宵月庵バッセSSまとめ   作:宵月ハインド

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今回は代理ヒーロードットのこちらのエピソードに登場したキャラもゲスト出演します。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22763872


代理アイドル出動!?

T=/M=に分類される《心表裏世界》と呼ばれる世界で、

その世界の住人であり、代理ヒーローでもあり、バースセイバーでもあるドットは、

代理ヒーローとバースセイバーそれぞれの休暇が被ったのもあり、自身の町へ当初一人で帰るはずだった。

 

しかし、ちょうど休暇の間に推しであるソラリス・サイレンのライブ(単独ではなく、他のアイドルグループと一緒)が行われる事に気付いて、

楽しみにしながら過ごしていた所、

太刀花双輪華の凛と藍、那由多にドットの推しであるソラリス・サイレンに興味を持たれた事がきっかけで、

ドットは凛と藍、那由多、更に杏樹を連れて横崎町へ。

更に何故か、ドットと同じ宵月庵に所属するアイヴィーとワンダースケアも勝手に同行してきた。

 

横崎町にある横崎駅の近くに簡易的に建てられた特設ステージに観客が集まっており、

既にアイドルグループが歌っている真っ最中だった。

 

「おお、かなり盛り上がってるみたいだねー。」

凛は辺りを見渡しながら観客の多さと現在進行形で踊っているアイドルの様子を見ていた。

 

「ドットさん、無理を言って申し訳ございません。」

「ああ、気にしないで。

 本当なら町の案内とかした方がいいんだろうけど、

 私の都合でここに連れてきちゃってるし。」

藍が謝ろうとするが、ドットも逆に謝っていた。

 

「確か、ドットさんが推してるってのは『ソラリス・サイレン』でしたよね?」

那由多は事前にもらっていた今回のライブイベントに関するパンフレットを確認していた。

 

「……このパンフレットによると、

 今やってるグループの次に行われるトークショーが終わったら2曲やる予定みたいですね。」

 

「しかも最後?」

「いわゆるトリってやつだな!」

杏樹が那由多の持つパンフレットを覗き込んでいると、ワンダースケアが割り込んできた。

 

「トリならこの焼き鳥もおいしいよー?」

アイヴィーは空気を読まず、

焼き鳥を頬張りながらいつの間にか周辺の屋台から一通りのメニューを確保していた。

 

「でも、なんとかソラリス・サイレンが出るまでに間に合ったみたいでよかったぁ……。」

ドットはアイヴィーを無視しながら、額にハチマキを巻き、右手にペンライト、左手にうちわを持っていた。

 

「そういや、ドット。

 前に話だけ聞いたが、ソラリス・サイレンと踊ってた事あったんだろ?」

ワンダースケアが発言した途端、アイヴィー以外がドットに注目しだした。

 

「あ、ワンダースケアがいなかった時だっけ?

 べ、別にそのことはどうでもい」

 

「そういえば、ここに来るきっかけはあんたがそのソラサイってやつの曲を踊っている練習を見て、

 アタシと藍も一緒に練習に混ざってもらったけど、その話ちょっと気になる!」

「私はお姉さまに引っ張られて、練習に混ざったのですが」

凛が前のめりになりながらドットに食いかかろうとし、藍はドットと凛の間に立つように割って入った。

 

「まぁいいけど、

 あの時は確か……

 二人に対してヴィランサーによるライブでの襲撃予告を受け取ったマネージャーがV.C.S、

 つまり私達に頼ってきたことがあったんだ。

 それでライブの途中でヴィランサーが現れて、

 私がV.C.Sの仲間と一緒に戦ってヴィランサーを何とか止めたけど、結局ライブが中止になって……。

 そこで二人が助けてくれたお礼とかで、

 有無を言わさずに私と一緒にライブの続きをやらされた上にSNSに載せられる事に。

 私は推しがいる空間や壁になるを通り越して、挟まれるなんて罰が当たるって思ったよ。」

ドットは当時の事を思い返しながら語っていた。

 

「最後は気持ちだけ理解できました。」

那由多はドットに対し、同情できた。

 

「まぁ、助けてくれたってのは理解できるけど」

「おいおい、重要な部分が抜けてるぜ!」

凛が腕を組みながら聞いていると、ワンダースケアが割り込んできた。

 

