夜が更け蛍光灯で照らされたシャーレの廊下。人なんておらず静かな廊下に足音を響かせながら私はオフィスに向かっていた。
とはいえ私一人というわけではなく、今日の当番の生徒と共にだったが。
「手伝ってくれてありがとねアキラちゃん」
隣を歩く生徒、清澄アキラに私はお礼の言葉をかける。なにしろ時間を過ぎても仕事を手伝ってくれて、使い終わった資料を一緒に資料室に戻してくれたから。
「これくらいお安い御用です。むしろこうして先生と二人っきりの時間を過ごせることが出来て感謝したいぐらいですから」
「……うん、そっか」
普通は他人の仕事を手伝うなんてあまりやりたがらないことだというのにアキラは嬉々として手伝ってくれた。
というかシャーレに来てくれる生徒のほとんどが嬉しそうに仕事を手伝ってくれる。小言をいろいろ言ってくるユウカも、口ではめんどくさいと言ってくるフブキも、無表情ながらも手を動かし続けるトキも、呆れながらも隣に座って手伝ってくれるカヨコも。
多くの生徒がシャーレの当番を楽しみにしてくれている。別に面白い仕事なんて何もないのに。
だから、まぁ、自惚れみたいにはなってしまうけど私と一緒にいるのが楽しいからだとか、うれしいからだとか、そういった感情でシャーレの当番に来てくれているのはちゃんとわかっている。
……中にはその先の感情を持っている生徒がいることも。今日の当番であるアキラはその中の一人だということも。
「――先生のお役に立てて、本当にうれしいです」
あーやっばい。今すぐ襲いたい。
普通に考えてさ、こんな美人で可愛くて若い子たちに好意を持たれてうれしくならない奴とかいないでしょ。
わかってる。わかってますとも。私は先生ですからね。生徒に手は出しませんとも。えぇ、大人として当然のこと。
たとえどれほど好かれていようとも、誘われたとしても。私は手を出しませんよ。
「――――ふふっ」
は? なにその笑顔? メチャクチャ可愛いんだけど? 愛おしんだけど? なんなの? 襲ってほしいの? 襲われたいの? 襲っちゃうよ?
赤く染まった頬、まっすぐと見つめてくる目、嬉しそうに緩んだ口、ぴょこぴょこと動く耳。アキラという存在全てが私を誘ってきているんだけど?
これって合意ってこと? 襲ってもOKってこと? そうだよね? そうとしか思えないんだけど? 襲ってもいい? いいよね? だって据え膳食わねば女の恥ってよく言うし。
ふぅーー。落ち着け私。冷静になるんだ。私は大人。アキラは子ども。私は先生。アキラは生徒。
『先生と生徒が恋愛をするというのは、キヴォトスでは犯罪ではありません!』
やめろォ! ここでキリノの言葉を思い出すんじゃない! なにか! なにか気をそらさねば!
そうだ! 新しい話題を出して気をそらそう!
「それにしても遅くなっちゃったね。どうする? 駅まで送っていこっか? それとも一緒にシャーレに泊まってく?」
こんな風に冗談交じりの軽口を叩けば、照れて慌てるアキラの姿が見れるはず! 可愛い生徒の可愛い照れ姿、可愛い慌て姿を堪能しよう!!
「そう、ですね。ワイルドハントの寮まで少々距離もありますし、先生の寝室にお邪魔させていただきましょうか」
あれー? おかしいぞー? なんだか一緒に同衾する流れになってない?
「……それに、もう少し先生と共に居たいので」
うーんまいったなー。流石に我慢がきかなくなっちゃうぞっ♪
「まったくもー、そんなホイホイと誘いに乗ってたらいつか悪い大人に騙されちゃうよ?」
「大丈夫ですよ。私が誘いに乗る大人は先生だけですので」
大丈夫じゃないですよ? 今君悪い大人に騙されているんですよ?
「それに……先生になら騙されても構いませんから」
あダメだこれ。
「……先生?」
急に歩みを止めた先生は笑顔を浮かべていたが、どこか異様な雰囲気をまとっていて、初めてのことに少し驚いてしまう。
たしかに目の間にいるのは先生なのに、どこか近づきがたい。なんなのだろうかこれは? 先生に対して初めて感じたこの感情は?
