ある日の宵月庵、
隊長のハインドがセイバー登録更新という部隊を続ける為に必要な手続きを終えた時の事だった。
「あーあ、面倒だったけど、更新の手続きは終わったな。」
ハインドは椅子に座ったまま体を伸ばしながら、一息つこうとした。
「ん?これは……。」
コンソール画面に映っているメール欄の中に本部から転送されてきた、
Fizzという部隊からの救援要請という旨のメッセージを読んでいた。
「隊長、セイバー登録更新は終わったんだろうな?」
隊長代理で普段ほとんどの業務を丸投げさせているゴルドーがハインドに近づいてきた。
「ああ、終わったよ……それよりもさ、ゴルドー。」
ハインドはゴルドーにコンソール画面に展開させたメッセージに向けて指を差していた。
「なになに……。」
ゴルドーはコンソール画面に近づきながらメッセージの内容を呼んでいた。
「たぶん『サイコ』が絡んでくる事はないだろうけど、
こういう案件は手伝ってあげた方がいいんだと思うんだよね。」
「『サイコ』が絡む可能性は低いし、
撃退や討伐ならともかく、
封印を得意とする面々はこの宵月庵にはいない。
魔法の類が出来るのもマリィしかいない上、
出来ても回復や味方の支援、魔力供給の援助くらい。
正直、我々が出向く必要性ははっきり言って、低いが……。」
ハインドはゴルドーの言葉の続きを待っていた。
「よりによって、
セイバー登録更新という救援が期待できない時期に、
そんな話を宵月庵の誰かが聞いたら、
揃いも揃って名乗り出るだろうな。」
ゴルドーは呆れながらも通信端末を手にしていた。
「隊長、俺は宵月庵の招集を行うから、
Fizzへのコンタクトを頼む。
詳細情報が届いたら俺に転送してくれ。」
「よーし、任された!」
ハインドはゴルドーが通信端末で連絡を取っているのを横目に、
早速Fizzへの連絡を取り始めた。
「あーもしもし、Fizzって部隊はこちらで間違いないでしょうか?」
「はい、こちらFizzの弥生と申します。」
通信相手である弥生と名乗る女性はハインドに名乗りながら、応対を続けた。
「あ、どうも、こちら宵月庵の隊長、ハインドと申します。」
「え、『宵月庵』……それってSランク部隊の!?」
弥生は画面の外で何か資料を確認しているようだった。
「あ、知ってる感じ?
いやードットやマリィ達が活躍出来ているみたいでうれしいなぁ。
っと、いけない……本題に入らないと。」
ハインドは自部隊の隊員達が活躍してくれているおかげで、
部隊の名が知れ渡っている事に照れていたが、慌てて本題を切り出した。
「本題、と言いますと?」
「なんかさ、そっちの方でいくつか世界がヤバそうな案件抱えてるみたいだよね?」
「えぇ……。」
弥生はハインドの問いかけに神妙な面持ちで答えていた。
「うちの部隊、封印とかそういう事は向いてないけど、
戦力として多少の応援は出来ると思うから、
ぜひ応援として派遣させてもらえないかな?」
ハインドはもはや売り込む感覚だった。
「そんな、セイバー登録更新という時期の中、
真っ先に『太刀花双輪華』が名乗ってくれたのに、
続いて『宵月庵』までも名乗りを上げて頂けるなんて!?」
「そっちも急いでるだろうし契約とかの細かい話は最悪事後でいいから、
詳細情報とかこっちに送ってくれるかな?
出来るだけこっちも力になれそうな面子を用意するから、よろしく!!」
「はい、ありがとうございます!」
ハインドは弥生との通信を終えた途端、
「あー『太刀花双輪華』もう名乗り出てたんだ!
