シャーレの先生誘拐事件!?
深夜0時過ぎ、薄暗いオフィスの中、カタカタとキーボードをたたく音が響く。
そばには空になったエナジードリンクが数本散乱していた。
パソコンに向かって作業しているのはシャーレの先生。パソコンの光で照らされたその顔はやつれ、隈が出来、目にはあまり生気が宿っていない。
突如、オフィスの扉が開かれる。音に反応して振り返り、扉を見た。
「先生。深夜の突然な訪問、失礼します」
薄い桃色のヘイローが純白の服と、ふんわりとした桜色の長い髪を照らす。髪の下にある顔は仮面をつけていて口元しかわからない。
「……アキラ?」
「ああ、私の名を憶えていてくださったのですね」
「当然だよ。私の大切な生徒だからね」
「……」
ヘイローに照らされた朱い顔。
「それで、今日はどうしたの?」
「先生は私の二つ名をご存じですよね」
「慈愛の怪盗、だよね……?」
「ええ、その通り。真夜中に怪盗があらわれる理由は一つしかないでしょう?」
「……価値のある美術品なんて私は持っていないけど……?」
「いいえ。ここにはどんな美術品よりも価値あるものがあります」
「……それはいったい?」
「貴方ですよ、先生」
「……へ?」
コンッという何かが落ちた音とともに突如オフィス内に煙が充満する。疑問に思う間もなく先生は誰かに抱きかかえられる。
走る音が少し聞こえた後、すぐに視界が開ける。
「!?」
目の前に映るビル。それがシャーレだと気づけなかった。なぜなら……。
「おっ、おちる!?」
自分が今空中にいて、おちている事のほうが重大だからだ。
「ふふ、ご心配なく」
おちる、と先生は思ったがおちるどころかいつの間にか上へと飛んでいた。
なぜ、と疑問に思ったがすぐにわかった。アキラの手へと戻ってきているワイヤー。これを近くのビルへとひっかけターザンのように飛んだのだろう。
そのまま近くのビルの屋上に着地し、勢いを殺すことなく走り、また跳ぶ。ビルの屋上から屋上へと跳び掛けていく。
「……驚いた」
そうつぶやく先生の顔は全く驚いていない。いや、感情が追い付いていないというべきか。
「驚かせてすみません。先生」
「大丈夫。確かに驚いたけど、むしろ今は少し楽しくなってきたから」
「それはよかった。では、もうしばらくは空の旅をご堪能ください」
誰も夜空を駆ける二人に気づかない。月だけが二人の行く道を照らし続けていた。
しばらくした後、D.U.のとあるビルの上に到着した。
「ここは……?」
「ここは私の隠れ家の一つです」
一つ、ということは他にもあるのだろう、けれどどうしてここに? と先生は疑問を浮かべる。
「それでは行きましょうか」
アキラは先生を抱えたまま歩き出す。
「ちょっと!? 自分で歩けるから!」
「ご遠慮なさらず。さあさあ」
先生の訴えも虚しく、聞き届けられることはなかった。そうしてビルのある一室へと案内される。
「さあ、つきましたよ先生」
入った部屋はとても簡素で、ベッド、冷蔵庫等、最低限のものしか見当たらない。
ベッドの上へとおろされる先生。腰を下ろしたベッドは座っただけでもわかるほどふんわりとした弾力があり、いいベッドだと思った。
「それで、ここに私を連れてきてどうするつもりなの?」
「寝てください」
「……え?」
先生は一瞬きょとんとした。けれどすぐにどうしてと聞き直した。
「このベッドは私が知る限り最高級のベッドです。寝心地もとても良いことは私が保証します」
「それはまあ、座った感じいいベッドだとは思ったけど」
「それと、安眠作用があるアロマもたいております。きっと心地よい夢の旅へと誘えるでしょう」
スンスンと鼻を鳴らしてみれば確かにどこか安心する匂いがする。
「確かにいい匂いだね。だけど質問の答えになっていないよ。どうして私に寝てほしいの?」
「……酷い顔です」
「え……?」
「隈はひどく、肌も荒れ、髪も傷んでいます。顔もこんなにやつれて……」
「まあ、最近は仕事が忙しくてあまり寝てないから」
「まったく寝ていないの間違いでしょう」
「……なんで知っているの?」
「ずっと見ていましたので」
「……ずっと?」
「ずっと」
本当にずっと見ていたのだろう。普通にストーカー行為だが、そんなのは今に始まったことではないのでスルーする先生。
「さっき私が言ったこと、憶えていますか?」
「さっき……?」
空の旅が衝撃的過ぎて何のことかわからなかった。
「私にとって先生がどんな美術品よりも価値あるものだということです」
あぁ、と先生は納得する。確かにさらわれる前に言っていたなと思い返す。
「だから、先生がそのような状態であることは我慢ならないのです。先生ほどの美しいものがあんなに汚れてしまうことに」
「……もしかして、心配してくれたの?」
コクリと頷くアキラ。それを見て先生はありがとうと感謝の言葉を伝えた。
「先生、どうかもっと自分のことも大切になさってください。先生が生徒を思っているように、私も、私たち生徒も同じように先生のことを思っているのですから」
アキラは先生の両肩に手を置き、ゆっくりと押し倒す。ふんわりとしたベッドが先生を受け止め、包み込む。その心地よさに先生の意識は緩み、今までの眠気がガツンと襲ってきた。
目蓋がとても重く、目を開け続ける力すら出ない。ゆっくりと目蓋が閉じ、意識が朦朧とする。アキラが何かを言っていたが先生の耳にはもう、届かなかった。
後日談になるが、先生がシャーレに戻ると多くの生徒が驚き、心配していたと泣き叫んでいた。どうやらキヴォトス中を巻き込んだ大騒ぎになっていたようで先生は謝罪し、ぼかしながら事情を話した。するとこれまた多くの生徒が仕事を手伝ってくれて、空き時間が増えたため新しい仕事を増やそうとして生徒たちに説教されるのだが、これはまた別の話。
メインストーリー更新されましたね。
いろいろと思うことはありますが。
スバルちゃんかわいいね。
とくに餌だけ与え続けてるたちの悪い毒親みたいな所とか。
アリウスの子たちのために食料を手に入れるという善行を、悪行に手を染めることでかなえるなんてもうさ、そういう親だよね。
アリウスの子たちに依存しているし、巣立つことを許さなそう。
スバルちゃんをどうやって導くのか先生の今後に期待ですね。