「どういう事でしょうか?」

「実はな、その時のヴィランサーは

 『ボーラー』っていう地面を掘り進むタイプでな。

 地面の中にいる間は音だけで地上の様子を知ろうとするが、

 ドットは二人をハウンドベアに乗せて空中に逃がし、

 自らソラリス・サイレンのライブを完コピで踊る事で、

 ヴィランサーから見れば

 『ソラリス・サイレンのどちらか一人が踊っている』

 状態にしか"聞こえない"から慌てて地上に顔を出して、

 その隙に二人を安全に逃がしつつ、攻撃出来たんだよ!」

ワンダースケアは那由多の問いに答えると、

 

「なんかわかった。

 つまり、ヴィランサーとやらが間違えるほどのダンスのうまさに、

 ソラリス・サイレンが感心して、ファンでもあるドットへのお礼半分、

 ライブがダメになった分を得られるはずだった人気を取り戻す半分で、

 ドットにライブのバックダンサーを強制したって事か。」

話を大人しく聞いていた杏樹が分析していた。

 

「そういう事さ、よく考えたものだ!」

ワンダースケアはソラリス・サイレンの抜け目のなさに感心していた。

 

「いくらなんでもソラサイに限って……あれ?」

ドットはワンダースケアに言いかけた途端、ステージの外に視線を向けていた。

 

 

「ええ、間に合いそうにない!?

 なんとか二人だけでも……あーわかりました。

 また何かわかり次第、連絡をお願いします。」

全員がドットの視線に合わせると、スーツを着た男性がスマホで電話応対をしていた。

 

「あ、そうだ!」

ドットはその男性に向かって駆け出していった。

 

「え、ドットちゃん?」

凛を始めとした全員(アイヴィーは食べ物を抱えながら)ドットを追いかけていった。

 

 

「ああ、困ったなぁ……。」

「あの、もしかして渕山……さんでしょうか?」

ドットはスマホを片手に途方に暮れていた男性に心当たりのある名前で呼びかけた。

 

「あ、あなたはあの時の代理ヒーロー!?」

渕山と呼ばれた男性はドットを見て、ペコペコとお辞儀を繰り出した。

 

「ドットさん、その方は?」

藍がドットに男性について問いかけた。

 

「ああ、紹介するよ。

 この人は渕山さん、ソラリス・サイレンのマネージャーなんだ。」

「ああ、さっきの話に出てたマネージャーさん。」

那由多は相槌を打ちながら、手を打っていた。

「ほほう。」

凛は何故か関心を寄せていた。

 

「あの、そちらはわかるのですが、他の方は……。」

渕山はワンダースケアを一瞬見つつ、ドットに藍達について聞こうとしていた。

 

「ワンダースケアは言わずもがなですが、

 他の皆さんはV.C.Sの交流研修で知り合った"よそで活動している"ヒーローなんです。

 今日私が休暇にこのライブに行くと知って、

 みんな興味を持ってくれたので一緒に連れて来たんです。」

この世界ではダーザインの存在が伏せられており、

ドットとワンダースケアが所属するV.C.Sが現地窓口になってくれているので、

バースセイバーの事を"よそから来たヒーロー"という形で、ドットは一般人である渕山に説明した。

 

自己紹介する必要がなかったワンダースケアは不貞腐れていた。

 

「なるほど、V.C.Sの関係者でしたか。

 最近この町で最近あなたを見かけないという噂は耳にしてましたが、交流研修に行ってたと……。」

渕山はドットの説明に納得していた。

 

「それよりも何かあったのですか?」

「ああ、それですが……実は、

 ソラリス・サイレンは昨日、隣町のイベントにサプライズ参加した際、

 私は別件の仕事で一緒にいる事が出来ず、

 事務所の仲間に車で送ってもらってここで合流する手筈だったのですが、

 どうやら隣町に唯一繋がる橋の前で渋滞に巻き込まれて身動きが取れなくなったみたいなんです。」

 

「ああ、SNSでサプライズの件は知ってましたけど……あっ、ごめんなさい!?」

ドットは渕山と話していると、突然、通信の着信音が鳴り響いている事に気付いて話を中断した。

 

「こちら、ドット。」

『こちらマディアス、休暇のところ申し訳ない。』

「あ、支部長。」

 

