ダーザインカノニカル本部が管理する一室、
宵月庵の元を訪ねる2つの影があった。
一つは鼻セレブ隊の隊長、アザラシ。
そしてもう一つは同じく鼻セレブ隊に所属するバースセイバー、ハルだった。
「なんでこんなところで打合せなんや?
どうせならどこかのメシ屋で食べながらでも。」
アザラシが不満をこぼしていると
「そういって宵月庵にたかる気でしょ?
第一、仕事の話をその辺のメシ屋でするわけにはいかないって。」
ハルは呆れながらもインターホンに押した。
ピンポンが鳴った後、
『こちら宵月庵です。』
インターホンからゴルドーの声が聞こえた。
「どうもー鼻セレブのハル……とアザラシです。」
ハルはインターホンに内蔵されているカメラに映るように自分の顔を動かしながら応答した。
『来てくれたか、とりあえず中へどうぞ。』
ゴルドーが言い終えた直後、開錠音と同時に扉が開いた。
「ほな、お邪魔するでー」
「バカ、あんたが先に入るな。」
ハルはアザラシを追いかけるかのように宵月庵の中へ入った。
宵月庵の中は執務室と会議室が併設された部屋だ。
見える所はかなり整理整頓が行き届いているが、
よく見ると部屋の隅に隊員達の私物らしきものがあちこちに積まれていた。
「隊長と隊員には、
日頃から整理整頓をするよう言っているが、
少々散らかっていて申し訳ない。」
ゴルドーが営業スマイルを浮かべながら1人と1匹を出迎えに現れた。
「いやいや、うちの事務所に比べたらかなり行き届いてる方だよ。」
ハルは苦笑いを浮かべながら、ゴルドーに誘導される形で会議室に入った。
「なんやこの玉、仰山積まれとるぞ?」
アザラシはいつの間にか部屋の隅に積まれていた球体の山から1つ手にしていた。
「何それ?」
「ああ、アイヴィーのだな。
確かメガトンボムとかいうグレネードで、
なんでも自世界で叩き売りされているのを買ったが、
時限式とはいえ都市一つ灰に出来るだとかで持て余している代物だったな。」
「ッ!??」
ゴルドーからの説明を聞いたハルはすぐさまアザラシからメガトンボムを取り上げて、そっと山に戻した。
「アイヴィーには、
ここに置くなって良く言い聞かせておく。」
ゴルドーは何事もなかったかのようにお茶を用意していた。
「そ、そうしてくださいー。」
(こいつ、何平然としてるの!?)
ハルは冷や汗をかきながら、ゴルドーの反応に戸惑いを隠せなかった。
「どうぞ、おすわりください。」
ゴルドーはお茶と茶菓子を用意し、席に座るよう促していた。
「ほな、失礼するで。」
アザラシはドカッと座るとすぐに茶菓子に手を伸ばしていた。
「あ、はい。」
ハルはアザラシに呆れつつ、座った。
「さて、本題に入ろうか。」
ゴルドーは最後に座って、本題に入ろうとしていた。
「いやーお茶も茶菓子も悪くなかったなー。」
アザラシはどこかから取り出した爪楊枝で使っていると
「流石に、失礼にも、程がある!」
「グワーッ!?」
ハルが剣の代わりにハリセンでアザラシを叩いた。
「………………。」
ゴルドーはただ一人、二人のやりとりを黙って見ていた。
「あ、本当、このバカがすいません。」
「いえ、いいんですよ。
それにお互いの都合で、そちらは2人、
こちらは俺しか集まれなかった以上、仕方ないかと。」
「一応、簡単に振り返ってもいい?
