魔法少女ノ炙りビン   作:藍終

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お察しの通り、ユキちゃん回です。(タイトルはノリ定期)

ユキには幸せになってほしい……!

ユキ視点からです。


私の手つきが卑猥……?天上天下唯我独尊マウント魔女……?判決、死刑。

 

 

「ユキちゃん!ほら、このクッキー美味しいよ!はい、あ〜ん」

 

「エ、エマ……分かりましたから。こんな大勢の前では……その……。ヒロ、あなたは助けて―――」

 

「こうなったエマは止められないことは、ユキが一番知ってるはずだ。時には観念するのも、正しい選択だと思うよ、ユキ」

 

「あなたも……私を見捨てるのですね……。やはり人間は……」

 

「ふっ……、ユキも私やエマを欺いていたんだ。おあいこということにしよう」

 

「……それは反則です」

 

 

 

 

 人生――いや、私の場合は魔女生?――どう転ぶかわからないものですね。

 

 あの日……あの時、私は自らの命と引き換えに全ての魔女因子を無力化し、今度こそこの世から存在を消した……はずでした。

 

 現実を見ながらも、現実から目を逸らし投げ出した不始末を、せめてもと思って。

 

 ……メルルも一緒について来てくれたのは、少しびっくりしましたが……。

 

 エマやヒロ、そのお友達の幸せを……地獄の底からでも構わないから、見届けられたらいいなと願ったからなのでしょうか。

 

 ……いえ、そうではありませんね。

 

 エマたちと、もっと一緒に生きていたい。

 

 復讐に囚われていた時間の分、あの綺麗な笑顔の隣で、ずっと……。

 

 全人類の絶滅を企てた大魔女には余りある不遜な願いを、ほんの一瞬抱いてしまったからかもしれません。

 

 儀礼の槍に貫かれて……身体も意識も、無に還元されていくはずだったのに―――

 

 

 

「――ほんとうに、どうしてこうなってるんでしょうね……」

 

 

 

 気づけば、私のみならずメルルも、誰もいない裁判所に再び降り立っていたのですから。

 

 島の大魔女たちの私を想う残留思念がそうさせたとしても、それは精々私を霊体としてこの世に留めることくらい。

 

 死者蘇生など……それこそ、魔法を使うしか実現し得ない奇跡。

 

 いえ、魔法ですら許されないこの世の理を外れた禁忌です。

 

 百歩譲って、人間のメルルを蘇生する何かがあったとしても、大魔女の私まで無理矢理魂を引きずり降ろされるなど……。

 

 エマやヒロたちが私を召喚した時とはわけが違います。

 

 仮にそんな魔法が存在したとして、要求される魔力は比にならないはず。

 

 魔女化に近い魔力を持った者を、最低でも二十人以上……この屋敷に住んでいる元魔女候補全員分ほどあれば、あるいは―――

 

 

 

「――どうかしたのか?ユキ」

 

「……!え……あ、大丈夫ですよ。何でもありません」

 

 

 

 まさか、それこそあり得ない話です。

 

 魔女化には魔女因子が必須。そして、その魔女因子は私がすべてを引き取って無力化しています。

 

 この世で魔法を使えるのは、現状私だけ。

 

 だからこそ、エマたちは無事――何やらトラブルが起きているらしい――本土に帰る許可が下りたのですから。

 

 そうでなければ……私の行動は無意味で、エマたちには何らかの方法で魔女因子が再び根付いてしまっているということに―――

 

 

 

「――ちゃ……!キちゃん……!」

 

 

 

 どうして……?

 

 そんな事が可能なのは、唯一残された大魔女である私だけ。

 

 ……ほんとうに?

 

 メルルから聞いた話では、トレデキムという魔女殺しの薬が既に開発済みであるらしいと……。

 

 毒と薬は表裏一体。魔女を殺せるなら、魔女を意図して作り出す事もまた可能。

 

 そして、それを開発したのは……エマたち魔女候補をこの屋敷に拉致監禁した政府の人間。

 

 一体、何の目的があって―――

 

 

 

「―――ユキちゃん!」

 

「ひゃ……!な、なんですか?エマ」

 

「なんでって……ユキちゃん、考え事してるのかずっと上の空だよ?ボクが呼びかけても見向きもしてくれなくて……」

 

 

 

 おやつを取り上げられた仔犬のように眦を下げるエマ。

 

 そんなエマの顔も可愛い――ではなくて、そんなに集中していたらしいなんて……。

 

 どうしましょうか……。

 

 今はパーティの真っ最中。

 

 アンナと言いましたか、その子に驚いた声でエマたちに見つかってしまい、メルル共々会場に引き摺り出され今に至っています。

 