「誰なの?」

「ドットさんの直属の上司ですよ。」

杏樹の疑問に藍が答え、

「休みなのに連絡来るとか、

 『代理ヒーローはブラック』って噂は本当みたいだねー。」

「否定、出来ませんね。」

凛が誰かから聞いた話を思い返していると、那由多はドットに対し同情の視線を向けていた。

 

『実は横崎町と隣町が繋がっている橋でヴィランサーが暴れている。

 横崎町第一小隊は別件に出撃中な上、最悪な事に隣町の代理ヒーローも手が空いてない。

 申し訳ないが、頼めないだろうか?』

「そうしたいのはやまやまですが……今、ホバーボードすら持ってなくて」

『今、アレックスにハウンドベアを動かして向かわせている。

 早く無力化してくれればライブには間に合うはずだ。』

「了解、アレックスと合流次第、直ちに向かいます。」

ドットはマディアスとの通信を終わろうとしたが、

「おい、俺様が代わりに出動してやってもいいぜ!」

『お前が出ると最悪、橋をぶっ壊しかねないからダメだ。

 そこにいるアンドロイドも尚更だ。』

「あっ、切りやがった!?」

「ちぇーダメかー、面白そうだったのにー。」

割り込んできたワンダースケアとアイヴィーにマディアスはダメだししながら通信を強制終了した。

 

「ってか、アイヴィーって前にここに来たことあるの?」

「うん、"こっちの"任務でねー。

 その時にドットと初めて知り合って、

 マリィを抱えながら飛んだり、人気のない建物で派手にドンパチしたよー。」

「だから、支部長さんがワンダースケアさんと一緒に出撃しないよう釘を刺した、と。」

凛とアイヴィーが話している横で那由多はマディアスの判断に納得していた。

 

「あ、飛んできた。」

杏樹が指を差した先にはハウンドベア単体がドットのいる場所に飛んできた。

 

『ドット、

 それと"よそから来たヒーロー"だったか、わりぃな!』

ハウンドベアから通信が入って来た。

『オイラはアレックス、このハウンドベアを遠隔操縦してる。』

「アレックス、現場へ急いで!」

『よぉし、しっかり捕まってろよぉ!

 わりぃが、ドットを借りるぞぉ!!』

ドットはアレックスが遠隔操縦するハウンドベアの着陸を待たずに飛び乗ると、一気に飛んで行ってしまった。

 

 

「ああ、行ってしまった。」

渕山はがっくりと肩を落としていた。

 

「……もしソラリス・サイレンの到着が間に合わないのでしたら、

 音楽を一時停止とかって出来ないのでしょうか?」

那由多は渕山に対し質問を投げかけた。

 

「実は今回、

 ライブ会場のスタッフが手配した機材の映像出力は事前にセットされたプレイリスト自動再生する形式になってます。

 ライブ中に別信号を出したり、映像をブツ切りで再生されないようシステムでガードされているのもあり、

 予定されたソラリス・サイレンの曲を即止める事が出来ません。」

「つまり、本来のプログラムを止める事も変える事も出来ない、というわけですね?」

「ええ、そうなります。」

渕山からの説明を聞いた那由多はパンフレットを改めて確認しだした。

 

「現在行われている猛執アタッカーズの演奏が間もなく終わりますが、

 その次のトークショーにすらソラリス・サイレンも出る事になってるんですね?」

「はい、しかもソラリス・サイレンがMCをやる形で。」

「それはマズいなぁ。」

「ねー、そのトークショーはどれくらいやるのー?」

渕山と那由多が悩んでいる所に、全部食べ終えたアイヴィーが声をかけた。

 

「えっと……20分ですね。」

「なら、トークショーをやらない代わりにアタシが適当にパフォーマンスでもするよー!」

那由多から所要時間を聞いたアイヴィーが名乗り出た。

 

「えっ、アイヴィーさんが!?」

藍は困惑していた。

 

「テメー、何が出来るんだよ?」

「よくやるのはグレネードを使ったジャグリングだねー結構受けるんだよ。」

 

「「ダメに決まってる」だろっ!」でしょ」

アイヴィーにワンダースケアと杏樹がツッコんだ。

 

「もういい、俺様が出て時間を稼いでやる!!」

ワンダースケアは周りの制止を無視して、ステージに上がった途端、

 

 