流石、フットワークいいなー。
藍ちゃんとアフロ辺りが来るなら、ぜひドットとアイヴィーは行かせたいな。」
ハインドはひとり言を漏らしていると、
「隊長、みんなとは大体連絡が取れた。
30分後、緊急会議を行う。」
「ゴルドーも仕事が早くて助かるよ。」
「隊長、もう少し要点だけを話せ。
向こうは緊急事態だから、世間話をする暇はないだろう。」
連絡を終えたゴルドーから苦言を呈された。
そして会議室にて、宵月庵の面々が集合していた。
「さて、
界賊被害の復興任務でマリィとガルドスは不在だが、
緊急会議を始める。」
ゴルドーが取り仕切る中、
ドット、アイヴィー、ゴルドー、ワンダースケア、ヴィクター、ザルトパッチ、
そして隊長のハインドがいた。
「今回はFizzと呼ばれる部隊からの救援だ。
といっても、戦力としての応援は火急なものではないが万一の為、というものだ。」
「今って、セイバー登録更新の時期じゃあ?」
「安心しろ、我々は既に更新は済んでいる……が、多くの部隊はまだそうではない。」
ドットの質問にゴルドーが答えていた。
「なるほど、既に更新を終えたからその声に応えられた、というわけか。」
「その通りだ。」
ヴィクターからの問いにもゴルドーは答えた。
「いいじゃねぇか、そこで活躍して、
特に俺様がちやほやされるってわけだ!」
「そこはどうでもいい。」
ワンダースケアの言葉をスルーして、ゴルドーは資料を配った。
「今回の作戦の概要だ。
3つの世界で同時進行されており、
我々が向かう世界の危険度は2番目、万一の為の戦力として期待されている。」
ゴルドーは作戦の詳細を説明し始めた。
「以上だ。
隊長からの承認を得られたので、
俺が現場での宵月庵の指揮を取る形だが、基本的にお前達はいつも通りに戦えばいい。
現地には余裕をもって到着するよう、明朝6時に移動開始だ。
それまで各自装備の点検等、念入りに支度するように……。
ワンダースケアは寝坊の常習犯で、ドットは俺達の中で朝に弱い方だから、
俺やアイヴィーに叩き起こされる事が無いように頼むぞ。」
「あ、はい……。」
「わーってるよ、てめーは遠足前のおかんかっ!?」
ドットはゴルドーに気圧されながらも返事、ワンダースケアは抗議交じりに返答した。
翌朝、事前に打ち合わせた通り予定時間に間に合うよう余裕をもって、
現地へ向かおうとしていた宵月庵の元に緊急を知らせる着信音が鳴り響いた。
「こちら、マリィ!
宵月庵のみなさん、応答願います!!」
「こちら、ゴルドー。
一体、何があった!!」
マリィからの通信にゴルドーが応答した。
「ゴルドーさん、助けてください!
復興任務に出向いた村で、界賊からの襲撃を受けております!」
「界賊……敵の数はわかるか?」
「3に、いえ……3体です!!」
「3?」
「3人だったのですが、
ゴルドーさんやドットさんが腰に着けているものと似たようなものを付けた途端、
3体の大きな魔物に変身しましたっ!!」
「「「ヴィランサーシステム!?」」」
「……ッ!?」
マリィからの通信を聞いたゴルドー、ドット、ワンダースケアが口々に反応し、
ヴィクターも声に発しなかったが同様に反応していた。
「ガルドスや現地の兵士が立ち向かったのですが、
相手が大きいから手に負えなくて、
村の人達を逃がしながら自分達も逃げるので精一杯です!」
(よりによって、こんな時に!?
こっちはこれから出撃だというのに……。
戦力を2分にするのは痛いが、どちらも緊急性が高い。)
マリィからの通信を聞いたゴルドーは返答に悩んでいた。
「悪いがマリィ」
「こちらハインド、直ちに応援に送るよ!」
ハインドはゴルドーから通信機を取り上げて返答した。
「ありがとうございます、隊長さん!
ガルドス、応援が来てくれるって!」
「マリィ、通信が切れてないぞ!」
「あっ、そうだった!」
マリィはガルドスに言われて、通信を終了した。
「隊長……。」
「隊長命令、って事でいいよ。
君達はヴィランサーシステムがよその世界で暴れている事が嫌なんだよね?
みんな、それぞれ自分が行きたいって、顔をしてたから。」
ハインドはゴルドー、ドット、ワンダースケア、そしてヴィクターの顔を見渡していた。
「どうやら大型に変身するヴィランサーみたいだし、
アイヴィーの力も必要だね、
早くこっちを片付けてFizzの方に向かうようにしよう!