 どうやら、なぜ私が生きているのかは二の次らしいエマによって、半ば強引に主役のヒロの隣の席に座らされましたが。

 

 メルルの方を見れば、彼女もお友達の器量の大きさに涙しているようですし、少なくとも排斥されているわけではないように思えます。

 

 ともかく、そんな和気藹々とした雰囲気を、私の何の証拠もない推測でぶち壊しに行けるほど、私は堕ちてはいないです。

 

 ここはそれとなく、当たり障りのない理由で――

 

 

 

「……私は大丈夫ですよ。エマには関係のない事ですから、気にしないで、ね?」

 

「…………ボク“には”?」 

 

 

 

 ――あれ?もしかして、私、間違えました?

 

 

 

「……そうだよね。ボクがユキちゃんを一度見捨てたのは……見て見ぬ振りをしたのは事実だから。やっぱり嫌われてても、当然だよね……。ボクなんかより、ヒロちゃんとかのほうがずっといいに決まってるのに――」

 

「え、あ、ちょっと……エ、エマ?」

 

 

 

 今にも魔女化してしまいそうな勢いでハイライトを失っていくエマの瞳。

 

 それでも親友かと言われるかもしれませんが、こんなエマの一面を見たのは初めてで、どうするべきなのか……。

 

 気のせいか、魔女殺しの覚醒前の魔法――魔女を疲れさせる魔法特有の倦怠感が襲ってきている感じが……。  

 

 ――エマって、こんなに重かった子でしたっけ……?

 

 人間社会では確か……メンヘラ?だとか、ヤンデレ?だとか言う気質だったということなのかも。

 

 こうしてあれこれ考えている間にも、どんどん影を落としていくエマの顔。

 

 悲しいことに、私にはどうするべきなのかが分かりません。

 

 ここはエマの扱いに慣れているヒロに――

 

 

 

「―――何が可笑しいのですか?ねぇヒロ?」

 

「くっ……ふ……!いや、違うんだ……。あのユキが、柄にもなくあたふたしているのを見ていたら、つい……!」

 

「……そうですかそうですか、つまりあなたはそんな人だったんですね」

 

「わ、私はクジャクヤママユを潰したりしない!」

 

「その代わりに、私の信頼を潰しましたけどね……ふふっ……」

 

 

 

 肩を震わせ、必死で笑いを堪えていたヒロと冗談交じりのやり取りをする。

 

 たったそれだけでも、あの頃の記憶が思い出されてしまって、自然と笑みがこぼれてしまいました。

 

 同時に喉がきゅっと締め付けられて、瞼から熱いものが溢れてきそうにも。  

 

 私も、年を取りすぎたのでしょうか……。

 

 自嘲気味に肩を竦めて、いよいよ魔女化しそうなエマの両頬を挟み、心のままに言の葉を届けることに。

 

 

 

「……エマ、こっちを向いて?」

 

「ユキ、ちゃん……?」

 

「エマは優しいですね……。あなたに人類滅亡の片棒を担がせようとした、悪い大魔女の私にでさえ、心配の念を向けてくれる。変わらず親友のように笑いかけてくれる……」

 

「え……それは当たり前だよ。ユキちゃんは大切な親友なんだから……」

 

「ありがとう……。その親友が言うんです、私は何ともありませんよ。まさかこうして、生きてエマたちと過ごせるなんて思わなくて、まだ感情が落ち着いていないのですよ。それに……」

 

「そ、それに……?」

 

「言ったでしょう?私は、エマの綺麗な笑顔が好きなんです。エマにはそんな顔は似合いません。あなたが笑っていてくれれば、私は幸せなんですよ」

 

「ユキちゃん……!うん……ボクもまだ信じられないみたい。きっと、またユキちゃんが消えてしまうんじゃって、考えちゃったんだ……」

 

「ふふっ……、大丈夫ですよ。せっかく貰った機会ですから、たくさん、お話しましょうね」

 

 

 

 エマの舞い散る桜のような柔らかい髪をそっと撫でていると、みるみるうちにその瞳が色彩を取り戻していく。

 

 嘘はついていません。

 

 エマが好きなのも本心。

 

 そして、エマをこれ以上危険な目にあわせたくないのも本心です。

 

 木を隠すなら森の中――島の大魔女たちもよく言っていましたね……。

 

 もしほんとうに私の推測が事実だとしたら、エマたちの身にまた危険が及ぶ可能性が高い……。

 

 今度は、私やメルルからではなく……同じ人間たちの手によって。

 

 ――そんな事は、絶対にさせません。

 