「ワンダースケアだっ!?」

「出てくるなー!」

「ライブをぶち壊す気かああああっ!!」

「帰れーーーーーーー!!!」

 

観客からブーイングと同時にペットボトルやペンライト等が飛んできて、ワンダースケアに命中しだした。

 

「うわーワンダースケアが自分の世界で厄介者扱いされてるって話、本当だったんだ。」

杏樹は次々とゴミの嵐を食らってもなお、ステージに立とうとするワンダースケアを見ながら引いていた。

 

「よし、あれでボコボコにされている間、5分は稼げるね!」

アイヴィーはワンダースケアを少しだけ見てから、渕山達に話しかけた。

 

「しかし、どうしましょう。

 ドットさんがヴィランサーを倒しても、

 ソラリス・サイレンがすぐには駆けつける事は出来ないのでは?」

『なるほど、事情は分かりました。』

藍が話しかけた途端、今度はアイヴィーの通信機から着信が入った。

『こちら、V.C.S横崎町支部のマディアス。

 ドットが向かった現場付近にソラリス・サイレンがいる事が確認出来たので、連絡させて頂きました。

 休暇中のドットを駆り出したお詫びにドットがヴィランサーを無力化させたら、

 ハウンドベアに二人を乗せて直接ライブ会場に向かわせる事を許可させます。』

「本当ですか、ありがとうございます!

 ソラリス・サイレンの二人には私の方からお伝えします。」

渕山はマディアスに感謝しつつ、すぐさま電話をかけていた。

 

「じゃあ、それはいいとして、

 ドットがヴィランサーを倒すのにどれぐらいかかりますか?」

『普段なら遅くても30分以内で片を付ける、今回はもう少し早く済みそうだが。』

「トークショーのかわりをワンダースケアがやられてる分を含めても20分、

 それでも間に合わないとなるともう曲が始まってしまう、しかも2曲。」

那由多はどう頑張っても間に合いそうにない事に頭を抱え始めると

 

「それなら、さ!」

凛は両手を合わせて周りの注目を集めると、

「ドットが代理ヒーローとして戦ってるなら私達は"代理アイドル"として、

 ソラリス・サイレンが来るまでの場を繋げようじゃない!」

渕山とマディアス、さらに他のみんなに提案をした。

 

「最悪、歌詞が微妙な部分は口パクになるけど、

 振付ならアタシと藍なら踊れるよっ!」

「え、でも。」

「ドットには世話になってるし、

 せっかく推しと会えるイベントを台無しにさせたくないんだ。」

「凛お姉さま……そこまでドットさんの事を。」

当初躊躇っていた藍だったが、凛の熱意に打たれていた。

 

「そういう事なら、練習する時間が必要だねー。

 もうすぐワンダースケアがダウンするだろうから、

 今度こそアタシが時間稼ぎするよー!

 グレネードジャグリングがダメなら……そうだ藍、アフロを貸して―!」

「えっ……まぁ、アイヴィーさんが危ない事をするよりはまだ……。」

藍はアイヴィーの頼みを渋々承諾し、召喚しようとした。

 

「今、ソラリス・サイレンの二人には事情を伝えました、

 皆様の作戦も聞いてましたので、ライブ会場のスタッフ達に話を通しておきます。」

「お願いします!」

那由多は駆け出す渕山に頭を下げながら見送った。

 

 

「事情は分かったよ、ここはアフロ達に任せてくれ。」

「じゃあ、借りるねー!」

「面倒だけど、私も司会で時間を稼ぐよ。」

杏樹がヘッドセットを装着しながら、アイヴィーと藍に召喚されて事情を聴いたアフロを連れて、

気絶したワンダースケアを引きずるライブ会場のスタッフ達と入れ替わる形でステージに上がっていった。

 

「みんなー、急遽トークショーを中止にしちゃってごめんねー!」

 

「あの子可愛いー。」

「なんだ、あのピンクの毛玉みたいなの?」

「あの緑と紫の人、どこかで見た事あるんだよなー?」

 

「実はソラリス・サイレンの到着が遅れてて、

 その代わり私達でダンスをすることにしたからそれで許してねー!」

 

「さぁ、みんなでやろう『アフロダンス』!」

 

アフロの合図と同時に杏樹が声をかけながら、アフロとアイヴィーがシュールなダンスを始めていった。

 