……ザルトパッチはここに残ってくれる?」
「わかったぁ!」
「……了解。」
アイヴィーとザルトパッチはハインドの命令にそれぞれ返答した。
「それと、ドット。
ハウンドベアは置いてってくれるかな?」
「え……?」
「確かにハウンドベアは大型に変身するヴィランサーに有効みたいだけど、
今回Fizzでの方でも、少なくとも移動で下手したら火力の面でも使うのは間違いない。
だからこそ、温存しておきたいんだ。」
ハインドは困惑するドットにハウンドベアを置いていく理由を説明していた。
「今回は急を要する。
マリィ達の救援は現地世界に到着次第、
俺が竜形態になって、全員をまとめて運ぶことにしよう。」
「……了解しました。」
「じゃあ、早速いこうー!」
「俺様が一番乗りだぁ!!」
「待て、お前ら!」
「あ、待ってください!!」
ドットは納得しきれていない様子だったが、
返事をしつつアイヴィーやワンダースケア、
そしてゴルドーにヴィクターが走り出していったのを見て慌てて追いかけていった。
とあるT-/M+に分類される世界に存在する村近くの山道の入口付近、
界賊被害の復興任務に携わっていたマリィとガルドスは、
突如襲撃してきた界賊から現地の兵士と共に、村民を避難誘導してきた。
「奴ら、村の占領が目的だったからか、
ここまでは追って来ないな……。」
「しかし我々だけでは村の奪還どころか、
いくら切り開いた山道の入口とはいえ、
ここで村民を獣から守る事しか出来ない……!」
「マリィ、ゴルドー達は?」
「隊長さんの話だと、
もうそろそろ私達のいる場所に到着するみたいです。」
現地の兵士が話している横でガルドスはマリィに現状を聞いていた。
「なぁ、その箱で仲間を呼んでくれたみたいだが、いつ来るんだ?」
世界相的にマリィが持っている通信機がわからない兵士の一人が問いかけた途端、
「おい、向こうから何か来るぞ!」
別の兵士が上空を指さしながら叫んでいた。
兵士が指し示した先には青い竜が何かを抱えながら飛んできた。
「くそっ、新手かっ!?」
兵士の何人かが弓矢を構えようとすると、
「待ってください、あれは味方です!!」
マリィが両手を広げながら兵士達の前に出て、ガルドスも続いていた。
「何っ!?」
兵士がマリィの発言に気を取られている間に、
青い竜はマリィ達の前まで一気に接近、羽ばたきながら空中に漂っていた。
「遅くなった、悪いが先を急がなければならない!」
青い竜……否、ゴルドーはマリィ達に話しかけてきた。
「奴らみたいに喋るぞ!?」
「やめろ!」
兵士が再び弓矢を構えようとするが、ガルドスが止める。
「ワンダースケア、参上!
さぁ、俺様が来たからには安心しろっ!」
ゴルドーの腕からワンダースケアが顔を出して来た。
「二人とも、無事でしたか!?」
「敵はどこー?」
「……。」
続いてドット、アイヴィーも顔を出して来た。
最後のヴィクターが無言で、マリィ達の無事を確認しようとしていた。
「私達は大丈夫です!」
「敵はあっちだ、3人ともあの村に居座ってるっ!!」
マリィがゴルドー達に無事を報告、
ガルドスが敵の数と現在地を指さしながら説明した。
「マリィ、ガルドス、
敵は俺達に任せて、
2人は兵士達と共に村人達を守る事に専念しろ。
作戦が終了したら、連絡する!!」
ゴルドーはそう言い終えると、すぐさま村の方へ飛んで行った。
「な、なんだったんだ……あれは?」
「竜の腕にカカシみたいなやつに、
女の子が二人、あと男もいたような……?」
兵士達が茫然としていると、
「あれが私達が呼んでいた仲間です!」
「とりあえずあいつらが来たからなんとかなるだろ、
その間、俺達は村民達を守ってりゃいいんだ。」
マリィが先ほど飛んで行った竜および抱えられてた人達が、
自分達の仲間である事を説明している横で、
ガルドスは剣を取り出しながら、周辺の警戒に入ろうとしていた。
「あの男に変な場所に放り込まれたかと思ったが、
ヴィランサーシステムを使っても、
ハウンドバスターズどころか、
代理ヒーローすらすっ飛んでこないから、本当に異世界みたいだなぁ……。」
「この干し肉にしろ、
この酒にしろ、あながち間違ってないかもな!」
「これはチャンスじゃないか?