 必要なら、私の存在を差し出してでも………。

 

 

 

「……私も、エマのことをとやかく言えませんね……」

 

「……ユキちゃん?何か言った?」

 

「いいえ、何でもないですよ。ほら、お菓子を食べさせてくれるのでしょう?」

 

「あっ……うん!このクッキーはナノカちゃんが作ってくれたんだよ。はい、あ〜ん!」

 

 

 

 一抹の羞恥心を押し殺して差し出されたクッキーをかじる。

 

 仄かなバニラの香り、ナノカらしい控えめながらも思いやりのある味が広がっていって……。

 

 間違いなく美味しいのですが……その半分は恐らく――

 

 

 

「えへへ……ユキちゃんにあ〜んしちゃった……!恥ずかしいけど、なんだかヘンな感じだね……///」

 

 

 

 あんなに積極的だったのに、いざ終わってみれば頬を染めて一人もじもじして……。

 

 時折覆った指の隙間からチラチラと私の反応を覗ってくる様子は、初心な乙女そのもの。

 

 これがこのクッキーの美味しさを引き上げているのは疑いようもない事実ですね。

 

 いっそ、エマの方を食べてしまいたいくらい……。

 

 ……やられっぱなしというのも、なんだか癪ですね。

 

 

 

「……エマ、少し目を閉じていてもらえますか?」

 

「え?う、うん………」

 

 

 

 さながら忠犬のように、素直に目を閉じるエマを確認してから、丁度良く近くにいたナノカに声をかける。

 

 

 

「ナノカ、クッキーを一枚、くれますか?」

 

「え、えぇ……勿論」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 困惑した様子のナノカを横目に、受け取ったクッキーを口に含んで軽く砕く。

 

 喉に詰まらない程度まで咀嚼しきった後、私はゆっくりとエマに顔を近づけて―――

 

 

 

「ユキちゃん……?ボクに何を―――んむっ……!?」

 

 

 

 その桜色の唇に、一部の隙間もなく自身の唇を押し付ける。

 

 驚きに満ちたエマの瞳を覗きながら、今度はしっとりと甘いチョコレート味のモノを流し込んでいく。

 

 硬直した華奢な身体を引き寄せ、いっそう深く……。

 

 

 人類への復讐に費やしてきた年月が一瞬にも思えるような、永遠にも思える時間が流れて―――

 

 

 

「――ぷはっ……!ゆ…ゆゆゆゆユキちゃん!?」

 

「どうでしたか、エマ?美味しかったですか?」

 

「ゆゆゆユキ!なっ……何をして……!?羨ま――じゃなく、そういうのは互いに好きあっている者同士であるべきで……!」

 

 

 

 極細の銀の橋を架けながら顔を離せば、エマは勿論……静観していたヒロさえ真っ赤になって詰め寄ってきて。

 

 ここまでくれば恥ずかしさなんてものは、今この時に限って消失したらしく、私は吹っ切れてみることにしました。

 

 

 

「あら?それなら何も問題はないですよね、ヒロ?エマは私が好き、私はエマが好き。ほら、好きあっているでしょう?」

 

「いや、それとこれとは違うというか……!しかし……ユキにはエマを任せられる……。いや……それなら私の気持ちは………」

 

 

 

 何やら頭を抱えて、一人でブツブツと葛藤し始めてしまったヒロ。

 

 正しさに実直な彼女の年相応な一面に、またしても頬が緩んでいく。

 

 ――案外、ヒロも可愛い顔をするのですね。

 

 確か世間では……ぎゃっぷ萌え?とか言うのでしょうか。

 

 メルルがそう教えてくれた気がしないでもないです。

 

 

 

 

「〜〜〜っ!ボ、ボクちょっとトイレに行ってくるね!」

 

 

 

 あら……逃げられてしまいました。

 

 今日はエマの見たことのないような表情が沢山見れますね。

 

 こんな事なら、もっと早く姿を現すべきだったかもしれませんね……。

 

 私はいつだって、気づくのが少しばかり遅いみたいです。

 

 ――けれど……今度は手放したくない。

 

 エマたちのおかげで、ようやく気づけた私の本当の望み。

 

 人類滅亡なんてものではなく、ただ普通の……気の置けない友人と笑いあって、からかって、時には喧嘩もしたりして……そんな当たり前の幸福をもう一度。

 

 

 ――島の魔女たちは……嗤うでしょうか。

 

 ……いえ、こんな私を助けてあげてほしいと、幸せになって欲しいと願うような人たちです。

 

 きっと、笑ってくれているのでしょう。

 

 

 ――これまで魔女となり、犠牲になった人間たちは……私を恨むでしょうか。

 