 

「あれを15分も?」

渕山がステージの様子を見て茫然としている中、

 

「時間がありません、

 せめて1曲だけでも完璧に踊れるよう、

 見本を覚える1回、実際に踊るのを通しで2回やります。」

那由多は凛と藍に対し、スマホから見本の映像を流す準備をした。

 

「藍、

 こういうのは舞踊で退治する妖怪を相手にした練習と思えばいい。

 正確に踊れば、相手が満足して浄化したり、大人しくなるタイプ。」

「はい、そのつもりで行きます、お姉さま。」

凛と藍はスマホを見て正確な動きを目でとらえ始めた。

 

 

ダンスがひとしきり終わってアイヴィーがアフロで玉乗りしながら、

杏樹が投げたボールをキャッチしながらジャグリングしている一方、

那由多は練習している二人のダンスを分析していた。

(昨日、ドットがやっているのを一緒に練習してたのもあって、

 見本を見てからの通し1回目は二人とも振り付けはほぼ正確だけど、

 凛ちゃんは動きに我が出てしまってるし、

 藍ちゃんは凛に動きを合わせようとするから遅れが生じてしまってる。

 この2回目で大分改善されているけど、これで本番を乗り切れるかどうか……いや、二人を信じるしかないか!)

「時間です、お二人とも準備してください!!」

「「はいっ!!」」

ライブ会場のスタッフからヘッドセットを手渡された凛と藍は装着しながら、ステージに向かって駆け出していった。

 

「とりゃーーーー!」

「うわあああああああああああっ!!」

「すごーい、かなり激しく回してますね―!」

(ダンスと大玉&ジャグリングはまだ反応よかったけど、

 こんな傘芸は勢いだけで、ただただ絵面がシュールなだけなのよ……。)

今度はどこからか調達した傘を回転させてアフロを高速で回しているのを、

杏樹は内心呆れつつもこの場を持たせようとしていた。

 

「あっ。」

「ああああああああああっ!?」

アイヴィーの手元が狂って、アフロは勢いよく空の彼方へ射出されてしまった。

 

「いっけねー、杏樹これ持っててー。」

「え、ちょっと」

アイヴィーは傘を杏樹に有無を言わさず渡すと、そのままアフロが飛んだと思わしき方角に向かって飛んで行った。

 

「え、あれ大丈夫なの?」

「あの子、飛んじゃったよ……。」

「俺達は一体、何を見せられてたんだ……。」

その場にいた観客が困惑していた。

 

(『交代、代理出ます』)

(あっ、スタッフからの合図だ。)

「みんなー、ソラリス・サイレンが来るのにもう少し時間かかるみたいだから、

 代わりに歌って踊ってくれる人にバトンタッチするねー!」

ライブ会場のスタッフのカンペに気付いた杏樹が舞台袖に向かうと、

「ここからはアタシ、凛と」

「ら、藍の」

「「太刀花シスターズが代わりに1曲歌うよっ!!」」

ノリノリな凛と緊張気味な藍が自己紹介しながら、ステージに上がって来た。

 

「まだ、ソラサイ来ねーのかよ!?」

「金髪の子、スタイルもいいし、美咲ちゃんに雰囲気近いな。」

「青髪の子、紫音様と違って可愛い系だけどありだな。」

観客の中には文句もある中、凛と藍に対し好意的な声も聞こえた。

 

 

「早速行きまーす、みなさんご存知、

 ソラリス・サイレンの『恋の花咲く季節』!!」

 

 

凛と藍による代理アイドルのライブは当初、観客の戸惑う声で埋めていたが、

前日にドットと一緒に、さらに直前までダンスの練習していたのが功を奏して、

(途中藍が振り付けを一部間違えたり、凛のパートで歌詞が飛んでしまう事もあったが)

次第に盛り上がりを見せていき、無事にソラリス・サイレンの曲を一曲終わらせる事が出来た。

 

「聞いてくれて、あっりがとー!」

凛の掛け声と同時に観客からの拍手喝采が鳴り響いた。

 

「みなさ」

藍が言葉をかけようとした途端、次の曲のイントロが流れ出した。

 

「え、もう次!?」

「ど、どうしましょう、次の曲は聞いた事が」

 