ちょっかいかけてきたファンタジーな兵士達の攻撃は、
せいぜい弓矢や槍、ひどいのだと投石程度だった。
これならヴィランサーシステムを使えば、
世界征服なんて夢じゃないかもしれない!」
村を占領し、食い散らかしている3人の男が楽しそうに談笑していると
「そこまでだ!!」
「だ、誰だっ!?」
突然の第三者の声に驚いていた。
「あっちだ!」
男の一人が真っ先に気付き、残りの二人も同じ方角に顔を向けると、
竜形態のゴルドーが到着した途端、
両腕からドット、アイヴィー、ワンダースケア、ヴィクターが飛び降りた。
「げっ!?」
リーダー格と思わしき男がその中でヴィクターを凝視していた。
「一人で見慣れないやつだが、
ま、まさか……猟犬戦隊ハウンドバスターズ!?」
「し、しかも、
あっちはあの宵闇竜事件で有名になったワンダースケア!?」
「残りは見た事ないが、1人は代理ヒーローっぽいぞ!?」
「なんか、向こうは3人を知ってるみたいだねー?」
アイヴィーは首を傾げながら3人を見ると、
「ヴィランサーシステムを使ってる時点で、
俺達と同じ世界の人間だとはわかってはいたがな……。」
「ま、俺様も有名人になったって事だな!」
「うん、私は代理ヒーローって認識してくれるだけ、マシか。」
ヴィクター、ワンダースケア、そしてドットはそれぞれ思い思いに口にしていた。
「……見覚えがある。
お前達、『ワイバー団』だな?」
ゴルドーは竜形態の状態で3人に話しかけた。
「な、なぜ俺達の事を!?」
「『ワイバー団』?」
「……『ワイバー団』、
かつて秘密結社宵闇と繋がっていた悪の組織で、
猟犬戦隊ハウンドバスターズ、
正確に言うと俺の後輩達が壊滅させたはずだが、
まさか生き残りがいたとはな……。」
3人が困惑し、ドットが疑問符を浮かべている中、
ヴィクターが3人の素性と思わしき組織について語っていた。
「そこの青い竜もヴィランサーだとはな……!?
と、とにかく、ここで負けるわけにはいかないんだ!!」
リーダー格が言いながらバックル状の機械を取り出すと、他の二人も同様に続いた。
3人がバックルカバーの裏にあるボタンを押すと、
「スタンバイ!」
とシステム音声が鳴ったと同時に腰に装着すると、
自動的にベルトが3人の腰を一周するように出現して着用された。
そのまま、バックルカバーを閉じると、
「「「ヴィランサーシステム」」」
「『ドラゴン』!」
「『ワイバーン』!」
「『ベヒモス』!」
システム音声が鳴り響いた。
3人はそれぞれ、
リーダー格はゴルドーに類似した灰色の竜、
1人は翼が目立つ翼竜、
もう1人は翼こそないが巨体の化け物、
にそれぞれ変身した。
「レジストタイプは左から、
ワイバーン、ドラゴン、ベヒモス……か。」
「どれも大型のヴィランサーな上、
この世界相的にまともに戦える戦力は皆無、か。」
ゴルドーとヴィクターは冷静に相手を分析していた。
「アイヴィー、お前はワイバーン……翼竜を頼む。
奴の飛行能力と口から吐き出される火球に注意しろ!」
「うん、任せてぇ!!」
アイヴィーはゴルドーからの指示に返事しながら、
ワイバーンを追いかけるように飛んで行った。
「ドット、ワンダースケア、ヴィクター。
3人はベヒモスを頼む。
奴は飛び道具を持たない分、見た目通りの怪力だから気をつけろ。」
「了解!」
「ヘッ、任せな!」
「お前は?」
ドットがホバーボードに、
ワンダースケアがブーツのかかとにあるローラーで走り出す中、
ヴィクターがゴルドーに問いかけた。
「俺は、あのモンキーモデルに対し、
本物の力を見せつけてやるさ!」
ゴルドーは目の前にいるもう1体のドラゴンに対し、強い怒りを秘めていた。
その後、3体のヴィランサーはあっけなく倒されていた。
ワイバーンは高速飛行で相手を翻弄しようとしたが、
同じく飛行能力を持つアイヴィーの執拗な追撃の末、
「ハチの巣にしてあげる!」
と両腕のマシンガンで翼に穴を開けられて飛行不能になったところ、
「これでトドメだー!!」
とFizzの任務で使う予定だったロケットランチャーやレーザー砲をありったけ撃っていた。
地面に墜落と同時に着弾したが、
ワイバーンに変身していた男はヴィランサーシステムの破損と引き換えに辛うじて生きていた。