こいつはともかく、
他の連中にこの件を伝える時、齟齬あったらマズいから。」
ハルはアザラシを見ながら、ゴルドーに自分の認識を伝えようとした。
「ええ、構いません。」
ゴルドーは営業スマイルで答えていた。
「確か……T+/M-に分類される世界で、
界賊が現地の軍事施設を占領しているから、
施設の奪還および界賊が抱き込んでいる施設の責任者を生け捕りにするって話、
ここまではあってる?」
「ああ、あってる。
どうやらダーザインが把握してない、
安定した《穴》がその軍事施設にあるみたいでな。
界賊はそれを確保したいがために、責任者を懐柔させたようだ。
無論、これはダーザインとしても見過ごせない案件だ。
工作課によって、
軍事施設は化学兵器漏出という形で人払い出来るよう手配されている。」
ハルの回答に対し、ゴルドーは補足を付け加えながら肯定した。
「そして、今回の振り分けだが、
俺とアイヴィー、そしてドットは施設周辺を飛び回って囮になる間、
他の連中は全員でこの地図を元に施設へ潜入し、
敵対する連中に対し可能な限り非殺傷での制圧と施設の責任者の身柄を確保する形になる。」
「まぁ、基地の奪還や責任者の生け捕りはわかるけど、
敵への可能な限り非殺傷って……。」
「それは努力範囲でいい。
……ダーザインとしても、使える人材は確保したい。
もし、非殺傷で制圧出来た人間の中からバースセイバーになれる人間がいたら、
その分本部からボーナスが入る事になる。」
「えっ!?」
「今回の報酬は宵月庵と鼻セレブで6:4としていたが、
本部から入るボーナスは全額、そちらに渡そうと思う。」
ゴルドーは笑みを浮かべながらハルに語り掛けていた。
「ニシシ、それはいい話だね。」
ハルはニカッと笑いながら、ゴルドーから渡された資料を再度確認していた。
「とはいえ、施設の責任者が最優先だ。
そいつだけは間違っても殺さぬよう頼む。
万一の為にも、治療魔術が使えるマリィを同行させるが……な。」
ゴルドーは少しだけ神妙な面持ちで釘を刺そうとしていた。
「了解……。」
「どうかしたか?」
ゴルドーはハルが自分の顔を見ている事に気付いて声をかけた。
「いやさ、そんなにたくさん話したわけではないけど、
あたしに対して、何か苦手意識でもある?」
ハルは以前から気になっていた事をゴルドーに思い切って切り出してみた。
「……もし、不快にさせてしまったのなら申し訳ない。」
「いや、別にそういうわけじゃないよ?
あたしの事を知ってるだろうから、
普通の奴は距離を取ろうとかしてもおかしくないわけだし。
ただ、あんたの場合、そういう事をする連中とはちょっと違う、
と感じたから聞いてみただけだよ。」
ハルは両手を振りながらゴルドーに弁解するような態度を見せた。
「なるほど……。
それなら、俺は尚更君に対して謝らなければならないな。」
ゴルドーは観念するかのような雰囲気を醸し出していた。
「え?」
ハルは思わず首を傾げていた。
「俺は自世界で秘密結社の首領をしていた事は教えたかな?」
「ああ、話には聞いた事あるけど。」
「実は俺が仲間だと思ってたやつの一人が産業スパイだった。
最終決戦のどさくさに紛れて、
そいつに量産できる段階まで改良したヴィランサーシステムの試作品と設計図を盗み出されてしまった。」
「あちゃー、そりゃキツいわ。」
ハルはゴルドーの過去を聞いていた。
「実は……無意識に君をそういった存在ではないか?と見てしまっていた。」
ゴルドーは頭を下げながらハルに白状していた。
「ああ、そういう事!?
いやーでも、相手が宵月庵、
というかダーザインじゃなかったら、
そういうお金になりそうな事とか考えたりするし、
あながち間違ってないから、そこは気にしなくていいよ。
むしろ、あんたがそれでも人間不信にならずに隊長代理やるなんてすごいくらいだし。」
ハルはゴルドーの話に対し否定できない部分もあると受け入れつつ、
ゴルドーが現在宵月庵の隊長代理をやっている事を褒めていた。
「そうか……そう言ってもらえると助かる。」
ゴルドーはどこか安心しきったような顔を見せていた。
「なーこれ使うと強くなれるんやろ?
ちょっと、試してええか?」
2人が振り返るとアザラシがヴィランサーシステムを手にしていた。
「ちょ、バk」
「スタンバイ!」
アザラシはハルの制止を避けながらバックル状の機械を適当にいじっていると、システム音声が鳴り響いた。
「やめろ、それは懲罰部隊に支給する為の」
「ヴィランサーシステム」
ゴルドーもアザラシを止めようとするが、ゴルドーの股の下をくぐり抜けて腰に装着すると自動的にベルトが着用された。
「あと、どうするんや……これか?」
アザラシがバックルカバーを閉じると、
「『ドラゴン』!」
システム音声が鳴り響いた。
「グオオオオオオオオオオオオッ!!」
アザラシと竜を合体したような怪物が会議室から飛び出した。
否、竜の尻から黄色いガスが噴射して、その勢いで飛び出していった。
「さいあく……くっさ!?」
ハルは涙目で鼻と口を押さえながら、ダーザインの廊下に出てきた。
「オウエッ……。」
ゴルドーは吐き気を抑えながら這いつくばっていた。
「だ、大丈夫?」
「思いっきり吸ってしまった……。
それよりも早く止めなければっ!」
ゴルドーはハルに心配をかけられているのを横に、通信を繋ごうとしていた。
「はぁはぁ……隊長……緊急事態だ!」
『え、ゴルドーどうした!?』
「詳しい事は後で話すが、
あるバカによってヴィランサーシステムが持ち出された!