『美咲でーす、みんなー、遅れてごめんねーーーー!!』

突然、スピーカーからジェット音交じりで美咲と名乗る女性の声が鳴り響いた。

 

『紫音です……代理アイドルの二人、私達ソラリス・サイレンが来るまで持たせてありがとう。』

更に紫音と名乗る女性が聞こえたと同時にライブ会場にハウンドベアに乗ったドットの後ろにソラリス・サイレンと思わしき二人も一緒に乗っており、更にその横にアイヴィーが通信機を二人の顔に向ける様に向けた状態で着陸した。

 

 

「どうやら、間に合ったみたいだな。」

「まさか、こうやるとはね。」

舞台袖でワンダースケアが自身の通信機を杏樹が身に着けてたヘッドセットに向けていた。

 

「おかげで観客が怒らずに済みそう……。」

那由多は安堵していた。

 

「さぁ、次の曲『すれ違いな両片思い』を"みんなで"やるよ!」

美咲がステージにいる凛と藍にサムズアップしながら一緒にライブをするよう促していた。

「藍、ここまで来たら!」

「やりましょう、お姉さま!」

凛と藍がお互いの目を合わせてから、ソラリス・サイレンの二人に向かって手を振っていた。

 

「じゃあ、あたし達も便乗するー!」

「ちょっとっ!?」

「いえ、私はこういうのは」

更に舞台袖からアイヴィーが杏樹と那由多を両脇に抱えてエントリーしてきた。

 

「いいね、いいね!

 みんなでトリを盛り上げちゃおう!!」

美咲の掛け声と同時に観客も同時に湧き出した。

 

(よし、これで心置きなくソラサイのライブに……あれっ!?)

ソラリス・サイレンの二人がハウンドベアから先に降りたのを確認したドットは観客席に移動しようとした途端、二人に腕を掴まれていた。

「今回も助けられちゃったね。」

「ぜひ、一緒に……。」

「あ、いえ、そんな……。」

「「一緒に」」

「ハイ……。」

ソラリス・サイレンの二人はドットを挟むかのように腕を掴んで歌い始めながら、

ステージに向かって駆け出した。

 

「ソラリス・サイレン3人目のメンバー、代理ヒーロードットも来たぞおおおおおっ!!」

ドットも一緒になった事でライブで最高潮の盛り上がりを見せていた。

 

美咲と紫音が最前列に立って歌い、

凛と藍にドット、そして那由多、アイヴィー、杏樹がソラリス・サイレンに合わせて踊っていった。

 

 

「ちくしょう、俺様もあそこに入りてぇ、

 目立ちてぇ、チヤホヤされてええええええっ!!」

舞台袖でワンダースケアが複数人のライブ会場のスタッフに、

羽交い締めされた上に両腕や両足を抑えられながら、叫んでいた。

 

 

その後、ソラリス・サイレンが遅刻のお詫びにファンへの握手会(何故かドット達も巻き込まれていた)を行い、

無事ライブの終了を迎え、観客が帰路に着こうとしていたのを見届けた。

 

「みんな、本当にありがとうね!」

美咲が両手を合わせながらドット達に感謝を伝えていた。

 

「あなた達が助けてくれなければ、

 今日のライブはダメになる所だった……感謝します。」

紫音も静かに頭を下げていた。

 

「いいってことよ、それよりもさぁ。

 代わりと言っちゃなんだけど、

 そっちの事務所のプロデューサーか社長にアタシを紹介し」

凛が言い終える前に、藍が凛の頭を叩いた。

「やけに今回は積極的だと思っていたら、そういう事でしたか……。」

「うぐぐ……このままあわよくばアイドルとしてデビューして、

 今度こそ武道館でライブして、更にイケメンもしくはセレブとの熱愛報道からの結婚をーーー!!」

「今度こそ?」

「以前、凛お姉さまは剣道の全国大会で優勝した際、

 インタビューでそのままオリジナルソングを歌ってライブを始めて、

 わずか20秒で叔父さんに後頭部を叩かれて終了させられた事がありました。」

「なるほど……。」

凛を羽交い締めしようとしている藍から事情を聴いたドットは呆れていた。

 

「武道館でのライブか、確かに憧れちゃうよねー。」

美咲が藍から離れた凛に笑みを浮かべながら耳元まで近づくと、

 

 

「アイドル、甘く見るなよ?