ベヒモスに至っては、
ワンダースケアによるフックショットで足を引っかけられて躓いたのを機に、
ヴィクターとドットによる猛攻、
そしてワンダースケアが左腕の大砲にとっておきの『対スーパーヴィラン炸裂弾』を装填して、
ベヒモスに目掛けて放った事でワイバーンと同じく、
ヴィランサーシステムの破損と引き換えに無力化に成功した。
ついでにドットの剣も折れてしまった。
リーダー格が変身したドラゴンに至っては、
当初、ゴルドーと互角の戦いをしていたと思いきや、
次第にゴルドーの方が優勢になっていき、
最後は地面に踏みつけられた状態でダメ押しと言わんばかりに熱線放射で焼いた。
あれだけ痛めつけられたにも関わらず、リーダー格は気絶で済んだ。
「いくら相手が強くなかったとはいえ、
ここまでの移動の疲れと、
俺が怒りを抑えなかった為に本気になりすぎた……!」
ゴルドーは息を切らしながら、自身の行動を猛省していた。
「俺も調子に乗って本気になりすぎた。」
ヴィクターもゴルドーに続いていた。
「くそー俺様としたことが、
『対スーパーヴィラン炸裂弾』の在庫数を勘違いしてしまった。
残っているの普通の炸裂弾じゃねーか!?」
「あたしも調子に乗って撃ちすぎちゃって、
アームマシンガンとハンドガン、
あとグレネードしかもうないよーw」
ワンダースケアとアイヴィーはそれぞれの残弾を確認していた。
「私に至っては剣が……。」
ドットが折れた剣を見て落ち込んでいると、
「マズい、Fizzとの約束の時間が迫っている!
この際、俺が無理しても全員を運んでも、
間に合うかどうか……。」
ゴルドーは自分が無理するべきか思案していた。
「どうやら隊長の予想は当たってたみたいだな。」
上空からザルトパッチがハウンドベアに乗って現れた。
「ザルトパッチ、どうして?」
ドットが駆けつけると、ザルトパッチはハウンドベアを着陸させてすぐさま降りた。
「話す時間はない、すぐさま推進剤を補給する。
ほら、受け取れ。」
ザルトパッチは背中にマウントされていたタンクをハウンドベアに接続させながら、
「おっとっ!?」
ドットに予備の剣を投げ渡した。
「とりあえず、そっちの方は片付いたみたいだね?
ただ、Fizzの方は事態が色々変わってるみたいなんだ!
ここの後始末もあるだろうし、
Fizzの方はドットだけでも行ってもらうよ!」
ハインドから通信が来た。
「でも、ハウンドベアなら、
もう1人くらい乗せられるのでアイヴィーか誰か。」
「アイヴィーはワイバーンとの戦闘で武器・弾薬だけでなく、
推進剤を消耗させている、
ワンダースケアも武器・弾薬が底をつきかけている。
一番消耗が少ないのはドットとヴィクターだが、
ここはハウンドベアの機動性を優先させるため、
ドット一人で向かわせた方がいい。」
ゴルドーは誰かを乗せる時間的余裕がない事をドットに告げた。
「推進剤の補給は済んだ。
隊長による目的地までの移動の手配と、
ハウンドベアに最短ルートへの入力も隊長が済ませたから、さっさと行け。」
ザルトパッチはドットにハウンドベアに乗るよう催促していた。
「……了解、しました!」
ドットはゴルドー達の意図を汲んで、
ハウンドベアに乗り込むとすぐさま離陸し、飛んで行った。
その後、ドットはFizzと他部隊による共同作戦は無事完遂し、
ハインド以外の宵月庵はヴィランサーによる事件の事後処理と、
現地バースセイバーへの引継ぎを済ませてカノニカル本部へと帰還していた。
「それで、あの後どうなったんですか?」
最後に戻って来たドットがゴルドー達に自分が去った後の顛末を聞こうとしていた。
「あの後、現地バースセイバーやカノニカル本部、
更にV.C.Sとのやり取りの末、カノニカル本部に引き渡す事になった。」
「V.C.S……どうして?」
「『ワイバー団』は小規模で既に壊滅したとはいえ、
ヴィランサーシステムを使う組織犯罪集団だったからな……。
一応、伝えておく必要があった。」
ゴルドーはドットに自分達が所属する組織の名前が出ている理由を語っていた。
「その後、カノニカル本部で例の界賊……元『ワイバー団』の構成員に、
事情聴取をしたところ、
あいつらはハウンドバスターズに敗れてからずっと、