至急適合率のリミッターを80%まで解除してほしい!!」
『わ、わかった!
宵月庵隊長の権限をもってして、リミッター解除を承認する。
全部終わってからでいいから、何があったか教えてね!!』
宵月庵の隊長であるハインドとの通信を切ったゴルドーはハルに顔を向けた。
「ハル、手を貸してほしい。」
「もちろん、あのバカを止めないとね。」
ハルは自分の剣を取り出しながらゴルドーの話を聞こうとしていた。
「おおおお、なんか知らんけど、めっちゃ力が湧いてくる!!」
竜のヴィランサーになったアザラシは尻から放たれる放屁の勢いで廊下を駆け抜けていた。
そしてその匂いを嗅いでしまった職員は全員あまりの臭さに倒れていた。
「ん?」
アザラシはふと背後から気配を感じたので振り返ると、
「待てー!」
竜形態になったゴルドーの頭にハルが剣を構えながら乗っており、
更に二人ともガスマスクのようなものを装着してながらアザラシを追ってきた。
「あ、アカン?!」
アザラシは目の前が曲がり角になっている事に気付いて、
慌てて放屁の出力を抑えると同時に減速しだした。
「今だっ!」
「よし、来た!!」
ゴルドーの掛け声と同時に頭を前後に揺らすとハルはすかさず勢いに乗って飛び出した。
ハルはアザラシが曲がり角に入った瞬間、
露になった腹部にあるバックルに目掛けて剣を突き立てた。
「おわああああああああああっ!?」
直後、バックルが粉々に砕け散っていき、
変身解除されたアザラシは飛んでた勢いのまま、
スーパーボールのように廊下のあちこちにぶつかりながら弾んでいった。
「ふぅ、このマスクすごいね。
全然臭くなかった。」
ハルは先程まで装着していたガスマスクのようなものを外しながら感心していた。
「以前、あれの"ギャリック砲"を混戦で食らった件をきっかけに、
他にも放屁で戦う部隊との共闘、
更に類似した攻撃手段を持つ敵との戦いを想定して作ったが……。」
ゴルドーもガスマスクのようなものを取り外しながら、自分が使っていたものの状態を確認していた。
「どうかした?」
「ダメだ、およそ5分しか使えそうにない。
改良の余地、大ありだな。」
ゴルドーはハルにマスクの吸収缶を取り外して見せていた。
「うわ、ボロボロだね。」
「……。」
ハルがガスマスクとアザラシの放屁のそれぞれに関心している横で、
ゴルドーは先程の騒動で倒れている職員達を見ていた。
「うわーこれは始末書ものだな。」
「もとはと言えば、こちらの管理がなっていなかった。」
「いや、あれのやらかしが7、いや8割あるからさ。
今度の作戦だけど、本部からのボーナスそっちにも還元しておいてよ。」
ハルは申し訳なさそうに今回の始末書や今度得られる予定の報酬から宵月庵に補填しようと提案していた。
「いや、報酬の件はあのままでいい。
それよりも今度の作戦で一つ配置の変更を頼みたい。」
「えっ?」
ゴルドーの提案にハルは驚きを隠せなかった。
「はぁ……。」
ダーザイン管理部総務課にて、1人の男がため息交じりで書類を確認していた。
「よっ、フランケン。
また宵月庵からの始末書か?」
男の同僚が後ろから声をかけていた。
「そのあだ名は勘弁してくれ、小学校から大学までずっと呼ばれてたんだ。」
フランケンと呼ばれていた男の本名は富良野 健司(ふらの けんじ)、
彼は総務課の事務員として淡々と日々の業務をこなす日々を送っていた。
ただ他の事務員と違うのは、
特務として一部有名になりつつある宵月庵の面々から送られる個性的な報告書や始末書を受け持つことが多く、
事実上宵月庵専属的扱いにされている。
「で、今回は?」
「始末書によるとこの前あった異臭騒ぎの原因は、
隊長代理のゴルドーが懲罰部隊に支給する為に調整中だったヴィランサーシステムとやらを、
鼻セレブ隊のヤツが勝手に装着して暴れたからだそうだ。」
「なんだそりゃ?」
「俺だって意味が分からないよ。」
「にしてもゴルドーってあの隊長代理だろ?
