「じゃーん! みてみて! かき氷機!」
シャーレのオフィス、仕事が一段落し休憩している時、昨日買ってきたかき氷機をアキラに見せびらかす。
「売ってたから買っちゃった! 久しぶりに食べたいなって思ったし、それにまだまだ暑い日が続くからちょうどいいかなって」
「そうですね、喜ぶ生徒は多そうです」
「アキラはうれしくない?」
「いえ、うれしいというより興味深いといった感じでしょうか。なにしろ食べたことがありませんので」
「そうなの!? それじゃあ初かき氷だね!」
かき氷を初めて食べるアキラのために美味しく作ろうと決心する。とはいえ単純であんまり手をくわえられるような作業はないけれど。
「味はどうする? 結構いろんな種類を買ってきたけど……」
テーブルの上に買ってきたシロップを並べる。イチゴ、レモン、メロン、ブルーハワイ、ブドウ、抹茶、ピーチ、マンゴー。
アキラは目の前に並べられたシロップの数々をじっと見つめ、やがて一つのシロップを手に取った。
「このブルーハワイというものでお願いします」
「おっけー。私はね……レモンにしようかな」
ブルーハワイとレモンのシロップを手に取り、かき氷を作りに向かう。
「ちょっと待っててね、すぐに作るから」
「お待たせ」
ソファーに座っていたアキラに声をかける。そしてアキラの目の前のテーブルにブルーハワイのシロップをかけたかき氷を置く。
「……これは?」
アキラはかき氷に刺さっていた棒を取り出す。
「それはね、スプーンストローだよ。それでかき氷をすくって食べるの」
「なかなか面白い道具ですね」
「そうだね。私もスプーンストローなんてかき氷以外で使ってるところ見たことないかも」
実際かき氷以外でも使うんだろうかと疑問に思い後で調べてみようと頭の片隅に置いておく。
「それでは先生、いただきます」
「うん、召し上がれ」
アキラはかき氷を少しすくい、口へ運ぶ。
「――これはなかなか」
「どう? おいしい?」
「えぇ、とても」
「それならよかった」
アキラがおいしそうに食べているのを見てから自分のかき氷を手に取る。
「それじゃあ私も食べようかな」
簡単に手を合わせ「いただきます」と挨拶をしてからかき氷を食べる。
「んー、おいしい♪」
家庭用のかき氷機でなおかつ自分で作っておいしく出来てるかちょっぴり不安ではあったけど、久しぶりに食べたことも相まってかなかなかにおいしく感じる。
食べている途中、ふと定番のあれをやってみようと思い、かき氷をテーブルに置いた。
「みてみてアキラ」
んべっと口を開け舌を突き出してみる。自分では確認できないけどきっと黄色に染まっているはずだ。
「いおずいてるへしょ」
「……なにを言っているのかわかりませんよ。まぁ、想像はつきますが」
アキラはあきれたようにため息をついた。
「アキラの舌も色づいてるんじゃない?」
「そうですね、青く染まっていると思いますよ」
「見せてみてよ」
「……しょうがないですね」
頼み込んでみるとアキラは手に持っていたかき氷をテーブルに置いた。そして顔をこちらに向けてきて、んべっと舌を突き出してくれる。その舌は青く染まっていたがなんだかあまり舌には意識が向かなかった。
目を閉じ、顎を上げ、小さな口から突き出された舌、ほんのり赤く染まった頬を見ていると不思議な気持ちが芽生え、舌の色の事なんか忘れて思わず見惚れてしまう。
「……へんへい?」
片目を少し開けこっちの様子を窺がってくるアキラをみて我に返った。
「――あっ! うん! アキラの舌も見事に染まっているね!」
「ほうれすか」
アキラは舌を引っ込め、かき氷を再び食べ始める。
ならうように自分もかき氷を食べ始めるが、先ほどの光景が頭から離れない。妙な興奮と高揚感で鼓動が速くなっていて、かき氷を食べる手が止まらない。
「――あっイッタ!」
当然というべきか一気に食べたせいで頭がキーンとなり、思わずかき氷をテーブルの上に置いた。
「大丈夫ですか先生?」
「あはは、ちょっと急いで食べすぎちゃった」
痛みのおかげかさっきまでの高揚感はなくなり、少し冷静になる。
「こんな風に急いで食べると頭がキーンていたくなるから気を付けてね」