 こちとらソロで6年近くやっても鳴かず飛ばすな所、コンビでようやく売れたんだぞ?」

凛(とドット)にだけ見える角度で、美咲は凄みを含めた表情と声で凛にだけ聞こえるように囁いた。

 

 

「ひ」

凛は思わず怯んでしまい、

その隙に藍と那由多に両脇を抱えられてしまった。

 

「一体、どうしたんでしょうか?」

「普段の凛お姉さまなら、もう少し駄々をこねると思いましたが」

 

「ああーその、まぁ、凛さんもきっと美咲さんの凄さを理解したんだ、と思います。」

ソラリス・サイレンの実情を知っているドットはこの場を誤魔化す事にした。

 

「V.C.Sの皆様、

 今回は本当にありがとうございました!

 これ、ほんのお気持ちですが……。」

渕山がペコペコと頭を下げながら、ドット達に差し出そうとしていた。

 

「あ、もしかして和菓子アソートだったりするー?」

アイヴィーが興味を持っていた。

 

(お姉さま方、

 ドットさんがよく和菓子アソートを持ってきてくれたと思いますが、

 受け取る際、くれぐれも失礼な態度だけはしないでくださいね。)

藍は自分の姉達に注意を促していた。

 

「実は横崎町にある複数の洋菓子店から集めた焼き菓子のアソートになります。

 最近新しく発売されたんですよ、皆様のお礼にとなんとか2つだけ確保してきました。」

 

「焼き菓子?!」

「おいしそうー!」

杏樹とアイヴィーが目を光らせていた。

 

「そうでしたか、ではお言葉に甘えて受け取らせて頂きます。」

「じゃあ、そういう事なら。」

藍とドットが代表で受け取った。

 

 

「では我々は後片付けがありますので。」

「今回は本当にありがとう!」

「また、機会があったら、ライブで会おうね。」

渕山、そしてソラリス・サイレンはドット達に挨拶しながらその場を後にした。

 

 

「じゃあ私達もそろそろ帰り」

『こちらマディアス、聞こえるか?』

「あ、支部長。」

『今回は休みのところ済まなかった、

 こっちもようやく事後処理等が全部終わったところでな。』

「そういえば横崎町第一小隊の方は?」

『そっちも無事に完了、怪我もない。』

「それはよかったぁ。」

マディアスからの通信を聞いたドットは安堵していた。

 

「ところでお前はもちろん、

 "よそから来たヒーロー"達もまだ時間はあるか?

 こっちの都合で巻き込んでしまったお詫びと言っては何だが夕食を奢りたいが、

 どうだろうか?

 まぁこの時間だと、町中華ぐらいしか空いてないからそこでよければになるが……。」

 

「え、夕食を、でもそんな」

「いいじゃん、せっかくだしごちになろうよ!

 今はたくさん食べないと気が済まないんだよね!!」

藍はやんわりと断ろうとした矢先、凛が半ばヤケになりながら答えていた。

 

「なら、席を確保しておく。

 竜爪軒だが、ドットはわかるよな?」

「はい、大丈夫です。」

『なら、来てくれ……おっと忘れてた。

 来る前にみんなに見せたいものがある。

 フュニー、映像をドットのスマホに転送してくれ。』

『はい。』

ドットは自分のスマホを取り出すと、

V.C.S横崎町支部から転送されたと思わしき映像が再生された。

 

そこにはドローンから空中から撮影された画角でピンクの塊が川座敷でうろつく様子が映っていた。

 

『これは君達の仲間ってことでいいだろうか?』

 

「そうだ、アフロを探す途中で、

 ワンダースケアから

 『そろそろ時間がやべぇから、

  橋に向かってソラリス・サイレンに通信機を渡せ』

 って言われて、

 そのままライブ会場に戻ってたから、アフロのことすっかり忘れてた―w

 さっさとアフロを回収して振り回して脱水を済ませてから、

 連れて行くからその"町中華"って所の場所を教えてねー!」

アイヴィーがてへぺろしながら飛んでいくのをドット達は見送っていった。

 

その後、合流した町中華、竜爪軒でドット達が常識の範囲内で食べてたのに対し、

アイヴィーが遠慮なく全メニューを一通り頼んで完食し、アイヴィーのお代だけワンダースケアに押し付けたのはまた別の話。

 

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