彷徨い続けていたところで『サイコ』に出くわしたらしい。」
ゴルドーは自分達と戦った界賊のその後について語り始めた。
「『サイコ』がっ!?」
「ああ、やつは俺達の世界では秘密結社宵闇の幹部だったという事もあり、
あいつらからすれば、
かつて手を組んでた組織の生き残りだと勘違いして泣きついたら、
新しいヴィランサーシステムを渡された上、気付いたらあの世界にいたらしい。」
「でも、なんで『サイコ』が……。」
ドットは自分達の宿敵といえる界賊が裏で絡んでいた事に疑問を感じていると、
「これは推測だが、
あいつは俺達の世界に封印されている邪神が諦めきれなかったんだろう。
ただ、封印を解くためには人柱が必要だ。
しかも、絶望している人間……がな。」
ゴルドーは自らの推測を語り始めた。
「大方、ワイバー団の連中に異世界に飛ばした上で、
ヴィランサーシステムを使わせて暴走させて、
封印を解くための人柱に仕立てようとした。
もし飛ばした世界の法則に適応できず《変異体》になったとしても、
それはそれで封印を解くために使えるかもしれないし、
使えないなら何かのコマにするつもりだったみたいだ。」
「早い話、
昔逃がした魚を今度こそ捕まえるのに使えそうだから、
実験体にしてたってところだな!」
ワンダースケアがゴルドーの話をざっくりと要約してた。
「ただ、奴らにとって幸か不幸か、
3人揃ってVS能力を持っていたので《変異体》にならずに済んだ。」
ヴィクターは呆れながら付け加えていた。
「じゃあ、その3人は?」
「現在も万一の為に経過観察を兼ねて、
カノニカル本部による事情聴取を続けているが、
あいつらは元々俺達の世界でもお尋ね者な上、他の世界でも騒動を起こした。
死傷者も出していないとはいえ、建物を破壊したり食い荒らしたりしているから、
最初はV.C.Sに身柄を引き渡そうと思ったが、
向こうはただでさえ、自世界で起きている事に手一杯だ。
それに向こうは
『貴重なVS能力を持っていて、
そちらのお役に立てるようなら、是非こき使ってやってください。
こちらではダーザインに在籍しているV.C.S公認ヒーロー、
ヴィクターとワンダースケアが捕まえたものの、
通常の施設では手に負えない為、特別な施設に収容したという形で処理します。』
とのことだ。
セイバー登録更新による諸々の処理が落ち着いたら、
近いうちに懲罰部隊へ配属される予定だ。」
ゴルドーは3人のその後の処遇についてドットに語っていた。
「うわぁ……ここで働かされるのか。」
「刑務所に入れられたり、命があるだけありがたいと思うべきだな。」
困惑するドットを尻目にヴィクターが吐き捨てるようにつぶやいていた。
「いやーFizzのみんなには迷惑をかけちゃったなぁ。」
ハインドは2案件の報告書をまとめながら呟いていた。
「向こうは結果的にうまく収束したものの、
今回の件で弊部隊の課題も少なからず露見したな。」
「……ゴルドー。」
後ろから声がした事に気付き、振り返るとゴルドーがいた。
「隊員はそれぞれ自身の能力と経験は確実に積み上げられているが、
使える装備や対応できる任務の偏り、
機動力はともかく、戦闘継続や補給面、
正直枚挙に暇がないが、この中でも特に弊部隊に足りないのは……。」
「魔法……に関するもの、かな?」
ハインドはゴルドーの言葉に続く形で答えた。
「そうだ。
我々の中でまともに魔法の類が使えるのがマリィだけなのが痛い。
しかも、マリィ自身専門家ではない。
我々は『邪神狩りのサイコ』を相手にする以上、
せめて魔法に詳しい者はもう一人くらい欲しい。
今回はあいつと遭遇する事こそなかったが、
あいつには科学の力だけでは太刀打ちする事が難しい……。」
「わかった。
最後に入ったザルトパッチも大分ここに馴染んできた頃だろうし、
そろそろ新しい隊員を探そうかと思ってた頃だったんだ。
マリィとガルドスの世界……《魔機甲界》や君の世界を中心に探してみるよ。」
ハインドは報告書をまとめ終えて本部に送信すると、
2つの世界でバースセイバーの候補を探し始めた。
「そうしてくれ。
俺よりもお前が見てくれた方が、
きっと宵月庵に合う隊員を見つけてくれると信じている。」
ゴルドーはどこか安心しきったよう様子でその場を去った。