全てはダーザインカノニカル本部が管理する一室、宵月庵から始まった。
「まったく、ワンダースケアめ。
俺の健康に気を遣う体で押し付けやがって……。」
ゴルドーは文句を言いながらワンダースケアが手違いで大量購入したトマトジュース缶の山を整理していた。
「しかし俺自身、
研究と隊長代理の仕事ばかりで不摂生気味なのは事実ではあるがな。」
ゴルドーはトマトジュース缶の山から一つ手に取って、プルタブを開けて口に付けた。
「どうぞ、こちらです!」
「こんにちは、お邪魔しますー!」
突如、ドアが開くと同時に二人の少女の声が響いた。
「う、ゴフッ!!?」
ちょうど口に含んだトマトジュースが喉を通った瞬間、
ゴルドーは思わず中途半端にトマトジュースを飲んだ状態で噴き出してしまった。
「「えっ!?」」
そこに現れたのはゴルドーと同じ宵月庵に所属するマリィと、太刀花双輪華の綿貫タマキ。
タマキがちょうど宵月庵へ挨拶回りに訪ねて来た所、
戻って来たマリィと出くわして一緒に事務所に入ったところだった。
「ゴ、ゴルドーさんっ!?」
「わわわ、だ、大丈夫なのですかっ!?」
二人は周りに目もくれずゴルドーの元へ駆け寄った。
「う、ゲホッ……ヒューッ……。」
ゴルドーはトマトジュースにむせてしまい、まともに話す事が出来ずにいた。
「し、しっかりしてくださいっ!
今、治療魔術をっ!!」
マリィはゴルドーの背中に向けて両手を合わせ、魔力を集中させると緑色に光り出した。
「ど、どうなのですか?」
「……おかしい、治ってる感覚がない。他のところ?」
マリィはタマキからの問いかけに答えながら、次はゴルドーのうなじに魔力を集中させた。
「……ここも違う、じゃあ一体?」
「けほっ、ま、て、マリ」
ゴルドーはマリィに自身に異常がない事を伝えようしたが、
「む、無理に話しちゃだめなのですっ!?」
タマキがゴルドーの前に現れた途端、
腰に下げていた刀Doタヌキの柄がゴルドーの喉に直撃してしまった。
「△〇@#*+ー~#$!!?」
ゴルドーはあまりに痛さに悶絶していた。
「わわっ、しっかりしてくださいっ!?」
「私だけじゃ無理、だ、誰か助けを」
慌てふためく二人の前に現れたのは
「どうかしたー?」
よりにもよってアイヴィーだった。
「アイヴィーさん、大変です。
部屋に入った途端、ゴルドーさんが突然血を吐き出したんです!」
マリィはアイヴィーに床にまき散らされた血(トマトジュース)を指し示しながら状況を説明していた。
「わ、すげー。」
「それでマリィさんが魔法を使っても、治りそうにないのです!」
感心するアイヴィーの横でタマキも説明しようとしていた。
「よし、とりあえず近くの医務室に投げ込んでおくか―!
ゴルドーなら早さ優先で多少雑に扱っても平気でしょー!!」
「ま、まて、アイ」
アイヴィーは制止させようとするゴルドーの事もお構いなく、
何故か足を掴んで高速ホバー移動を始めた。
「ヴおおおおおおおおおおおっ!?」
ゴルドーは壁や曲がり角に頭や腕を始めとした体のあちこちをぶつけられながら、アイヴィーに引きずられていった。
「すごいのです……流石、アンドロイド。」
「そうだ、他の皆さんにも連絡を入れておかないと!」
マリィは感心するタマキを横に、通信機を起動させていた。
1時間後、アイヴィーによって運び込まれた医務室にて、
宵月庵全員、さらに太刀花双輪華の綿貫タマキと事情を聴いた太刀花藍も駆けつけた。
「口内に残っていた吐しゃ物を確認しましたが、トマトジュースでしたね。」
「「「「「……トマトジュース?」」」」」
医者の一言にその場にいた全員が聞き返した。
「だからそう言おうと思ったのに、お前達が騒ぐせいで……いてて。」
ゴルドーはアイヴィーに引きずられた際の打撲で痛がっていた。
「まぁ、誤嚥でしたが、万一肺炎にでもなると良くないので、
念の為1週間、検査入院をしていただきます。
ついでに全身打撲の方も診ておきますね。」
「わかりました、よろしくお願いします。」
隊長のハインドは頭を下げた。
「では、手続きは代表の方にお願いするとして、
他の方はお帰りになって大丈夫ですよ。」
「はい、ありがとうございました……。」
ドットが頭を下げると、次々と医務室から出ていった。
「藍ちゃん、巻き込んでごめんね。」
「いえ、元はと言えば、
うちのタマキ様が挨拶回りに向かった事で起きたみたいなので、
どう言えばいいのやら……。」
ドットと藍はお互いに申し訳なさそうにしていた。
「こちらこそ、大騒ぎにしてしまってごめんなさい。」
「でも、大したことがなくて本当によかったのです!」
マリィが謝っている横で、タマキは安堵していた。
「まぁ、責めても仕方ないか……。」
ガルドスは二人を見守っていた。
「にしても、ヴィクター。
テメーがゴルドーの事を心配するなんてなぁ?」
ワンダースケアが自分の次に駆けつけてきたヴィクターにからかい気味に話しかけた。
「……勘違いするな。
ヤツがダーザインでの任務で負傷や死亡した時は受け入れるが、
研究や仕事での過労や病気で死ぬくらいなら、
俺の手でトドメを刺したいと思っている。
まぁ、それは隊長に禁じられている以上、
せめて俺が認める死因で見届けるまでは、ヤツには生きてもらわないと困るからな。」
ヴィクターは言うだけ言うと、その場から去っていった。
「あの野郎、まだ諦めてなかったのかよ!?」
ワンダースケアはヴィクターに対し、憤慨していた。
「アイヴィー、
ゴルドーは結果的に異常がなかったとはいえ、
お前が事態をややこしくした。
よって、今夜食堂とアトリエのカフェへはお前を出禁にするよう通達しておいた。
つまり、飯抜きだ。」
「えーケチ、クソロートル、博物館行き確定ー。」
ザルトパッチから罰を与えられたアイヴィーは不満を漏らしていた。