「――ねぇアキラちゃん?」
そんな先生が口を開いて発した言葉は魔法のような力が込められているのか耳をそらすことが出来ない。……元々、そらす気などないのだけれども。
「あんまり不用意にそんなこと言っちゃだめだよ?」
笑顔のままコツ……コツ……と足音をならしながら先生が近づいてくる。そんな先生を前に私は……一歩、足を後ろに下げた。下げたことで私が今先生に抱いている感情の正体がわかった。
恐怖だった。私は今先生に恐怖していた。
先生が今、なにを考えているのかがわからない。なにをしようとしているのかわからない。これからなにをしてもおかしくない。その思いが私の中に恐怖を発生させていた。
一歩、また一歩と、先生が私に詰め寄ってくる。そのたびに私は後ろに足を逃がす。けれど私の背中がとうとう壁にぶつかり、後ろに逃げることが出来なくなったと知らせてきた。
なら横に逃げようと顔を左に向けようとした時。
「逃がさないよ」
先生が右手に持っていたボードを捨て、ゆっくりと私の顔の横壁へ手を付ける。それは一般的な壁ドンと違い威圧感のような衝撃はなかったし、勢いもなかった。だけど、その手にこめられた圧は私の動きを止めるのに十分だった。
「アキラちゃん。世の中にはね、たっくさんのわるーい大人がいるんだよ」
先生の左手が私の首筋へとのびてきて、指先が軽く触れた。
「一見いい人そうに見えても、そういう人ほどお腹の中はあくどいものなの」
軽く触れた指先がつぅと顎裏、そして顎へとなぞるように這い上がってくる。
「もし私の優しさが君たち生徒を騙すものだったとしたら?」
顎先に触れた指先がくいっと私の顔を持ち上げ、私の目の前には先生の顔が間近に迫っていた。
「このまま、アキラちゃんのすべてを奪っちゃうかも」
空よりも優しく、海よりも深く、サファイアよりもきれいな先生の青い瞳が私の赤い瞳を覗き込んでくる。
「力ではかなわなくても、それ以外の方法を使えば君たちにだって勝てるんだから」
先生の赤い舌が先生自身の艶やかな唇をなめ、潤いをあたえられた唇がより一層艶やかに光る。
「選ばせてあげるよアキラちゃん」
「…………なに、を……ですか?」
鼓動が高鳴り、体が熱くなる。呂律も上手く回らず、しどろもどろな言葉を返すことしかできない。
「なにも知らない子供でいるか、それとも――」
言葉を発するたび私の唇にあたる先生のあたたかで甘ったるい吐息。
「わるーい大人の世界を体験するかを、ね」
「――――っ」
私は目を閉じる。両手は力なく垂れ下げ、脚は逆にプルプルと震えている。
「――――――へぇ」
耳に届いた先生の鋭い声で私は確信してしまう。このまま先生に食べられてしまうのだと。
とはいえそれは私が選び、そして望んだことだから不満なんてない。むしろ先ほどまで感じていた恐怖がまるっと期待に置き換わり、その期待も膨らんでいく。期待に満ちた体はその時を今か今かと待ち望み、熱くなっていく。
「それじゃあ、教えてあげる。その純白で綺麗な体に……わるーい大人の世界を」
初めて知る世界、初めて体験する世界……初めて見た先生の悪い大人の顔。
この顔を見たのは私が一番最初なのだろうか? それとも他にも見た生徒はいるのだろうか? 出来れば私が最初であってほしいし、私が独占したい。他の誰にも見せたくない。知られたくない。私だけであってほしい。
そんな思いを抱えたまま最初に経験した悪い大人の世界は額に感じた先生のぬくもりだった。
「――なんちゃって」
「―――――え?」
「わるーい大人に騙されちゃったね」
私から離れていたずらが成功した子供のようにくすくすと笑う先生。
「どうしたのアキラちゃん。そんな風に呆けた顔しちゃって」
「……このまま先生に襲われるのかと」
「私が生徒を襲うわけないじゃん」
先生は床に落ちたボードを拾い、私に背を向けて廊下を歩き始めた。
「…………」
私は先ほどまでの出来事に体も頭も心さえも支配され、その場から動くことが出来ずにいた。唯一動かせたのは右手だけで、その右手で先生にキスをされた額をそっとなぞる。そこにはまだ先生のぬくもりが残っていて、高揚感と期待が裏切られた肩透かし感を感じたまま立ち尽くしていた。
そんな私に気が付いたのか先生は足を止めて私の方を振り返った。
「……この続きはアキラちゃんが大人になってから、ね?」
「――っ!!」
自身の唇に右人差し指を触れさせ、怪しく目を光らせた先生に心を鷲掴みにされてしまう。
「それじゃあ私はオフィスに戻るから。泊ってくんだったら居住区の空部屋好きに使っていいよー」
そういって先生はまた背を向け、静寂が広がる廊下に足音を響かせて去っていってしまった。
オフィスに入り誰もいないことを念入りに確認する。
「……………だれもいない、よね?」
返事がない静寂に私はようやく気を緩めた。
「…………………………あぶなかったぁぁぁ」
壁に背を預けズルズルとその場に座り込む。
「よく耐えた! よく耐えた私!」
思わず自分で自分を褒めてしまう。
「危なかった!! 手出すとこだった!! 一線超えるとこだった!!!」
思い起こされるアキラの期待した顔、震えた声、紅潮した頬、潤んだ瞳、艶やかな唇。
「よく踏みとどまれたな私!? すごいな私!!??」
あのまま手を出しても咎める人はいなかった。アキラもそういったことを言いふらすような子じゃないから黙っていれば誰にもばれることはない。
そう……誰にも…………。
「…………なんで耐えた私!」
それでもやっぱ襲いたかった! アキラとイチャラブしたかった! アキラとあーんなことやこーんなことをしたかったっ!! ベッドの中で密着して絡み合って混ざり合って!!!
「……とはいえ、なぁ。私の思いとアキラちゃんの思いは違うしなぁ」
私だって大人だ。性欲と愛欲の違いくらいわかっている。
だからこそ生徒たちに手を出すわけにはいかない。
…………いかないんだけど。
「…………………………手ぇ、だしたいなぁ」
溜まっていく性欲は、いくらため息をついたとて解消することはなかった。
ブルアカみゅーじっく最高でしたね!
私は昼の部現地参戦してきましたがマジですごかったです!
まぁ愛しの生徒たちの晴れ舞台ですからね。
最高なイベントになることは確実でしたけど。
それはそれとしてまさかのゲーム外、内情報も発表されるとは。
もしかしてブルアカみゅーじっくの名を被ったブルアカライブだったのでは?
ドラム缶ガニってなんですか?