 ……きっとそうでしょう。

 

 成り行きと人望の厚いエマのおかげで、私は今は咎められずに済んでいますが……それもパーティが終わるまで。

 

 魔女化していた子たちからの奇異な視線を感じ取れないほど、私は鈍感ではありませんから。

 

 落ち着いたら、全てを白日の下に曝け出すつもりです。

 

 許されようとも、赦されるとも思っていません。

 

 

 

 ――それでも私は……今はこの優しい微睡みに、身を任せたいのです。

 

 だって私は、エマとヒロの親友で、唯一生き残ってしまった―――

 

 

 

「―――大魔女、月代ユキなのですから」

 

 

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 

「―――と、言うわけでして……私にも何が起こっているのかさっぱりで……すみません……」

 

「聞けば聞くほど、信じられないような話だね……。いやまぁ、魔法なんてものがあるんだから、不思議じゃないのかもしれないけど……」

 

「……いやいや!にしても限度ってものあるでしょ!?死者蘇生とかチートもいいところじゃん!」

 

「うむ……。『そんな魔法が存在すれば、世の理が崩れてしまう』」

 

 

 

 なんの前触れもない、大魔女ユキと氷上メルルの復活に一時は騒然としたパーティ会場……もとい大広間。

 

 御鏡アンナが隠れていた二人を見つけたことが発端で、あわや魔女裁判の惨劇が復活するのではと、恐怖に包まれかけたパーティの流れを引き戻したのは、エマだった。

 

 ヒロでさえ言葉を失い、呆然としていた状況の中、エマは有無を言わさない勢いで二人をパーティの場に引き込んだのだ。

 

 メルルはともかく、ユキに関しては魔女化状態で保存されていた少女たちの知るところではなく、召喚に関わったグループも彼女の過去と人となりは把握していることもあって、半ば行きずりでパーティは続行となっていた。

 

 ユキはエマとヒロに付きっきりになってしまった分、こうしてメルルが質問攻めにあうことになっていた。

 

 

 

「う……うぅ……そう言われても、気がついた時には既に……といった感じでして。大魔女様もわけが分からないといったご様子でした……」

 

「……彼女にすら解明出来ないんじゃ、私たちに出来ることなんてたかが知れてますわ……」

 

「あら、そうとは限らないわよ?だって私たち、その大魔女様相手に、裁判で勝ったのだから」

 

「う〜ん、これは匂いますね!何やらとてつもない陰謀の匂いが!ミステリー臭がぷんぷんします!」

 

「のあには難しいこと分かんないなぁ〜……。メルルちゃんとまた会えて嬉しいくらいかな〜」

 

 

 

 過去の所業も相まってすっかり萎縮してしまったメルルと、三者三様十人十色な反応を示す各々。

 

 いつの間にかメルルの周りには菓子類の準備で忙しいナノカを除いたほぼ全員が集まってきていた。

 

 当然、第一発見者であるアンナもであり、どこか無機質な声音で呟く。

 

 

 

「……そう。やけに見覚えがあると思ったの。あなた、【私の時】にも居たよね?同じ魔女候補として……」

 

「……っ……は、はい……」

 

 

 

 不自然なほど抑揚のない声質に、誰もが得も知れない寒気を感じた。

 

 しかし、同時に当然のことだとも誰もが思った。

 

 アンナからすれば、メルルに大魔女探しの踏み台にされた犠牲者であり、許されない存在のはず。

 

 共に過ごしていないため彼女の不気味さが際立つのか、それとも彼女の硝子のような無機質さがそうさせるのか。

 

 一方的な会話や断罪を嫌うミリアでさえ、言葉を挟むのを躊躇うほどの威圧感が放たれていた。

 

 どんな罵詈雑言が放たれるのかと縮こまるメルルに、一つの問いが降った。

 

 

 

「一つだけ聞きたいけど……。あなたは、後悔してる?」

 

「え……?後悔、ですか?」

 

「そう。あなたの目的は、今幸せそうにしてるあの大魔女様とやらとの再会だったんでしょ?そのために、数え切れない人の屍を踏み台にして、偽善者の仮面を被って私たちとお友達ごっこをしたこと。後悔してるのかなって」

 

「アンナちゃん……それはね……」

 

「どうなの?正直に答えて」

 

 

 

 あまりの苛烈さにミリアが割り込もうとするものの、その鏡のような双眸はメルルを映して離さなかった。

 

 アンナだけではない、これまでの犠牲者の代弁でもあるはずの追及。

 

 あくまで無機質に、淡々と。

 

