ユウカ、誕生日おめでとう。コスプレしてくれ
朝8時ちょっと前、シャーレの廊下に一つの足音が響く。菫色をしたツーサイドアップの髪をゆらし、鼻歌交じりに歩く姿には逸る気持ちが如実に表れていた。
ご機嫌なことが隠せていない生徒、早瀬ユウカはこれからのことに心躍らせていた。それもそのはず。今日、3月14日は彼女の誕生日なのだ。
(……ふふっ。今日くらいは先生の多少の散財も許しちゃうかも。何をプレゼントしてくれるのかな)
知らない人からしたら自惚れが過ぎるんじゃないかと思われるだろうが、そんなことはないと彼女は知っている。誕生日の生徒は必ず当番に選ばれ、先生がサプライズをすることを。……最も、大半の生徒はそのことを知っているためサプライズになっているかは怪しいところだが……。
これからのことを考えているうちにオフィスの目の前につく。
(7時59分50秒。ちょうど8時につくわね。完璧~)
一呼吸おいてから扉に手をかける。
期待をふくらませ、ワクワクとした気持ちを表に出さないよう抑え込み、いつも通りを装い扉を開ける。
「先生、おはようござ――」
「ユウカ、誕生日おめでとう!」
扉を開けた瞬間パンッとクラッカーを鳴らす先生、なのだが恰好が少々おかしい。
鼻がついたパーティーメガネ、サンタのような白髭、『ユウカが主役』と書かれたタスキ、あまりにもな姿を見て自分よりも楽しみにしていたんじゃないかとユウカは思う。
「さっ、ユウカ。座って座って」
先生が促した先にある机と椅子も大概だった。机にはパーティーフラッグが巻き付けられ、真横に風船がいくつか浮かんでいる。椅子にはイルミネーションが巻き付けられ煌びやかに輝いている。
「……あの先生。これはいったい……?」
「もちろんユウカの誕生日パーティーだよ!」
「いえ、私が聞きたいのはそういうことではなく……。なぜこのような飾りつけを……」
「もちろん、ユウカを楽しませるためだよ」
ふふんと鼻を鳴らす先生。その様子に水を差すわけにはいかないと飾りつけのセンスについては今日は目をつむることにした。そして、次の誰かの誕生日パーティーの準備は絶対に関わろうと心に誓った。
幸い、先生は突然のサプライズに驚いていると勘違いしているのでこのまま続けてもらおうと思った。
「ありがとうございます先生。私のためにこんなに準備してくださって」
「大切な生徒の誕生日だからね。それにまだまだ準備しているんだから、この程度で満足してもらったら困るよ」
そういって先生は自分の机の下から紙袋を取り出す。
「はいこれ、プレゼント」
「ありがとうございます」
いったい何が入っているのか。ドキドキしながら紙袋を受け取り、中を見る。
「……あの先生、なんですか、これ……」
ぱっと見た感じ衣装のようだったが、普段着たりするような衣装ではないことはわかる。
「それはね、コスプレ衣装だよ!」
「は、はぁ……ちなみになんのコスプレ衣装ですか」
「主人公が錬金術師のゲームのコスプレ衣装だよ!」
なんとなくわかった。ミレニアムでも一時期話題になっていて、ユウカも時間が出来たらやろうかとも思っていたゲームだ。それゆえ、そのキャラついても一応知っている。
「ユウカに似合うと思ったんだ。特徴も一緒だし」
サムズアップしユウカにいい笑顔を向ける先生。
ユウカは自分の中で渦巻く感情を無理やり落ち着かせようとする。
「へぇ……」
しかし、いくらなんでも隠し切れず、怒りが面に出てくる。
「先生、ありがとうございます。こんなにも私に合ったコスプレ衣装は私もはじめて貰いました」
「……ユ、ユウカ?」
ユウカの不機嫌な表情に気がつき、後ずさる先生。
「いろいろ言いたいことがありますが、まず最初に聞かせてください」
不機嫌な笑顔を浮かべ先生に問いかける。
「一体いくらしたんですか、この衣装?」
「あー、えっとぉ……い、いくらだったかなぁー」
「せ、ん、せ、い?」
「…………さ、3万くらい?」
つぶやくように言った値段にユウカの堪忍袋の緒が切れた。
「いくら何でも高すぎです! というか生徒になんてもの贈ってるんですか! 先生なんですからもっと大人として生徒との接し方というものをですね――!」
「ただいまー」
自室についたユウカは荷物を床に置きベッドに腰を下ろす。自然とため息が出る。
(今日はいろいろあったな)
シャーレでの出来事を思い返す。怒ったり、笑ったり、一瞬のように感じた出来事。
「……あ」
荷物の中にもらった衣装が目に入る。
(まったく、先生のくせにこんな服を生徒に贈るだなんて……)
先生が言った言葉が脳裏をよぎる。
『ユウカに似合うと思って!』
サムズアップしながらとてもいい笑顔を浮かべた先生。
(……せ、せっかくもらったんだし、着ないと失礼、だよ、ね)
衣装を手に取り着替え始める。コスプレ衣装なんて今まで着たことがなかったため着替えに少し手間取る。
着替え終わり姿見で自分の姿を確認する。
(……着替え終わったけど……こ、これはなかなか恥ずかしいわね)
誰かに見られているわけでもないのに、どことなく緊張する。
(先生は私にこれが似合うと思ってプレゼントしてくれたんだよね……)
ユウカはあることを思いついた。がいくらなんでもそれをするのはと躊躇う。
(で、でもせっかく先生が送ってくれたんだし……)
姿見の前で数十分ほど悩み、決断する。
『先生にだけ、ですからね』
その言葉とともにモモトークに一つの写真を先生におくった。
やっぱりユウカってかわいいよね