深夜、月明かりに照らされた大路。シャーレの先生は仕事の山を現実逃避して散策していた。
夏も終わりを告げるころのため、あたりの草むらからコオロギの合唱が聞こえる。
人気はなく、道も普段から歩かれている形跡もない。
しばらく歩いていると遠くに大きな家の影が見えてきた。
気になって近づいてみると、急に足元が崩れた。
「うおっ!」
地面に落下するが、たいした痛みはない。
「――いてて。びっくりした。こんなところに落とし穴があるなんて」
見てみると落とし穴の中にはやわらかな素材が所狭しと散らばっていた。
「それにしても、結構深い穴だね」
おまけに壁につかめそうなものもなく上ることは困難だと結論づける。
「誰かに助けに来てもらおうか」
タブレットからモモトークを開き、だれに連絡すべきかと悩んでいると足音が聞こえた。
「おや、先生でしたか」
落とし穴の上からこちらを覗き込んでいたのは清澄アキラだった。
「やっ、アキラ。ちょうどいいところに。落とし穴から出るの手伝ってくれない?」
「ええ、もちろん」
アキラの手を借りて落とし穴から脱出する。パッパッと服についた汚れを手で払い落し身だしなみを整える。
「それにしてもアキラ、どうしてここにいたの?」
「どうしてといわれましても、そこにある家は私のセーフハウスの一つですので」
「そうだったんだ」
「ここで話をするのもなんなので、どうぞこちらに」
アキラの後を追い、セーフハウスへと入る。
中は綺麗に片づけられており、家具などもそれなりに揃っているため十分暮らしていけそうな雰囲気だった。
「さぁ先生、そちらのソファーにお掛けになっていてください」
そういうとアキラはキッチンへと向かい、なにやら準備を始めた。
ソファーに座ると体全体を包まれるかのようなやわらかな感触に包まれる。
芳醇な香りが漂ってきた。どうやら紅茶を入れてくれているようだった。
しばらく待つとアキラが二つのティーカップを持ってきた。
「どうぞ先生。お口に合えばいいのですが……」
目の前のテーブルにコトリと二つ分の小さな音を立てて置き、隣へ座ってくる。
ティーカップを手に持ち口元へと運ぶ。
「……うん。とても美味しいよ」
「それはよかった」
もう一度口へ運ぶ。口の中に広がるまろやかな味を堪能する。
「それで、先生はどうしてこんなところまで……?」
「散歩をしててね。当てもなく歩いていたらいつの間にかって感じかな」
「それはそれは。この場所は本来迷い込むことすら難しいほど隠された場所だというのに」
「普段はここで生活しているの?」
「いえ、基本的にどこかにとどまったりはしていないのですが……そうですね、しばらくはここで生活するといたしましょうか。いつ先生が来てもいいように」
「そっか、それじゃあたまに遊びに来るよ」
「ええ。お待ちしております。……いつでも、どんな時でも」
アキラが妖しく微笑む。それから逃れるように紅茶を飲み干す。
「そういえば、先生。美術品を観ていかれますか?」
「いいのかい? 私はあまり美術品には詳しくないんだけれども……」
「先生になら、是非」
「そういうことなら見学させてもらおうかな」
その後、アキラの解説を聞きながらいくつかの美術品を観て回った。
いやはや、まさかアリウス編の続きが来るとは。
突然でびっくりしましたね。
それにそろそろ完結しそうな雰囲気も出てますし。
アリウスの子たちがどんな結末を迎えるのか、とても楽しみですね。