シャーレを掃除していたら薄い本を発見してしまったケイちゃん
「――――♪」
鼻歌交じりにコツコツとシャーレの廊下に足音を響かせているのは長い白髪と紫の瞳、小さい体にミレニアムサイエンススクールの制服を身にまとった生徒、天童ケイ。
彼女は今日のシャーレ当番ということで少々浮かれて早めにシャーレに訪れていた。
「――あ!」
オフィスまであとちょっとの所で立ち止まり、窓ガラスを使って身だしなみの確認をし、少し乱れていた髪の位置を直す。
「…………よしっ」
窓ガラスに映った自身の姿を見て納得したケイはオフィスへと入っていった。
「おはようございます、先生……先生?」
けれどオフィスには先生の姿がなく静まり返っていた。
「……少し早すぎましたかね」
先生に会えることを期待していた分、少々拍子抜けしてしまう。とはいえ予定より早く来てしまった自分が悪いのだということはケイも理解はしていた。理解はしていたがやっぱり先生に少し腹を立ててしまう。
「はぁ。先生が来るまでなにをしていましょうか?」
落胆のため息とともに先生が来るまでの時間でできることを探すためオフィス内を見渡せばオフィスが少し散らかっているなとケイは思った。
「そうですね、少し掃除でもしておきましょう」
そういってケイはオフィスの掃除を始めた。
最初は簡単な掃き掃除だけで済ますつもりであったが、予想以上に埃が溜まっており気が付けば夢中になっていた。
机の上に雑多に広がった書類の束が、机の引き出しの下を見れば領収書が、テーブルには読みかけの本が……。
そうやって一つ一つ丁寧に綺麗にしていくケイ。
「……次は本棚を整理しましょう」
そういって本棚を整理し始めるとケイは不思議な物を見つけた。
「……ん? なんでしょうこれ?」
やけに背表紙が広い本だなと思い手に取ってみると、実はそれは薄い本がたくさん集まったものを隠すためのカモフラージュだった。
気になって一つを手に取って中を覗いて見ると――。
「――な!? こっ、これは――!?」
「――はぁ! はぁ! やばい! 寝過ごしちゃった!」
シャーレの廊下をバタバタと慌てて走る足音の主は先生だった。
「こんなことならシャーレで寝泊まりするんじゃなかった!」
どうやら先生は昨晩シャーレで夜を過ごしたため、多少遅くに起きても問題ないだろうと高をくくっていたみたいだった。その結果予定より寝すぎてしまいこうしてオフィスに向かって走っている。
「今日の当番は確かケイちゃんだったっけ!? まずいなー! ケイちゃん怒ってるよなーっ!」
オフィスが見えてくるとすでに電気がついていてケイがすでに来ていることを確信する。
「ごめんねケイちゃん! ちょっと遅れちゃった!」
慌ててオフィスに入るとやはりケイがいて、慌てて謝る。けれどケイは気付いていないのか先生に背を向けたままだった。
「あのー、ケイちゃん? 遅れちゃってごめんね。すぐに準備するから」
もう一度声をかけてもケイは振り返らなかった。どうやら遅れてしまったことに相当おかんむりなのだろうと先生は罪悪感に苛まれる。
なんとか機嫌を直してもらおうとケイの背中に近づくと、どうやらケイはなにかを読んでいるみたいだった。
「……ケ、ケイちゃん?」
「――ッ!!??」
おそるおそるケイの肩に触れてみるとケイは予想以上にビクッ!! と体を跳ねさせた。
「せ! 先生!? いつの間に!?」
「いや、今来たところなん、だ、けど……」
ケイが勢いよく振り返ったことでケイが持っていた、読んでいた本が何なのか先生は気付いてしまった。
「……あ、あの……ケイ、ちゃん……? それは……」
だらだらと汗が先生の体をつたう。それは走ってきたからではなく、冷汗だった。
ちらりと先生はその本を隠してあった場所に目を向ける。少し遠くてわかりにくい場所に隠してあったからパッと見ではわからなかったが、その本を隠してあった場所の本棚のその棚に置いてあった本がすべて出されているのを先生は確認してしまう。
「あ! いや! 違うんです先生! 掃除していたらつい見つけてしまって!」
「おっ! おちっ! 落ち着いてケイっちゃん!」
「誰がケイっちゃんですか!!!???」
しばらくの間慌てふためいた二人は落ち着きを取り戻し、先生は正座を、ケイはその目の前で仁王立ちをする。
「――オホン! あのですね先生。先生も男の人なのでそういったものをたしなむのは否定しません」
「……はい」
「ですが! いくらなんでもシャーレに置いとくのはどうかと思いますよ!?」
「違うんだケイちゃん! 言い訳をさせてほしい!」
「……どうぞ」
「私も普段は自分の家に保管してあるんだ! けどその本は最近買った本で!」
「なんで最近買ったらシャーレに置いておく必要があるんですか!」
「それはその……最近忙しくて」
「はい」
