初めて知りました
(どうしよう、どうしようどうしようっ!)
彼女、聖園ミカは現状に困惑していた。
(今先生は無防備で、でもさすがに寝込みを襲うようなこと……てっ何考えてるの私は!)
目の前に見える先生の顔に思考がまとまらない。
すこしでも動けば唇同士がふれてしまえるぐらいの至近距離に動揺し興奮し焦っていた。
しかも、先生は今寝ていて現状に気づいていない。
けれど最大のチャンスでありながらも何も行動することが出来ずにいる恋する乙女。
(うぅ、心臓がバクバクいってる。そもそもなんでこんなことに……)
それは彼女が仮眠室で先生が寝ているのを見つけ衝動的に隣にもぐりこんだからであるが、そんなことすら思い出せないくらいに頭がいっぱいいっぱいだった。
「……ぅうん」
「……!」
ゆっくりと先生の目蓋が開いていく。
「……あれぇ、みかだぁ……」
完全に目が覚めていないのか、ふんわりとした声でしゃべる。
「……やっぱりみかは、かわいいなぁ……」
(いま! かわいいって! 先生が私のこと可愛いって!!)
うれしさや恥ずかしさで顔を真っ赤に染めるミカ。
「ふふ、おいで」
両手でミカの頭を自分の胸へ抱き寄せる先生。
「あ、え、ちょっと先生!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ……すぅ」
ミカを胸に抱いたまま再び穏やかに眠る先生。
対してミカはこれ以上ないほどに心が乱れていた。
寝起きでふにゃふにゃな笑顔の先生が可愛いと言ってくれて胸に抱き寄せられ、あまりにも多い幸せ情報にアワアワとすることしかできない。
「あぅ……」
とくん、とくん、と正確なリズムをきざむ先生の鼓動。そして、あたたかな先生のぬくもりに包まれて思考が止まったミカはいつしか安心感と多幸感が体を満たし、目蓋が重くなってくる。
このままではだめだと思いつつも、逆らうことのできない多量の感情に流され眠りにつく。
すぅ、すぅ、と二人分の寝息が混ざり合うように仮眠室の中にとけていく。
ちなみに、二人で寝ているところを複数人に目撃され、大きな騒ぎになった。そして騒ぎが収まった後、先生が仮眠室で寝て起きるといつの間にか生徒が一緒に寝ていることが増えたそうだが、それはまた別のお話。
「先生、なにをしていらっしゃるのですか?」
シャーレのオフィスでいそいそと何かの準備をしている先生の背中にアキラは問いかける。
「あれ、アキラ。来てたんだ。おはよう」
「おはようございます。先生」
アキラの方へ振り返った先生の手には鬼のお面があった。
「あぁ、なるほど。節分の準備ですか」
「うん。こういった行事は楽しんでこそだからね」
先生はルンルン気分で準備を進める。
「アキラ、これ受け取って」
先生は豆が入った枡を手渡す。
「豆まき用の豆ですか」
「そう。私が鬼をやるからアキラは悪い鬼さんを退治するんだ」
「……え」
そういって先生は鬼のお面をかぶり、いかにもな悪い鬼の動きをまねる。
「悪い子はいねぇがぁーーーー!!!!」
アキラはいきなりの事に困惑する。急に鬼を退治しろだとか、そもそも先生に何かを投げつけるなんてことをしたくもない、と。
「ぐぉぉおおおーーーーーッッッ!!!」
けれどそんなことはお構いなしと先生が大股で歩み寄ってくる。
どうしようかとアキラは思考を回し、笑みをこぼす。
「なるほど、とても恐ろしい怪物です。私では勝てそうにもありません」
「……え?」
「ですので、私もろともこの怪物を退治するとしましょう」
「…………え?」
流れるような動作で先生の背後に回り抱き着くアキラ。
「つかまえました。これでもう逃げられませんね」
「あの、アキラさん……?」
アキラは自分の体を押し付けるように背伸びをし、先生の耳元まで口元を持っていきささやく。
「――おにはーそと」
「ッ!?」
先生の耳にアキラの吐息がかかりくすぐったそうに身をよじる。
瞬間、先生の頭上から豆が一気に襲ってくる。何だと思い上を見るとそこには下を向き空になった枡があった。
首をひねりアキラのほうを向けばアキラの髪や肩にも豆があった。
「……何やってるのアキラ?」
「二人で一緒に豆をかぶる。ライスシャワーならぬダイズシャワーですね」
「……本当に何言ってるの?」
この後、大勢の生徒たちと節分を楽しんだ。
どうしてドスケベキャスパリーグが実装されないんですか(血涙)