。でも先生と一緒に食べたらまたおいしく食べられるんじゃないかなって思って」

「そっか。それじゃあ、一緒に食べようか。飲み物持ってくるからちょっと待ってて」

 先生は立ち上がり部屋の隅にある冷蔵庫から二本のペットボトルを取り出す。

「ほら、アフタヌーンティー」

 そういって右手に持ったペットボトルを差し出してくる。受け取ると微笑みながら隣に座る。ほんの少し空いた距離がもどかしいと感じる。

「それじゃあ食べよっか。いただきます」

 手を合わせ、目を閉じ、祈るようにゆっくりと頭を下げる先生。とてもきれいで穏やかな横顔に見惚れ、少しほうける。

 頭と目蓋が連動するかのようにゆっくりと上がっていく。開かれていく目に光が入り込み、キラキラと光る。

「ん? どうしたの?」

「えっ! ううんなんでもない! いただきます!」

 慌てて顔を戻し同じように手を合わせる。

 いそいそとフォークを手に持ち、一口大に切って口に運ぶ。

 ちらりと横目で見れば先生も同じように一口大に切って口へ運んでいた。唇からするりとフォークの先端が出て、顎が動く。何度か咀嚼し、のどが鳴る。

「うん、とても美味しいね」

 微笑みながら語りかけてくる先生。そのやわらかな表情にドキッとするが、不自然にならないように言葉を返す。

「そうでしょー。ナギちゃんが言うにはこのキヴォトスで最高級のロールケーキらしいよ」

「そっか、それは美味しいはずだね」

「でも、ナギちゃんったらいっつもここのロールケーキしか食べさせてくれないんだよね。味とかは変えてくれたりするけどさ。さすがに全種類食べ飽きちゃったよ」

「ふふっ」

 右手で口元を抑え、かるく笑う先生。

「ナギサはミカのことを本当に大切に思ってるんだね」

「……なんでそう思うの?」

「だって、少しでも美味しいロールケーキを食べさせたいってことでしょ。ミカもそれはわかっているんじゃない?」

「……さすがに先生ならわかるか。そうだね、その通り。私が昔好きだって言ったロールケーキがこれなんだ」

 すこし顔を俯かせ、ロールケーキを見る。ナギちゃんと一緒に一か月の予約を待って初めて食べたロールケーキ。そのとき食べた味はずっと忘れられない思い出になった。

「でもさー、だからってずっとはないよ。さすがに他のものを食べたーい」

 ふてくされながら届かない抗議をする。

「ナギサには言ってみたの?」

「言ったよー。でも、まだダメだってさー」

「それじゃあ我慢するしかないね」

「先生もナギちゃんの味方するのー?」

「私は生徒みんなの味方だからね。だから……」

 先生は立ち上がり冷蔵庫に向かい、中をあさる。そこから何かを取り出し、それをミカに差し出す。

「当然ミカの味方でもあるよ」

 ナギサには内緒にねと声を潜めて言う。

 ミカが受け取ったものはコンビニで売ってるようなゼリーだった。

「いいの?」

「ここはトリニティじゃないからね。少しぐらいは大丈夫だよ」

 久しぶりに食べれるロールケーキ以外のものに心がおどる。

「ありがとっ、先生!」

 それから先生との話を食事と一緒に楽しみながら時が過ぎていく。先生と一緒にいる時間は心が温かくなり、時間や学校、すべてのしがらみを忘れ、話が弾む。

 このまま、この時間がずっと続けばいいのに、そう心の片隅で思う。

 けれど、そんなことにはならず、終わりの時間がやってくる。

 ピピピとスマホからアラームが鳴る。

「ありゃ、もう時間か」

 スマホを取り出し、アラームを止める。先生と一緒にいられる一時間が終わってしまったことに心寂しさをおぼえる。けれど、立場上帰らなければいけない。

「送っていこうか?」

 先生のその一言で心が弾む。

 まだ一緒にいられる。

 まだ先生とお話しすることが出来る。

 うん、と言おうとしたが実際に出てきたのは違う言葉だった。

「ううん、大丈夫。先生だってほかに仕事があるでしょ」

「確かにあるけど、急ぎのものじゃないし」

「それに、私はこうやって先生と一緒にいられただけで満足だから♪」

「それなら、いいんだけど……」

 どこかしぶしぶといった顔で引く先生。

 確かにまだ一緒にいられるなら一緒にいたい。けれど、私がこれ以上の幸せを望むことはまだできない。

 だって、私はまだ私を許せていない。

 独りで暴走して、みんなに迷惑をかけて、そんな私がめいいっぱいのしあわせを得ることを私は許せない。

 そんなことを思いながらソファーから立ち上がり、オフィスから出ていこうとする。

 ドアを開けた時、後ろから先生の声が聞こえた。

「ミカ、また来てね。私はいつでも待っているから」

 振り向き、めいいっぱいの笑顔を浮かべながらお別れの挨拶をする。

「うん♪ また来るね先生」

 オフィスから出て、どこか急ぎ足で建物の外に出る。

 一度振り返り、さっきまで先生と一緒にいたオフィスの窓を見る。

 そこには笑顔で手を振る先生がいた。

 返すように大きく手を振り、またねと大きな声を出す。

 届くはずのない声。けれど先生は口を動かした。

 なんて言ったのかは耳に届くことはなかったが、けれどなんとなく先生が言った言葉はわかった。

 名残惜しさを感じながらシャーレを背にし、トリニティへと歩みを進める。

「次に先生に会えるのはいつになるのかな……」

 小さくつぶやいた言葉は誰の耳にも届くことはなく消えていった。




最初だけです。
最初の数話だけなんです。
内容がアキラの短編集に変わったらもうずっとアキラしか書いてません。
しょうがないよね。
アキラに心奪われちゃったんだもん。
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