普段はアイヴィーやワンダースケアが良く書いてたのに珍しいな。
それでその鼻セレブって部隊とはどうなったんだ?」
「話し合いの結果、
今日行われる合同作戦の配置換えをするだけで済んだらしい。」
「へー、おっこれが鼻セレブ隊から来た始末書か?」
「勝手に見るな。」
「いいじゃねぇか……2枚組か?」
「まぁいい、読んでいいぞ。」
「どれどれ……
『本人が筆記できる状態でない為、私ハルが代筆』?
それと2枚目は……なんだこりゃ、A4用紙一杯のスタンプか?」
「どうやら、捺印や拇印の代わりに本人?の顔をスタンプにしたらしい。」
「……はぁ?」
同僚は苦悶の表情を浮かべながら押し付けられてるアザラシの顔が、
A4用紙一面に朱肉で表現されているのを理解できずただ見ていた。
一方、とあるT+/M-に分類される世界で、
銃弾とミサイルが飛び交う軍事施設にてアイヴィーは飛んでいた。
腰に結んでいるロープに繋がっているアザラシを引っ張っている状態で
「配置変更で、
このねーちゃんと一緒に空を飛ぶって聞いて、
櫂の羨ましそうな視線を浴びながらウハウハしてたのに、
なんでえええええええええええっ!?」
アザラシは自分に降りかかるGに振り回されていた。
「ねーゴルドー、まだ避けてないとダメー?」
「まだ向こうからの連絡が確認できてない。」
ゴルドーは竜形態の状態で飛びながら、施設からの攻撃を避けながら通信を待っていた。
「ドット、お前は一旦地上に降りてハウンドベアの推進剤を節約してくれ。
空中は俺とアイヴィー、そしてあれが受け持つ!」
ゴルドーはアイヴィーと括りつけられているアザラシを指し示しながらドットに伝えた。
「助かった、気を付けて!」
ドットも先程までハウンドベアで飛んでいたが、一旦着陸して地上を走行する事にした。
『こちら鼻セレブ、
宵月庵のみんなと一緒に突入ポイントに到着した。』
「了解、こちらも開始する……アイヴィー!!」
ハルからの通信を受けたゴルドーはアイヴィーに合図を送った。
「よーし!
食らえ、アザラシボンバー!!」
「おわああああああああああっ!?」
アイヴィーは括りつけてたロープを外して、振り回して勢いをつけてからアザラシを軍事施設目掛けて放り投げた。
「おおおおおおおっ!
ええええい、こうなりゃーーーーーーーーーーギャリックh」
アザラシは風圧におされながらも、放屁を放とうとした瞬間
軍事施設に衝突し、黄土色の煙が辺り一面に拡散した。
「まさに汚い花火だね。」
アイヴィーはその様子を見てそう呟いた。
その後、軍事施設に謎の悪臭ガスが充満し、
多くの敵が倒れ、ガスマスクを装備していた敵は、
可燃性ガスの恐れから発砲できなくなった隙をついて、
ハル、テツ、鬼子、ヴィクター、ワンダースケア、ザルトパッチ、そしてマリィが一気に制圧した。
本来はそこに櫂とガルドスも加わるはずだったが、
櫂はゴルドーが突入するメンバーに用意した対悪臭用ガスマスクの装着が間に合わず、
ガルドスはマリィがガスマスクの装着に手間取っていたのを助けた為、自身の装着まで間に合わず、
アザラシが放った放屁による悪臭で気絶していた。
今回の作戦でダーザイン側は櫂とガルドス(あとアザラシ)以外の負傷は皆無、
敵も全員(一応)非殺傷で制圧出来た事から、
本部からのボーナスがゴルドーの宣告通りに鼻セレブ隊に支給された。
(鬼子が作戦成功の報酬代わりにドットのパンツを要求した事による一悶着こそあったが)
今回の合同作戦は成功という形で終わった。