 さながら裁判の尋問のような緊張感が漂う中、メルルは一つ息を吸い、真っ直ぐにアンナを見つめて口を開いた。

 

 

 

「……いいえ、後悔はありません。私にとっては、大魔女様に会うことが一番の願いでした……。そのためなら、どんな手段も厭わないと、誓ったので……!」

 

 

 

 被害者を真正面から侮辱するような返答。

 

 しかし、メルルにとっては紛れもない真実だった。

 

 そしてこれまで欺き続けてきた償いとして、偽る事をやめることにしたのだった。

 

 たとえそれがどんなに残酷で、醜悪で、自己中心的なものであっても……。

 

 そんなメルルの決意が届いたのか、はたまたあまりの潔さに呆れたのか。

 

 アンナは一切抑揚を崩さずに、肩を軽く竦めた。

 

 

 

「……そう。ならいい。もし後悔していようものなら……少し考えたけど。少なくとも、私はあなたをどうにかする事はないよ」

 

「……はい……」

 

 

 

 それきり、アンナはメルルに興味を失ったかのように集団を離れ、じゃれ合っているエマたちへと視線を向けた。

 

 張り詰めた息をほっと吐き出した一同の中、アリサが要領を得ないといった様子で頭を掻いた。

 

 

 

「なんだかな……御鏡、だったか?ウチにはあいつが不気味に見えて仕方ねぇんだよな……」

 

「まぁまぁ……おじさんたちだって十分個性的だし。不思議ちゃんがいてもおかしくはないかな〜って……」

 

「アリサくんは、彼女が何か気になるのかい?」

 

「……んな大層なもんじゃねぇけどよ……。あいつ、今もずっと、桜羽の方を見てやがるんだ」

 

「エマさんは魔女化から解放された人たちへのサポートに尽力していましたし……。人望も厚いですわ。それのせいなのではなくて?」

 

「いや……それはそうなんだけどよ……。なんか違ぇんだよ。こう……じっとりするというか、ただ好きってよりも……」

 

「あら、愛憎にまみれたドロドロの昼ドラってことかしら。ゾクゾクしてきちゃうかも」

 

 

 

 自身の禁忌に近しい話題すらも冗談に昇華してしまうマーゴの精神性は、場の雰囲気を和ませていくのに一役買っていた。

 

 アンナの得体の知れなさは、関わりの薄さが招いているものだという共通認識が生まれ始め、アリサもそれ以上言及する事はなくなっていった。

 

 メルルの復活の件についても、今どうこうできる問題ではなく、ひとまずは純粋にパーティを楽しむべきだという雰囲気が形成されつつあった。

 

 そんな最中のことだった―――

 

 

 

「……エマ、少し目を閉じていてもらえますか?」

 

「え?う、うん………」

 

「ナノカ、クッキーを一枚、くれますか?」

 

「え、えぇ……勿論」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 何気なくアンナの視線の先である、エマとユキのやり取りに全員が目を向けたその一瞬だった。

 

 

 

「ユキちゃん……?ボクに何を―――んむっ……!?」

 

 

「えっ……」

 

「なっ……!?」

 

「え゙っ……!?」

 

「わぁ〜お」

 

「ねぇ、なんでのあの目を隠すの?」

 

「あはは……ノアちゃんにはまだはやいぞ〜ってね……」

 

『……破廉恥だ』

 

「マジかよ……」

 

「あら♡」

 

「はわわわわ……すごいものを見てしまいました……!」

 

 

 

 何たる偶然か、はたまた奇跡という名の必然だったのか。

 

 熱烈な口移し――もとい接吻をこの場のほぼ全員が目撃していたことを、当の本人であるユキはまだ知らないのが救えない。

 

 しかし対面のエマは、その全員の観衆の視線をもろに受け止めてしまった事は想像に難くない。

 

 一応、二階堂ヒロが主役のはずのパーティは、いつの間にか桃色の空気で満たされる始末となった。

 

 しかしそれもまた一興と、少女たちの華やかな声が牢屋敷を塗り変えていく。

 

 この場には、確執も、疑念も、憎悪も、流血も必要ないのだから。

 

 

 

「月代……ユキ。いや……魔女……!」

 

 

 

 ――一人の少女を除いては。

 

 

 

 

 

 

 ちなみにそう遠くない未来、アドレナリンの切れた一人の大魔女が悶絶するハメになった事はまた別の話。

 

 

「……エマ、どうか私を処刑してください。あなたの魔女殺しの魔法なら……」

 

「待って待って!だから魔法はもう使えないんだってばぁ!」

 




矢印図(何の矢印かは想像にお任せ)
 ヒロ → エマ ← ユキ
      ↑
     アンナ
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