「えぇ、気を付けます」
アキラはまたかき氷を食べ始めるけど私はまだ少しだけ頭に痛みが残っているからアキラが食べている姿を見てみる。
一口食べるごとに顔をほころばせるアキラを見てかき氷機を買ってきてよかったと思った。
そんなことを考えながら青く染まったブルーハワイ味のかき氷を食べているアキラを見てちょっとした疑問が生まれた。
このまま別の味のかき氷を食べたら舌の色はどうなるのかと。上書きされるのか、混ざり合うのか、それとも変わらないのか。
「ちょっと気になったことがあるんだけど……」
「どうしましたか?」
思いついた疑問を投げかけるとアキラは興味深そうに考える。
「この状態で別のかき氷を食べたら混ざり合うんじゃないのかなって思って」
「なるほど。黄色と青ですから緑色になるかもしれませんね」
アキラはかき氷にスプーンストローを突き刺しテーブルに置いた。
「それでは検証してみましょうか」
「そうだ――んっ!?」
唐突に目の前が真っ白になった。なにが起こったのか理解しようとしたが、そんなことは許さないといわんばかりに口の中に甘い味が広がる。いや、それだけではない生暖かな熱とねっとりとした液体、さらにはそのすべてを纏った大きな物体が口の中を掻き回る。
「――んっ、ん……。ぷは……」
目の前に広がっていた白が離れていったことでそれがアキラの顔だったことが判明し、なにが起こっていたのかも理解した。
私は今さっきまで、アキラにキスをされていたのだと。
「おや、変わっていませんね。足りなかったのでしょうか」
「……なっ、なにを、アキ――んッ!?」
私が言い終わるより先に、またアキラにキスをされる。
「――ん。……っんむ」
アキラの舌が私の口内へ侵略し、蹂躙し、貪りつくす。抵抗しようと私自身の舌を動かすが、お互いの唾液で混ざり合い湿った舌ではアキラの舌を押し返すことは出来なかった。むしろ押し返そうとすればするほどお互いの舌が絡み合い、求め合うかのように艶めかしい音を立てる。
うまく呼吸ができず、息苦しさをおぼえたときにアキラの唇が離れる。酸素を取り込もうと何度か呼吸を繰り返すとまたアキラに口づけをされる。そしてまた息苦しさをおぼえ、唇が離れる。
そんなことを何度も繰り返していくうちに頭に酸素が回らなくなり、少しずつ意識がうつろになっていく。
気がついたときには私の舌は抵抗するためではなく、アキラを求めるために舌を伸ばしていた。舌と舌が絡み合うたびに快楽が走り、より強い快楽を求めようとさらに舌と舌を絡め合う。
私の視界には頬を赤く染め蕩けた顔のアキラが占領していた。とろんとしたアキラの赤い瞳を通じてみる自分の顔もアキラと同じように蕩けている。
部屋には私とアキラが求め合い、貪り合う音だけが響く。ピチュピチュと互いの唾液が混じり合い、舌と舌がこすれ合う艶めかしい音が耳を通じて頭の中で反響する。
いつの間にか私の両手はアキラの背中にまわしていて、やさしく、けれど強く抱きしめていた。腕、胸、お腹、足、体のすべてでアキラを感じる。あたたかくで、やわらかくて、抱きしめているだけでうれしい気持ちがわいてくる。
甘く、清純で、芳しい匂いが鼻腔を通り抜け、頭の中に充満したアキラのにおいが脳を麻痺させる。
最初の方に感じていた甘い味は次第に甘美な味へと変質していった。かき氷からアキラの味へ、そして私とアキラの唾液が混じり合うことで今まで味わったことのない味へ。初めて味わうこの未知の味は美味でずっと味わい続けていたいと思うほど。
私たちの蜜月の音だけが響いていた部屋にからん、となにかが落ちる音がした。音のした方を見るとかき氷に刺さっていたスプーンストローがテーブルの上を転がっている。かき氷の方を見ればもうほとんどがとけ水に変わっていた。
「ここまでとけてしまったのなら、これ以上とけてもあまり変わりませんね」
アキラは私の返答を待つかのようにじっとこちらを見つめてきた。
それに答えるように私はアキラへ顔を近づける。
ジュースになったかき氷が再び二人の手に渡ったときには冷たくすらなかった。
誰かこの展開の漫画書いてほしいな~。
チラッチラッ。