夜が更けた部屋の中。電灯はついておらず、窓からうっすらと差し込む月明かりとスマホの画面が仄かに部屋を照らす。
スマホを枕の上に置き、両手で顔を支えながらベッドに寝転がる一人の女の子。
彼女の名は聖園ミカ。一応ティーパーティーのメンバーではあるが、ある事件をきっかけにその称号を剝奪された者。
目に見えて亀裂等が入っているわけではないが、屋根裏部屋ということもあり、この部屋はとても、良く言って素朴。言葉をとりつくろわないのなら、とてもボロい。そのせいかかすかな光に照らされ、それなりに飾りつけされているが少々気味が悪い。
ただ、部屋としてみたらそう見えるだけ。場違いなほど可憐で見目麗しい彼女がいるだけで、この部屋がどことなく神聖さを帯びているように思える。
ただそこにいるだけで放たれる強烈な存在感を持つ彼女は、足をパタパタさせ、どことなく落ち着かない様子だった。
それもそのはず、今日は5月7日の深夜。あと数分で5月8日になる。その日は聖園ミカの誕生日なのだ。
彼女のスマホにはモモトークが表示されている。ナギサ、セイア……そして、先生。彼女のモモトークにはその三人のトーク履歴しか残っていない。
はっきり言って彼女には友だちが全くいない。一応あの事件が起きる前はそれなりの数がいたが、あの事件を境に彼女のモモトークには連絡がぱたりと来なくなった。
むろんミカもこのことは当然だと思っている。が、それはそれとして、正直言ってあの三人以外のモモトークはどうでもいいやと思いすべて削除した。
故に彼女は三人からのモモトークを待っている。来るなんて確証はない。去年だって直接は祝われたがモモトークにメッセージは来なかった。
今年もナギサとセイアとは学校で会うから来ないだろう。一応期待はしているが望み薄だ。
だから、去年はいなかった先生。来るとしたら彼からだろう。
彼は誰よりも生徒のことを愛している。だから祝ってくれるだろうという確信がある。
とはいえ、彼も多忙の身。日付が変わった直後に来るかどうかなんてわからない。
それでも、彼女は待つ。
日付が変わるまであと1分をきった。ドキドキが止まらないからか、一秒一秒が長く感じる。
しんと静まり返った部屋に一つの息遣いだけが小さく響く。
一秒、一秒、確かに過ぎていく。
ゆっくりと。
少しずつ。
時間は流れていく。
そして、スマホが小さく揺れる。
思わず目を見開いた。
彼女のモモトークに二人のメッセージが届いた。
おくってきたのはナギサと、セイア。
「……ナギちゃん、セイアちゃん」
期待は確かにしていた。けれど来ることはないだろうと思っていた。
『お誕生日おめでとうございます。ミカさん』
『誕生日おめでとう。ミカ』
簡素なメッセージ。言葉もほとんど同じ。けれど、このメッセージは確かに彼女の心に深く刻まれた。
一筋の涙が頬を伝い、おちる。ベッドに小さくしみたひと雫。彼女が何を思い、心揺らめいたのか。それはきっと、言語化するのは難しいだろう。
けれど確かなことは彼女にとって二人はかけがえのない友達だということ。
二人への返信も終わり、高ぶっていた気持ちも落ち着いたころ、先生からのメッセージは来ていないことに気づいた。
当然かなんて気持ちの他にちょっとがっかりした気持ちもある。
けれど、待っていたのは結局彼女の自己満足。来るかどうかすらわからないのに来たらいいな、なんて淡い期待を抱いていたにすぎない。
もう寝ようとスマホの画面を消し、布団をかぶる。
目を閉じた瞬間、スマホが揺れた。
バッと起き上がり確認する。
そこには先生からのメッセージが届いていた。
『お誕生日おめでとう。ミカ』
心がおどるかのような気持ちになった。思わず飛び跳ねたくなるほど。
けれど、そんなことをしたら音が響いてしまうので、気持ちを律した。
『ありがと! 先生♪』
メッセージにはすぐ既読がついた。
すこしした後、またメッセージが届く。
『こんな時間におくる私も私だけど、夜遅いから早く寝なさい』
『はーい♪』
『あ! あと今日の午後、5時くらいから時間ある? 小さいけどシャーレで誕生日パーティーをしたいんだ』
『! うんっ! 絶対行く!』
『よかった。それじゃあおやすみなさい』
『うん! お休みなさ~い☆』
数分にも満たないやり取り。けれど、何よりも幸せで楽しい時間だった。
今度こそ眠るために目を閉じる。今日はどんな日になるのか、期待で胸がいっぱいになる。
興奮がなかなか冷めず、寝付くのはもう少し時間がたってからだった。
後日談だが、シャーレでの誕生日パーティーでは先生とナギサとセイアの三人が思いっきり祝ってくれて、一生忘れられない宝物になった。
ああぁぁぁぁああああ!!!
狂う狂う狂う!!!
泣きぼくろあったのアキラ!?
拡大してみれば確かにそれっぽいものあったわ!
うわぁ、マジか。
気づかなかったわ。
というか気づけないだろあんなの!
でも気づいている人もいたんだよな。
素直にすごいわ。