「……仕事中失礼いたします、先生。少々シャーレで涼んでいってもよろしいでしょうか?」
シャーレのオフィスで仕事をしているとアキラが部屋にはいってきた。
「やぁ、久しぶりだねアキラ。全然かまわないよ。外は暑かったでしょ」
席から立ち上がり冷蔵庫から冷えた飲み物を取り出す。
「はい、ただの水だけど」
「ありがとうございます」
こくこくと小さなのどを揺らしながら水を流し込む。数滴の汗が頬をつたい、顎の先からポツンと落ちる。
キラキラと輝く薄桃色の髪が喉を鳴らすたびにかすかに揺らめいてどことなく幻想的に見える。
アキラがペットボトルから口をはなし、一息ついたところで少し疑問に思ったことを聞いてみた。
「その恰好、暑くない? 大丈夫?」
「ご心配ありがとうございます。ですがご安心を。この服は夏服用に薄い素材でできていますので」
確かによく見てみると、ところどころが少し透けて見えた。
「とはいえ、さすがに暑いことは暑いのですけれど……」
「それはまあ、そうだよね」
「それに私、少々肌が弱くて。あまり肌を紫外線にさらすわけにはいかなくて……」
少々困ったように身じろぎをする。
「そのせいで汗をかいてもなかなかぬぐうことはできませんし……」
「もしよかったらシャーレでシャワーを浴びていってもいいよ」
「本当ですか! 助かります。いくら対策していても臭いはやっぱり気になってしまうので……」
「におい? そんなに悪いにおいはしないけど」
顔を近づけて鼻を動かす。鼻腔を通り抜けるのは鮮やかでいい匂い。
「――なっ!?」
「うん。とてもいい匂いだ」
顔を真っ赤に染めて勢いよくあとずさり、口をパクパクとさせてなにかを言おうとしているがなかなかそれが出てこない。
「タオルとかシャンプーとか、あるもの全部自由に使っていいよ」
朗らかな笑顔を浮かべつたえる。アキラは数秒その場で固まり、「失礼しますッ!」と言って慌ててオフィスを飛び出していった。
後日談になるがそれからアキラはシャーレのシャワーを使うようになり、別の生徒と鉢合わせて少々騒ぎになるがそれはまた別のお話。
「こんな時間に呼び出してしまい申し訳ありません、先生」
夜9時、アキラからの連絡があり先生はとある建物に来ていた。そこはホテルの一室で、明かりはついておらず、窓から入ってくる少ない光だけが部屋をてらしていた。窓からはD.U.が見下ろせ、夜景がきらめいて見える。そんな夜景を背景に立っているアキラの顔はあまりよく見えない。
「大丈夫だよ。それで、どうしたの?」
「是非とも先生に受け取ってほしいものがございまして」
後ろに回していた手を前に出し、持っていたものを差し出してくる。きれいに梱包された小さな包み。
「これを、受け取ってほしいのです」
先生はその小包を受け取る。それはあたたかなぬくもりがほんのり残っており、近くで見ると少ししわができていた。
「今日が何の日かは、先生ならご存じですよね」
「バレンタインだよね」
「先生はバレンタインにチョコを送る意味も当然理解しておりますね」
「……」
「チョコという甘いお菓子に自分の思いを包み、相手へと送る。無論、友チョコや義理チョコなど感謝をつたえるような思いもあります」
数秒、お互いその場で立ち尽くしながら見つめ合う沈黙が続いた。暗がりのせいで相手の顔ははっきり見えなかったがさっきまでと比べどこか明るく見える。
「先生はこのチョコにどんな意味が込められていると思いますか?」
「それは……」
「先生が思い浮かべた意味が、そのチョコには込められています」
じっと小包を見つめ、一度目を伏せる。軽く息を吸い、吐き出す。目を開け、いつも通りの笑顔を浮かべながら感謝の言葉をつげる。
「ありがとうねアキラ。おいしく食べさせてもらうよ」
その笑顔をアキラはうれしいような悲しいような、複雑な表情で見つめた。
「……えぇ。ありがとうございます」
「今食べてもいいかな?」
「いえ、シャーレに戻ってから召し上がってください」
「わかったよ、感想は今度会ったときにつたえるね」
先生はシャーレに戻り、丁寧に包みを開けてチョコを食べる。
アキラがくれたチョコはとろけるように甘く、おいしくいただいた。
ビナー君の総力戦Lunaticでもチナトロからはじき出されてるのマジで笑う。
え? マジ?
いくら何でも激戦過ぎない?