「家に帰るのが時間の無駄だなって思って」
「…………ん?」
「それでここ最近はシャーレで寝泊まりしてて」
「………………………はい」
「でも溜まるものは溜まるから、その……」
「………はぁ。なんとなく先生が言いたいことはわかりました」
「そ、そう? ならよかったよ」
よかったと安心する先生とは逆にケイの怒りは頂点に達していた。
「――なにもよくありません!!!」
オフィスに響いた怒号に先生はビクッと背筋を正す。
「まずなんでシャーレに寝泊まりしてるんですか!」
「それは、仕事が溜まってて」
「でしょうね! 先生が意味もなくシャーレで寝泊まりするとは考えられませんし!」
「そうそう。だからべつにおかしなことじゃ――」
「――だからそれがおかしいんですよ!」
再びケイの怒号が響く。
「なんでそんなに仕事が溜まってるんですか! それに仕事量が多いなら誰かに頼ればいいじゃないですか! たとえば…………私、とか」
「ん? 最後のほうが聞き取れなかったんだけど」
「~~!! なんでもありません!! とにかくですね!!先生はもうちょっと仕事量を減らすべきです!!」
「……はい。おっしゃる通りです」
「わかりましたか?」
「はい! わかりました!」
「よろしい。ちゃんと聞きましたからね。今度またそんなことをしていたら監禁してでも強制的に休ませますからね?」
「肝に銘じます!」
「……まったく。本当にわかってるんでしょうかこの先生は……」
ため息をつきながらケイは片手を頭にあてる。
「そ、それじゃあ仕事を始めようか」
「なに言ってるんですか? まだまだ言いたいことはありますよ?」
「――え?」
きょとんとする先生にケイは例の本を突きつける。
「この本ですよ!!」
バンバンとケイが例の本を叩く。
「いくら何でもオフィスにこんな本を隠すなんてどんな考えしてるんですか!」
「そ! それは確かに私が悪いけど! でもケイちゃんだって熱心に読んでいたじゃん!」
「~~っ!? そ、それはちょっと気になっただけで! ていうか話をそらさないでください!!」
「それに私が言うのもなんだけど、ケイちゃんくらいの子が読むにはまだ早いと思うよ」
「……先生、私が何歳だか知っているんですか?」
「――え? あれ? そういえば……」
「なんだったら私、先生より年上ですよ?」
「それじゃあ、ケイさんって呼んだほうがいい?」
「やめてくださいっ!!」
「あ! そうですよね! 口調も直さないとですよね!!」
「おちょくってるんですか!! おちょくってますよね!!??」
「そんなことは、ないですよ。ケイさん」
「~~!! 先生を殺して私も死にます!!!」
再三響くケイの怒号はしばらくの間止むことはなかった。
「――まったく、こういったことは他の生徒にばれないようにしてくださいね」
「……はい。気を付けます」
「それじゃあ今日の仕事を始めましょうか」
「そうだね。……あっ!?」
「!? どうしましたか!?」
「あ! 足がっ!? しびれて!」
話も一通り終わり先生は立ち上がろうとするが長い間正座していたため足がしびれてしまっていた。
足を押さえのたうち回る先生を見てケイはいたずら心が湧き上がってくる。
「………えいっ」
「!? ちょぉぉぉおお!!??」
ツンとケイは指で先生の足を突いた。
「ふふふ」
「やめ! やめてケイちゃん!」
「イヤでーす♪」
ツンツンと先生の足を突き、そのたび先生は絶叫を上げる。
とはいえしだいに足のしびれも取れてきて普通に歩けるようになった。
「ひどいよケイちゃん……」
「自業自得です。これに懲りたら二度と怒られるようなことをしないでください」
「はい……」
とぼとぼとデスクに向かう先生の丸くなった背中にケイが小さくつぶやく。
「…………それに、そういう事なら、私が……」
ケイの脳裏には本の内容が思い浮かんでいた。白髪であったり、少し小さめの体だったり、ツンデレだったり。
自意識過剰だと考えるがそれでもケイはそう思ってしまう。先生が私のことを――。
「ん? どうしたのケイちゃん?」
「っ!? なんでもありません!!」
先生に声をかけられて我に返ったケイは先生の隣のデスクに勢いよく座る。
「そう?」
「ほら! さっさと仕事を片付けますよ!」
そういってケイはてきぱきと仕事を進めた。
ケイのおかげで今日は早くに仕事が終わり、先生は家でゆっくりと本を堪能した。
一方ケイは先生が持っていた本の内容を思い出し悶々とした夜を過ごした。
皆さんはDJフェスツアーの当選結果はどうでしたか?
私は名古屋と東京両方当選しました!
やったね!
ブルアカふぇすから4か月経ちますが私は未だにDJの熱狂ぶりに心と脳と魂が焼かれてしまったので今か今かと待ちきれませんよ。
現地参加する先生たちと一緒に盛り上がれる日が待ち遠しいですね。